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【長編SS】鬼子SSスレ7【巨大AA】

1 :創る名無しに見る名無し:2013/05/04(土) 09:51:35.61 ID:kF0HSeVY
       ノヽ、   ノヽ、
       ) y (   )  (
      )ヽ|/(  )  (              
      ) ( ( ヘ/////へ丶、  
      ⌒\ ソ  << ( ◎ ≪<長編SS・巨大AAはこちら!
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         Σ°)<鬼子の話を書こうじゃないか!
            7
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運営相談所スレ 萌キャラ『日本鬼子』制作in運営相談所13
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/3274/1364553489/

萌キャラ『日本鬼子』まとめwiki
http://www16.atwiki.jp/hinomotooniko/

2 :創る名無しに見る名無し:2013/05/09(木) 10:16:16.44 ID:+EVNIoSC
('仄')パイパイ

3 :情景描写:むしのねどこ:2013/05/09(木) 23:49:56.85 ID:zlTAZSM6
  ◇ ◇ ◇
鬼はそれほど睡眠を必要とはしない。だが、人間だった頃の名残というものはなかなか消えないもので、黒金蟲程の
オトコであっても、「眠る」ことは時々あった。

 天魔党・居城。その奥まった一室に四天王が『侍』頭首黒金蟲の寝所があった。
 数人の奴子(やっこ)を引き連れ、憎女は黒金の寝所にやってきた。奴子とは城内の台所事情を一手に
引き受けている局・配下の侍女達のことである。その本性はもちろん「鬼」ではあるが、普段は頭ごと覆う白い布に
包まれてツノはもとより、顔を伺い知ることはできない。彼女たちはすべて同じような姿・服装をしており、
見分けはつかなかった。城内を仕切る局こと白露の君は一人一人を把握しているというが、他の者達には個々の
違いなど判らない。その彼女らが憎女の後ろに幾人も付き従い、一抱えもある酒瓶を黙々と運んでいた。

「黒金さま、寝酒の準備が整いましてございます」
「うむ。入れ」
「失礼いたします」
奴子達をひきつれ、寝所に入ったが、黒金蟲は床にはついていなかった。床の準備こそされているうものの、
その傍らであのゴツい武者姿のまま、頑丈な椅子に座していたのだ。椅子に座し、兜のみを脱ぎ、傍らの鎧かけに
かけていた。

「まちかねたぞ」
寝所に入ってきた女達をいつもの質実剛健さを思わせる鋭いまなざしを憎女のつけている面に向け、出迎えた。

「すみませぬ。酒の選別にて手間取りました」
そう言うと憎女は座している黒金に近づくと大きな朱塗りのサカズキを手渡した。大きな杯である。蟲成した憎女の
頭部が丸々隠れてしまう大きさがある。

「ふ……相変わらずよな。して、今宵の銘柄は?」
「清酒・黄金蟲(おうごんちゅう)にございます」
その名前を聞いて黒金は軽く目をみはった。

「城下で醸造されているものの中でも上級のものではないか。よく藤葛のが許したものよ」
そういいつつも、巨大な杯を手甲に覆われた無骨な手で受け取った。

「まがりなりにも四天王が頭首・黒金さまが嗜むお酒です。むしろコレ位でなければ下々の者たちに示しがつきませぬ」
そういいながら憎女は奴子の一人から一抱えもある酒瓶を受け取り、栓を抜いた。そして、黒金の掲げている杯の中へ
ドボドボとそそぎ込んだ。
「うむ」
その酒を黒金はグッと一息に流し込んだ。
「……うむ、うまい。やはり酒が違うとのど越しも違うものよな」
そう呟くとそれを皮切りにガッポガッポと呑みはじめた。その勢いはとても寝酒とは言い難い勢いであった。

「さ、酒の肴も用意しましたゆえ、どうかご存分に」
憎女がそう言うと奴子の後ろの方から一抱えもある台の上に山と盛ったおはぎを持った奴子が歩みでてきた。

「うむ」
そううなると、片方の手でムンズとおはぎをつかみ、口に運ぶ。しばらくは黒金の酒を流し込む音と憎女が酒を注ぐ音が
交互に響く。……ややあって、黒金の動きがピタリと止まる。

「うむ……そろそろか……お憎」
「は」
そう言うと黒金はパチン、パチンと具足の留め金を外す。バガン、といった感じで肩の装甲が外れる。その無骨で
頑丈そうな鎧の一部分を憎女が受け取り、鎧掛けにかけてゆく。暫く酒を飲み、また暫くすると鎧を外す。

「……ふむ、さすが銘酒よの。こ奴も大人しくなるのが早いわ」
そう呟くと、まだ外していない手甲の無骨な指で胸元をはだけた。鍛え抜かれた胸の筋肉が露わになる。……だが。
不意に、胸の内側で何かがもぞりと動いた。

4 :情景描写:むしのねどこ:2013/05/09(木) 23:50:47.38 ID:zlTAZSM6
「!つっ、まだ呑み足りぬようだな。お憎」
「は」
 請われ、お憎は黒金の杯になみなみと酒を注いだ。

黒金蟲は名の通り、蟲の姿をとる鬼である。『蟲成』と呼ばれる強力な変身を成すことができるが代償も大きかった。
 ──そう、それは悪夢そのものだった。この国が鬼の集団に襲われた時の事だ──
国が滅ぶ直前、この国の最高呪術責任者『陰』の鬼駆慈童は『鬼化の術』を起動させた。その術に巻き込まれる形で
敵の鬼と当時武将だった黒金は融合して鬼と化してしまったのだ。
 以来、黒金の内に棲む敵方の鬼は隙あらば黒金を内側から喰い破ろうと、乗っ取ろうと様子をうかがっている。
その為、内なる鬼を押さえ込む封印術式を編み込んだ鎧を着込まなければならなくなった。その鎧は黒金の内なる鬼の
力を引き出し、三つの形態に『蟲成』る事を可能にしたが、鎧を脱ぐと内なる鬼に蝕まれる危険につきまとわれる事に
なったのだ。

──ただし、「鬼は酒好き」その例に漏れず、黒金の内なる鬼も酒には弱かった。黒金が酒を呑むと、黒金よりも先に
内なる鬼は鎮まるのだ。その間だけ、黒金は鎧を脱ぎ、眠ることができる……

「ふむ、だいぶ鎮まってきたな。今ある酒だけあれば充分であろう」
その声を受けて、憎女は手を振った。奴子達は手にした酒瓶を置くと、一礼して退去した。憎女は一人残り、黒金の杯に
酌を続けた。今や黒金はほとんどの鎧を脱ぎ、肘掛けに寄りかかりながら酒を呑み続けていた。着ている物も
ゆったりとした白い装束に着替え、呑むペースも最初ほどの勢いがなくなってきた頃、不意に酌をしようとした
憎女の手を掴み、引き寄せた。

「く、黒金さまっ?!」
逞しい胸に抱きすくめられ、珍しく憎女の狼狽えた声が響く。

「折角呑んでおるのに酌をする女が面をつけていては興が削がれるというもの、外さぬか」
そう言うと胸の中に抱き込んだ憎女の仮面を外す。仮面の下からは目を伏せ気味にした端正な女の顔が現れた。
この憎女の仮面も、彼女にとって『内なる鬼を御する封印』である。しかし、黒金のそれと

「ふ……折角の美しい容貌を秘して晒さぬとは。もったいない事よな」
「く、黒金さま……そんな……お戯れを……」
憎女の声にいつもの凛とした張りがなくなり、目を伏せ気味にし、弱々しく腕の中から逃れようとする。

「醜いと思うか。この身体を」
「えっ」
不意に言われた言葉に憎女は動きを止めた。

「幾重もの鬼の魂に蝕まれたこの五体。あの忌々しい鎧なくばいずれは内なる鬼に引き裂かれるだろう呪われし身体よ。
 気味が悪くない訳なかろうな」
「いえ、そんな……っそんな事っ!」
憎女は常に伏せぎみだった目を思わず見上げた。間近に黒金の精悍なまなざしが憎女を見返していた。

「あ……」
そんなことはないと言い返そうとした憎女の言葉はそのまま口の中で溶けて消えた。

「……酒が過ぎたようだ。許せ」
どの位そうしていたろうか。気がつけば憎女は黒金の腕から解放されていた。

「あ……いえ……」
どう返したものかとまどう憎女に朱塗りの杯が差し出された。

「一人で呑むのも飽いた。つき合え」
昔の職業柄、それは彼女の得意とすることだった。

「えぇ、喜んで。ご相伴にあずかりましょう」
先ほどの失態(と彼女は思っている)を埋め合わせるように艶やかなほほえみを浮かべ、彼女は杯を手にした──

                           情景描写:むしのねどこ
                                            ──おわり──

5 :創る名無しに見る名無し:2013/05/09(木) 23:54:18.72 ID:zlTAZSM6
>>3-4
とゆー訳で、情景描写:むしのねどこ を投下しました〜
 コンセプトは「黒金蟲がおはぎを酒の肴にいっぱいやる」がコンセプトだったハズが、
色々と目論んでいる設定を盛り込んだ話になってしまいました。

むぅ、この辺の設定は別の話で先に明らかにするハズだったんだが……
三種類の変身形態を持つ黒金がなんのリスクも無く無敵っぷりを発揮してるハズがないよね!
そんな感じの設定話でした〜

6 :情景描写:むしのねどこ;訂正文:2013/05/10(金) 01:01:31.91 ID:BWzEuc/W
情景描写:むしのねどこ

訂正文:抜けがありました。

抜け箇所
>この憎女の仮面も、彼女にとって『内なる鬼を御する封印』である。しかし、黒金のそれと

訂正箇所
>この憎女の仮面も、彼女にとって『内なる鬼を御する封印』である。しかし、黒金のそれと違い憎女の内を喰い破るほど
>深刻なものではなかった。憎女のそれはあくまでも『より効率的に鬼の力を発揮させる為の業』であった。

================================
いや、すいませんでした。m(_ _)m

7 :ねことこねこ:2013/05/19(日) 18:46:13.56 ID:g7E2vzEP
  ◇ ◇ ◇
 寒さも緩みはじめ、日差しも春の暖かさを含んできた頃、ひのもと家の縁側で日向ぼっこをしている着物の
女性の姿があった。紫の着物を纏い、着物の上からでもその豊かな身体のラインは隠しようがない。また豊かに
波打つ銀髪の中からはぴょこりといった感じでネコの耳がとび出している。紫色の眼鏡をかけ、膝の上には
読みかけの雑誌を広げていた。ハンニャーである。彼女は縁側で柱によりかかり、うつらうつらとうたた寝を
していた。こういう小春日和は昼寝に最適だ。いつものように着物を着崩し無防備に横たわる姿は色っぽいと
いうよりは、だらしないさえといえる。が、胸元を大きく開き、太股が大胆に露出した状態で柱に寄りかかって
眠る姿は殿方の目にはおおいに目の毒であろう。鬼子が見たら、はしたないと大騒ぎするだろうが今は周囲に
男の目どころか誰の目もみあたらなかった。

 と、ハンニャーの猫の耳が何かの気配を察してピクリと動いた。地面の中を何かが進んでくる気配。だが
その気配が庭先のすぐ近くに来るまでハンニャーは捨ておいた。この家の周りには結界が施してあるのだ。
危険なものが進入してくる心配はない。何よりも地面を潜ってやってくるその気配には心当たりがあった。

 やがて、その気配の主は眠っているハンニャーの所までやって来ると動きを止めた。そこまで来てはじめて
ハンニャーは意外そうにその猫のような眼を片方開いた。てっきり、自分の目の前を通り過ぎると予想して
いたからだ。
 片目を開くと気のせいではなかった。地面から生えてるかのような巨大な魚の頭と目があった。しばし、
無表情で丸い目とにらみ合う。口火を切ったのはハンニャーからだった。

「……で?」
たったこれだけを口にし、相手に尋ねた。尋ねられた相手はつぶらな目(?)で見返してきた。相手は巨大な魚の
頭を持っている。名をヤイカガシと言う。地面から魚の頭部が生えているように見えるのはこの珍妙な生き物が
水のみならず、土の中をも自在に泳ぎ回れることに起因する。首から下は土の中なのだ。魚の身体にヒイラギの
葉を腕にもつ、奇妙な姿をしているが、これでも魔除け・お守りの妖怪である。特に鬼に対する打撃力は
優れていて、日々心の鬼を祓う事を使命にしている。鬼子のよきパートナーだ。
 ……まあ普段は異常なまでに女性の下着に執着しては鬼子に折檻されたりしているのだが。これでも時々
天界との連絡係を任されたりしているのだ。

 ハンニャーの問いかけに魚の頭はしばし沈黙した後、

「夢幻の宮、今宵でゲス」
それだけを告げた。それを受けてハンニャーは

「……ったく、このいい陽気だってのに……」
小声で口の中で不満げにつぶやくと

「りょーかい。わかったわ、お疲れさま」
そう言ってヤイカガシの労をねぎらった。

「でゲス」
ヤイカガシはそれだけ言うと、トプンと土の中に潜って姿を消した。ヤイカガシは先に言ったように鬼祓いの使命を
帯びている。そして、その使命を与えたのが日本の神々である。その為、時々こうして天界の使者として動く事も
あった。普段はハンニャーとヤイカガシはそれぞれが思い思いに過ごしてて互いに交流することはあまりない。
なのでヤイカガシがハンニャーの所に訪ねてくるというのはそのまま神々の伝言を伝えにきた事を意味していた。

「さて……と。じゃぁ今から準備しなきゃね……ったく、メンド臭いったら……」
そう呟くと気だるげに起きあがった。そのまま奥に引っ込むと、奥の部屋の自分のエリアから白装束を二着とりだし、
うち一着に着替えた。そして台所の裏で水仕事をしている鬼子に夕飯は無用だと告げるとそのまま玄関を抜け
外に出た。
 玄関前の家庭菜園の前を横切り、山道を抜けた先には生活用水を汲む川にでる。その川に沿って道を遡っていくと、
やがて小さな滝壺につきあたった。滝は巨大な岩石の上を通り、冷たく清廉な水を小さな滝壺に注いでいる。
岩の上を飛び出した滝の水は緩い弧を描いて落ち、滝壺の中央に置いてある巨大な丸い平石の上をたたき続けていた。
 丸石へは足場として点々と平べったい石が配置されている。ハンニャーはそれらの上をひらりひらりと渡り、
滝の下に身体を滑り込ませた。暖かくなってきたとはいえ、水はまだ氷のように冷たい。厳冷な水がたちまち
ハンニャーの全身を冷たく染め上げた。だが、滝の水に身体をさらしたハンニャーはそんな事全く気にしてないように
両手で印を結ぶと、口から祝詞とおぼしき言の葉を紡ぎだした──

8 :ねことこねこ:2013/05/19(日) 18:46:57.49 ID:g7E2vzEP
 ◇ ◇ ◇
──夜。とっぷりと日が暮れた頃、ハンニャーの姿はまだ滝の下にあった。全身を滝の水に打たせながら口の中で
祝詞を呟き続けている。やがて長い長い祝詞を唱え終えると、滝の水の中からゆっくりと踏み出した。身体は
すっかり滝の水に冷やされ、清められた。白装束は濡れて透け、ぴったりと肌に張り付いている。顔に張り付いた
銀髪をうるさそうにかきあげると、今まで冷水にさらされていたとは思えないような軽やかさで渡り石の上を渡り、
滝壺から離れた。そして川岸に用意しておいたタオルと白装束の所にゆくと濡れて肌に張り付いた白装束を脱ぎ捨て、
冷えた身体をタオルで拭い、乾いた白装束に着替えた。

「ふぅ、お清めは終わり……と。ホントにめんどくさいったら……」
ポツリと愚痴をこぼすと川を下り、家に戻る。すっかり明かりの消えた玄関を音もなく通り、家に入るとすっかり
みんな眠ってしまったのか家はとっぷりと闇に沈んでいた。
 猫の目にとっては暗闇などなんでもない。ハンニャーはそのまま音をたてず自室に戻ると、自分の寝具がちゃんと
敷かれているのを確認した。鬼子が用意してくれたのだろう。ありがたく布団に潜り込むと、また印を結び、
口の中で小さく祝詞を唱えはじめた。

 ──長い長い祝詞を呟くうち、ハンニャーの意識はゆっくりと眠りの世界に落ちていった。まじないとも祝詞とも
つかない不思議な旋律がうねりをもって響く。しばらくして、ハンニャーの豊かな胸の膨らみの辺りからボゥ、と
青白く光る不思議な鬼火が浮かび上がった。静かに音もなく燃え盛るそれは、熱を感じさせることもなく、静かに
燃え続け、空中をゆらゆらと浮遊していた。その鬼火は鼓動を打つように脈動し、そのたびに炎の中心に猫とも
般若ともつかない容貌が浮かんでは消えていた。これはハンニャーの魂だ。肉体から切り離したそれは熱を持たない
火の玉のような姿をとる。ゆらゆらと胸の上を漂っていたそれは暫くして不意にかき消えるようにして消えうせた。
 そしてハンニャーの魂は夢幻の空間に転移したのだ。そこは一段高い次元の空間だ。この時空間に来るには
あらあじめ身体を清めておく必要がある。そこに神々の住まう神殿、『夢幻の宮』があるのだ。

やがて時空間を漂ったハンニャーの魂は神々の住まう宮へと入っていった──

  ◇ ◇ ◇
「ちょっと、何で毎回毎回こうもせわしないのよ。いっつもこれじゃ、たまんないわよ。スセリ」
宮に入ってすぐ、廊下を進んだ執務室に入ると、ハンニャーは開口一番、文句をたれた。
ここの空間でもハンニャーの魂は青白い火の玉の姿だ。
 対して、スセリと呼ばれた相手は傍らに無数の書き物と巻物を積み上げ、黙々と書類をしたためていた。
下を向き筆を走らせながら

「あぁ、もう少し……と、よし。さて、お待たせしましたね」
そう言うと、細い糸のような目をあげた。顔つきは柔和そうではあるが、どこかキツネを思わせる容貌である。

 彼の名はスセリ。これでも一柱の神である。この宮の中では末席ではあるものの、それなりに高い神格を有する。
ヤイカガシを遣いに出し、ハンニャーを呼び寄せたのも彼だ。中肉中背で白い貫頭衣に袖を通し、大和民族よろしく
頭の横に髪を結わえた姿からはそれほど威厳は感じられない。首から下げた青の勾玉の首飾りが唯一の装飾品だ。

「……で、今回は何の用なのよ?」
青白い火の玉の姿をしたハンニャーは唸った。少し不貞腐れた様子なのは毎度急な呼び出しだからか。

「あぁ、実はね……ちょっと厄介な事が起こりそうなんだ……」
そういうと彼は糸のような目をすがめ、しかめっ面らしき表情を作った。

「あンたの持ってくる話で厄介じゃない話なンてないじゃない」
 青白い火の玉がじれったそうに指摘する。心なしか青白い炎の中にも苛立たしげな表情が顕れては消える。

「もったいぶってないで言いたいことをさっさといいなさいよ」
そう言われるとスセリは傍らの書類を取り上げのぞき込みながら話し始めた。

「ははは。それは話が早くて助かるね。……実はね、あるお社の封印が解けそうなんだ。
 それで封印の締め直しをね、依頼したい」
 スセリは眉をしかめて語りだしたがイマイチ深刻そうでないのは彼の人相によるところが大きいのだろうか。
実際にはこうやってハンニャーの所に持ち込まれる懸案は厄介で複雑なものばかりだ。

9 :ねことこねこ:2013/05/19(日) 18:47:41.60 ID:g7E2vzEP
「どうせアナタが持ち込むようなものだから、ただの魔物の再封印じゃないんでしょう?」
腹芸にはつき合ってられないとばかりに先をうながす。
相手はポリポリと頬を指で掻くとかなわないとばかりに手を広げ先を続けた。

「この国の成り立ちの神話は知ってるかな?」
「なによ。オンナが一日に何千人もクビリ殺すってヤツ?」
 イザナギの男神とイザナミの女神が日ノ本を造り上げた伝説は人間たちにも広く知られている。

「いや、そうだけどそんなクライマックスじゃなくてさ、もっと最初のほうのさ……」
ハンニャーは軽く記憶をさらった。

「えっと。最初のほうって天浮橋(あめのうきはし)から天沼矛(あまのぬぼこ)で引っかき回して
 国を造ったとかそんなの?」
「そーそー」
 イザナギとイザナミの神様が混沌に天沼矛(あまのぬぼこ)を突き入れ、かき混ぜた結果、矛の先端から塩が滴り、
滴が積み重なって日ノ本の土台が成った。という伝説である。

「それで、今回の事件とやらとこの伝説がどんな関係があるってのよ?」
スセリはまーまーとばかりに両手を広げて押しとどめた。

「そうだね。この伝説には語られてないんだけど……天沼矛の先端から滴った滴は全部が全部、日ノ本の土台に
 なったって訳ではないんだな。これが」
キツネ面の神は指で鼻の下をこするようにしながら言った。

「…………なんですって?まさか……」
ハンニャーは少し嫌な予感にとらわれた。

「そ。天沼矛の先端から滴ったモノの中には日ノ本の土台として固まらず、地表をさまよった『モノ』たちが
 その昔、存在したんさ」

「まさか今回、弛みそうな封印って……」
「そう。矛の先から滴った『モノ』が封じてられてるのよね〜これ、うっかり封印が解けちゃうと『ソレ』は
 辺り構わず飲み込みはじめちゃうから、この国、また混沌に沈んじゃう危険があるんだよね〜これが」
ニパっと笑って物騒な事をスセリは言い切った。二拍ほど、空気が止まった気がした。

「…………ねえ」
ややあって、ハンニャーは言葉を紡ぎだした。
「うん?」
ハンニャーの問いかけにスセリは面を上げる。

「神代の存在がどれだけとんでもないことか分かってる?」
机ごしに睨めつけてたのをズイと前にでて、炎の姿をしたハンニャーはスセリにせまった。

「近い近い近い近い」
青白い光に照らし出され、スセリは額に汗を流しハンニャーの迫力にたじたじになった。

魔物の類は……いや、魔物でなくとも力を分化される前だけあって古の時代に生まれたモノ程、内に秘めたる
潜在力は凄まじいものを内包している。ドラゴンや龍の吐き出す炎が並ぶものがないほど強力なのはいろんな
モノに力が分化される以前に生まれた存在だからだ。今度の『モノ』もおそらくそのくらい強力であるハズだ。

「まったくぅ〜毎回ムチャな依頼だって分かってるけど原初の『混沌』だなんて、ムチャにも程があるわよ!
 バっカじゃないの!?」
よっぽど激昂しているのかハンニャーの魂の青白い炎も激しく燃え上がりせわしなく脈動する。スセリは
その勢いに思わず後ずさるが、なんとか落ち着かせようとまーまーと宥めに入った。

「ま、まーまー。何もその魔物と真正面から切った張ったしろって訳じゃないんだし。
 封印を締めなおすだけなんだからさ。一応、万が一に備えて保険も用意してあることだしさ、そんなに
 大変じゃないと思うよ。もっとも封印は詩編じゃないと再封印できないけど」

10 :ねことこねこ:2013/05/19(日) 18:48:29.44 ID:g7E2vzEP
「……で?その封印?とやらを締め直すのに必要な詩編は?」
 詩編とは呪文や祝詞の集合体である。単節でも複雑な呪力制御を必要とする呪文や祝詞を歌として構成された
 『詩編』はハンニャーを含め使い手の数は限られる。

「んー……えっと、必要な詩編はざっと一千編かn……アチチチチチッ!」

ハンニャーは自分が炎の状態であることを承知で相手の顔に飛びかかった。
その騒動でスセリの結った髪が少しコゲた。とんでもない難作業を軽く言われたのだ。そのくらいの報いは
軽いものだとハンニャーは遠慮しなかった──

  ◇ ◇ ◇

 チチチ……チュンチュン……

──朝。差し込む日光の中、ハンニャーはムクリと起きあがった。『夢幻の宮』から帰還したのだ。起き上がり、
豊かな銀髪に手をやりボリボリと頭を掻く。

「……む〜……まったくあのヤロー……原初の混沌ですって?毎度ロクでもない仕事を持ってきやがって……」
スセリは神々からの仕事の依頼を持ってくる受付窓口みたいなものだ。ハンニャーは時々そうやって現世に
顕れられない神々の代わりに色々な仕事を請け負っている。だが、毎回非常に困難な仕事ばかりでそのたびに
辟易させられる。

「っ!はじまったか……」
 起きあがると同時に右腕に焼け付くような熱さを感じた。腕をめくって確認する。右腕の皮膚がまるで赤く焼けた
焼き串を押し当てられているように細い線が焼き焦げてゆく……

 ジジ……ジジジ……
白い艶やかな陶磁のような肌が黒く焼け焦げ、コゲ臭い臭いが立ちこめ、線が描かれてゆく。

ハンニャーは自分の肌に刻まれる線を眉一つ動かすことなく猫の目でジッと見つめていた。やがて、肌から立ち上る
煙も最後の一筋を最後に書き終わった。
 そこには象形化された武具の絵と古代文字が焼き付けられていた。それは天界より用意された『保険』だった──

  ◇ ◇ ◇
 日のとっぷりと沈んだ中、誰も近づかぬような廃校になった学校の校舎。そこに人影があった。男だ。髪の毛は
短く角刈りで、肌は浅黒く日に焼けていた。ガッチリとした体つきをしており、青のジャージを上下に着ている。
男は激しく猛り狂っていた。誰もいない校舎の一角に激しく八つ当たりを繰り返しわめき散らしていた。

「まったく、どいつもこいつも、ヨワっちいクズばかりだっ!オレサマの指導についてこれないのはてめぇらが
 ヨワっちいセイだろうがっ!!オレサマがワルいだと?!フザけるな!オレサマの指導に付いてこられないのが
 ワルいんだろうが!」
……男は元教師だった。酷く厳しく理不尽な指導で悪名高い部活顧問。耐えきれなくなった生徒が数多く
リタイヤしても結果を出している間はまだ彼の悪行は表沙汰になってなかった。
 だが、彼のムチャな『指導』で再起不能になるものが続出し、やがて死亡者が出、それが表沙汰になった。
途端、世間の非難の声は彼に殺到した。だが彼は悪びれず、指導についてこれない生徒の弱さを責めた。
だが世間はそれを許さず、そうしているうち世間に彼の居場所はなくなっていった。

「フザケんなクソがぁぁぁあっ!!」
ガッツン、ガッツンと、使われなくなった倉庫に拳を打ちつけつづける。拳が痛むような殴打だが、全く頓着しない。
男は明らかに尋常ではなかった。白目を剥き、涎をたらしながら荒れ狂うまま、心の赴くままに暴れ続けた。そして、
男の頭上には何かが浮き上がっていた。化け物だ。彼の頭上には荒々しく半透明の物の怪が浮き上がっていた。
 それは全体的に青い色をしているようだ。巨大な猿のような姿だが、背や胸、腕は鎧のように分厚い甲殻の
ようなものに覆われている。
その化け物が男を猛り狂わせていた。男にとり憑き、操っているのだ。男の狂乱がピークに達しようとしたその時。

「あっ 獄座行きの獲物、み〜〜っけ!」
その場にはそぐわない、明るい声が響きわたった。

11 :ねことこねこ:2013/05/19(日) 18:49:17.11 ID:g7E2vzEP
「あ"ぁっ?!」
 その声で男とその頭上の心の鬼の動きが止まった。男が見上げると頭上の遙か上から黒い、何か丸いものが
回転しながら落ちてきた。

  タンッ

 そして軽快な音と共に着地する。落ちてきたのはだぶだぶの黒いパーカーに身を包んだ少女だった。猫の顔を
模した黒いフードを被り、身体のほとんどは黒いパーカーに隠れている。そして健康的な小麦色の足がパーカーの
下からニュッと伸びていた。軽やかにスニーカーで着地すると、ビッと男に指をつきつけた。

「ソコの心の鬼!キミは獄座逝き決定!だからサ、せいぜいガンバって抵抗してよねっ!そして閻のことをを
 楽しませなよっ!」
少女は元気よくタンカを切った。

「んだとぉ、こここ、この小娘はぁ」
男は突然出現した無礼な小娘に胡乱なまなざしを向けた。

「あ、おっちゃんには用がないよっ 閻が用があるのはそのカラッポの頭に詰まってる心の鬼のほうだからっ」
邪気のない笑顔でミもフタもない毒を吐き、ケラケラと笑った。少女は化け物の事を心の鬼と呼ぶ。
と、その少女の耳に囁く声があった。

「おい閻、いきなり無茶をするんじゃない」
声は彼女の被っているパーカーの内側から聞こえてきた。

「前にもいったではないか。そんな真正面から挑まなくても意表をつき、奇襲をかければ有利に戦えると……」

「えーそれじゃぁ、閻の修行にならないしー……っと、危なっ」
 そこまで囁き返して、身を翻した。コンクリートの塊が閻に向け、飛来したからだ。それは倉庫脇にあった瓦礫
置き場に捨ておかれたフェンスの支柱だった。土台の部分にコンクリート塊が固まっていて、即席の棍棒のようだ。
心の鬼に憑かれた男は、握りしめ、それを軽々と矢継ぎ早に投げつけてきた。

「ふざけるなっ!どいつもこいつもオレサマを舐めくさりやがって!オレサマの指導に従え!
 服従しろ!隷属しろぉぉっ!」

 「わっ!」ガンッ
     「ひゃっ?!」ドカッ
         「とわっ!」ドンッ

 鈍い音をたてて、コンクリート塊が閻の周りに降り注ぐ。並の人間の力ではない。常識はずれの速度と威力を
もって、飛来するそれを閻は右に左にひらりひらりとかわし続けた。

「へっへ〜ん、あったらないよ〜ん♪」
飛来するコンクリートを完璧に見切り、閻は余裕をもって回避する。

「閻、いくら何でも相手を舐めすぎだ。いくら動きを見切れても捕まってはひとたまりもないぞ。ただの人間の
 力をここまで強化できるのは尋常じゃない」
淡々と落ち着いた声が閻に囁きかける。

「ぶぅ〜〜っいいから、ばっき〜はだまってて……ひゃぁ!」

最後の投擲の一投が、閻のすぐ脇をかすめ、恐ろしい勢いでコンクリート塊がすっ飛んでいった。

「ひゃ〜〜あっぶなっ 当たったらどーすんだいっ」
相手は当てにきているのだが。閻がズレたところに憤慨した。

「気をつけろ、あの怪力に捕まったらおしまいだぞ」
パーカーの声が再度注意を促す。見ると、心の鬼に憑かれた男が両手にフェンスの支柱を持ち、突進してくる
ところだった。

12 :ねことこねこ:2013/05/19(日) 18:50:14.92 ID:g7E2vzEP
「うそ〜〜〜っ?!」
閻が驚いたのは男が人外の膂力を発揮し襲いかかってきたからではない。驚いたのは男の頭から生えている
魔物の方だ。男を操っている心の鬼、青い巨大猿のような化け物。その鬼は実体を持っていないにもかかわらず
両手にフェンスの支柱を握っていたのだ。普通、実体のないものが物を物理的に掴んだりする事はできないハズだ。
だが、この鬼は先端にコンクリートの塊のついた重量のある支柱を軽々と握り、振り回していた。

男の頭上に鬼が生えたような状態で両手に鉄の棒を握っている。鬼と男の手、都合四本の支柱が巨大な棍棒となって
閻に襲いかかる。閻は自分の影に向け、手を伸ばすと「トモダチ」の名前を叫んだ。

「やばっ 無重鬼(むえき)!」
すると、閻の影の中からなにやら、フカッとしたものが顔を覗かせた。間髪入れず叫ぶ。

「魔縁(まえん)!」
すると、閻の手からジャラジャラと音をたてて、闇色の鎖が飛び出し影の中にあらわれた謎のフカフカとつながった。
その鎖はまるで影そのもので形作られているようで立体感もつやも一切なかった。さらに閻が叫ぶ。

「三障四魔!」
すると、閻の袖から無数の影の鎖が顕れ、閻を十重二重に包み込み、覆い隠した。次の瞬間、敵の振り回す四本の
支柱が勢いよく閻に叩きつけられた。

 ガズン
強烈な振動が古い校舎を揺るがせる。……が、しかし。

「がっ?!が……がろ……ろろ……」
男の攻撃は意味をなさなかった。男は完全に鬼の支配に堕ち、もはや人間の思考ができなくなっている。だが、
自分の攻撃が効果がなかった事だけは把握した。四本の支柱は空を切り、空しく地面を叩いただけだった。
けた外れの膂力が地面を大きく陥没させていた。とんでもない力である。だが、頭はよくないようだ。
男と心の鬼は突如いなくなった閻を探して怪訝そうに周囲を見回した。

「…………ふぅ〜〜あーぶなかったぁ〜〜」
閻はそう言うと、胸をなで下ろしていた。閻は男の遙か頭上に浮いていた。

「だからいつも言っているだろう。閻はいつも相手を舐めてかかりすぎだと」
閻の耳元では例のささやき声が閻の行動に駄目だしをしていた。

「もー……うるっさいな〜ばっき〜は〜〜」
閻は今、空中に手足を投げ出すようにしてふわふわと浮いていた。

 閻は現在、七体もの『鬼』を影の中に飼っている。本人は「トモダチ」と呼んでいるが、実際には閻に
支配されているに等しい。それぞれが強力な力を持つ鬼達だ。そして閻はいつでも彼らの能力を引き出し、時には
その身に纏い、自由に使役することができた。

 こうやって空中に浮いていられるのも無重鬼(むえき)……空中を浮遊する事のできる鬼の力を取り込んだためだ。
その鬼、無重鬼……の力を取り込んだ証拠として、今、閻の腰の両脇辺りにフカフカのファーのようなものが
生えていた。閻は空中に横たわり、フカフカを風になびかせてん〜〜と思案する。

「このまま退いて作戦を練り直すか諦めるべきじゃないか?正直、あの鬼の腕力には閻も勝ち目はないぞ」
先ほどから閻の耳元で小言ともアドバイスともつかないことを囁き続けているのは化鬼猫大主(ばきねこおおぬし)と
いう。普段は閻の着ているパーカーに化けて閻を守っている。閻の保護者兼アドバイザーのような事をしていた。

「や〜〜閻はもっと強くなるのぉ〜〜あの程度の鬼に負けてなんかいられないんだにゅ〜」
語尾が腑抜けているのはこの無重鬼の力を取り込んだからだ。この空飛ぶ鬼の力を纏うとやや脱力ぎみになる。

「だが、ここでこうしても仕方ないだろう。それに上空にいては影からも離れてしまっている。他の仲間の力は
 頼れないぞ」
 そう、他の五体の鬼達はすべて閻の中に封じ込められている。そして彼らは閻の影を扉にこの世に顕現するのだ。
彼らの力を借りるには地上の影に近づかなければならない。
 それにずっと空中にいるわけにもいかない。すぐに見つかるだろうし、見つかればコンクリートの塊で狙い撃ちに
されるだろう。

13 :ねことこねこ:2013/05/19(日) 18:51:08.22 ID:g7E2vzEP
「ふにゅぅぬぅ〜ん〜〜……あっそうだ!離魔(りーま)!」
そう叫んだ瞬間、ポン、と音がして閻と何かが分離した。それはヒョロ長い身体に丸い頭部、フカフカのファーを
耳に付けたような姿をしていた。空中を浮遊する鬼、無重鬼(むえき)の本来の姿だ。そして分離した途端、
閻はごく自然に落下を始めた。

「どうするつもりだ?」
 特に焦る様子もなく、ばっき〜こと化鬼猫大主は尋ねた。彼はこう見えても永い年月を生き続けた大化け猫だ。
多少の事では動揺したりしない。閻がこのまま落ちるとは思ってないし、この程度の高さ、落ちたからといって
大主にとって大した痛手にはならない。閻にはアザひとつできないだろう。閻は落下しながら右手を左手の肘に
手を添え、立て続けに叫んだ。

「こうするの!魔縁!三障四魔!」
すると、次の瞬間、また閻の身体が無数の影の鎖に包まれた。

「がっ?」
閻の叫びを聞きつけ、男に憑いている鬼が頭を上げた。と、その顔をぶぎゅる!と踏みつけ、足場にして閻が地面に
着地した。
 地上に着地した閻はその姿を大きく変えていた。まず、全身を身体にピッタリしたレオタードのような
黒いスーツに包まれていた。幼い未成熟なボディラインからはむき出しの足が白く伸びている。腕は肘から先が
大きなグローブのような黒い毛皮に覆われている。それは肘から手先にかけ、太く広くなっていっていた。
その先からは黒い漆黒の鉤爪が鋭く生えている。頭はスーツと繋がっていて漆黒の猫耳付きのヘルメットに
覆われていて、猫の目が描かれたバイザーが閻の鼻の辺りまでカバーしていた。化鬼猫大主の能力を纏ったのだ。

「おい、閻。いくら俺の力を纏ったからといって、この鬼の怪力には及ばないぞ」
ヘルメットの内側から化鬼猫大主が閻に当たり前の事を確認する。

「へっへ〜ん。わかってるって♪」
そう言うと、閻は男の前でファイティングポーズをとった。
「本当にわかっているのかね……」
化鬼猫大主は疑わし気につぶやいた。

「ほ〜れ、ほれほれ、ぶてるモンならぶってごらんよ♪」
グローブに包まれた片手を挑発的に振る。閻の挑発に心の鬼は猛り狂う。

「グァアアアッ!!」
そうしている間にも男とそれに憑いてる心の鬼は四本の鉄の棒で閻に殴りかかった。

「へへへっ、ほらほらほらほらっこっちこっち!」
だが、突き出される鉄の棒、振り回されるコンクリート塊、その全てを先ほどよりも鋭い動きで回避した。
化鬼猫大主の能力を纏ったためだ。動きがより俊敏になってる。そのため、至近距離でも相手の攻撃を余裕を
持ってかわすことができた。

「だが、かわしてばかりではどうしようもないぞ」
「わかってる!否鬼憑(ひきつけ)!」
 そう叫ぶと、次々と繰り出される鉄の棍棒を交いくぐりながら右腕を自分の影へと差しのべた。すると、閻の
影の中から岩石のようなものが顔を覗かせる。間髪を入れず、閻が叫ぶ。

「縛鎖(ばくさ)!」
すると、閻の太くなった右腕から、例の影で形作られた鎖がジャララッと、その岩石に伸び、つながった。

「たーーーーーっ!!」
閻は後ろ向きにバク転するようにして飛び上がった。その勢いで、影の鎖で繋がった岩石を影の中から引き上げる。
まるで畑から引き抜かれるカブのように大きな丸い岩石が閻の影の中から勢いよく引っ張り出され、閻と敵の間に
出現した。

 ガキガキガガキィッ!!

振り回された四本の鉄の棒はその岩石を叩いて弾き返された。

14 :ねことこねこ:2013/05/19(日) 18:51:53.99 ID:g7E2vzEP
「ぐっ、がぁっ?」
敵の鬼はいきなり出現した謎の岩石に一瞬戸惑う。その岩石の後ろに着地し、閻は岩石に指示を出した。

「否鬼憑(ひきつけ)!こいつの手のもの、引きつけちゃえ!!」
閻がそう言った途端、心の鬼と憑かれた男の手に握られた鉄柱がまるで磁石のようにその岩石にくっついた。

「ぐっぐわ?!」
 敵の鬼は鉄の棒を引き離そうとするもビクともしない。

「てぇーーーーいっ!」
閻は岩石のに足をかけると『縛鎖』を握り、強く引きながら岩石を蹴り上げた。鬼たちの手にした四本の鉄の棒は
空中の岩石にくっついたままもろとも空に高く巻き上げられてしまう。

「がっ?!う……が、ううっ?!」
男に憑いている鬼は、一瞬で武器を奪われ、うろたえた。

「ちゃんす!」
一瞬の隙を逃さず俊敏になった身体を生かし、閻は縛鎖を握ったまま男の横を駆け抜けた。
そして縛鎖と繋がったままの岩石をグイ、と引き寄せながら

「否鬼憑!そのおっちゃん!全力で引いて!」
と、力のかぎり引きながら命じた。結果……

 ごーーーーーーんっ!

否鬼憑(ひきつけ)にくっついてるコンクリート塊の重量、否鬼憑自身の落下、閻が引っ張った力、否鬼憑が男を
引き寄せる力……それらの力の全てが男に憑いている心の鬼に衝撃となって集中した。
鬼は男と岩の身体を持つ否鬼憑の間に挟まれ手酷いダメージを受け、目を回した。

「ぐわわっ?!」

「いっくよー否鬼憑!!」
この隙を逃さず、閻はそう叫ぶと縛鎖を思いっきり横に振り回した。

「てぇぇええええええ〜〜〜〜い!!」
影の鎖につながっている岩石は次の瞬間、やたらめったに振り回された。勢いを増した岩石は男と憑いてる鬼に
横あいからしたたかに衝突した。

「がぁああっ!」
鬼が痛みに咆哮する。
「とどめ、だぁぁあああぁあっ!!」
影の鎖を強く握りしめ、岩石を振り回して、何度も何度もメッタ打ちに敵に打ちつけた。デタラメに
振り回しているにもかかわらず、岩石は正確に青い鬼にヒットした。否憑鬼の能力だ。
対象の鬼を『ひきつけ』ているため、面白いように命中するのだ。

 「ぐろろ……ぉぉお……ぉぉ……ん」
 やがて耐えきれなくなり、大猿のような鬼は憑いてる人間ごと、ずずぅんと音をたて昏倒した。

 否鬼憑(ひきつけ)。元々は自らの力になるものを引き寄せ、吸収することで力を増す鬼である。だが今では
逆に閻に吸収され閻の力になっている。丸い岩石のように見えて、これでも一応鬼である。能力は吸着。
あらゆるものを引き寄せる能力を持っている鬼だ。

  ◇ ◇ ◇
 男に憑いていた心の鬼は男と共に目を回していたが、時間と共に回復しそうだった。その傍らで元の姿に戻った
閻と化鬼猫大主は相談していた。

「どうする、閻?この鬼、とっとと獄座(ごくざ)に送ってしまうか?」
化鬼猫大主が閻に尋ねる。閻は、ん〜〜っと考えている。獄座とは、ありていにいって地獄のことだ。
閻は罪にまみれた魂を地獄送りにする能力を持っているのだ。

15 :ねことこねこ:2013/05/19(日) 18:53:50.54 ID:EKHs9X2D
「ん〜〜〜……決めたっ このコ、おトモダチにするっ」
「おいおい……」
化鬼猫大主はそう言って嘆息したが、そうなるんじゃないかとウスウス感じ取ってはいた。そして、
そうなった閻は化鬼猫大主でも簡単には止められない。閻は基本、ワガママなのだ。

「縛(ばく)!」
閻がそう叫ぶと、閻の影の中から鎖の形をした影がジャラジャラと伸び、目を回している心の鬼に巻き付いた。
そして、男から引き剥がすと、ゆっくりと閻の影の中に引きずり込んでしまった。

「やれやれ……」
化鬼猫大主は密かに嘆息した。獄座(地獄)に送られるのと、このワガママ娘につきあわされるのと……
一体、どっちがマシなのやら……

「? ばっきー、ど〜したの?」
「いや、なんでもないさ」
今、取り込まれた心の鬼も最初はゴネるだろうが、ま、しまいには閻の言うことを聞くんだろうよ。苦労性の化け猫は
心の中でそう呟いた。誰だって地獄送りは嫌だろうから──

──数日後、化け猫の予想通り、「新入り」は閻に忠誠を誓うこととなる。

 新入りの名は腕黒坊(わんこくぼう)といった。非常に強力な腕力を誇る猿面の鬼である──

  ◇ ◇ ◇
 深い山奥、人気の無くなった廃村に踏み入る人影があった。人ひとりがやっと通れる石を積み上げて造られた狭い
トンネルを抜けると、そこは夕日に浮き上がる廃村だった。

「まったく、本当にここなのかしら……」
 一人そう呟いたのはハンニャーだ。いつもの紫の着物を纏い、紫のメガネをつけている。いつも人界に出るときは
流行りの着物を着てそれなりに人間の格好をするが、今回は普段の紫の着物を着ていた。そして、豊かに波打つ
銀髪から飛び出ている猫の耳を隠そうともしないでいる。

 スセリの依頼によると、この辺りに封印があるハズだった。ここまで案内させた狐族の若者は念のため帰らせた。
ここは山奥の集落だった所だ。人間が住まなくなってだいぶ経つと聞いている。「例のもの」を封印されている祠は
人の手から離れてだいぶ経つものの、今ではスセリの依頼を受けて狐族が時々管理しているという。
そのため封印の祠を納める社は何度か建て直されているらしい。

「まあ、封印が解けかけているとはいえ、そう滅多な事ではカンタンに解けたりしないだろうけどさ……」

 場所は把握している。解けかけている封印を締め直すのに馬鹿みたいに時間と手間がかかけることをのぞけば、
そう難しい仕事ではないはずだ。そう思ううち、強い突風がハンニャーの銀髪を吹き乱した。

「風が出てき始めたわね……」
歩くうち、日が傾き夕日も沈みはじめ、強い風が吹きはじめた。ハンニャーは波打つ銀髪を風にはためかせ闇に
沈み始めた山の稜線を見上げていた──

  ◇ ◇ ◇ 
「にゃ〜〜!もぉ、つーかーれーたぁー!」
そう言って黒いパーカーに身を包んだ少女は石像と思しき物体の上にヘたり込んだ。ここは小さな神社のお社ような
建物の中だ。吹き始めた冷たい風から逃れるように入ってきたものの、それなりにスキマ風が入ってくる。
おせじにも快適とはいい難いが、外よりはましであった。もっとも、少女の関心事はそんな事ではなかったが。

「ねぇ〜、ばっきぃ〜ホントにここなのぉ〜?もぉ、閻、歩くの飽きたぁ〜」
 少女の名は閻。そのいつも着ている黒いパーカーのせいかそれとも猫のように気まぐれな性格ゆえか閻ニャーと
呼ばれる事も多い。いつもはうるさいほど元気な彼女だが、珍しく今はグロッキーぎみだった。

「おかしいな。気配は確かにこの辺りからしたはずだが……」
何ともハッキリしない声が閻の耳元で答えた。閻の相棒的存在の化鬼猫大主(ばきねこおおぬし)だ。普段は……
いや、現在も閻の黒パーカーに変身して閻を包む形で守っている。

16 :ねことこねこ:2013/05/19(日) 18:54:24.94 ID:EKHs9X2D
「むぅ〜、ばっき〜頼りになんな〜い」
閻は化鬼猫大主(ばきねこおおぬし)の事をいつもこう呼んでいる。本来は閻よりもずっと高位の化け猫だが、
どういう訳かある事件をキッカケに閻の面倒を色々とみている。

「む、うむぅ……」
頼りないと言われ、化鬼猫大主は返事に詰まる。閻は……いや二人は『強い気配』を辿ってここまでやってきた。
閻は強い鬼を倒す事を目的にあちこちを放浪している。そして数日前に突如、強い気配を化鬼猫大主が察知したのだ。
だが、遠くからあれだけハッキリ知覚できたその強い気配は、いざその場所にやってくると気配がボヤけてしまって
どこなのかサッパリわからなくなっていた。そうこうしてあちらこちらを彷徨っているうち、すっかり閻は歩き
疲れてしまっていた。

「もーいー今日はここで寝る〜」
社の中の石像の背の上で奇妙な倒立ポーズをキメ、閻はすっかりふてくされてしまっていた。
閻が寄りかかっているのは四肢を持つ獣らしいが、あちらこちらが磨耗しきって、詳細なディテールが
わからなくなっている。四肢をおりまげ座る姿からは、何の姿をしていたのかわからない、台座の上に鎮座する
獣の頭を背後に背の上で丸まると、ぐで〜〜っと力を抜いた。

と、
 ガタン
不意にお社の扉が開かれた。途端外から冷えた空気が入ってくる。

「にゃ?」
 意表をつかれ、閻は背後を振り返り、この不意の訪問者が誰か確認しようとした。
が、それよりも早く襟首を捕まれペイっとお社から放り出されてしまった。

「にゃ〜っ?!」
不意に放り投げられ困惑しながらもクルクルと回転して閻はスタッと手足をついて着地した。

「誰だっ!閻の邪魔をする奴はっ!」
四つん這いのまま睨みつける様子は本当に猫のようだ。そんな風にいきり立つ閻の前にその人物はゆっくりと現れた。
閻を放り投げた人物は紫の着物に流れるような銀髪に猫の耳をそなえていた。

「一体、何だってんのよ。ただでさえうっとおしい仕事だってのにチビジャリが居るなんて聞いてないわよ」
その声の主はハンニャーだった。

「なんだと〜〜っ閻の邪魔するなら…………っ!」
「まて、閻、こいつは…………!」
だが、どちらも言葉をいい終えられなかった。二人の目の前に人差し指と中指が揃えて突き出された。その指先が
仄かに燐光を発している。

「眠りなさい。深い深い眠りに落ちなさい──」
途端、閻の目がトロンと重くなる。

「ふにゃぁ〜……」
「ぐ……ぐむ……」
化鬼猫大主の声もくぐもって聞こえなくなる。強烈な催眠の術だ。ハンニャーは閻が完全に沈黙し深い眠りに
落ちたのを確認した。

「ま。後で念のため迎えを寄越させるわ」
銀髪をかけあげるとハンニャーは寝静まった閻に背を向け、社の奥に向き直った。

「さて……と、ちゃっちゃと済ませましょうか」
そう言うと聞いてきた合い言葉を口にした。古い古い合い言葉。今となっては誰も使わなくなった言語。
途端、さっきまで閻が上に乗っていた石像の両目が光った。そして、ズズ、ズズズ……と、引きずるような音を
立てて石像が台座ごと横に動いた。そして台座の下から石積みの階段が現れた。黒い石で組まれた、でこぼこした
階段だ。壁も階段も適当に高さを合わせただけの石組。それだけでかなり古い時代のものだとわかる。

「この先……ね。さて、これから先は長丁場になるわね……まったく、メンド臭いったら……」
軽く腕まくりする仕草をすると、でこぼこの階段を下りはじめた。

17 :ねことこねこ:2013/05/19(日) 18:54:58.46 ID:EKHs9X2D
 ── 一方、閻は深い眠りに落ちて……いなかった。ハンニャーの予想に反して、しばらくするともぞもぞと
動き出した。

「んにゃ〜……なんだったっけにゃ〜?」
暫くぼ〜っとした頭で周囲を見回す。やがて時間とともになにが起きたのか徐々に思い出してきた。

「にゃ〜……っ!思い出したっ!閻は確かっ!ばっきー!ねぇ、ばっきーってば!」
意識がハッキリし、あわてて大主に呼びかけるも反応はない。

「ばっき〜?」
「ZZzzZzzzz……」
大主はまだぐっすり眠りこけていた。閻をカバーする形で庇ってた為、より深く眠りの術にかかっていたのだ。

「ば・っ・き・ー、お・き・ろ・ー!」
 閻は自分の腕ごとパーカーに噛みついた。

「ぃっっでーーーーーーーーっ!」
黒猫のパーカーは閻の身体ごと少し飛び上がった。

  ◇ ◇ ◇
 ハンニャーがデコボコした階段を下ってゆくうち、周囲の様子が変わっていった。石をイビツに組み合わせた
通路から天然の岩の壁になったのだ。通路は鍾乳洞につながっていた。滑らかな岩の壁とツララのような鍾乳石が
あちこちで見られるようになっている。また、周囲は不思議な青い光に包まれ、完全な暗闇ではなかった。
光ゴケだ。あちこちにある不思議な光を発するコケが周囲を不思議な光で満たしている。
その通路の中をハンニャーは迷い無く進んでいた。

「……なるほど、ここまでくればビンビンと伝わってくるわね」
 洞穴の前方から強い気配が伝わってくる。その気配は濃厚なミルクのようなねっとりしたイヤな感じで
まとわりついていた。

その気配を辿り、仄かな青い光に浮かび上がる闇の中を進みゆくうち、広まった洞窟にでた。

「ここね……」
 そこは広い空間だった。鍾乳石が柱のように何本も立ち並び、壁を彩っている。その柱の間と間には光苔が群生し、
青白い光を放っていた。そして、様々な鍾乳石が立ち並ぶ広い空間の奥に鈍く淡い光を放つものがあった。

 ハンニャーはコツコツと石の床を踏み鳴らしながら仄かな光がさす方向近づいてゆく。
その光源は広間の一番奥まった場所にあった。ハンニャーは少し離れたところで立ち止まる。目の前に光球がある。
それはこぶし大の大きさの球体だ。古い石の台座の上に鎮座している。そしてその上に鍾乳石が高い天井から長い
鍾乳石が降り、まるでその球体をつかむように周囲に根を下ろしていた。

「ふぅん、これがその封印……ね」
ハンニャーは目を眇めてその球体を眺めた。その球体は鍾乳石に包み込まれるようにして澱んだ灰色の光を
放っていた……

「はっ!」
ハンニャーは気合いを込めて一睨みした。途端、球体を守るように下りていた鍾乳石が木っ端微塵に吹き飛んだ。
だが球体そのものには傷一つついてない。鍾乳石が吹き飛んだ後は鈍く光る球体が石の台座の上に変わらず
鎮座している。封印を守る呪術で守られているのだ。解けかけているとはいえ、その程度の衝撃で封印に
影響はでないようだ。

「さ〜て、と。ここから長丁場かー……ったく、メンド臭いったら……」
腕まくりをし、片腕をグルグルしながらそんなことをボヤいた。これから、ハンニャーは幾千もの詩編を唄いあげる
作業に入る。詩編とはこの封印を再構築する手順だ。詩編の一語一節が一つの呪文・祝詞に匹敵し、大量の気力を
消耗する。しかもそれらの詩編は今は失われた古い古語で唄いあげられるのだ。そのため、どうしてもハンニャーの
豊富な知識が必要となる。加えて、それらの呪力を寄り合わせ束ねあげる膨大な呪力を必要とする。それら両方を
兼ね備えた人選はハンニャーしかいなかった。

18 :ねことこねこ:2013/05/19(日) 18:55:37.87 ID:EKHs9X2D
「さて……と!」
そうつぶやくとパン、とかしわ手を打つように両手を打ち合わせ両手で印を結ぶと、
最初の詩編の章を唄いあげ始めた──

  ◇ ◇ ◇
 ──そんなハンニャーより遅れて数分後ろ。ハンニャーの後を追いかける影があった。

「ばっき〜まだ思い出せないのー?」
「う……うむ……あの感じ……どこかで合った事があるのは確かなんだが……」
閻と化鬼猫大主(ばきねこおおぬし)だ。といっても大主は閻の着ているパーカーに変化しているから、
傍目には閻が独り言を呟いているようにしか見えない。

「ま、いいけどさ。さっきのオバさん、ばっきーの知り合いだったとしても閻のする事が変わる訳でもないんだし」
 そう言って、慎重に石組の通路の中を歩いてゆく。慎重に、と言ってもこの真っ暗に近い、ヒカリゴケしか
光源のない洞窟の中を歩いているにしてはかなりの早さで進んでいる。それなのに踏み出す足音一つ、衣擦れの音
一つしない。閻の使役する心の鬼、虚居狐(こいこ)の能力である。この鬼の能力を取り込むと閻の気配を
消すことができるのだ。閻と化鬼猫大主は先ほど唐突に現れた女の後を追ってこの洞窟に入ってきた。
またさっきのように出会い頭に眠らせられてはかなわないので気配を消して、コッソリと後を追いかけたのだ。

「する、するよ。強い気配が……いくら探しても見つからない訳だね。こんな所に隠されているんだもん……うーっ
 ウズウズするなあ。どんな強い奴が居るんだろう?」
閻は今から出会うであろう見知らぬ強敵に期待を膨らませていた。

「楽しみにしている所悪いがな。オレ達を眠らせた女の事も忘れては困るぞ。あれもかなりの手練だ。
 また問答無用で眠らされてはたまったものじゃないぞ」
大主は閻の耳元でそうささやいた。閻はともかく、大化け猫である大主をアッサリ眠らせた腕前は尋常ではない。

「だったら、ばっきー早く思い出してよ。いざとなったらさっさと縛して獄座(ごくざ)に送っちゃうからね。
 例えばっきーの知り合いだったとしてもさ!」
「う、うむ……」
大主は言いよどんだ。まだ先ほどの催眠の影響が残っているのか言葉の端々が不明瞭だ。獄座(ごくざ)とは
有り体に言って、地獄の事だ。閻は罪にまみれた心の鬼を地獄送りにする能力を持っている。

「あんなオバさん、卑怯な不意打ちじゃなきゃそうカンタンに眠らされたりするもんか!
 今度はこっちが仕掛けてやるんだ!」
 プンプンと、一人腹を立てながら、通路を進んでゆく。やがて、通路は洞窟になった。
そして閻はソロリソロリと歩き進むうち、誰かが唄っているような声を耳にした。

「うた……?」
声の旋律に首をかしげるも閻は断定できないでいた。知らない国の言葉に聞こえたからだ。

「これは……封印呪か?」
大主はいぶかしげに呟く。

「ばっきー知ってるの?」
「あぁ、多分、この声の主はこれからこの先に居る奴を封印しなおそうとしているようだな」

はっと閻は息をのんだ。閻達の目的はこの先にある『強い気配の主』を倒すことである。
つまり閻たちの目的を厳重に封印しようとしているらしい。
「! ばっきー、急ぐよ!」
そう言うと、閻は気配を消せるギリギリの速度で歩きだした。これから倒そうとしている相手を封印されては
たまらない──

  ◇ ◇ ◇
 ──ハンニャーの封印儀式は佳境に入っていた。今行っている作業は例えて言えばタマネギのように幾重にも
重ねられた厳重な封印を外側から一枚一枚剥がしてゆき、封じているものが封印を破るギリギリの所で再び
一枚一枚封印をかけなおしてゆくようなものである。

19 :ねことこねこ:2013/05/19(日) 18:56:17.61 ID:EKHs9X2D
「……よし、ここまでが限界かしらね。これ以上は封印が自壊しかねないわ……」
無数の魔法陣、立体封印呪、祝詞記述式を周囲に立体的に展開し、それらに囲まれながらハンニャーは封印手順を
進めてゆく。本来なら複数の人員でもってとり行わなければならない封印儀式である。

現在、もっとも封印が薄い状態であり、いわば卵の薄皮一枚の向こうに化け物を封じているような状態である。

「……あとは、ここから封印を重ねてゆくだけね」
ハンニャーは軽く息をついた。ここから先は少しだけラクだからだ。封印を壊さないよう、術を慎重に
引き剥がしてゆくことの方が封印を重ねてゆくよりも遙かに難しい。後はこの封印を強化する術を厳重に幾重にも
重ねかけるだけだ。

最も難しい行程を済ませ、力が抜けたのか肩をぐるぐると回した。
「まったく、ホントにめんどい仕事をおしつけてくれるわ……」
再びそう呟くと残りの行程にとりかかった──

 ──そのハンニャーの作業を見守る影が一つ。閻だ。

「わわ、なにこれスゴい。一体コレ何?ばっきー判る?」
大きな鍾乳石の陰に隠れながら閻は洞窟内に展開された無数の魔法陣/呪術紋を見上げて感嘆の声をあげた。
それでも、ハンニャーが閻に気づかないのは虚居狐(こいこ)の気配を消す能力のおかげだろう。

「これは……この『封印呪歌』のまじないの力だな。だがこれは……ここまで見事なのは初めて見るな……」

 そう話している間にも呪歌を歌っているハンニャーの身体にまとわりつくように呪文紋様や魔法陣が描き
出されては消えてゆく……

「という事は……ばっきー?」
「再封印しようとしている化け物は余程の大物らしいな。とんでもない力の持ち主らしい……」

「よしっ、じゃあいくよ!ばっきー」
「ちょっまっ」

 大主は珍しく慌てた声を上げた。今の話を聞いていたにも関わらず閻が考えを変えなかったからだ。
だが、止める間もなく、閻は行動に飛び出した──

20 :ねことこねこ:2013/05/19(日) 19:15:49.53 ID:EKHs9X2D
>>7-19
とゆー訳で「ねことこねこ」第一部をお送りいたします。ゼンブで三部作の予定となっておりますので、皆様どうか
気長にお付き合い下さいませ。

21 :ねことこねこ:2013/05/21(火) 19:35:45.40 ID:ylt+8enb
  ◇ ◇ ◇
──封印作業に専念していたハンニャーは一瞬、視界を横切ったオレンジ色の影に意識が空転した。

「あ」
 間抜けな声を上げた瞬間、ガツンと重い音がハンニャーの鼓膜を震わせる。虚居狐(こいこ)の気配を消す能力。
その能力を纏った閻がハンニャーの不意をつき、封印の玉に痛烈な一撃を加えていたのだ。閻の腕は黒い
グローブ状のものに覆われている。肘から手先にゆくにつれ、太く大きくなり、先からは黒く大きな鉤爪が
飛び出していた。大主の身体の一部が変化したものだったが、それはまるで閻の身体の一部のように機能した。
そしてその一撃はグローブ状になったその腕から繰り出された。鋭い爪の一撃を受け、ビシリと封印の玉に
亀裂が入る。

「ばっ、馬鹿、よしなさいっ」
悲鳴に近いハンニャーの声が響く。だが、閻は聞く耳を持たなかった。

「も、いっちょ〜♪否鬼憑(ひきつけ)!そぉーれ!」
そのかけ声と共に閻が地面の暗がりに右腕を伸ばすと、その腕から、影のような立体感の無い鎖が飛び出し、
突き刺さった。次の瞬間、地面の暗がりから大きな岩の固まりが飛び出し、繋がっている影の鎖を閻がぐいっと
引くと、岩は封印の玉に向けて吸い寄せられるように突進した。岩石の鬼、否鬼憑(ひきつけ)だ。

「だめぇっ!!」
ハンニャーの叫びも空しく、封印の玉は岩石の加重に耐えきれず、鈍い音をたてパリンと叩きつぶされた。

「へへ〜ん、だ。破っちゃったもんね〜残念だったね。オバちゃん」
閻はくるりと向きなおり、舌を出して、挑発するように言った。が、ハンニャーは閻の方を見ていなかった……

「あんた……、自分が何をしたか判っているの?」
そう言いながら、油断なく玉を砕いた岩石を睨みつけている。

「ふん、どんな魔物だろうと閻がたお……何っ?!」
倒してやる。そう言わぬウチに閻の言葉が途切れた。脳裏に軋んだような断末魔のうめき声が響いたからだ。

「否鬼憑!どうしたの?!」
声の主は封印を砕いた岩石の鬼……否鬼憑のものだった。否鬼憑と閻は魔縁で繋がっている。その為、強い思念は
魔縁を通りテレパシイのように伝わることがあるのだ。

「ちょっと!ねえ、一体、どうしたのさ!」
ぐいと、閻は、閻と岩を繋ぐ影の鎖─魔縁─を強く引っぱるが、岩のような容姿の否憑鬼。彼は封印玉を叩きつぶした
台座から吸いついたように動かない。
それなのに否鬼憑の苦悶の思念が閻の脳裏を揺さぶり続けていた。

「いいからそこから一刻も早く離れて!逃げなさい!」
そう叫ぶハンニャーの声を無視して、閻は次の手を展開する。

「腕黒坊(わんこくぼう)!魔似蟲(まねむし)!力を貸して!離魔(りーま!)」
そう叫ぶと、ぺてちん、と閻の足下にオレンジ色の狐のような心の鬼が現れた。
閻から分離した虚居狐(こいこ)だ。この鬼の能力を取り込んでいた為、ハンニャーは気配を察する事が
できなかったのだ。今となっては必要のなくなった能力なので分離したのだ。続けて閻は叫ぶ。

「魔縁!三障四魔!」
その瞬間、その場に影の鎖が渦巻き、二体の心の鬼が現れた。どちらも大柄の青い大猿のような姿をしている。
腕力自慢の心の鬼、腕黒坊(わんこくぼう)だ。もう片方は閻が魔似蟲(まねむし)の力を借りて腕黒坊に変身した
姿である。変身したからといって腕力が増えるわけではないが、大柄な体格の方が力を込めるには都合がいい。

「いい、ひっぱるよ!」
そう言って閻は腕黒坊とともに悲鳴を上げ続ける否鬼憑(ひきつけ)に組み付いた。そして二鬼がかりで否憑鬼を
台座から引きはがそうと試みる。

「バカ!やめなさい!何をやっているの!」
後ろではハンニャーが叫んでいるが、閻は無視した。

22 :ねことこねこ:2013/05/21(火) 19:36:28.53 ID:ylt+8enb
「さあ、いくよ!」
そう言って、二匹でがっぷり組み付いたが、その瞬間、否鬼憑の絶叫がぷっつりと途切れた。

「否鬼憑?!どうしたの?ねえ?!」
すると、閻の腕の中の否鬼憑の感触がぐにゃん、と歪んだ。

「?!っな、何?!」
身を引くが、身体から離れない。否鬼憑の身体が色をなくし鈍い灰色になり、ドロリとまとわりついた。

「これはっ?!」
次の瞬間、閻の頭の中で三種類の苦痛に満ちた悲鳴が響きわたった。閻を包んでいる魔似蟲(まねむし)と
腕黒坊(わんこくぼう)、そして足下にいる虚居狐(こいこ)のものだった。

「みんな?!」
足下にいた虚居狐を見ると、鈍い灰色のドロリとしたものを頭からかぶっていた。そして虚居狐の輪郭が
崩れているように見えた。

それを確認した瞬間、閻は後ろに弾きとばされ、ほうりだされて、尻餅をついた。魔似蟲が閻との繋がりを強引に
解除したのだ。

「魔似蟲(まねむし)?!みんな?!」
「閻、まずいぞ、何が起きているか判らないが逃げた方がいい」
大主の声が耳元で撤退を指示する。

「みんなをほっといて逃げる訳にはいかないよ!儚鬼(はかなき)!一体、何が起きているか調べて!
 無重鬼(なえき)!虚居狐の灰色のとってあげて!離武無(りぶな)!力を貸して!」
 閻は立ち上がると、残りの心の鬼達にすべて呼びかけた。心の鬼達は閻の影を扉にして現実世界に現れる。
閻の呼びかけに応じて、一本角の小人のような儚鬼、ヒョロ長い身体をした無重鬼、一枚布のような身体をした
離武無。三体の心の鬼が閻の影のあるだろう場所の暗闇から現れた。そして、ヒョロ長い身体の無重鬼はすぐ、
灰色のものを除去しようと虚居狐にとりつく。小さい小人のような儚鬼は敵の存在を読みとろうとして前に出、
布の様な離武無は閻の前に漂い出、布のような身体の表面に魔法陣の複雑怪奇な紋様を描き出した。
離武無は凶悪な魔法を操る心の鬼だ。力が強すぎて閻も損害を受けるのだが、そんな事も言っていられない。

「ちぃっあのバカジャリ……っ」
それを見てとるとハンニャーは鋭く舌打ちし、手で印を結び、口の中で何かの言葉を唱え始めた──

── 一方、最初に封印を砕いた否鬼憑は完全に姿を無くしていた。灰色のドロドロしたものになってしまい、
仲魔に降りかかった。

変身の鬼、魔似蟲もドロドロを浴び、のたうち回っている。虚居狐の身体からドロドロを取り払おうとした
無重鬼(なえき)も逆にとり憑かれてしまっていた。同じように腕黒坊の身体も謎の灰色のドロドロを浴び、
身体が溶け始め、棒立ちになり、苦痛のうめき声をあげている。

「待ってて、みんな今、閻が助けるから……儚鬼!敵の心を呼んで!今、ドコに潜んでいるのか教えて!」
 そういって目の前をただよっている離武無の横に手を伸ばし、構えた。そして儚鬼の報告を待つ。が、儚鬼は
ずっと沈黙を保ったままだった。

「儚鬼?!儚鬼!どうしちゃったの?!敵の事を教えてよ!」
 だが、儚鬼はその小さな豆のような頭部を小さく振り続けるだけだった。
「閻、危ない!」
大主が警告を発した。閻がハッとする。腕黒坊の身体を溶かしていたドロドロの一部が、まるで意志をもつ触手の
ように閻にとびかかったのだ。不意を打たれ、とっさの事に閻は身を固くした。が、その閻を庇うように布の様な
心の鬼、離武無がドロドロを遮った。

 ビチャ

「離武無(りぶな)!」
瞬く間に離武無が溶け始め、足下の儚鬼の上に落ちてクシャクシャに縮みはじめた。二匹の鬼はアッという間に
色を無くし、灰色に染まり形を崩しはじめた。

23 :ねことこねこ:2013/05/21(火) 19:37:14.83 ID:ylt+8enb
「くっ、仕方ない閻。ここは逃げるしか無さそうだ」
大主が、閻の耳に囁き、撤退するよう促した。しかし、閻は動こうとしない。

「閻……?閻!おい、閻!!」
だが、閻は頭を抱えて動けなくなっていた。魔縁を通して伝わってくる仲魔達の苦痛の声がついには限界を
超えていたのだ。頭一杯に満ちて響きわたる苦悶の声に耐えきれず、頭を抱え、しゃがみ込んでしまう。

「み、みんな、みんなあ……」
閻はしゃがみ込み、俯いてガタガタと震えはじめた。

「閻、閻!……ちい!」
珍しく、大主が焦った声で呟く。閻の目の前では儚鬼と離武無が苦悶にのたうちながら灰色のドロドロに
溶かされていく。それはもともと否鬼憑が溶けたものだった。それが腕黒坊を溶かし、儚鬼と離武無をもこうして
溶け始めている。このままだとこの他の鬼も灰色のドロドロに溶かされ、取り込まれる。そうなれば、じきに
襲いかかってくるだろう。

「閻、緊急事態だ。許せ」
閻にとどいたかどうか。大主はボソリと呟くと、閻の身体を操作しはじめた。閻が頭を抱えた格好のまま、
ギクシャクと不自然に立ち上がり、後ろ向きに歩きはじめた。化鬼猫大主は閻の着てるパーカーの姿に
変身している。そのため、その気になれば閻の動きを外部から操作できるのだ。だが、その動きはぎこちなく、
移動する早さは大主の焦りとは裏腹にゆっくりとしか動かない。

──鬼達を溶かしていたドロドロはやがてより集まり、鬼達を完全に取り込むと周囲に広がり、床を、壁を、
台座を、石筍の柱を溶かし、取り込み始めた。じわじわと、周囲が灰色に染まり始める……

 その景色を前にじりじりと大主は閻を逃がすべく必死で閻の身体を後ずらせる。やがて、鬼達がすべてドロドロに
吸収され、思念が途切れたためか、閻が我に返る。

「……あ。ばっきー……みんなが……」
「閻、正気に戻ったか」
大主は閻が正気を取り戻したと知って緊張を緩めたが……そこまでだった。

 ビュルンッ!

ドロドロの一部がまるで生きているようにムチとなり、閻に襲いかかった。

「くっ」
大主はとっさの事で対処できない。

 ビチャッ

為す術もなく閻のおなかの部分にドロドロが跳ねた。

「ぐっ、ぐわぁ!」「ばっきー?!」
大主が苦痛の声を上げる。見る見るドロドロのついた部分が色を失い、灰色に同化してゆく。大主は苦痛をこらえ、
閻に告げた。


「閻……俺ももうダメだ……おまえだけでも逃げろっ」
「そんなっ!?イヤだよっ」
閻は反射的におなかについたドロドロを払い落とそうとするが、グローブに包まれた手ではうまくいかない。
逆にグローブの手にドロドロがついてしまう。そしてそこから溶けはじめた。

「俺の事は構うなっ、後ろのやつに連れだして貰って脱出しろっ!」
「ヤダよっどうしてそんな事言うのさっ」
他の仲間達が犠牲になり、大主まで失えば、閻はただの子供に戻ってしまう。

「ぐうう……あいつは…知らない奴じゃない、悪いようにしないハズだ……」
「ばっきー……!」

24 :ねことこねこ:2013/05/21(火) 19:38:02.15 ID:ylt+8enb
「いいから、いけぇ〜!!」
ボンという音と共に閻は再び後ろに放り出された。大主が閻の服に変化していたのを解いたのだ。
「ばっきー……」
閻は地面にうずくまりながら目の前の影を見上げた。閻の前には久しぶりに見た大化け猫の黒い大きな背中がある。
その身体が徐々に色を失い、灰色に染まっていく。大きなチカラの存在を察知したのか、ドロドロの海から無数の
触手が持ち上がった。

「ばっきー!」
「くるな、閻っ! シロスケぇぇぇっ!この娘を頼む!」
色を失い始めた大化け猫の身体に無数の触手が巻き付いてゆく。その度に触手の触れた部分の輪郭がグズリと崩れた。

「ばっきーーーーーーっ!」
閻が絶叫した。その閻をめがけ、幾本もの灰色の触手がおしよせた。

「っ!!」
閻は反射的に身体を強ばらせる。すると、次の瞬間、ドロドロの触手を不可視の衝撃波が襲った。
衝撃を受けた触手はまとめてちぎれ、吹き飛んだ。

「しっかりなさい!!」

そこに割り込んだのはハンニャーだった。右手に矛を手にしている。

そう閻を叱咤すると、閻を小脇に抱え込んだ。灰色のドロドロの触手が数本、いっぺんに二人を追い、襲いかかる。

「はっ!」
ハンニャーは気合いを入れて触手を睨みつけた。すると、またドロドロの触手がいっぺんに吹き飛ばされた。

「ほら!いくわよ!」
ハンニャーは大主を失い、呆然とした閻を有無を運び出した。

「こ、こら!放せ!ばっきーが!」
「そうはいかないわ」
ハンニャーはそう呟くと閻の抗議など無視して駆けだした。

その背中をねらって、幾本もの触手が再び襲いかかった。だが、今度はハンニャーの右手の矛が一閃する。一度に
複数の灰色の触手が切り飛ばされ、不思議な事にそのドロドロが石の固まりになってから飛び散った。その石は
この洞窟内にある鍾乳石と同じ質の石の欠片だった。ハンニャーは一度、二度と矛を振るう。その度にドロドロの
触手は石へと変貌し、飛び散った。

 閻はハンニャーに抱えられながら、もがく。

「やだ!ばっきーーが!ばっきーーが!ばっきーーーーっ!!」
閻の絶叫を残し、ハンニャーは灰色に染まりつつある地獄のような場所から撤退した。


  ◇ ◇ ◇
 ──パチパチと燃え盛る炎を前に閻は膝をそろえて地面に座り込んでいた。その目はうつろでボンヤリと炎を
 見つめている。その頬は赤く腫れ上がっていた。ハンニャーが思い切り強く叩いたためだ。ここは例のお社の前。
洞窟の入り口前にある荒れた広場。あれから、閻を抱えたハンニャーは洞窟の入り口まで戻ってきていた。
だが動転していた閻は戻るとワガママを言い出し暴れたため、ハンニャーがおもいきり張り飛ばしたのだ。

 その上で自分達が何をやらかしたのか、あれがどれだけ危険な存在なのか、首根っこひっつかんでこっぴどく
叱られた。その結果どうなるかを頭からドヤされ、その事実に打ちのめされていた。そのうえ、今の閻は操っていた
心の鬼を全て失い、ただの子供同然だった。とはいえ、閻はこの世の全てが混沌に沈む危険よりも、化鬼猫大主を
はじめとする仲魔をみんな失った事の方がよほどこたえていた。

 一方、閻をここまで連れてきたハンニャーはたき火に鍋をかけ、何かスープのようなものを煮込んでいた。
辺りに酷い臭いが立ちこめていたが、鍋の中身をひとすくいし臭いを嗅ぐと、一つうなずく。そして懐から袋を
取り出し、中の干からびたキツイ匂いの草を取りだすと鍋に放り込む。するとさらに酷い臭いが周囲に立ちこめた。

25 :ねことこねこ:2013/05/21(火) 19:38:41.01 ID:ylt+8enb
「全く、あんたらにはしてやられたわ。ここまで台無しにされたのはいつぶりかしら。まったくなんてこと」
鍋の中身を柄杓でグルグルかき混ぜながら、嘆息した。とはいえ、その調子にもう閻を責める様子はない。

「…………」
閻は何も返さず、じっと無感動な目を炎に注いでいる。ハンニャーはもう一回、息をつくと、言葉を継いだ。

「しっかし、まさか分っかんないわねぇ。
 あいつがなんでアンタみたいなチビジャリなんかに使役されていたのかしら」

ぴく、と、閻が反応した。

「オバさん、ばっきーの事、知っているの?」
すると、ハンニャーはにこやかに近づくと……

「お・ね・え・さ・ん!」
そう強く言ってはたいた方とは逆のほっぺたをつねりあげた。
「にゃ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
閻の悲鳴が響きわたる。おかげで閻の頬は両方とも腫れ上がるハメになった。

「──まったく、近頃のチビジャリは一体、どういう教育を受けているんだか……」
「にゃ〜〜〜〜〜……」
両頬を押さえて涙を流す閻を尻目にハンニャーはブツブツと口の中でつぶやきながら元の場所に戻り
再び鍋の中をかきまぜる。

「ぬ〜〜〜っ、チビジャリじゃないやい。閻には閻って立派な名前があるんだいっ」
ムッとして言い返した閻にピッと柄杓をつきつけ、ハンニャーはニッと笑った。

「ふっ。だいぶ元気が戻ってきたじゃない。でもアンタなんかチビジャリで十分よ。アタシの大シゴトを
 邪魔したんだから」
閻は不満げにうなったが、珍しくワガママを言わなかった。一連の騒動ですっかりヘコまされていたのだ。

「……で、ばっきーとはどういう関係なのさ。おば……おねえさん」
危うく失言しそうになりながら、閻は尋ねた。これ以上頬をつねられては頬の肉がちぎれてしまう。ハンニャーは
興味がなさそうに鍋の中をかき回し、ひとすくいすると一口啜って味をみる。

「ん〜〜〜?そーねぇー……一時期、一緒に行動してた事があるのよ」
そういって再び鍋の中をかき混ぜはじめる。そして昔を懐かしむように目を細めた。

「──まあその時は随分世話になったしね。アンタを助けたのもアイツが頼むって言うんだもん。
 仕方ないわよねぇ」

「ばっきー……閻のせいで……」
閻は大主の事を思い出し再び沈み込んだ。閻をかばって犠牲になった姿が脳裏にこびりついている。そんな様子を
捨て置いて、ハンニャーは無関心そうに鍋の中をかき混ぜ続けている。

「ん〜〜まーそーねー……アイツ?ばっきー?を助ける方法が無い訳じゃぁないけどねぇ〜」

「っ!」
それを聞いて閻はガバッと顔をあげた。あれだけ形を残さず溶けてしまった大主達、心の鬼を助ける方法が
あるというのだ。にわかには信じ難かった。

「ホント?!お……おねいさん」
ハンニャーはそんな閻に構わず、無感動に鍋をかき混ぜながら気のない返事を返した。

「まーねー。アンタにも手伝って貰うから覚悟して頂戴。ま、今のウチに休んでおくことね」
鍋からまたひとすくいして匂いをひとかぎ。

「今すぐ聞きたいっ、一体、どうやって助け出すっていうのさ!ばっきー達、ドロドロに溶けちゃったんだよ!」
持ち前のワガママが頭をもたげ、閻は聞きたがった。ハンニャーはちら、と目をやるとめんどくさそうに呟いた。

26 :ねことこねこ:2013/05/21(火) 19:39:22.75 ID:ylt+8enb
「そうねぇ。まぁ、教えて置いた方が後々面倒がないか……」
そう呟くと、鍋を火から遠ざけた。そして、右袖をまくり上げると腕を閻に見せた。そこには古い文字と簡易的に
省略された古い武器の絵が刻印されていた。

「見ていなさい」
そう言うと、ハンニャーは目を閉じ、口の中で何かを呟いた。次の瞬間──

 バシュッ──

空気を引き裂く音をさせ、ハンニャーの右手の中に古さを感じさせる矛(ほこ)が出現した。

「──これが、神話に語られている天沼矛(あまのぬぼこ)──のレプリカみたいなもの──よ」

 唐突に出現し、シュウシュウとうなりを上げている矛を閻は息をのんで見やった。

「──これで……ばっきー達を助けることが……できるの?どうやるのさ?」
いつの間にかハンニャーの腕に刻まれていたイラストと不思議な文字は消えうせていた。まるで腕に刻まれていた
イラストが目の前の矛として実体化したかのようだ。

「あなたが封印を解いたのは『混沌のしずく』そのものよ。このままだと、あの『混沌』は周りのものを次々と
 飲み込み、いずれ全ての存在を『混沌』の中に沈めてしまうでしょうね。あなたの『ばっきー』みたいにね」
 そう言うと、ハンニャーはつかんだ矛を手放した。次の瞬間、バシュッと空気が裂ける音がし、矛は消え失せた。
そして同時に、入れ替わるようにしてハンニャーの腕に再び古代文字とイラストが浮かび上がった。

「それで……それでどうやって『混沌』に溶けたばっきー達を助けるっていうの?」
そう聞くとハンニャーは呆れたように尋ね返した。

「あなたこの国の成り立ちの神話も知らないの?この国を生み出した夫婦神が天浮橋(あまのうきはし)から
 天沼矛(あまのぬぼこ)を使って混沌をかき混ぜ国作りをしたって話。この矛はその天沼矛のコピーみたいな
 モンなのよ。その意味がわかるでしょ?」
再び鍋を火にかけ、かき回しながらハンニャーはめんどくさそうに話した。そしてまたもや柄杓の臭いを嗅いで
確認をする。

閻はしばらく頭を巡らせた。
「えーと……それって、混沌のものをその矛が混沌じゃなくするって……こと?」

「そ。天沼矛は混沌に秩序を割り込ませることで混沌でないものに『分化』させる効果があるわ。漏れ出たものが
 混沌の雫なら、再び『分化』して混沌でなくしちゃえばいいのよ」
ゆっくりと鍋の中をかき混ぜながらのんびりとそう答える。だが、閻の興味はそんな所にはなかった。

「ばっきー達は?ばっきー達はそれで元通りになるの?」
閻は一途の希望をもって前に乗り出した。だが、ハンニャーの答えは楽観できるものではなかった。

「ん〜そーねー……時間の問題かしら。『混沌』に取り込まれてから時間が経ちすぎると完全にとけ込んで
 戻れなくなるかもね。時間が経てば経つ程その危険性はあがってくるわ」
そう聞いて、閻は居てもたってもいられなくなった。

「じゃぁ、スグに助けにいかなきゃ!ばっきー達完全に溶けちゃう!」
だが、ハンニャーは鍋をかき混ぜる手を止めようとはしなかった。

「慌てないの。今すぐそうするって訳にはいかないんだから」
気の逸る閻をちらりと横目で見、慎重に鍋の様子を確認する。

「なんでさ!ばっきーの知り合いなんでしょ!ばっきーを見捨てるの?!助けるつもりはないの?!」
いきり立つ閻の抗議を聞き流しながら、めんどくさそうに閻を見やると解説を始めた。

「あのね。さっき見せた天沼矛(あまのぬぼこ)。あれを使うには結構大量のチカラが要るの。コピー品とはいえ、
 まがりなりにも神器(じんぎ)の複製品だしね。でも、あたしはその神器を使う為のチカラをだいぶ
 消耗しちゃってるのよ。何とかチカラを回復しておかないとこっちが逆に取り込まれてしまうわ。そこで──」
かき混ぜていた柄杓をぴっと閻につきつけた。

27 :ねことこねこ:2013/05/21(火) 19:40:09.31 ID:ylt+8enb
「あんたにも取りかかって貰うわよ。天沼矛をもって、ね」
一瞬、閻は自分が何を言われているのか分からなかった。が、ハンニャーが言っている意味を把握してだんだんと
驚きの表情に変わっていった。

「閻に?!え、だって、その……え?なんで?!ど、どうやって?!」
閻が見た限り、天沼矛とやらはハンニャーの腕に刻印されているのである。

「まず一つ、あたしはさっきの封印儀式でチカラの大半を使ってしまっていること。今、こうやってチカラを
 回復するおかゆを作ってるケド、完全に回復するのは無理ね。そこで手が足りない分はアンタにも手伝って
 貰うわよ。ここまでは……いいわね?」

「う、うん……」
勢いに押されて閻は首肯して同意する。もとより、大主らを助ける事ができるなら否も応もなかった。

「次に二つ目。見ての通り天沼矛(あまのぬぼこ)はモノじゃないわ。今じゃ『術式』や『現象』に
 近いものかしら。コピーすること自体は難しくないわ。もっとも、本来なら神々の許可がゴマンと必要に
 なるんだけど……ま、緊急事態だから仕方ないわね。ただ、見ての通り天沼矛を腕に『焼き付ける』必要が
 あるから……かなり苦痛よ?あなたに耐えられるかしら?」
チラリとハンニャーは閻をみやって試すような視線を送った。

「もちろん!ばっきー達を助けるなら、閻、何でもするよ!」
ハンニャーは意気込んで答える閻を一瞥し、目を細めた。

「結構。アイツの世話になっておきながら、見捨てるような事をいったら、もう一回ぶっ飛ばす所だったわ。さて、
 最後、三つ目だけど、あの洞窟はあれでもこういう時の為、『混沌』に溶けづらいよう、強化されているって
 聞いてるわ。つまり、あの『混沌』が手当たり次第にモノを取り込むのはあの洞窟の中では効率が悪いという事。
 まあ、アレに意志があるのかは判らないケド、十中八九、この出口から溢れ出てくるでしょう。
 アタシたちはそこを狙って迎え撃つ事にするわ。何か質問は?」

「ホントにそれでばっきーが戻ってくるの?」
閻はもう一度同じ事をたずねた。

「必ず……とは確約できないわ。でも、今のところ手段はこのテしかないでしょうね」
それを聞いて閻は無言で俯くしかなかった。ハンニャーはその様子を見て慰めるように一言、言い添えた。

「そんな顔しない。わたしだって昔なじみのアイツを助けたいって思ってるんだから。
 ちゃんとやるべき事はやるわよ。そして、その時まで疲れないようにしっかり休んでおく事。多分、
 『混沌』が出てくる頃には中のモノ色々吸収してかなりデカくなっているはずだから、大仕事になるわよ」

「……うん……ばっきーを助ける為なら、閻、何でもするよ」
閻は素直にうなづいた──

  ◇ ◇ ◇
「──じゃ、いくわよ」
「う、うん」
閻が服のそでを口に含み、うなづくと、ハンニャーは左手で印を結び、自分の右腕になにやら宙で文字を書き、
ついで閻の腕の上に文字を走らせた。

「…………っ…!」
しばらくして、閻の腕に焼き串の先端を押しつけられたような灼熱感が走った。

 ジジ……ジジジ……

閻の肌が細い線を描いて焼け焦げてゆく、閻は最初に言われたように左の服の袖をぎゅっと口に噛ませ、
必死に耐えた。

 ジジ……ジジ……

暫くしてようやく灼熱感がなくなった。そこにはサイズこそ違うものの、ハンニャーの右腕に刻印されているのと
同じ模様が閻の右腕に焼きあがった。それが終わったのを確認すると、ホッとしたのか、閻の目に少し涙が滲んだ。

28 :ねことこねこ:2013/05/21(火) 19:41:02.25 ID:ylt+8enb
「よしよし、よくがんばった」
 ポンポンと、ハンニャーが閻の頭をなで、閻が苦痛をガマンしきった事をねぎらった。

「──それで、これ、どうやって使うの?」
「合い言葉があるわ。後は気合いと共にその言葉を口にするだけよ」

 そして閻はハンニャーにその合い言葉を教えて貰い、何度か天沼矛を出し入れし、使い方を練習した。

 また、ハンニャー特製の『薬膳がゆ』を飲まされた。酷い味と臭いだったが、天沼矛を使いこなす為のチカラを
補充するには必要だと言い含められ、鼻をつまんで無理に飲んだ──

「──さて、やれることは大体やったわね。後はチカラを無駄遣いしないで待ち受けましょう」

閻はこくりをうなづくと、たき火の横ででコロンと横になった。夕方吹いていた強い風は夜になると収まっていたが、
空気の冷たさはさらに強くなっていた。化鬼猫大主をパーカーとして纏っていた時には無縁だった冷たさだ。
今は黒い衣装を身につけてはいるが、全く寒さを防いでくれない。何より、『魔縁』が途切れ、仲魔の存在が
感じられなくなったのが言いしれぬ程、寂しかった。閻はできるだけたき火の熱を身体にあたるようにしながら
大主のいない不安な眠りに落ちていった──


  ◇ ◇ ◇
 ──不意に地面が振動している事に気がついた。
「起きなさい。やっと来たみたいよ」
ハンニャーの声がする。閻も素早く身をおこした。周囲はまだ真っ暗で空には星が瞬いている。
さっきまで燃えていた火は小さくなっているが、そんなに長いこと眠ってはいなかったようだ。

「ハンニャー?アイツは?」
「まだよ。多分、そこまで来てるだろうけど……気を抜いちゃダメよ」
そういって油断なくお社の方を睨みつけている。

地面が鳴動しているかのようなゴゴゴ……という音はだんだんと大きくなってきている。ゴクリと閻は息を飲んだ。

「そろそろね……いつでもできるように用意しておきなさい」
閻はコクリとうなづき、素直に従った。二人とも合い言葉をつぶやき、右手に天沼矛を呼び出した。

一層、鳴動が大きくなり、地下からの振動だと明確になった瞬間、ハンニャーが叫んだ。

「来るわよ!しくじんじゃないわよ!」
そう叫ぶと、ハンニャーは左手を上に掲げ、声高に何かを唱えた。次の瞬間、まばゆい青白い輝きが周囲を明るく
照らし出した。途端、周囲の様子が明るみになる。周囲はちょっとした広場のようになっていた。洞窟内ではなく、
外で決着をつけると決めた理由の一つだ。ここなら天沼矛を心おきなく振り回せる。

その瞬間、正面の小さなお社が内側から破裂するように吹っ飛び、ドロドロした流動物のようなものが吹き出した。
そのまま高く吹きあがり、二人の居る所に真上から落ちかかってきた。

「避けなさい!」
ハンニャーのその声を合図に二人はとっさに左右に分かれた。二人の居た地点に『混沌』はどっと降りかかる。
次の瞬間、二人に向け、「触手」が無数に持ち上がり、それらを伸ばして二人を取り込もうと伸ばしてくる。

「たぁ!」
閻は触手を躱すと天沼矛を『混沌』に向け、突き込んだ。だが、突き込んだ後、数秒してその部分が茶色く変色して、
そしてまた灰色に沈み込んだ。

「端っこから『分化』しないと意味ないわよ!でないと、結局また『混沌』に取り込まれちゃうから!」
視界の端っこで天沼矛を振るいながらハンニャーが叫んだ。
見ると、天沼矛を振るって『混沌』の触手を次々と切り飛ばしている。切り飛ばされた『混沌』は空中で次々に
鍾乳石や石筍になり、飛んでゆく。『混沌』が洞窟内で吸収したものなんだろう。

「よーし、それなら閻も!」
そう言うと、無数の触手を伸ばしてくる『混沌』に向け、気合いを入れて矛を振るい始めた。

29 :ねことこねこ:2013/05/21(火) 19:43:26.70 ID:2wT7UWlC
  ◇ ◇ ◇
「ハァ……ハァ……ハァ……」
──どれだけ時間が経過しただろうか。天沼矛で『混沌』を切り払い、かなりの『混沌』を『分化』し、
吸収されたものを元に戻し続けてきた。が、まだまだ『混沌』は溢れ続けてくる。分化しても分化してもその端から
『混沌』は辺り構わず『吸収』しては質量を増してゆく。

延々と続ける作業にどれだけ続いたかわからなくなってくる。
周囲には今さっき吸収されただろうお社の瓦礫や、洞窟内で吸収されたであろう様々な石が『分化』され
積みあがっていった。長い延々とした作業に疲労で閻の視界も虚ろになってくる……

「ほら、しっかりなさい!気を抜かない!」
ハンニャーが閻に襲いかかった触手を切り飛ばし、叱咤激励した。危うく閻が取り込まれる所だったのだ。

「ハァハァ、ハァ……閻はダメかも……」
閻は口の中で小さくつぶやいた。神器と言われるだけあって、天沼矛は閻から容赦なく体力を奪っていった。
実体がないように軽く、振るう事自体に腕力を要する訳ではないが、『混沌』を『分化』するたび、徐々に閻から
チカラが失われていった。

と、不意に閻は閻の中で『魔縁』が復活したのを感じとった。
「っ!あっ!あそこ!」
目をあげると、たった今、ハンニャーが切り飛ばし『分化』した混沌の中に気配を感じていた。

「それっ!縛鎖!」
反射的に閻はそう叫び、左手をその『分化』された混沌に向ける。次の瞬間、影でできた鎖が飛び、その混沌に
つながった。

「魔縁!三障四魔!」

次の瞬間、閻の身体は影の鎖に二重三重にまかれていた。

「この感じは……腕黒坊(わんこくぼう!)力を貸して!」
 閻は仲魔の存在を感じ取って叫んだ。
そう、閻は仲魔の心の鬼、腕黒坊の力が身体に満ちていくのを感じていた。影の鎖が消えたそこには身体が一回り
大きくなり、青いプロテクターを身体に装着したような閻の姿があった。心なしか天沼矛も巨大化している。

「まずは一鬼目!」
閻は俄然力を増していた。仲魔が一鬼戻ってきただけではない。心の鬼、腕黒坊の力を借りる事で閻の体力も
少し戻ったのだ。

「てやっ!」
閻が左から右に切り飛ばすように右腕を一振りすると、今までとは比べモノにならない量の『混沌』が宙を舞い、
吹き飛んだ。無数の瓦礫が『分化』され降り注ぐ。腕黒坊の腕力が付加された閻は驚異的な腕力で次々と『混沌』を
『分化』してゆく。

「その調子よ!この『混沌』だって無限じゃないわ!そのまま続けて!」
ハンニャーがその様子を見てそう声をかけてくる。そういうハンニャーも疲れなどないかのように次々と
『混沌』を『分化』しつづけている。その様子はさながら舞っているようで、一瞬、閻は戦いの最中であることを
忘れて見とれていた。

「コラっ!あなたの仲魔は一体だけじゃないんでしょう!ボケっとしない!」
そう叱咤され、ハッとなって、矛を振りはじめる。閻は力が増していた。しかも、腕黒坊の腕力は実質的な
作業効率を劇的に押し上げた。『分化』したものを遠くへはね飛ばす為、『混沌』が再び吸収して質量を増す事が
少なくなったのだ。そうして作業をしているうち、閻は再び『魔縁』が復活するのを感じとっていた。

「儚鬼(はかなき)!戻って!」
切り飛ばされた『混沌』の欠片が空中で徐々に形を取り戻し、閻の見慣れた一本角の小鬼の姿になっていた。
その小鬼に左手を伸ばし、魔縁を飛ばす。あやまたず、影の鎖は小鬼を捕らえた。

30 :ねことこねこ:2013/05/21(火) 19:44:05.52 ID:2wT7UWlC
「これで二鬼目!」
それからは思いの外順調だった。魔似蟲(まねむし)が戻り、無重鬼(なえき)が戻った。そして暫くして
虚居狐(こいこ)が戻り、離武無(りぶな)が戻った。その度に閻は仲魔から力を得、さらに力強さが増していった。
……が、しかし。

「ばっきー、ドコなの?」
最後に否鬼憑(ひきつけ)と再会してからしばらく『混沌』を分化し続けていたが、それからは全く化鬼猫大主に
出会う気配はなかった。天沼矛で『混沌』の触手を斬りとばし、切りとばしても石や土に戻るのみ。
時間の経過と共に段々不安になってくる。

「ばっきー、本当にこの中に溶けちゃったの?」
再び仲魔から分けて貰った体力も尽き、息があがってくる。
重さを感じないはずの天沼矛を振るう腕が重くなってきた……

「バカっ!何ボケっとしてるのよ!」
ハンニャーの叱咤する声が閻の耳を打った。閻はハッと我に返る。延々と続く終わりのない作業に気が抜けていた。
気が付くと、一本の触手が閻の死角から飛びかかっていたのだ。とっさに天沼矛で防御しようにも間に合わない。
閻は覚悟して目を閉じた。

 ビチャッ

おぞましい音が響いた。

「っ!……あれ、何ともない……」
閻は自分が無事だった事を安堵するより不思議に思った。五体が無事だったのだ。と、閻を庇うように人影があった。

「まったく、しょうがないわね。世話焼かすんじゃないわよ」
「!お、オバさん?!ど、どうして?」
閻の前にはハンニャーが立ちふさがり、閻を守っていた。しかも、左手で『混沌』を受け止めたのか左腕肘の
辺りまでドロリと溶けかかっていた。

「そ、そんなっ……閻を助ける為に……」
だが当のハンニャーは冷静な目で溶けつつある自分の腕を見下ろしていた。

「何、この位で動揺してんのよ。あたし達の手に持っているのは何?」
そういうと、溶けつつある左腕を閻の方に差し出した。

「ほら、とっとと元に戻しなさい」
閻はドロドロに溶けつつある腕におそるおそる天沼矛を近づけた。

「ほらぁ、グズグズしない」
そういうと、何でもない事のように自ら閻の天沼矛に体重をかける。

 ズグッ

閻の手に鉄に肉が食い込む嫌な感触が伝わってくる。だが、当のハンニャーは冷静な目で見下ろしていた。
やがて、溶けて垂れ下がっていた自分の腕が元の形と色を取り戻すと一度、二度、手を振り握ったり開いたりして
完全に動くのを確認する。

「よし、じゃあガンガンいくわよ」
そう呟くと何事もなかったように混沌の分化作業に戻った。閻はそれをポカーンと見送ってしまった。

「ど、どうして?」
つい、素っ頓狂な声を上げてしまう。
「あん?」
ハンニャーは天沼矛を振るいながらめんどくさそうに振り向いた。

「痛くないの?ばっきーだってすっごく痛がっていたのに?!」
同じように『混沌』を天沼矛で斬り飛ばしながら信じられないように叫んだ。それを聞いてハンニャーは
なんて事ないとばかりに笑みを浮かべた。

31 :ねことこねこ:2013/05/21(火) 19:45:01.62 ID:2wT7UWlC
「痛くない訳ないじゃない。でもね、その程度の事で動揺して、もっととんでもない事がおこったら自分の事が
 許せなくなるわ。そうでしょう?」
そして艶やかにほほえんだ。一瞬、閻はその笑顔に魅入ってしまった。

「す、すごいんだ……」
ハンニャーは続けて押し寄せる『混沌』の触手を薙ぎ払いながら事も無げに続ける。

「何いってんの。アナタだって充分スゴいじゃない?」
あれから何のサポートも受けずにいるかもしれないのに、疲れを感じさせることもなく、動きに全く乱れのないまま
舞うように『分化』作業を行いながらハンニャーは続ける。

「え、閻が?!」
閻が戸惑って動きが止まった。すかさずハンニャーはそれをカバーする。

「アナタが手にしてる武器はどういう経緯でモノにしたのだったかしら?普通の人が手にするのはナカナカ大変よ?」
そういって閻に向かって軽く片目をつぶった。
「あ……」

天沼矛を手にするには肌を焼く痛みに耐える必要がある。

「で、でも、だってそれはばっきー達を助けたかったから……」
おずおずと言う閻にハンニャーはふっと笑みを向けた。

「それでいいのよ。充分じゃない」
事も無げにいい、再び矛を振るいはじめた。

「……そう……かな?」
閻は矛を握りしめ、一瞬、動きを止めた。今までそういう事を言ってくれる人は今までなかった。保護者の大主は
小言は言うけれど、最後には閻の言い分の方が通っていた。

「ほぉら、手が止まってる!さっさと手を動かす!」
「う、うん」
そういうと再び矛を振りかざし、振るいはじめた──

  ◇ ◇ ◇
 ──『混沌』の総量はやがて全体を見渡せる程度に減ってきた。今やすり鉢状に凹んだ広間の中心に溜まってる
程度の量に減ってしまっていた。広間がすり鉢状に凹んでいるのは言うまでもなく、『混沌』が地面を吸収しては
『分化』され続けたからだ。

「後少しよ!踏ん張んなさい!」
「たぁあぁあああああああ!」
閻は腕黒坊の腕力で思いっ切り『混沌』を切り上げた。大量の灰色のドロドロが頭上にまでハネ上げられた。

「いったよ!」
「まかせなさいっ!はぁっ!」
ハンニャーが一瞬で幾重もの斬撃を閃かせる。ドロドロは空中にあるうちに一瞬で複数に分割された。
と、ぴく、と閻が反応した。

「?!この感じはっ」
閻はその瞬間、強い気配を感じ取った。強く優しい、閻にとって一番なじみのある気配。閻は考えるより先に
左腕を気配の方に向ける。

「魔縁!縛っ!」
閻の左腕から影の鎖が伸び、空中に残ったまま黒い固まりにヒットした。

「ばっきー戻ってきて!」
ぐいっと鎖を引くと小さな黒い固まりはくるくると回って閻の手前でボン、と巨大な黒猫の姿を取り、着地した。
次の瞬間、懐かしい声が閻の耳に届いた。

32 :ねことこねこ:2013/05/21(火) 19:45:44.81 ID:2wT7UWlC
「おいおい、何だ唐突に。いきなり空中に放り出されてブン回されるたぁ、どういう事だ」

「ばっきー!」
閻は嬉しさを隠しきれない声を張り上げた。目の前に黒く巨大な化け猫が居る。閻にとってどれだけ待ちわびた
瞬間だったか。だが、ハンニャーは隙を許さなかった。

「感動の再会は後!まずは手を動かしなさい!くるわよ!」
すかさず、注意を促す声がかけられた

「ばっきー危ない!」
触手が再び閻たちに向け伸びてくる。閻は化鬼猫大主の身体を庇うように回り込むと触手をすべて薙ぎ飛ばした。
それを見て、大主は面白そうに目を細め、声をあげた。

「ほぅ、暫くみない間に随分と頼もしくなったではないか、閻。手助けはいるか?」
「いいから、ばっきーは下がってて!」
大主の巨体をカバーするように視線を張り巡らせる。その姿からはもう決して大主に渡さないという気迫に
満ちていた。

「ふむ、一体何があったのか、後でゆっくり聞かせて貰うぞ」
そう言うと大主は閻に飛びかかった。

 ドロン。

次の瞬間、閻は黒い猫を模したパーカーに身を包まれていた。大主がいつものパーカーに変化したのだ。
「うん、いくよ。ばっきー!」
再び、閻は張り切って矛を振り上げた──

「ほら、ラスト!」
ハンニャーが地面に残った一すくいの『混沌』をすくい上げた。

「たぁぁあああぁああっ!」
閻はありったけの力を込めて空中に舞った『混沌』に向け、矛を突き込んだ。矛はあやまたず、
残りひとすくいの『混沌』を貫いた。が──

「な、なによコレ?!」
思わずハンニャーはたじろいで後ずさった。閻が最後の『混沌』ひとしずくを『分化』した途端、閻の持つ
天沼矛の先端付近からすさまじい障気が吹き出したのだ。禍々しい空気に押し出され、周囲に風が吹き荒れる。

「い、一体何が起こったの?!」
閻は湧き出る黒く濃い障気に押されるように後ずさった。
「わ、わからん。いや、だがコイツは……」
大主が何か言いごもる。大主のパーカーを纏っていなければ、閻も障気にあてられ、ただでは済まなかったろう。

「下がりなさい!これは……万物の全てに染み入る八百万の神の息吹よ──!」
ハンニャーが何かの『術』を起動した。すると、どこからともなく、青白い光の輪が集まってきて、
吹出す障気の中心を囲み込んだ。次の瞬間、障気の発生源はハンニャーの結んだ結界の術で囲み込まれた。
次の瞬間、吹き荒れていた障気は嘘のように沈黙する。
そしてそこには巨大な黒々とした岩石が現れた。それは、直径50cmくらいの大きさでたった今氷結した氷の
ようにそこかしこからピシピシと、軋んだ音を響かせていた。

「殺生石の術よ。これで少しの間だけ封印することができるでしょうね」
そう言うと、ハンニャーは一息ついた。さすがに疲労の色が濃い。額にはうっすらと汗が浮かんでいた。

 だが、間近に居た閻は見てしまった。『ソレ』の正体を。ハンニャーの術に封じ込められる直前、それは
真っ黒な影のような甲殻に鎧われた禍々しい、人間ではない何かの胎児のように見えた。大きな三角状の頭部、
甲殻に覆われた手足を丸め、格好だけは胎児のように丸まっていた。明らかに悪意に満ちた真っ赤な眼球が
閻の事を一睨みするとニタリと笑ったように見えた。次の瞬間にはハンニャーの『術』に囲い込まれ、岩石の
向こう側に封印されてしまったのだが──

33 :ねことこねこ:2013/05/21(火) 19:46:32.02 ID:2wT7UWlC
「……なるほどね。神様があの『混沌のしずく』を『分化』せずに封印した理由がわかったわ」
 相当しんどい『術』だったんだろう。息をきらせながら近づくと、ハンニャーはできあがった黒い岩石を見下ろした。

「これは『分化』せずに『混沌』のまま封印しとく方がよっぽどましって事ね。仕方なかったとはいえ、
 このとんでもない代物を世に出すのは『混沌』を野放しにするよりもよっぽどマズイって事なのかしら……ね?」
腕を組んで封印石を見下ろすハンニャーに閻はおそるおそるといった様子で声をかけた。

「これ……封印しちゃったの?ニャー姉ぇ?」
ハンニャーはちろ、と閻に目をやると、大義そうに吐息をはいた。

「あくまでも一時的な措置よ。暫くしたらこの程度の結界、内側からぶち破って出てくるでしょうね……ふー……
 一休みしたらまた同じような封印を施さなきゃ」
「え、閻に手伝える事ある?」
自然にそんな言葉が口をついて出た。一瞬、ハンニャーは虚をつかれたような表情をしたが……

「ま、アンタの出来そうな事はこれ以上ないわね。今度こそ邪魔されないよう、眠って貰おうかしら」
またハンニャーは人差し指と中指を揃えて閻の目の前につきだした。閻を眠らせたあの術だ。

「!!っ」
閻は思わず、両腕で自分の頭を庇う。……が、覚悟したような眠気は襲ってこなかった。
閻はおそるおそる目をあげた。

「なんてね。ソイツがあんたの事を守護してるんじゃ、無意味ね。もう邪魔すんじゃないわよ」
そう言って舌を出した。

「それにしても一体、何だってそんな事になってるのよ。クロスケ?」
「クロスケ?!」
閻は頭上を見上げた。大主を着ている以上見ることはできないが、思わず見ようとしてしまったのだ。

「うむ……まぁ、お互い、色々あったろうからな……それはまた落ち着いた時にでもする事にしないか。
 こんな時間がない時にするもんでもないだろう。まずは休むべきではないか?それに俺がいない間、
 閻に何があったのか少し興味がある」
そう言われてハンニャーもボリボリ髪の毛をかきあげると同意した。

「んー……そーねーメンドいけれども陣地を張って休みましょうか。アナタも疲れたでしょ。
 あったかいスープを作ったげるから、休む事にしましょうか」
「スープって……あのニガいの?」
天沼矛を扱う力を補充する為といって飲まされた薬膳がゆの味はまだ下の上に残っている。

「よくわかってるじゃない」
猫又の女はうっすら笑みを浮かべてほほえんだ。

34 :ねことこねこ:2013/05/21(火) 19:48:05.90 ID:2wT7UWlC
>>21-33
という訳で、「ねことこねこ」第二部をここにお送りいたしまス。次回で終了となってますので、みなさま、どうかお付き合い下さいませ。

35 :創る名無しに見る名無し:2013/05/21(火) 21:40:34.24 ID:JZS9XbVz
面白いよ。まさかのクロスケだね。

36 :創る名無しに見る名無し:2013/05/22(水) 00:05:35.02 ID:GDHDFBDx
Gj!
次が待ち遠しい。
早く投下してー。

37 :創る名無しに見る名無し:2013/05/22(水) 00:06:30.48 ID:GDHDFBDx
Gj!
次が待ち遠しい。
早く投下してー。

38 :ねことこねこ:2013/05/23(木) 19:47:11.02 ID:NcexVyQx
  ◇ ◇ ◇
 ──延々、『混沌』と戦い続け、気がつけば夜が明ける直前だった。そしてハンニャーが『混沌だったもの』に
施した封印は頑健な岩だったが、その岩の表面にヒビが入り、所々障気が漏れていた。とはいえ、まだ夜までは
保ちそうだ。そこで閻とハンニャーは例の薬膳がゆを作って飲むと夜まで休む事にした。

「うえ〜にーがーいー」
この薬膳がゆの苦さは何度飲んでも飲み慣れるものではなかった。

「黙って飲みなさい。アンタの中の鬼達にもいいはずだから」

──そして木陰に枯れ葉を敷き、寝床を作った。それと、閻の腕に刻印された天沼矛を取り去ることにした。もう
『混沌』を『分化』しきってしまった以上、天沼矛は必要ない。

「今度は痛くないから心配いらないわよ」
「……うん」
とはいえ、閻は刻印された時のことを思い出して少し腰が引けてしまう。それでも袖をめくって、刻印された腕を
ハンニャーにさしだした。その腕を見、大主は動揺の声をあげた。

「!!っ閻、その腕は……っ!」
閻の腕には痛々しく文字と絵が焼き爛れた線で描かれていた。

「そうよ。このコ、アナタの為に頑張ったんだから」
そういうと、閻の腕を両手で優しく包み込む。

「だが、閻はまだ子供だぞ……っ」
聞いてるのか聞いてないのかハンニャーはゆっくり口の中で何かをブツブツと呟いた。閻はハンニャーが手を
添えている場所からほんのりと温かくなってゆくのを感じた。暫くしてハンニャーが手をどかす。すると閻の肌は
すっかり綺麗になっていた。

「その子は自分のやらかしたことの責任を自分でとったのよ」
閻の腕から手をどかし、髪の毛をかきあげながらハンニャーは素っ気無く言い捨てた。

「だが、しかし……」
そう言いよどむ。納得がいっていないようだ。

「ま、その話もこの件が済んでからにしましょ。まだ完全には解決してないんだから」
そういうとハンニャーは眠そうに伸びをする。

「ぐ、ぐむ……」
そう言われて大主は黙り込んだ。

「じゃ〜寝る事にしましょーか」
ハンニャーはのんびりと木陰の寝床に横たわった。
「寝る〜〜〜〜〜〜」
そう言って閻はハンニャーの横に潜り込んだ。

「……なによ。アンタの寝場所はつくったげたでしょうが」
「ここがいい〜」
そういってハンニャーにすり寄る。

「……珍しい。閻が懐くなんて初めて見たぞ」
大主が呟く。

「……ま、好きにするといいわ。アンタ、今日は頑張ったもんね」
どちらかと言えばメンド臭そうにそう呟くと、腕に頭をのせ、閻の上に腕を回して瞼を閉じた。

「クロスケ。その娘がまた余計な事しないようにちゃんと見てなさいよ」
「う、うむ……」

そう言うと二人は程なく眠りに落ちていった。

39 :ねことこねこ:2013/05/23(木) 19:47:49.26 ID:NcexVyQx
……ように見えた。
「……ねぇ、ばっき〜」
規則正しい寝息がハンニャーから聞こえてきてからだいぶ経ってから、ポツリと閻は呟いた。

「……なんだ。眠らないのか」
他の鬼達は『混沌』との戦いで閻に体力を与えた為、当分は閻の中で休まなければ使いものにならない。
が、大主は最後の方で復帰したため、それほど消耗はしていなかった。

「うぅん、あのね、ちょっと聞きたい事があるんだ」
閻は姿勢はそのままに目を開き、大主に話しかけた。
二人の話し声は小さくてパーカーの外にまで漏れ聞こえたりはしない。

「なんだ?」
「あのね?ばっきーも見たよね『アイツ』のこと?」
「う、うむ」
激しい障気の渦の中、禍々しい異形の胎児の赤く光る目は忘れようったって忘れる事はできない。
夢に出てきそうな光景だった。

「ニャー姉ぇ、アレを封印するって言ってたケド、やっぱり大変なんだよね?」
「ああ、かなり大変だろうな」
閻たちは最初にハンニャーが『混沌』を封印しようとしていた所を見ている。彼女の頭上に描き出された無数の
『術式』は法術に詳しくない閻でもかなり高度なものだと分かる。

「最初に閻たちが見たアレみたいな事をまたやることになるんだよね?」
「まあ、そうだろうな。アレと同じくらい大変であろうな」
大主も『専門外』ではあるものの、永年の経験であれがどれくらい大変かは推察できる。

「……うまくいくと思う?」
暫くの沈黙の後、閻はおそるおそる聞いた。ややあって大主はポツリと返した。

「…………かなり難しかろう」
長く『混沌』に居たからその間の事は大主にはわからない。しかしアレほどの『封印術式』を展開し、わずかな
休息と薬膳がゆを口にしただけで『神器』を手に『混沌』と戦い、またもう一度大規模な『封印儀式』を行おうと
いうのだ。本来ならそのどれもが何週間も時間をかけて準備するものであり、多少の薬や休息で回復するものでも
なかった。

「やっぱり、閻が余計な事をしたから……こんなことになったんだよね……」
そう呟くと自分を抱くように腕をかけて眠るハンニャーを見上げる。眠ってるハンニャーの寝顔はどことなく疲れて
いるように見えた。閻と大主の会話に気づいている様子はない。よほど疲れ、深い眠りに沈んでいるのだろう。

「閻……?」
大主はいぶかしげな声で閻の様子を窺った。閻がらしくもなく……しおらしい。

「ううん、何でもない。おやすみ、ばっきー」
閻はそういってハンニャーにすり寄ると今度こそ眠りに落ちていった──


  ◇ ◇ ◇
 ──日がとっぷりと沈む頃、かつての『混沌』が封じられていた洞窟の中を進む二つの人影があった。
ハンニャーと閻である。ハンニャーは先頭に立って歩いていた。左手を頭上に掲げ、『術』による光によって
洞窟内を照らしだしている。また、右手には天沼矛を持ち、周囲を警戒しながら歩いていた。
『分化』しそこなった『混沌』が洞窟内に残っていないか警戒しているのだ。慎重に進む彼女の後ろを閻が例の
『アレ』を封じた石を肩に担いで歩いていた。しかも閻の姿はいつもの黒いパーカーの姿ではない。
黒猫を模したようなヘルメット。体にぴったりしたレオタードのようなスーツ。肘から先になるにつれ
大きくなってゆくグローブとその先についてる巨大なカギ爪。化鬼猫大主の力を『魔縁』し能力を取り込んだのだ。

40 :ねことこねこ:2013/05/23(木) 19:48:33.75 ID:NcexVyQx
『アレ』を封じた石を運ぶなら力持ちの腕黒坊の方が適任だが、今は大主以外の鬼達は先の『混沌』との戦いで
消耗しきっている。薬膳がゆを啜ったくらいではまだ十分に働ける程回復できなかった。
その為、閻は力の残っている大主を『魔縁』で取り込んで力を借りたのだ。

二人は、『混沌のしずくから分化したアレ』を再び『封印』する為、この洞窟の奥を目指していた。
今にも割れそうになっている『アレ』を封印した『殺生石』を運ぶと言い出したのは閻のほうだった。
ハンニャーに「できることはもうない」と言われたものの、閻は強行にハンニャーについていくと
だだをこねだしたのだ。

「今度邪魔したら承知しないからね」
そう言い含めると閻の同行を許可した。閻は素直に従い、大主と『魔縁』して『殺生石』をかつぎ上げた。万一、
運んでいる途中に『殺生石』が爆ぜたとしても、大主の加護を得ている閻なら問題ないとの判断だった。

「しっかし、見事にガランとしているわね〜」
言葉通りガランとした空間にハンニャーの独り言が響きわたった。洞窟内は『混沌』が
手当たり次第に『吸収』したのか洞窟内は本当に空虚だった。ただ、天井はある程度の高さから上は鍾乳石が
連なっているが、ある高さからスッパリと途切れている。『混沌』が通った名残だろう。
床もツルツルでのっぺりしていて歩きやすいといえば歩きやすく、視界も広かった。『混沌』がまだ中に
残っているのでは?という心配とは裏腹に二人は何の苦労もなく洞窟の最深部に到達した。

「──さて、じゃぁ、ソコの奥に『石』を置きなさい」
ハンニャーはかつて『混沌』を封じた台座のあった場所に『殺生石』を置くよう、閻に指示した。閻は指示の通りに
『石』をゴトリと置いた。置かれた石は表面がクログロとしており、ピシピシと小さな音を立てて細かなヒビが
入っている。今にも内圧で弾けそうだ。

「さーて、それじゃ、始めるわよ」
『術』の明かりを頭上に放り投げると、光が空中に留まった。そして両手を組み合わせ、ん〜〜っと伸びをすると、
最初の封印呪歌を詠唱しはじめた──

──ハンニャーの呪歌により、彼女の頭上には無数の術式が空中に描き出され、術式や魔法陣が踊るように舞い、
やがて準備が整う。

「──と、よし。いいわよ『ソレ』を壊して頂戴」
ハンニャーの言葉を受け、閻は鉤爪を振り上げ、そして──

「たぁあぁぁぁあああっ!」
渾身の一撃を『殺生石』に振り下ろした。──最初にハンニャーがやったように完全に封印する為には、一旦封印を
解かなければならない。表面を中途半端な封印である『殺生石』に覆われてては完全な封印はできないのである──
閻の一撃を受け、『殺生石』は全体の亀裂が大きくなり、爆ぜるようにして吹き飛んだ。
たちまち洞窟内にどす黒い障気が充満する。

「閻!早くそこを退きなさい!閻……閻っ?!」
本来なら、『殺生石』を壊した閻は速やかにそこを離れ、ハンニャーが封印処置を施す手はずになっていた。
しかし、閻はその場所を動かなかった。ただ立ち尽くし、覚悟を決めた眼差しで微笑んでいた。

「閻っ?!何をするつもり?!」
「ニャー姉ぇ、ごめん……」

そういうと、再び殺生石の中からでてきた悪夢の落とし子のような胎児に向け、手をかざすと叫んだ。

「魔縁!!縛(ばく)!────

41 :ねことこねこ:2013/05/23(木) 19:49:16.35 ID:NcexVyQx
  ◇ ◇ ◇
 ──山間にあるこの里はとっくの昔に人のいない廃村である。それゆえ、そこかしこに雑草が群生し、自然が
幅をきかせている。だが、閻とハンニャーが『混沌』と戦った場所の周囲は石や木、瓦礫が散乱してこそいたが、
その中心はぽっかりと空白が
あいていた。その端っこにハンニャーは居た。その縁で適当な石に腰掛け、キセルをふかせていた。
何をするでもなく紫煙を吐き出し、太陽の光を浴びながら遠くの山の峰々をぼーっと眺めていた。

「まったく、あのこったら……」
小さく呟くと苛だちとともに再び煙を吐き出す。閻は今、木陰に用意された寝床で眠っていた。今さっきやっと
状態が落ち着いてきた所だ。さっきまでハンニャーがつきっきりで看病していたのだ。

 そんな風に一息つくハンニャーのそばに近づく小さく黒い影があった。ハンニャーは前をむいたままキセルを
くわえ、視線を小さな黒い影に向けた。

「よう」
一匹の黒猫だった。当然、その声には聞き覚えがあった。

「どうクロスケ、あの子の調子は?」
「呼吸はやぁっと落ち着いたな。あとはぐっすり眠らせれば何とかなんじゃねぇのか。ただちぃっと、
 余分なモノが生えてきちまってたな……」
黒猫はそう答え、後ろ足であごの下を掻く。そのなつかしい仕草にハンニャーは思わず目を細めた。

「あたしも見たわよ。あれは……どう考えてもアレが原因よね」
「あれだよな……」
黒猫も憂鬱そうに呟いた。閻の腰から黒く禍々しい悪魔のようなしっぽが生えていたのだ。
黒く堅い甲殻に覆われ、節々が堅く尖っているその尻尾は障気の渦の中で閻が見たあの黒く禍々しい胎児のものに
相違なかった。

「……たく、多少の影響は予想してたがまさかあんなあからさまにあンなのが生えてくるたぁな。参ったな〜……」
もし黒猫に手があったら頭を抱えていただろう声で呟いた。だからといって状況が好転する訳ではない。なので
ハンニャーは別の話題を振る事にした。

「……ま、あの娘にどんな影響が出るのかは経過を見守るしかないわね……で?
 アンタの方はなぁんだって、そぉんな事になってンのよ?」
黒猫から目を離し、遠くの景色に目をやりながら、ハンニャーはたずねた。

「あン?何の事だ?」
トボけた事をヌかす黒猫にメンドくさそうに指摘する。

「アタシの目は節穴じゃないわよ。なんだってアンタみたいな大化け猫の尻っぺたにそんな代物がついてんのよ。
 ソレ、あの娘のでしょう?あんた程の化け猫がらしくないわね。クロスケ」

「おぉ、見えちまってんのか。仕方ねぇなぁ」
そう言うとそらっトボけた様子で尻尾を持ち上げた。ジャラリといった感じで尻尾と共に影でできた鎖が持ち上がる。
その『影の鎖』は地面に潜り込み消えているように見えたがその先はあの娘に繋がっていることは明白だった。
それは閻から伸びている心の鬼を縛る『魔縁』だ。本来、ふつうの者がその存在に気づくことは希有である。

「コレが見えるってこたぁ、大したもんだな。ソッチはそっちで色々あったってことか。そういや、久しぶりに
 合った時は問答無用で眠らされたっけなあ。久しぶりだったぞ、あんな経験は。しっしっしっしっし」
そう言って愉快そうに笑う。今や彼程の化け猫を問答無用で眠らせられる手練はめったにいない。その事を
面白がっていた。そして、彼の笑い声はハンニャーがずっと昔に聞き慣れた笑い方とちっとも変わっていなかった。

「笑い事じゃないでしょ。それにお互い、1000年も生きていりゃ、その位にはなるでしょ」
そう言って、わざとらしくため息をつくと、憮然と煙をはきだした。

ハンニャーは以前、はるか昔にこのすっとぼけた化け猫……いや、猫又の世話になった事があった。その時
この猫又は人と共に生きる事に飽き、野良猫に混ざって生きることを旨としていた。ハンニャーは暫くは共に
過ごしていたものの、人と共に生きる道を選び、自然と二人は袂を分かった。が、それなのに今、彼はこうして
年端もゆかぬ小娘に使役されているのだ。首を傾げたくもなろうというものだ。

42 :ねことこねこ:2013/05/23(木) 19:50:02.44 ID:NcexVyQx
「で、どういうことよ?」
「……まぁ、いろいろあったがヨ。一言で言やぁ、『生きるのに飽きてきた』っつーこったな。野良で生きてた
 時はよ、そらぁ、気楽だったゼ?でもよぉ、長生きしてっとよ、野良気取っててもよ。どーしてもメンドっちい
 色んなモンで動けなくなってくンのよ。しまいにゃ『化鬼猫大主』(ばきねこおおぬし)なんつって名前で
 タテマツッテくれチャッテ結局雁字搦めよ。うざいったらしょうがなくてなあ。これがよ」
ハンニャーはその名前に心当たりがあった。

「南の化鬼猫大主……アンタ土地神に祭り上げられてたの?」
あきれたように声をあげるハンニャーに少し得意そうに黒猫は応じた。

「へへ、おどれーたか」
そういって影の鎖のついている尻尾をじゃらりと一振りするが、その様子はどー見てもただの黒猫だった。

「で、だ。そんな時だ。あの娘に出会ったのぁよ」
そういって黒猫は目を細めた。閻に出会った時の事を思い出していた。猫よりも猫っぽい娘だった。
途中からは絶対敵わないと分かりながらも決して屈しない強い光をその目に宿していた。それは強大な化け猫になり、
大抵の妖怪も逃げるか平服するだけになっていた彼には新鮮な反応であり、興味をひくには十分だった。

「そんでよ。ちょっと思っちまったもんさ。『この嬢ちゃんにつき合うのも悪かねぇかな』ってよ」
そうしたら不覚にも隙を突かれ、『魔縁』に『呪縛』され、彼女の軍門に下ったのだ。

「や〜れやれ、大主ともてはやされたオレサマがざまぁないさ」
そう嘘ぶく彼にハンニャーは冷たい視線を注いだ。

「ウソおっしゃい。その気になったらその程度の支配。簡単に振り払えるクセに」
その指摘が図星なのか黒猫は居心地悪そうに後ろ足であごを掻いた。

「おっと、このこたぁ、あの娘にゃぁ内緒だぜ?しっしっし」
「何でよ?」
「俺ぁ今から楽しみにしてんのよ。あの娘が俺を必要としなくなる時をよ。あの娘自身が、自分からこの『魔縁』を
 解くのをよ」
それを聞いてハンニャーは呆れ返った。

「……気の永い話ねぇ〜」

「ま、でもよ。おかげで退屈しないぜぇ。永いこと生きてても経験しねぇようなことばっかりよ。しっしっし」
そんな風に笑う彼にハンニャーはあきれたような眼差しを向けた。

「あんたのヒマ潰しにつき合わされるあの娘もイイ面の皮ね」
そういってハンニャーは何度目かのため息をつく。

「だがよ、マサカあんな事をやらかしちまうたぁな」
一転、黒猫は憂鬱そうに呟いた。それを受けてハンニャーも深刻そうに顔を陰らせる。

「そういえばどういう事かしら?アンタがついていながら、何であんな事を許したりしたの?」

「う、うむ……それは……」
そう言われ、大主は言葉を詰まらせた。

 混沌の『核』だったもの、『分化された混沌』は今、閻の中にある。
あの時、ハンニャーが封印しようとした『混沌を分化した存在』。悪夢の中から生まれたかのような黒い胎児を閻は
『魔縁』で自分の中に取り込んだのだ。

 その時の事は大主も忘れることはできないだろう──

43 :ねことこねこ:2013/05/23(木) 19:50:44.75 ID:NcexVyQx
  ◇ ◇ ◇
──あの時、ハンニャーの『殺生石』の中かから出てきた『魔物』に対峙した時、黒い障気の吹き荒れる中、
閻は悪夢が産み落としたとしか思えない禍々しい胎児のような化け物に向け、左腕から『魔縁』を打ち出した。
一瞬で鎖の形をした影が黒い胎児に巻き付く。

「閻!いくら何でもムチャだ!こんな悪意の固まりを取り込むなど正気の沙汰じゃぁないぞ!」

 大主は閻の正気を疑った。真っ黒い障気が吹き荒れる中、だが、閻はじっと正面を見据えながら呟く。

「ばっきー、お願い。閻の言うとおりにして!」
「しかし──」
 このとんでもない化け物をも閻は従えようと言うのだろうか。あまりにも無謀だ。閻の器は潜在的に言えば
かなり大きい。それでも今の閻では竜を丸飲みしようとするようなものだ。まだ離武無(りぶな)という心の鬼の
力さえ御しきれていないのだ。それなのに……

「おねがい、ばっきー!閻、ニャー姉ぇみたいになりたいの!」
「閻、おまえ……」
閻がハンニャーに懐いていたのは知っていた。休憩の時の様子がおかしかったことも分かっていた。
だが、ここまでのムチャを覚悟しているとは思っていなかった。

「このまんまじゃ閻はニャー姉ぇとたいとーにつき合えない!そんなの閻は嫌だよ!魔縁!!」

すると、閻の影が光源を無視してぐるりと動く。そして黒い胎児の上に重なった。間をおかず、閻は叫ぶ。

「罪に穢れた咎人の御霊よ!獄たる導きに縛につけ!百の贖罪・万の贖い!彼岸の彼方へと堕ち我が軍門に降れ!縛っ!」

 その叫びと共に閻の影の中から無数の『影の鎖』が沸き上がり黒き胎児に巻き付いた。そして真っ黒な禍々しい
胎児はそのままズブズブと影の中に沈んでいった──

──結局、閻の熱意に押される形で黒い異形の胎児は閻の中に封印されたのだ。体内に黒い胎児を抱え込んだ閻は
障気にあてられたのか高熱を出して昏倒してしまい、それから長いことうなされ続けた。ハンニャーと大主は
できうるかぎりの処置を施したが後はもう閻自身の問題だった───

「──まったく、あたしと対等になりたい……ね。背伸びするにも程があるでしょうが」
そう言うと、複雑な顔でキセルの煙を吐き出した。おまけに寝込んだ後は変な尻尾まで生えてきたのだ。間違いなく
『アレ』を取り込んだ影響だろう。
……第一、成長したいなら、対等になりたいなら、もっとゆっくり歩む道だってあっただろう。ハンニャーに
言わせれば、閻のやったことは単なる『無謀』だった。だからといって責めるつもりにもならなかったが……
……その閻の状態も今は何とか安定している。

──それまでは苦しそうに喘ぎ、息も荒かった。ハンニャーはその娘にずっと付き添い、看病を続けていたのだ。
一度、閻はうっすらと目を開き、ハンニャーを見上げた事があった。

「かか…さま……?」
熱にうかされたのか、そんな風にハンニャーに向け、手を伸ばしてきた。心細いのだろう。ハンニャーはその手を
優しく握り、閻の額に手をやり語りかけた。

「大丈夫、ここにいるわ。だから負けちゃダメよ?」
そういうと閻は小さく「うん……」と答えると安心したように目を閉じた──

──それからだ。状態が安定したのは。

「しっしっし。まあ、そういってやるなよ。あの娘にとって初めて目指したいってぇ相手に出会ったんだ。
 その目指したい背中がおめぇの背中なのはなンかの巡り合わせって奴にちげぇねぇよ。
 俺からの頼みだ。アイツのイイ目標になってやってくれよ。な?」
昔なじみの気安さか、黒猫は飄々と言う。それを聞いてハンニャーは渋いものを舐めたような顔になった。

「……そうは言ってもね。事の顛末を聞いた神々がどう判断するかしら……」
 ハンニャーは神々の依頼でここに赴いたのだ。封印失敗した上、対象が少女の中に封じられた。
これをどう判定するのか……

44 :ねことこねこ:2013/05/23(木) 19:51:27.11 ID:NcexVyQx
「まー下手したら、対象をあの娘ごと封印、なんて事にならなきゃいいけどね〜」
気のない様子でハンニャーは紫煙を吐きながらそう呟く。

「なぁに、そンなことになったら、オレサマが内側から封印を喰い破ってやる」
そう言って黒猫は歯をむき出し、にやっと笑った。

「あんたならそれくらいしそうよねー……」
ハンニャーは横目でその様子を眺めながらキセルを吸う。

「──ま、できることはやったげる。ケドね……もし封印が決定したらどうするツモリ?」
「しっしっし。十中八九そんな事にゃぁなんねぇよ。心配すンなって。でもなぁそーなったら、思いっきり
 暴れてやろうかね。おめぇもつき合ってくれンだろ?シロスケ?」
ハンニャーは気のなさそうな様子で紫煙をくゆらす。

「んーま〜しょーがないわねぇ〜」
昔世話になったこともあり、無下にはできない。神々に反旗をひるがえす。それがどういう事か十二分に
知りながらもハンニャーはヤレヤレと頭を振った。

「しっしっし。ま、一つ頼むわ。あの娘のこたぁおめぇの両肩にかかっていんだからよ」
心底愉快そうに黒猫は笑う。

「いいけど、アンタ、あの娘を甘やかしすぎてない?」
キセルをくわえ、ハンニャーはジト目で睨みつけた。

「な、なんだ?その目は、し、仕方ないだろう?オレはあの娘に『呪縛』されてる哀れな化け猫なんだぜ?」
平静を装おうとして見事に失敗している。久しぶりの再会とはいえ、永くつきあった仲だ。ハンニャーの
冷たい視線に黒猫は居心地悪そうに毛づくろいをする。

「……ま、いいわ。じゃ、眠り姫の様子でも見にいくことにしましょうかしらね。様子も落ち着いたみたいだから」
腰掛けている岩にキセルを当てて中の火草を捨てるとハンニャーは閻の様子を見にいくために立ち上がった────


  ◇ ◇ ◇
「──と、いうことがあったのよね〜〜」
──ハンニャーは火の玉の姿をとってキツネ目の男の目の前を漂っていた。ここは夢幻の宮。執務室。
キツネ目の男はハンニャーに例の『混沌』の再封印を依頼した神の一柱、スセリだ。
ハンニャーは一応の顛末を報告に夢幻の宮を再び魂の姿で訪れていた。

「いや〜それは大変だったねぇ〜お疲れさま」
キツネ目の男はニコニコと笑って報告を聞いていた。相変わらず簡素な貫頭衣と青い曲玉の質素な首飾り、
そして結わえ付けた髪の毛と、以前来た時と寸分も変わらない様子で書類整理をしていた。
……以前と違う所といえば、怒ったハンニャーに髪の毛が少し焦がされていた事くらいか。

「──それだけ?」
ハンニャーは今、火の玉のような姿をしている為、イマイチ表情がわかりづらいが、拍子抜けしていた事だけは
明らかだ。それはそうだろう。渦中の封印対象が女の子一人のなかに封じ込められ、あまつさえ連れ帰ってきて
しまったのだ。本来なら大騒ぎになってもおかしくない事態だ。

「──ん?なにか『ぺなるてい』でも欲しかった?」
スセリは今現在も熱心に手元の書類にサラサラと筆を走らせながらそんな事を聞いてくる。

「そんなことないけど──て、そうじゃなくて!あの娘の中の物騒な『アレ』放っといていいのかっていってんの!
 すっトボけてんじゃないわよ!」
身体があったら両手で机を叩いてただろう勢いで思わずハンニャーはスセリに詰め寄った。だが、スセリは目を
あげず、書き物をする手の動きを加速させながらこう言った。

「んー?大騒ぎだよ〜?マサカこんな事態になるなんてね〜今、カミサマの間ではどうするか審議の
 真っ最中みたいだね〜」
自身も神であるのにまるで他人事のようにスセリ。

45 :ねことこねこ:2013/05/23(木) 19:52:11.84 ID:NcexVyQx
「審議中?」
たった今、報告した事なのにもう審議が始まっている事にハンニャーは違和感を覚えた。
神々はそんなに暇なんだろうか、それともそれだけ重要なことだったのだろうか?

「そ、君が手がける仕事はいつも神々の注目の的だよ?今回も天沼矛が使用された為、緊急会議が招集されたのさ。
 それに今こうやって書き込んでるこの書物ね。書いたそばからカミサマ達の元に届けられる術がかかっててさ、
 君の報告も詳細に届けられているって寸法さ」
スセリはニパっと笑って書類をハンニャーに見せた。たった今、スセリが書き込んだと思しき文字がスゥーっと
消えていく。神々に報告が上っているというのは嘘ではないようだ。

「ふ〜ん、それで、どうするって?」
疑い深げな声でハンニャーは尋ね返した。

「ん〜まだゴチャゴチャしてるようだね〜こりゃ結論出るのは少し先の事になるかもね〜それで、他に報告は?」
キツネのような目をますます細くして書き物を再開しながらスセリは聞いた。

「そーねー例の『封印の祠』ね、もうダメっぽいわ。『混沌』が根こそぎさらってしまったわよ。
 メンドクサいんで後の事は狐族の連中にまかせてきたけど」
スセリはふんふんといいながら書類に筆を走らせる。

「まー彼らはボクの眷属なんでお手柔らかに頼むよ……と、報告する事はこれで全部かな?あ、……と、
 あと一つあった」
「なによ」
ハンニャーは少し身構えた。特に隠すこともなく報告したが何かマズかっただろうか?

「天沼矛(あまのぬぼこ)で『混沌』を『分化』しきっちゃったなら、最初の『ひとしずくの混沌』さ。
 それも『分化』しちゃったんだろ?なら、一体、どんなのが生まれたんだろうね?」
興味深そうに目を寄せて、机ごしにハンニャーににじり寄った。珍しく好奇心を露わにした様子に
ハンニャーは少し後ろに下がる。

「……さあね。あたしには判らないわ。障気のガスが濃かったし。あたしは知ることはできなかったわよ」
それを聞いて、スセリはシュンとなる。

「そうか……それは残念」
……半分は嘘だ。ハンニャーはあの『混沌だったモノ』の正体を知る者を知っていた。……クロスケだ───

 ───二人で閻の様子を見、峠を越えたと確認した頃、ハンニャーは疑問に思っていた事をクロスケに
問いただした。

「──で、あんたなんだってあんな『混沌』の離れた所にいたのよ?」
閻の鬼達が比較的続けて出てきたのに、クロスケだけ随分と後の方になってから出てきた。
おかしいといえばおかしかった。

「あぁ、そのことなンだけどよ、オレぁ『混沌』に呑み込まれた時も完全に溶けちまったワケじゃなかったよ」

「それはまあ、予想できてた事だけど……」
閻の様子を確認した後、閻を起こさないようにそこから離れながら化け猫と猫又の二匹は元の場所に戻る。

「少しずつ、意識が溶けていくのを感じながらよ。オレぁ、『混沌』の中心に漂っていったのよ」
「中心?」
『混沌』に中心も端っこもないだろうに彼は何を言っているのだろう。

「まあ聞けよ。その『混沌』ン中で溶けきってない……いや、違うな。ありゃぁ、モトモトああいう
 『意志』なんだろうな。そう、『意志』がよ。俺に話しかけてきたんさ」
「へぇ……」
ハンニャーは狐につままれたような顔で相づちをうった。それが本当なら『混沌から分化された存在』は、思いの外、
いや予想以上に厄介なのかもしれない。

46 :ねことこねこ:2013/05/23(木) 19:54:12.31 ID:qmZjA9d9
「そいつぁ言ってやがったたのさ、神々が憎い……とさ、『分化』して世に出さず自分だけ『封印』するとは
 許せねぇ……意訳すればそんなふーな感じかね。恨み事を吐いてやがったな」
黒猫は思い出すように顔を上げ、目を閉じながらそんなことを言う。

「それ、確かなの?それが今、閻って娘の中にいる『奴』だと?」
あの『混沌』の周囲のものを捕食するかのような挙動はもしかしたらその『悪意』によるものだったのかもしれない。

「あぁ、間違いねぇ。あの悪意に満ちた赤い目は間違えようがねぇよ」
間髪入れず、黒猫は肯定した。それだけの悪意が今、閻の中に封印されているのだ。
そこまで考えハンニャーは眉根をよせた。

「ま、そんなワケだからよ。あの娘の事、頼まれてくれよ。な?」
「まー目が離せないのは確かだけどねー……」
ハンニャーは頭を掻きながらアヤフヤに答えた。こんな大事、そう簡単に答えを出すわけにはいかない。
が、他に選択肢はないような気がした。あの娘の中からあの悪夢が出てきたら対処できそうな者は
ハンニャー位しかいないだろう。

「まあ、そう言わずによ。また暫くよろしく頼まぁ。もっとも今度はこっちが世話になるンだがよ。しっしっし」
そう言って黒猫は何が面白いのか愉快そうに笑った────

──あの時の話の様子からクロスケは閻が取り込んだ『悪意』の正体を知っている。そう感じ取ったハンニャーだが、
いくら聞き出そうとしても例ののらりくらりとした調子でかわされてしまった。あれ以上話すツモリはないらしい。

「……と、あら〜ヤッパリこうなっちゃったか〜」
スセリの大仰な台詞にハッと現実に引き戻された。見るとスセリが別の書類を開いて、額に手をあてていた。

「あっと、でも、今君が目の前にいるのは都合がいいかな。神さまがたの方針が決まったようだよ〜」
そう言うと、手にした書類をハンニャーに見えるように開いて見せた────

  ◇ ◇ ◇

 チュン チュン チチチ……

──変わりばえのしない朝。『夢幻の宮』から魂の帰還を果たしたハンニャーは寝床からむくりと身を起こした。

「ん〜まったく、メンド臭いことになったわねぇ〜……」
そう言ってボンヤリと周囲を見回し、ボリボリと頭を掻いた。眼鏡をかけてないため、視界がボヤけている。
と、そこで胸周りに何かがまとわりついているような違和感を感じて布団をめくった。
──そこには黒い衣装を着た閻が胸にしがみつき眠っていた。ふぅ、と息を吐いて閻の頭に手をやる。

「全く、しょうがないコねぇ……」
そう言って頭をなでる。眠っている閻は特に悪夢にうなされるということもなく、安らいで眠っていた。
峠を越えた後も度々調子を悪くしたりするものの、少なくとも今は大丈夫なようだ。

「と。眼鏡は……」
枕元を手探りしていると眼鏡のほうから手に触れてきた。

「しっしっし。お目覚めかい。報告ゴクローさん」
見ると枕元に黒猫が佇んでいた。クロスケだ。どうやら眼鏡をよこしたのはこの猫のようだ。

「閻はともかく、アンタが居るのは感心しないわね。
 まがりなりにも無防備な女の寝顔を見るなんてどういうツモリよ……」
眼鏡をかけ、身を起こしながらハンニャーは苦情を言った。閻はそのまま眠っているようなのでそっと
身体からはなして布団を掛けた。

「で、どうよ?裁定は下ったんだろう?」
苦情をアッサリ聞き流して黒猫はそう水を向けてきた。

47 :ねことこねこ:2013/05/23(木) 19:54:51.61 ID:qmZjA9d9
「……ちょっと外の空気を吸ってこようかしら」
ハンニャーは質問には答えず、そう言って香箱を手に縁側に出た。
黒猫はハンニャーの後をついてくる。ややあって、キセルに火が点された。ハンニャーは縁側に腰を下ろし、
朝の冷たい空気の中にキセルの煙をぷかあ、と吐き出した。その隣に黒猫がチョコンと腰を下ろす。
暫くそのまま時間が過ぎていった。

「……だいたい、アナタの予想通りの裁定が下されたわ」
ポツリと、夢幻の宮で聞いてきた結論をそう伝えた。

「……そうかぃ。そらぁ、結構」
黒猫もそう呟いて、ホッと息をついた。大方の予想はついていたのだろうが、答えを聞いて少し力が抜けたらしい。
前足の毛づくろいを始めた。

「あの娘をアタシの監督下に置いて様子を観る……ですって。鬼子と同じね。
 まったく……あいつらったらメンド臭い事はみぃんなコッチへ押しつけてくるんだから」
煙と一緒にボヤきを吐き出しながら、ハンニャーは隣の黒猫にキセルをつきつけた。

「で?アタシが居ない間、あの娘はどうだったの?」
言われて黒猫は愉快そうに笑った。

「おぉ、結構大変だったぞ。アレだけ言い含めていたのに、おめぇが死んじまったと勘違いしちまってなあ……」
ハンニャーはそれを聞いてジロリと黒猫を睨みつけた。

「ちゃんと説明したんでしょうねえ」
「いや、したさ。ちゃんとしたとも。翌日にはちゃんと起きてくるってよ。それでも聞かなくてなあ……」
黒猫は尻尾を落ち着かなげにパタパタと動かしながら釈明をする。

「それで、布団に潜り込んで起きてくるのを待ったと……まったくしようのない子ネー」
空を見上げながらキセルをふかし、ハンニャーは呟く。寒いが今日も一日、天気はよさそうだ。

「そんな事言うもンでねぇさ。あれで初めて自分以外の……おめぇの為を考えて一生懸命になってたんだからよ……
 封印の事だってよ」
その言葉に引っかかっておうむ返しに聞き返した。

「封印の事?」
まだ何か聞いてない事があったのだろうか。ハンニャーは黒猫に目を向けた。

「あぁ。ほら、おめぇの封印作業。閻のやらかした事でシンドい事になったろう?それが閻の奴には、
 らしくもなく申し訳なく思ったんだろーな。そのせーで、悩んだ末におめぇの代わりにアレを封印する事が
 できねぇかってんでやらかしたんだ。せめてそこン所は酌んでやってくれ」

「あの娘……」
確かにあの後、閻に封印の儀式を邪魔されたことは腹だたしかったが、それもこれもハンニャーの不手際に
よるものだった。あの時、閻が眠りの術にちゃんとかかってるか確認するだけでも、封印の洞窟の入り口をキチンと
閉めておくだけでも、今回のような事態は起こらなかったろう。そして閻が介入し、メンド臭いことになった。
だが、だからと言ってあの二度目の封印が困難になった事と閻の責任とは別の話だ。なにより彼女がやらかした事の
後始末は彼女自身にとらせた。天沼矛を使い混沌の分化作業を手伝わせるという形で。
それだけでも閻にはかなり厳しかったハズだ。天沼矛を手にする苦痛は大の大人でも耐えきれる者は少ない。

「なんだってあの娘はそんな事をしてまで……」
「しっしっし。いったろう。あの娘はおめぇにアコガレたのよ。そンで少しでも近づきたいと足掻き始めたんさ」
後ろ足で首の後ろを掻きながら黒猫はそんな風にいう。

「だからって、いきなりあんな無茶……」
同じ事を言いかけてフーッと煙と一緒にため息を上に向けて吐き出した。

「まあ、そうだなあ……実を言うと、あの娘にゃぁ、何か目標があったらしい」
尻尾をパタパタさせながら黒猫は語りだした。

48 :ねことこねこ:2013/05/23(木) 19:59:18.99 ID:yk9ILweJ
「目標?」
キセルから唇をはなしハンニャーはおうむ返しに聞き返した。

「あぁ。オレも詳しくは知らねぇんだけどよ。あの娘が旅にでるのになンか目標があってよ。その目標を目指す
 具体的なイメージが見つからねぇつってたかな。おそらくだが、おめぇン中に目標に到るイメージを
 見たンじゃねぇかな」
毛づくろいしながら黒猫はそう言う。

「……そんな事言われてもねぇ〜」

「しっしっし。これだけ永い事生きてきたんなら、誰かを指導したり育てたりした事もあンだろう?
 あの娘も導いてやってくれねぇかね?」
確かにハンニャーは今までも誰かを育てたり導いたりしたことがなかった訳ではない。が、大抵は成り行きで
そうなっただけだし、何よりも自分にはそういう事は向いていないとよく分かっていた。

「……ガラじゃないわね」
そう言ってキセルをくわえた。

「しっしっし。それはオレの方がもっと向いてねぇよ」
ずっと永い事野良猫として生きてきた黒猫は笑い飛ばした。

「……ところで、一つ、確認しときたいんだけど……」
ハンニャーはキセルから口を離し、一番尋ねにくい事を聞きにかかる。

「うん?」
黒猫は毛ずくろいをやめ、頭をめぐらせた。

「あの娘の今の『器』じゃ、本来ならとうてい封印できそうもない代物なのよね?『アレ』は?」
その声音に黒猫は少し警戒するまなざしを向けた。

「……何が言いてぇ……」
「あの娘が『アレ』を封印したんじゃなく、逆にあの娘の中の『アレ』があの娘の事を『苗床(なえどこ)』に
 選んだ……とは考えられない?」
「……………………」

 黒猫は沈黙し、答えなかった。考えうることだった。閻の今の『器』で『アレ』を封印できたというのが
不自然といえば不自然だからだ。そこを逆に考えてみればどうだろう。
クロスケのように『自ら進んで封印された』とすれば?『アレ』いずれ彼女の中で成長し、力を貯め、最後には彼女を
喰い破って表にでてくる……そんな顛末が脳裏をよぎる。
あの禍々しい尻尾がまるで田植えで植えられたイネが水面に出す穂先のような気がしてハンニャーは背筋を悪寒が
這いあがるのを押さえきれなかった。

「なぁに。だが、成長するのは『アレ』ばっかじゃねぇよ。閻の奴だって、これからガンガン成長するさ。
 そン時になって奴さんは後悔するのさ。自分が抜け出せないタコ壷にハマっちまった抜け作だってことをよ」
そう言うと、黒猫は毛づくろいを再開した。

「……だと、いいんだけどね……」
今となってはそうなる事を祈るばかりだ。この黒猫が見込んだ娘だ。だったらそう悲観しなくてもいいのかもしれない。
これでもこの猫は昔から人を見抜くカンのようなものが鋭いのだ。

と、唐突にハンニャーの部屋から猫の鳴き声のような悲鳴が聞こえてきた。

「にゃ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

「お、閻の奴、やっと目を覚ましたか」
毛づくろいを止め、黒猫は呟く。

「騒がしい娘ねぇ〜〜〜〜」
ひとごとのようにハンニャーは呟いた。

49 :ねことこねこ:2013/05/23(木) 19:59:55.74 ID:yk9ILweJ
「しっしっし。そら、目が覚めたら俺たちがどっちも居なかったらビックリするわな」
人が悪く黒猫が笑う。

 ガラッ

縁側に続くハンニャーの部屋のふすまが開かれた。そして閻の顔が部屋から出、キョロキョロと周囲を見回す。
 そしてハンニャー達を見つけるとパァァッと顔が明るく輝いた。たちまちドタドタと駆け寄ってくる。

「ニャー姉ぇえ、ばっきーーっ!」
その勢いのまま、閻はハンニャーの背中にむしゃぶりついてきた。

「ホラ、言った通りだろ?ちゃんと朝になったら戻ってくるって」
黒猫が閻に向かってそう言ったが閻には聞こえているのかどうか。

「ねーねーニャー姉ぇ、もう調子はどー?お仕事は終わったの?」
 ハンニャーの背中にもたれ掛かり、甘えたように矢継ぎ早に質問を重ねてくる。落ち着かなげに例の尻尾が
ぴょこぴょこ動いた。

「まあ、おかげでみんなうまくいったわ。心配かけたわね」
 ゴロゴロと鳴き声をあげんばかりの閻に戸惑い気味になりながら、ハンニャーは返した。

「じゃ、じゃあ、ニャー姉ぇ、閻と一緒に居てもいい?いい?」
どうやら、大雑把なりに、大主から事情を聞いていたというのは本当のようだ。
……もっとも、この娘ごと封印とか苗床云々は話していないだろうが。

「いいわよ」
そう言われると閻はピョコンと飛び上がりこれ以上ないほど喜びを身体で表した。

「ニャーッ!やったーーっ!」
喜びすぎじゃないかと内心苦笑しつつもハンニャーは閻に言葉を向ける。

「さて、それじゃ、ちゃんとこの家の主に挨拶しなきゃね。お世話になるんだし……挨拶はした?」
そう聞くハンニャーの問いに閻は動きをピタリと止めた。

「にゃ?アイサツ?」
よく分かっていないようだ。

「……普通、世話になる家の人にはあらかじめ挨拶するものよ。まだやってなかったの?」

ハンニャーも閻たちを伴い帰ってきたのは夜も遅く、例のお清めも早々に報告に夢幻の宮に向かったのだ。
お清めの冷たさに閻が耐えられなかったとはいえ、二人を置いて行ってしまったのはまずかった。
色々な事を後回しにしすぎたか。

「おぉ、そういえば忘れていたな」
黒猫もわざとらしくそう声を上げた。自由奔放な閻と、永年野良をやってきた黒猫。
一般常識が欠けているのは仕方ないことなのかもしれない。

 ──もっとも、ハンニャーの普段の言動に常識があるのかは大いに疑問が残るが。

「それじゃ、最初にあたしから教える事。まず、お世話になるおうちの人には挨拶する事──」
ハンニャーは普段の自分の事を棚にあげて、常識を知らない閻にこれから教え込まなければければいけないことを
脳裏に山ほど羅列してその多さに軽くめまいを感じていた──

                                     ねことこねこ
                                          ──おわり──

50 :ねことこねこ:2013/05/23(木) 20:04:55.97 ID:yk9ILweJ
>>38-49
……という訳で、こねこがねこに出会う物語はこれで終幕です。長いことお付き合い下さいましてまことにありがとうございました。
同時に、この物語は9番目の鬼と少女閻が出会う物語でもあります。閻という少女が成長して、この鬼を御する事ができるのか……
はたまた逆にこの鬼に飲み込まれてしまうのか……全てはこれからのお話となっております……それでは。

51 :創る名無しに見る名無し:2013/05/24(金) 07:51:53.31 ID:+xXeIC74
>>50
乙なのです

52 :ねことこねこ おまけ:2013/05/24(金) 20:44:53.29 ID:P08ShK68
みなさま各所からの反応どうもです。とても励みになりました。 さて、すこしばかりおまけをば。

執筆中、閻の使役する鬼たちの名前・能力等をメモしていたものがありました。それの一覧をば。


●儚鬼(はかなき)小さい一本角の心の鬼生き物の腑の心を読み解き本能のままわめき散らす心の鬼
:『魔縁で』先読み
●化鬼猫大主(ばきねこおおぬし)黒い猫
:『魔縁で』パワーアップ俊敏度UP・腕力度UP・探知能力度UP・わがまま度UP
●否鬼憑(ひきつけ)直径1メーターくらいの丸い岩の形をした心の鬼
:『魔縁で』吸着・取り込み・俊敏度UP・引力、吸引度UP・跳躍力UP
●魔似蟲(まねむし)小さな軟体動物の様な心の鬼 豆のような頭部をもつ小人のような姿
:『魔縁で』変身
●虚居狐(こいこ)(狐っぽい心の鬼:
『魔縁で』気配を消す度UP:記憶力度UP
●無重鬼(なえき)空中を浮遊する心の鬼丸い頭部にヒョロ長い体。両耳が巨大なフカフカファー
:『魔縁で』浮遊・ボケる
●離武無(りぶな)空中を浮遊する布の様な心の鬼
:魔の呪文・使役するのは未知数
●腕黒坊(わんこくぼう)非常に腕力のある心の鬼:『魔縁で』腕力強化
●九番目に取り込んだ心の鬼 混沌の鬼。後に固定化される現在名前・能力など不明

【獄座(ごくざ)】=地獄の事。「獄座行きの獲物」
【縛(ばく)】=閻ちゃんが心の鬼相手に捕縛する言葉
【魔縁(まえん)】本来の意味は「三障四魔」。
 この言葉は、閻が心の鬼を取り込む時だけに使う。
解除するときは【離魔(りーま)】
【縛鎖(ばくさ)】閻が心の鬼を使役するときに見える影の鎖。普段は見えない。視覚化すると物理的にも引き寄せたりできる。

天沼矛(あまのぬぼこ)
 神器の能力は時に現世(うつしよ)において『現象』として世界に『焼き付けられる』ことがある。
特に『伝説化』するような神器などは存在するだけで『魔術の源』となる事がある。
ハンニャーの用いた『神器』も、分類的には魔術である。ただし、使用においては厳しい制限がつき、
単純に模様と絵柄を真似るだけではこの魔術は起動しないようにリミッターがかけられている。


……あと、これらの鬼達は下のイラストをイメージして執筆したものです〜
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=19927715

53 :天魔党・術式覚書:封魔の書:2013/06/01(土) 20:47:27.90 ID:0pnPudj1
  ◇ ◇ ◇
 この覚え書きは我らが崇高にして至高なる天魔党が『陰』が呪術専門部門『翁』(おきな)の洗練に洗練を重ね
磨き抜かれた英知と驚異の結晶たる知識を勿体無くも、下賤にして無知蒙昧なる猿畜生たる輩にさえ理解が
追いつくよう、技巧の粋を尽くした解説書物である。従ってこの書を必要とする猿の如き粗暴にして浅学で
無知蒙昧な同胞(はらから)は我らが『翁』に心酔し、尊敬と恭順の姿勢をもって伏して拝謁する旨
決して忘るる事なかれ。

 さて、我が天魔党は最後の一兵に至るまで鬼である。当然ながら、鬼は力が強ければ強い程強力である。
だが、逆に鬼の力が強ければ強いほどその性は獣のそれ、化性のそれに近くなる。
それゆえ、その本能の強さたるや獣性そのものであり、強大な鬼ほど血の欲求に狂い易く、そのため強力な鬼で軍列を
率いる事は共食いの混乱が起こることが必至である。
その為、鬼により編成された軍団の運用は事実上不可能であるとさえ言えた。
 が、我ら『翁』はその優れすぎた英知をもってその難点を克服し、鬼の強大な力を運用しながらも人の理性を
保たせる事に成功した。この書はその秘術の概略を簡便に記した覚え書きである。

 この秘術は対象の『鬼の本性』を何らかの媒体に封ずる事で成り立つ。そうする事で鬼の『獣性』が人としての
『性』を蝕むのを防ぎ、なおかつ鬼の膂力を余すことなく発揮できるようにするものである。
この秘術により、『鬼』としての外見さえ人のソレに近くなり人に紛れての行動が容易になるという付加価値も
見いだせた。無論、『鬼の能力』を発揮する際には姿形は鬼のソレに近づくものの、出力調整が容易であることから、
暴走の危険性は制御可能な域まで押し下げることに成功したのである。

 例に挙げると仮面等が呪術的にも最も向いてる事が多い。もちろん鬼の対象によっても適正のある媒体は異なる。
例えば力押ししか知らぬ粗暴者の『侍』の頭領、黒金蟲などは、この封印術式を複数編み込んだ『鎧』を用いて内なる
鬼を封じている。……もっとも、これは例外中の例外であり、この『鎧』こそは我らが「翁」の英知を結集させた
最高傑作ではあるものの、そこまで複雑な術式は必要ないであろう。
 それらに共通している事項はやはり「身体に密着して用いられる」ことであろう。
次に「堅固であること」が求められる。なぜなら、『鬼』の形態にもよるが、より『鬼』の力を高出力で用いる場合、
封印媒体と「一体化」することでより高レベルに鬼の力を発揮する事が可能となる場合が多いからである。

『鬼』の力を対象から引き出すには、まず、『鬼の本性』を媒体に封じることからはじまる。
完全に封じた後、任意の方向を以て鬼の力を『漏らす』ことで実現する。例えれば川の流れを戸板にてせき止め、
後に穴を穿ち、その穴から水を引き出す事に等しい。そうやって力を『限定』することにより、より強力に鬼の力を
発揮させられるのである。そして、その鬼の力を発揮する際の形態を「成り化」と呼ぶ。
例えれば、蟲形態の鬼が蟲と化すことを「蟲成」と呼称する。

 さて、この封印術式はあくまでも『鬼の力』を効率よく運用する為の技術である。
その為、その主目的以外の事で悪用される心配はまずない。例えば『鬼の本性を封じた仮面』がここにあったとして、
もし仮にその仮面を破壊したとしても、「封じた鬼の本性」が滅ぼされる心配もない。仮面を破壊しても中から何かが
現れる訳でも鬼の力が消失することもない。対象が「封印前の状態」に戻るだけである。
もちろん、手元に媒体がなければ『鬼成る』こと叶わぬが、それも『封印』自体を無効化し、新たに別の媒体にて
再び『鬼の性の封印』を行えばそれほど難しいものでもない。
当然、仮にその仮面が何者かに奪われた場合であっても、任意の手続きにより、仮面の状態いかんに関わらず
「封印前の状態」に戻すことが可能である。
ただし、言うまでもなく『常に内なる鬼の性に人の性が蝕まれる危険性』にさらされている黒金蟲のような危険な
場合は例外である。もっとも件の例の場合、封印を常に身に纏っていなければいけない以上、誰かに奪われる危険性も
ないのだろうが。
 さて、当然「封印前」の状態で『鬼の力』を使役することは暴走の危険性から勧められない。
再び『封印の術式』を用いて『鬼の性』を封じるべきであることは言うまでもない。

54 :天魔党・術式覚書:封魔の書──追記──:2013/06/01(土) 20:48:08.52 ID:0pnPudj1
 ──追記事項──
 上記で、「封印の媒体を奪われても任意に状態解除できる為、大きな問題ではない」と記述したが、腹立たしい事に
例外たる事項が発生した為、追記することにした。

 かの封印の要たる仮面なり媒体が烏天狗の一族に奪われた場合、早急に封印を解除し、次なる媒体を一刻も早く
用意することを推奨する。忌々しきあのカラスどもはどうやってか『媒体』から鬼の力のみならず、我ら『翁』の
法術の神通力までもを封印する術を見出していたらしい。我らが敬愛する『陰』の頭領、鬼駆慈童様が御痛ましい事に
永くその能力を封印されるという憂き目に合うこととなった。なんたる悲嘆!なんたる悲痛!
次からはこのような悲劇を防ぐ為にもかような事例が起きぬようここに警鐘を鳴らすものである。

55 :創る名無しに見る名無し:2013/06/01(土) 20:52:08.10 ID:0pnPudj1
>>53-54
……という訳で、誰得な設定話、天魔党の脅威の技術(笑)黒金の鎧や憎女のお面についての設定話でした。
ちなみに、鬼子さんの般若面も同系統の術が使われている可能性は高いと思われますが、
鬼子さんの般若面と天魔党の封印媒体では匠の名工による業物と工業製品の量産品くらいのクリオティの差がある……
という事になっております。

56 :創る名無しに見る名無し:2013/06/01(土) 22:07:14.64 ID:GaxpG+ZS
何か久々の設定投下だ。こう言うのキライじゃないぜ。

色んな媒体を考えるのも楽しいね。武器とか衣装とか

57 :創る名無しに見る名無し:2013/06/01(土) 23:46:14.90 ID:J2724jYi
>>53-55
「はなのうた」や「漆黒のはね」の裏設定ですね!
いやあ便利なものなんだなあ。「陰」の者が豪語するだけはありますw
しかし、「陰」はトップだけじゃなくて、部下に至るまでこんな性格なのかwやな部署だw

58 :創る名無しに見る名無し:2013/06/07(金) 12:47:48.29 ID:eCnPwIwt
おー乙

59 :創る名無しに見る名無し:2013/07/04(木) NY:AN:NY.AN ID:AkE5XzZ2
テスト

60 :創る名無しに見る名無し:2013/07/04(木) NY:AN:NY.AN ID:AkE5XzZ2
闇が芽生え始める時・・人々は笑顔を忘れる。
闇が満ちる時・・人々は痛みを忘れる。
闇へ落ちる時・・人々の心が失われる。
そして、闇が動き始める・・・・・。

何千年と続く【闇】の連鎖の太い根は、
腐る事なく人々の心に根付いている。
昔・・その根を断ち切ろうとした若者がいたが、
志半ばで姿を消してしまった。
お化け・妖怪として名を馳せたその若者の弟が、
現在その使命を受け継いでいる。

日本鬼子が活動していない地域を任されているのかもしれない
その若者の名は・・・・・・・・・・鬼次郎(きじろう)。
鬼一族でありながら角を持たない種族である彼は、
昔、兄が住んでいたとある木の上の小屋を寝床に
日々、心の鬼を地獄へと送り続けている。

今日もまた、心の鬼退治の依頼の手紙がポストに入っていた。
カラ〜ン、コロ〜ンと下駄の音を響かせながら手紙を抜き取る。
彼はその手紙を握り締め、とある布にまたがり空を飛んでいった。
黄色と黒のチャンチャンコを羽織りながら。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
SSスレが動いていなかったのでやっちゃった感満載の
内容です。兄の名前は・・・・・・・
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

61 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2013/07/04(木) NY:AN:NY.AN ID:AkE5XzZ2
名前入れ忘れた。

仕事が進まないから気分転換に、
鬼次郎(きじろう)そのままやがな!!
http://ux.getuploader.com/oniko4/download/655/232-01.JPG

62 :創る名無しに見る名無し:2013/07/04(木) NY:AN:NY.AN ID:37pIn/Q0
ヤッチャッタよ!やっちゃったヨこれ?!w

63 :創る名無しに見る名無し:2013/07/16(火) NY:AN:NY.AN ID:2B98d1P1
\ノ\   ,/ヽ、/ /\ ノ \
  \ノ\/   Yレ'    \ ノ \
   ヽ、ノ大ニ>|<二大  \ ノ ヽ、
     Yて丁≧ュyェ≦王]W》/ \ノノ
     ム_〈モ─┰i''i─┰チ川ム:::::::::::::::
     I川|  ̄シ小ヾ ̄I|‖):::::::::::::
     |川ト /    、 川 |\::::::::::::
.      ム川 ヽ、ィ==チ  ,イ||ト、|::::::::::::
   /\ソ川州ヘ__,/ .| ,川::::::::::::::::::

64 :創る名無しに見る名無し:2013/07/16(火) NY:AN:NY.AN ID:YB9kmWHM
wwwww やさぐれた黒金蟲www スイーツのヤツかwww

65 :銘酒 『天の雫』伝説:2013/08/10(土) NY:AN:NY.AN ID:8ydznYBM
http://ux.getuploader.com/oniko4/download/666/raberu.jpg
その昔、不治の病に冒された青年が世を儚んで鬼ヶ淵を訪れた。
そこは鬼の棲む里が封印されたという伝説の淵。そこで青年は淵の水面の向こうに美しい娘に出会う。
娘は里ごと封印された鬼であった。青年は彼女が鬼と知りつつも恋に落ち、互いに触れ合えぬまま
水面ごしに逢瀬を重ねる。けどある日、青年は病に倒れた。鬼の娘は水面越しに何も出来ないことに
嘆き、悲嘆にくれ天に祈った。
すると悲痛な声を天が聞き届けたのか水面に落ちた娘の涙が合わせ鏡のように天から滴り、
青年を癒したという。このお酒『天の雫』は青年を想い涙した鬼の娘の優しい祈りと想いを清浄な水と
ともに込めました。優しくまろやかな飲み口をお楽しみ下さい。
=========================================
お酒ラベルに参加して下さったオキノ氏のイラストにフレーバテキストを考えてみました。
よく、お酒のラベルにある『伝説』とか『言い伝え』なんかを説明する的なアレです。
このイラストの裏にはこんな物語が綴られているんです。的な感じ?
お酒の味が伝われれば幸いです。

66 :隠(オニ)の陰-1:2013/08/10(土) NY:AN:NY.AN ID:mqOQGXOS
 嫌だ、死にたくない。私は渦巻く暗闇の中で怯える。
すると、誰かが呼びかけてくる。なら、私がお前を活かそう。
その声の主がどのような姿なのか、分からない。見えない。
私の中に、何かが入る。神様、助けて。神さま、ね。
私がそのカミさまだよ。皮肉なものだな。
そうして、私は私でなくなった。


 「隠(オニ)」とは、この世に隠ぬ(オヌ)者、
つまりこの世ならざる者をさす。形を持たぬ怪異(カミ)に憑かれ、
この世の理から外れてしまったものだ。
私は日本鬼子(ひのもと おにこ)。
「陰の存在であり、陽の元を作り出していながらも陽には、
いられない」からそう自称した。

67 :隠(オニ)の陰-2:2013/08/10(土) NY:AN:NY.AN ID:mqOQGXOS
「日本さん!こんにちは!」
 平日の午後、ショートヘアの明るく活発な少女が居間に顔を出す。
「田中か。勝手に入るなと言ったろ」
 赤い着物を着た女性、日本鬼子は、面倒くさそうに言った。
「ごめんごめん。はい、新しい映画のDVD」
 田中 匠(たなか たくみ)は、悪びれもせずDVDのパッケージを差し出した。
「ああ、悪いな」
 鬼子は、受け取りながらそう言うとパッケージからDVDを取り出し、
DVDプレイヤーに入れて再生する。この映画は、コウモリのコスプレをした男が、
ピエロのメイクをした犯罪者が起こす事件に翻弄される物語だった。
「悪くないな。おもしろかった」
 鬼子は、それだけ言うとDVDをパッケージに戻した。
「ええー、それだけ?」
 田中は、呆れたように言う。
「いつも同じようなことしか言わないじゃない」
 田中がうんざりしたように言う。
「それだけお前のセンスが良いってことだろう。お前が選ぶ映画に外れはない」
 鬼子は、田中にDVDを返す。
「あ、もうこんな時間!帰らなきゃ」
 田中は、時計を見るとDVDをカバンに詰めて帰る支度をする。
「バイトか?」
 鬼子は、そんな彼女を見ながら言う。
「うん、まだ時間に余裕はあるけど、ここからだと結構時間がかかっちゃうから」
 田中は、皮肉っぽく言う。
「辺鄙なところで悪かったな」
 鬼子が返す。鬼子の家は、町はずれの山の中にあった。
「仕方ない。送っていくよ」
 鬼子は、白杖を手に取りながら立つ。
彼女は、盲目ではないが夜目がきかない、いわゆる鳥目という症状を患っていた。
「いつもごめんね」
 田中が、申し訳なさそうに鬼子に言った。
「なに、気にする程のことじゃない。それに友達送るのは、友達の役目だ」
 鬼子は、そう言いながら玄関へ向かった。

68 :隠(オニ)の陰-3:2013/08/10(土) NY:AN:NY.AN ID:mqOQGXOS
 辺りは、夕陽に包まれていた。蝉の鳴き声が騒がしい。
「そういえば、このあたりで変態をやっつけたんだっけ?」
 田中が、指を差しながら言う。
「股間モロ出ししてたあいつか」
 鬼子が言う。
「そうそう!あの時の日本さん、凄くかっこよかったよ!」
 田中は、興奮した様子で言う。
「あれくらい出来て当然だ」
 鬼子は、表情を変えずに言う。
「どうすれば日本さんみたいに強くなれるかな?」
 田中が、鬼子へ振り向いて言う。
「毎日稽古を積めば、あれくらいできるようになる。武術なんてそんなものだ」
 鬼子は、
「ただ、武術をやってる人間が少ないってだけだ。
素手で塀に使われるブロック割ることだって、容易いんだ」
 何も特別なことじゃない、と付け加えた。
「ほんと、クールだねえ日本さんって。
もしあの時、あの変態がでてこなかったら、日本さんと出会うこともなかったのかな」
 田中が、遠い目をしながら言う。鬼子は黙って、歩き続けた。

 町に差し掛かったところで、
「見送りありがとう。今度は、もし冷戦下のあの時代にヒーローがいたら?
っていう物語の映画を持ってくるね」
 田中が鬼子に言う。
「ああ、よろしく頼むよ」
 鬼子は、そう言い田中と別れた。

69 :隠(オニ)の陰-4:2013/08/10(土) NY:AN:NY.AN ID:mqOQGXOS
 田中と別れ山道を登っている頃には、すでに暗くなり始めていた。
「ったく、暗くて何も見えやしない」
 鬼子は、一人で愚痴る。街灯のない山中は、健常者でも見えないだろう。
だが、彼女の目にとって街灯があろうが無かろうが、
夜道が真っ暗であることには変わりはなかった。
しばらく進んだところで、同類の気配を感じる。
「隠(オニ)か」
 犬の鳴き声がする。だが、その姿は見えない。
「居隠(イヌオニ)だな」
 飼い主を待ち続けて死にかけていた犬に怪異(カミ)が入ったものだ。
原形を失くしたわけではないが、その姿を見ることはできない隠(オニ)。
死してなお、そこにいる捨てられた犬の末路だった。
悲しい隠だが放っておいては、人間をなりふり構わず食い殺す存在になりかねない。
鬼子は、白杖に鬼火を纏わす。
鬼火に纏われた白杖は、薙刀へと姿を変えた。彼女の眼には、暗い炎のようなものが映る。
彼女は、形のない怪異を見る目を持っていた。彼女は、薙刀で居隠を切り裂いた。
「毎日欠かさず餌を持っていったにも関わらず、一口も食わなかったお前が悪いんだ」
 鬼子は、悲しそうにつぶやいた。

70 :隠(オニ)の陰-後編1:2013/08/10(土) NY:AN:NY.AN ID:mqOQGXOS
 辺りが霧に包まれ、突如雨が降りだした。
視界が悪く、強い雨に目も開けられない。満足に呼吸もできない。
そんな中で、誰かが苦しみ、呻くような声が聞こえた。

 そんな噂が流れ始めたのは、つい最近のことである。
あまりの暑さに頭が逝かれたのだろうか、と思いたくなるような都市伝説だった。
「そんな馬鹿な話があるか」
 鬼子は、きっぱりと否定した。
「ええー、でも本当だったら怖いじゃない!」
 田中が涙目になりながら言う。彼女は、オカルト肯定派の人間だった。
「何が本当だったら、だ。幽霊もUFOも存在するわけがないじゃないか」
 対して鬼子は、オカルトを有るわけないものと割り切っていた。
「じゃあ、今夜行ってみようよ!」
 田中は、少しムキになっていた。
それでも、いくら肯定派だからといって、自分でも何を言ってるんだと思っていた。
「ほう、お前は私が鳥目だと知らずに言っているのか?」
 鬼子の一言に田中は、少し動揺した。
「ごめん」
 田中は、落ち込み、謝った。
「気にすんな」
 鬼子は、熱い緑茶を啜りながら言った。

71 :2隠(オニ)の陰-後編2:2013/08/10(土) NY:AN:NY.AN ID:mqOQGXOS
翌日、鬼子は、その怪奇現象が起こるとされる場所に向かった。
そこでは、化け物を見たという噂も上がっていた。
「やはりそうか」
隠の匂いが強かった。鬼子は、暫くそのあたりをうろつくことにした。
暫く歩いていると、見覚えのある後ろ姿を見つけた。
「お前、何やってんだ」
 鬼子は、呆れたように言う。その声に、ショートカットの少女が振り返った。
「日本さん!」
 田中 匠(たなか たくみ)だった。
彼女いわく、気になっていたものの、一人で夜に来るのが怖かったので昨日、
鬼子に話をもとかけたが否定されたので今日ここに来たとのだった。
「本当は、日本さんと行きたかったんだけど、否定されたから」
 田中は、頼りない声で言う。
「当たり前だ」
 鬼子が言った。怖いと言っていたくせに、鬼子が小言を言う。
「そんなこと言ったら、日本さんだって否定してたくせに来てるじゃない!」
 田中が、鬼子の小言に耐えられなくなって言い返す。
鬼子は、そんな彼女の言葉を聞き流した。
「妙だな」
 鬼子は、ぽつりと呟く。
「ちょっと聞いてるの!」
 田中の文句は、まだ続いていた。うっすらと、霧が出ていた。
「え?」
 田中は、異変に気づき鬼子にくっつく。
「暑いな。離れろよ」
 鬼子は、くっつく田中を押しのけた。
「ちょっと押さないでよ!」
 田中は、涙目になりながら戻ろうとする。それを鬼子は、アイアンクローで遮る。
ギリギリと音を立てる田中のこめかみ。田中は、失神寸前だった。
そんな茶番をしている間に、霧が濃くなっていき、雨が降り始める。雨が強くなった。
「痛い」
 田中が頭を手で覆いながら言う。
「こめかみか?」
 鬼子が訊く。
「雨だよ!」
 田中がつっこむ。
「たしかに、ゴリラ豪雨も真っ青だな」
 鬼子が返す。
「それって洒落で言ってるんだよね?」
 田中は、つっこまずにはいられなかった。
「水も滴るいい女じゃないか」
 鬼子が田中の姿を見て言う。
「もういいよ」
 田中は、つっこむのを諦めた。
「ねえ、今何か聞こえなかった?」
 田中が、不安げに言う。
「腹減ったのか?」
 田中の腹を見て言う。
「違うわ!もういい加減にしてよ!今どういう状況なのかわかってる?」
 田中は、恐怖と不安と鬼子への怒りから喚き出す。
そんななか、苦しそうな呻き声が聞こえた。田中が息をのむ。

72 :2隠(オニ)の陰-後編3:2013/08/10(土) NY:AN:NY.AN ID:mqOQGXOS
「(参ったな。彼女がいる中、隠の力を使うわけにはいかない)」
 鬼子は、田中に隠の力を見せたことも伝えたこともなかった。
だから、この力を知った彼女が、どういう反応をするか分からなかった。
嫌われるのが怖かった。
「(仕方ないか)」
 鬼子は、白杖に鬼火を纏わせる。
鬼火が消えたときには白杖は、薙刀へと変わっていた。
「日本さん、それって」
 田中は信じられない、という表情をしている。
鬼子は黙って、呻き声が聞こえる方へ向かった。

73 :2隠(オニ)の陰-後編4:2013/08/10(土) NY:AN:NY.AN ID:mqOQGXOS
 霧が立ち込め、雨で視界を遮られる中に、それはいた。
目が飛び出て、皮を剥がれ、剥き出た肋骨を脚にしている
蜘蛛のような牛の頭部をもった隠(オニ)。
「雨師隠(ウシオニ)か。これは厄介だ」
 鬼子は、薙刀を構える。雨師隠は、彼女に気がつくと断末魔の叫びのような、
醜悪な咆哮をあげ、跳びかかってきた。鬼子は、それをかわし、肋骨に薙刀を払う。
だが、肋骨は薙刀をはじき返す。
「(形が崩れてる。原形を失いつつあるのか。まずいな)」
 隠は、原形から離れていくにつれ、凶暴になる。
あの時の居隠(イヌオニ)は、ただ姿が見えなかっただけで、
まだ形が崩れているというわけじゃなかった。
それに対し、この雨師隠(ウシオニ)は、牛の形を留めず、
蜘蛛のような醜悪な姿になっている。いままで、
被害が無かったのが不思議なくらいだった。
あるいは、鬼子が聞いていなかっただけなのだろうか。
 雨師隠の突進をかわしながら、喉元を切りつける。
だが、あまり効果は見られない。
「(大元を直接叩かないと無駄か)」
 鬼子は、薙刀の刃に鬼火を纏わせる。
鬼子は跳躍すると、雨師隠の背に着地する。そして、背に突き刺す。
「萌え散れ」
 鬼子が小さく呟くと、雨師隠の腹部から鬼火が噴き出る。
雨師隠に憑いていた怪異(カミ)は、逃れようとするも鬼火を纏う刃に捕らえられ、
抜け出せない。
形のない怪異(カミ)は、断末魔の叫びをあげて燃え尽きた。
 鬼子は、燃え尽き消滅した雨師隠から地へ着地する。
そして振り返ると、呆然としている田中が目に入った。
「田中」
 鬼子は、一瞬ためらった後、声をかけた。だが田中は、背を向け、走り去った。
「ヒーローは、嫌われてなんぼさ」
 鬼子は、自分に言い聞かせるように言う。
いつの間にか、霧は晴れ、雨が上がっていた。鬼子の背後には、屠殺場が佇んでいた。

74 :隠(オニ)の陰-後編:2013/08/11(日) NY:AN:NY.AN ID:RZngkNsw
隠(オニ)の陰は、これで終わりです。

75 :創る名無しに見る名無し:2013/08/11(日) NY:AN:NY.AN ID:i6BEao8A
>>66-74
乙です〜 カッコイイ男前の鬼子さんでした。そして田中さんもザ・一般人って感じでしたね。
田中は鬼子さんの本当の姿を見ておそれをなして逃げ出したんですよね?なんとも切ないものです。
あと、田中さんと鬼子さんの出会いが新パターンでしたw

76 :創る名無しに見る名無し:2013/08/12(月) NY:AN:NY.AN ID:AM34K25D
>>66-74
鳥目か…新鮮だ。
座頭市みたいでかっこいいですね。

77 :天魔党 鬼化の術の章 覚書:2013/08/15(木) NY:AN:NY.AN ID:JQMyN1Qj
  ◇ ◇ ◇
 この覚え書きは我らが崇高にして至高なる天魔党が『陰』が呪術専門部門『翁』(おきな)の洗練に洗練を重ね
磨き抜かれた英知と驚異の結晶たる知識を勿体無くも、下賤にして無知蒙昧なる猿畜生たる輩にさえ理解が
追いつくよう、技巧の粋を尽くした解説覚え書きである。従ってこの書を必要とする猿の如き粗暴にして浅学な
同胞(はらから)は我らが『翁』に心酔し、尊敬と恭順の姿勢をもって伏して拝謁する旨
忘るる事なかれ。

 我ら偉大なる天魔党の党員は奴隷を除けば全て鬼である。それというのもこの国が忌々しいあの牛鬼どもに
蹂躙されるという憂き目を見たことに起因する。かつて、我らは人であった。だがある日、平和だった我らが国は
牛鬼どもの標的とされ、捕食されるという屈辱に苛まれたのだ。
 鬼どもの力は圧倒的であり、かの『侍』の武力をもってしても歯がたたず、このままでは我らは彼奴らに喰われて
果てるのみ。そう絶望した。まさにその時である。おお、神は我らを見捨てたりはしなかった!我らには地上で
もっとも賢く最も慧眼で誰よりも先を見通し、その脳髄には仏の英知の宝珠がおわしますにちがいない。
鬼駆慈童様がついていて下さったのだ!

鬼駆慈童様はその時、このような事態に備え、かねてよりご用意なさっておられた『鬼化の術』を慈悲深くも
国の全ての民草に向け行使なされたのだ。その際、国の者は全て、全て最後の一人に至るまで大いなる苦痛に
見舞われた。あの時の苦痛は今でも忘れはしない。だがしかし!苦痛ごときがどうだというのだ!
当時、我らはもとより民達も鬼の襲撃により、生きたままむさぼり喰われるという生き地獄にさらされていた!
それに比べればこの程度の苦痛!いかなるものぞ!鬼駆慈童様の大いなる慈悲の前には何ほどのものであろうか!

──そして、人の国であった我が天里国(あまのさとくに)は鬼の国、天魔党とあいなった。
鬼と化した我らが民草はすぐさま自分らを喰んでいた鬼どもに反撃を開始し、鬼どもを押し返す事に成功した。
これも全ては賢明にして大いなる英知の顕現たる鬼駆慈童様のおかげである。

【鬼化の術・概要】
 民草が鬼と化した際、一番問題であったのが『共食い問題』であった。力強き鬼であればあるほど、血に狂い、
共食いにはしる傾向にあったのだ。だが、この問題も賢くも名をお呼びするも恐れ多き鬼駆慈童さまには
予見済みであった。そのため、鬼どもを押し返した後、なお猛る鬼達は鬼封じの呪符(術式覚書・封魔の書参照)を
式として飛ばし、民に届けることで事態の鎮静化をはかることができた。
その後有能な鬼どもには封魔の道具を授け、幹部に取り立てる事でより我らが天魔党の勢力はいや増したのである。

──さて、この『鬼化の術』により鬼と化した者どものことであるが、非常に興味深い事例がいくつも散見したので
ここに記しておく。
 『鬼化の術』を受けた者の中には大まかに分けて四つあることが分かった。

78 :天魔党 鬼化の術の章 覚書:2013/08/15(木) NY:AN:NY.AN ID:JQMyN1Qj
その壱:死んでしまった者
 生命力が足らない。もしくは何らかの要因で『鬼化の術にあわなかった者』や術に『耐えきれなかった者』は
死んでしまうことがある。生命力の弱き者が筆頭に考えられるが、生命力が低いと思われる老人や幼子も
『鬼化』している例もある為、一概に生命力だけではないらしい。
 なお、魂は鬼と化せども肉体を離れ『幽鬼』と化した者もこれに分類するとする。
その場合『呪い』という形でもって対象に関わる事ができ、これも我らが天魔党に大いなる益をもたらすものである。

その弐:モノのようになってしまった者
 何がしかのものと「融合」してしまう者が多くいた。その中でも「モノ」と「融合」し一体化してしまった者の
なかには最早人間でも鬼でもない何かに成り下がった哀れな存在もいた。いや、場合によっては己の意志を
表出させられないだけやも知れぬ。が、意志を示せないならばそれは死んでいるに等しい。触れると脈があり、
体温を感じられるようなものもあれば、動きはするものの、触れても「モノ」の感触と区別がなく、我らとの
意志の疎通がつき難い、ものと見分けがつかぬ者もある。
「自我」というものがあるのか疑わしい者達ではあるが、何らかの意志の疎通ができうるならば役には
立つのであろうか。目下、研究中である。

その参:鬼と化した者
 『鬼化の術』を受けた身であるから、「鬼と化す」のは当然の事である。
従って、この結果は当然の帰結であり、特筆すべき事はあまりない。

その四:『融合』せし者
 この現象が最も興味深い。「鬼と化して」はいるものの、そもそもが何がしかと『融合』を果たし、その特徴を
特化させた者がいるということだ。『融合』せし対象は実に様々で、動物と融合せし者、虫けらと融合せし者、
木や草と融合せし者、中には我らを襲いし鬼と融合した者までいた。
 それら全てが鬼と化した訳だが、内包せし『鬼』によってはそのまま取り込んだ鬼に内側より喰い破られた者や
気が狂うた者さえいた。実に残念な事に喰い破られたものは元より、喰い破った鬼も程なく死滅することが多い。
 ともあれ、内より喰い破られた者らはこれらの事象には実に興味深い研究対象となった。『鬼化の術』には
まだ未分化な部分があり、より深く探求する事で世の真実に近づく事ができようものと言うものである。
 そして実験に実験を重ねた末に、我らは天の理をも読み解く英知でもって『鬼化の術』の簡略化に
成功したのである。
 この術は『蟲毒の術』と『鬼化の術』をそれぞれ組み合わせることで省略・実用化したものである。

その要点は、核となる蟲けらが必要となる。
また、今の所鬼と化せる者も『尋常ではない無念・執念を内包せし者』である事が望ましい。
それらが持つ負の想念こそが人を鬼と化すのである。
 用意するものは、蟲けら・水・術を記した呪符・呪文を読める者(術行使者)・朱塗りの杯・
執念を内包せし死にかけている者(被術者)である。
この術の最も優れている点は呪文さえ読み解く事が可能ならば、後は呪符に込められた呪力で鬼化の術が
起動する点である──

──蟲けらを核とし、鬼と成った者は当然の事ながら蟲にちなんだ能力を持つ事が多い。
特殊な条件さえ揃えば無類の強さを発揮する者、珍しい力を発揮する者、様々である。
逆に、蟲けらの悲しさや。時と場合によってはその『蟲けら』である事が逆に弱みになりうる場合さえあるのが
泣き所である。
 しかしながら、それら条件さえ揃えば、人は鬼と化し、我らが天魔党が先兵として有用な働きをするであろう。

79 :創る名無しに見る名無し:2013/08/15(木) NY:AN:NY.AN ID:JQMyN1Qj
>>77-78
……という訳で、天魔党が天魔党たりえた鬼化の術についての設定話を書いてみた!
黒金蟲や憎女はもとより、天魔党のほとんどのメンツはこの術で誕生したといってもいい要の術についての記述です!
ちなみに局は植物と融合し、鬼と化したと脳内設定していますぞ!
鬼化の際、融合した動植物の他にも、抱いていた想念が得られる特殊能力にも影響している可能性が高いそうです。
 それでわ!

80 :創る名無しに見る名無し:2013/08/17(土) NY:AN:NY.AN ID:joBMYxqy
>>77-79
> 鬼駆慈童様はその時、このような事態に備え、かねてよりご用意なさっておられた『鬼化の術』を

うさんくさい!うさんくさいいぃ!

「その弐:モノのようになってしまった者」
ってのはまだ出てきていないような…?
どんな形で出てくるんでしょう。

81 :品陀 ◆TOrxgAA4co :2013/09/03(火) 12:45:29.62 ID:AGhL+ydT
どうもこのスレでは初めましてです。

したらばの本スレで予告していたお酒企画によせるSSを投下しようかと思います。
かなり長いの上、SS投下もほぼ初めてなので、何レスで終わるか判らず、キャラ設定
などにも矛盾する点があるかもしれませんが、楽しんで頂ければ幸いです。

以下、『酒呑の鬼王と天魔の宴』のタイトルでお送りします。

82 :酒呑の鬼王と天魔の宴 1:2013/09/03(火) 13:05:32.75 ID:AGhL+ydT
「同盟?」


 ・・・その一際巨きな大鬼の訊き返す声は整然と大鬼たちの居並ぶ大座敷中に響く、
はっきりしたものではあったが、そこにはそれを積極的に肯定するニュアンスはもとより、
否定するようなニュアンスも、疑問に訝るような心持ちすらも読み取れやしやがらなかった。

(やりにくいぜ・・・)

 それが、その大鬼に対する俺の、率直な最初の感想だった。
俺も天魔党の諜報活動を常とする立場のトップにいる以上、相手に己の真意を見せない
チャラけた態度をとったり、逆に関心もないことに熱心になって見せたりする言い回し
をしたりするようなことは、もう『骨』(なんてものが俺にあるかどーかはわかりゃしねえが)
まで染み付いた習性ではあったが・・・

 まだ俺がそれを意思と意図をもってそれをやるのに対し、この大鬼にはそれはどうやら呼吸
するのにも等しいような所作らしかった。

「同盟・・・か・・・」

 大鬼はその言葉を反芻すると、上座の上で横向きにこちらへ寝そべったまま、その手の
大盃の中の酒を飲み干す。
 その言葉にはおおよそ感慨らしきものすら読み取れない。
 そして、空の盃を傍らに隙のない正座で控える、男だか女だか今イチ判然としない鬼に
差し向けると、心得きったものなのか、その何となくいけ好かない鬼はその手の大徳利から
これまた油断ない仕草で替わりの酒をなみなみと注いだ。

83 :酒呑の鬼王と天魔の宴 2:2013/09/03(火) 13:26:35.62 ID:AGhL+ydT
 重苦しい空気が、絡みつく。

 これなら、はっきり言って鼻で嗤われたり嘲笑されたり(むろん、そんなことしやがったらタダでは
済まさないが)でもした方がまだ安心できたかもしっれない。
 こっちの内心を知ってか知らずか、満杯になった大盃をなんとはなしにその手でもてあそぶ、その大鬼
の内心は毛ほども、窺い知れはしない。

 いや、あるいは・・・

(『内心』なんて無えのかも、な・・・)

 俺も邪気を飲んだ「鬼土」から生まれ、黒金蟲の旦那に拾われ、この自意識をもって
そんなに生きた時間もないはずではあるのだが、その短くも濃厚な経験からしても確実
に言えるのは、この世で一番厄介なのは、こういう、こっちの理解をはるかに超えた、
読めない、掴めない、喰えない奴だ、ということだ。

(どーすんだよ?黒金蟲の旦那?)

 俺はそもそも今、「同盟」の二文字をこの伝説の大悪鬼にぶつけた、こちら側の「頭」に
伏し目がちな視線を、向ける。情けないことだが「耳」としての俺がこうして役に立てない
以上、旦那に「口」を開いてもらって、その言葉でもって、この局面と空気を変えてもらう
よりほかはない。

―ヌエよ―

 数日前の、旦那自身が発した言葉が、俺の脳裏に甦る。

―この「交渉」は我ら天魔党を大きく躍進させる可能性を秘めている。
 「局(つぼね)」を留守居に置かねばならぬのが残念ではあるが・・・
 我ら天魔党四天王一丸となって、なんとしても遂行せねばならない―


しかし―

「何か不満でもあるのカイ?大江山の鬼王?」

 口を開いたのは「頭」ではなく、「目」だった。

84 :酒呑の鬼王と天魔の宴 3:2013/09/03(火) 13:48:24.43 ID:AGhL+ydT
 黒金蟲の旦那、男か女か解らん鬼、座敷に居並ぶ大鬼たち、
・・・そしていまだ高座に寝そべりこちらを見下ろす、件の大江山の「鬼王」の
視線が、俺の右前に不動の姿勢で端座する黒金蟲の旦那を挟んで、さらに右に
小さく据わる、『翁』面の「少年」へと、注がれる。

「・・・・・。」

 生意気そうな奴だな―そういう色が見えたとしたら・・・まだ親しみも持てたのかも
しれないが、やはり、この鬼王の表情は、読めない。
 もっとも、こちら側の読めないコイツ―鬼駆慈童、も構わず、二の句を継ぐ。

「自分で言うのもなんだけどさ。僕ら『天魔党』は『党』とは言ってもその実態は一個の
『国』ダ。個々の鬼としての力としては桁外れなものを持ってはいても、その集団の規模
は『郎党』・・・それこそ、『党』であるアナタがたには出来ないことを替わってやれる
だけの『力』はあるものと自負するのだガネ?」

―なるほど。

 コイツ・・・見た目は翁の能面を被った少年、鬼駆慈童は俺とは違い、その実は
黒金蟲の旦那と同じく、天魔党の元となった、『天里国(あまさとのくに)』が鬼
に滅ぼされた時からの古株中の古株だ。

 国の人間を丸々鬼として転生させたその術式や魔術への造詣もさることながら、
権謀術数や生き馬の目を抜くこうした取り引きのセンスにも長けている。
・・・・・まあ、長く生き過ぎたせいか躁鬱を患い、波が激しいのが玉に傷なのだが。

85 :酒呑の鬼王と天魔の宴 4:2013/09/03(火) 14:11:57.89 ID:AGhL+ydT
 ・・・・・・・・・・

「・・・・・・・・。」

 しかし、そんな俺たちの最長老、鬼駆慈童よりもさらに生きていることは間違いない、
この鬼王はそうした鬼駆慈童の機知ある問いかけにも少し盃を止めて聞き入っただけで、
反応らしき反応を示さなかった。

「何を出来るというのだ?」

 ただ、反応した者がないわけではなかった。もっとも、それは寝そべる鬼王ではなく、
その隣に影のように控える、例のなんかムカつくオンナオトコ(オトコオンナ?)の鬼
だったが。

「決まってるじゃナイか。今言った『力』の提供だヨ?」

 鬼駆慈童は、かまわず続けた。

「『知は力なり』・・・これは海の向こうの賢者の言葉だがネ・そんな『知』を力と
するボクら術師たちの『理知』の力だけが天魔党の力の全てってワケじゃなイ。
 ここにいる黒金蟲の侍衆の戦士の『意志』の力、そしてそこのヌエの忍者衆の諜報者
間者の『感知』の力・・・留守役でここにはいない天魔党四天王が最後の一角、『局』、
の鬼の生命育む『生育』の力、そしてなにより、これを一統する一個の国家としての
『組織力』・・・これを持ってすれば・・・・
 神仏を憎み、喰らわんとする、アナタがたの望みの助けに必ずや、なるハズだケドね?」

 ・・・鬼駆慈童の声の調子はいつもどおりの調子で、内容のほうも非の打ち所のないセールス
文句だったとは思う。・・・しかし、俺の中には小さな小さな黒点のような何かが、深い深い所
で、わだかまっていた。
 「頭」である黒金蟲の旦那を再び見上げる。角度的にその険しい横顔が後ろめに窺えるだけでは
あったが、俺と同じわだかまりを持ってるらしきことはうかがえた。

86 :酒呑の鬼王と天魔の宴 5:2013/09/03(火) 14:30:42.98 ID:AGhL+ydT
そう―
 鬼駆慈童が今、鬼王たちに語って聴かせたセールス文句は、ある意味、力の信奉者
である俺たち天魔党の最大の売り文句だ。これに靡かなかった奴なんていなかったし、
いるとも思いたくない。
 が・・・、相手はいまだ底の見えぬ、伝説に謳われる大悪鬼にして鬼王の大鬼だ。
もし、これで通じない、となると・・・


「酒呑童子(しゅてんどうじ)殿―」


 唐突に、それまで押し黙っていた、現状、俺たち天魔党の頭である黒甲冑の大鬼、
黒金蟲の旦那が口を開き、その伝説の大鬼王の名を、口にした。

(旦那・・・攻めに出るのか・・・?)

 俺は、反射的に鬼駆慈童の方を向いた。鬼駆慈童もその翁面の下・・というよりその
本体である面そのものから、緊張感を滲み出させ、小さく、肯く。

そして―
己が名を呼ばれた件の大鬼王・・・
酒呑童子は、それまで、盃の酒や虚空に泳がせ漂わせていた、その視線を、
やおらこちらに向け・・・
   ・
   ・
   ・
   ・
   ・
 はっきり言って、この大鬼王に「見られる」ことをどう表現したものか―俺には
言葉が、見当たらない―
「身の毛がよだつ」とか、「とてつもないプレッシャー」とか、そんな陳腐な言葉
じゃ、とてもじゃないが形容できたもんじゃねえ。

87 :酒呑の鬼王と天魔の宴 6:2013/09/03(火) 14:59:22.12 ID:AGhL+ydT
(クソったれ・・・・・!!!)

 怯えて、いるというのか・・・!?この、俺が!!??
鬼気を呑み、瘴気に穢れた鬼土より咲いた一輪の花のごとくヒトの形を成し、生まれ
出でてより日が浅いとはいえ、黒金蟲の旦那にその力を認められ、忍衆の長に任じられ
名実とものいまや天魔党四天王の一角たる、この、俺が???

 旦那は、続ける。

「・・・この場は『交渉』の席ゆえ、今のようにこの鬼駆慈童は我らと結ぶ『利』を
説き、お手前さまのかたがたよりの助力を引き出さんと・・・かくのごとき拙き知恵
を振り絞っておるわけでは御座りまするが・・・・
 酒呑童子殿、その伝説ではなく、大鬼王たる貴方そのものをこうして前にし、この
黒金蟲はそれとはまた異なる想いをもまた、新たにせずにはおられませぬぞ・・・・!!」

 ??―・・・旦那の、静かな迫力に満ち満ちつつも、落ち着いたその語りは、その
調子とは裏腹に、不可解で満ち満ちていた。

「・・・・ほう?」

 少し眉を動かし、小さく答える鬼王酒呑童子のその声にはしかし、初めて
関心、じみた感情が、こもっていた。
 おそらく、旦那もまた、それは見て取っていただろう。

「酒呑童子殿。あなたの伝説はこの黒金蟲、よ〜く、存じ上げておりまする。」

 旦那は、己のその腹を捌くように、さらに畳みかける。

「越後の国に生まれ、仏・法・僧の三宝を憎み憎んで都にては伝教最澄と弘法空海の
二大師に挑み・・・敗れたりとはいえ、己の腕ひとつ、力のみにて最強の鬼として数多
の鬼を統べ、大江山に君臨せしその在り方・・・生きた時代は違えど、この黒金蟲、
一個の武人として!!、一個の漢(おとこ)として!!、強く強く惹かれる想いを、
禁じ得ませぬぞ!!!!!」

88 :酒呑の鬼王と天魔の宴 7:2013/09/03(火) 15:29:32.94 ID:AGhL+ydT
(・・・・・・旦那?)

 俺は、思わず、鬼駆慈童をみやる。
案の定、鬼駆慈童もまた、俺とおなじ困惑の色を浮かべていた。

「酒呑童子殿。」

 それは、先刻とおなじく静かに落ち着いた声ではあったが、その落ち着きの不自然さ
とさっきの旦那らしからぬ饒舌とのギャップに、俺は(あるいは、鬼駆慈童も)確信し
ていた。

(マジ、かよ・・・!!??)

 そう、今の、旦那の言葉は、嘘偽りない、真実だ。交渉の駆け引きも腹の探りあい、
権謀術数も化かし合いもへったくれも、ない。

 正直、信じられねえ。信じられる、わけがねえ。俺も己の強さには絶対の自信があるが、
そんな俺でも、鬼土より形を無し生れ落ちて以来、ずっとこのかた、あと一歩及ばない、
あと一歩が、どうしても及ばない、あの滅茶苦茶強えぇ旦那が・・・
 よりにもよって己以外の者の強さに、憧れてるなんて・・・・!!!!

 旦那は、さらに続ける。
 その声には、まるで己の屈辱を語るがごとき、忸怩たるにがにがしさが、あった。

「口惜(くちお)しうは御座らぬのですかな?」

 搾り出すような、旦那のその言葉に、明らかに満座の空気が、変わった。
その証拠に・・・

「・・・なんだと?」

 例の性別不詳の鬼が、応じる。

「『何だと』とは異なことを仰せですな?
・・・・・茨木童子殿。」

 さきほどまでのつれなさへのお返しかどうかはわからないが、旦那は素っ気無く
応じた。

「あのとき、あなたがたは源頼光(みなもとのよりみつ)とその配下、頼光(らいこう)
四天王が姑息にして卑劣な謀りごとによって神変鬼毒の酒を盛られ、その実力の一端すら
も出すことなく、頼光とその郎党にあえなく打ち滅ぼされた・・・」

 そして、その語りはじょじょに熱を帯びていく。

89 :品陀 ◆TOrxgAA4co :2013/09/03(火) 16:07:24.50 ID:AGhL+ydT
カキコできるかな?

続きはまた明日にして、時間があるようなら明日からも8レスずつ続けます。

90 :創る名無しに見る名無し:2013/09/03(火) 21:42:26.57 ID:BsjKBwli
乙で〜す!続きが気になります!キクジドーの喋りを初めて見たよーな気がするぞ!
なるほど!こんな風にしゃべるのか!しかし四天王のうち3巨頭までとはさすが「伝説」!
今のところゆらぎもしない「伝説」に黒金蟲はどう出るのか?!目がはなせませんね〜

91 :品陀 ◆TOrxgAA4co :2013/09/04(水) 12:43:10.12 ID:m4UPFMfS
 さっそくのご感想ありがとうございます〜
やはり鬼駆慈童は片仮名混じりの少年口調が似合いますね〜。

 では、今日の分の続きをお送りします。
黒金蟲に己の最期の顛末を突きつけられた、鬼王酒呑童子の反応やいかに??

92 :酒呑の鬼王と天魔の宴 8:2013/09/04(水) 13:10:36.34 ID:m4UPFMfS
「あまつさえ!!」

 旦那の続く言葉は、大きく張り上げられていた。

「酒呑童子殿よ、あなたは毒酒を盛られるのみならず、その上さらに寝込みに神の腐りで
四肢の自由をも奪われ、その自慢の剛力も、雷電もふるうことなくその首を刎ね落とされた
と聞きまする!!
 源頼光とその郎党、頼光四天王は後世には大江山が大悪鬼・酒呑童子を退治せし英雄・・・
などと語り伝えられておりまするが・・・これこそ笑止千万、噴飯の極み!!!
 正面切って堂々と討ち果たすならばまだしも、さような姑息極まる騙し討ちをもって勲(いさお)
立てし卑怯者などをどうして「英雄」などと呼べましょうや!!!
 断じて、否(いな)!!!!!!!
 酒呑童子殿!われら天魔党にはあなたのその無念を晴らす舞台をしつらえる力がある!!
ともに天界人界、はては仏界地獄までもその御力を見せつけてくれましょうぞ!!!!」

 気づけば、旦那は席を立ち、口舌をまくし立てていた。
 マジで、こんな旦那は初めてだ。本当に、本当に、考えられねえ。
 この鬼王の伝説は知っている、と言っていたが・・・それにかねてよりの「想い」を
つのらされたのか、あるいは、この鬼王の威圧感に畏れならざる高揚をかき立てられたのか
・・・・・

 鬼駆慈童の方を見る。

 こっちの代表がこうして席を立って長口舌をふるう、なんて非礼をやってる以上、それを
いつでも止められるよう、正座から足指を立て、その実、いつでも旦那の援護に回れるよう
構えているのがわかる。

 やれやれ、だ。「伝説」に接触する、てことで多少の覚悟はしてきたつもりなのだが、どう
やらそれ以上の・・・マジ以上のマジになんなきゃならねえようだ・・・

 ・・・と、それは、俺がそんな覚悟を固めかけたところだった。



「まあ、飲めや。」



 鬼王の、静かにして厳かなる一声が、沸き立ちかけた満座のすべてを、静止させた。

93 :酒呑の鬼王と天魔の宴 8:2013/09/04(水) 13:13:27.50 ID:m4UPFMfS
>>92
訂正×神の腐り
  ○神の鎖

94 :酒呑の鬼王と天魔の宴 9:2013/09/04(水) 13:40:43.70 ID:m4UPFMfS
 と・・・―


「どうぞ、おきこし召しを・・・」

 気付けば、すぐ近くに、いにしえの女房装束姿の鬼女が、指を立て、座礼の姿勢で、
端座していた。

「・・・!!?」

 息を飲む。これが殺し合いの最中だったなら、必殺の一撃を入れられてたっておかしく
ない間合いだ。
 見ると、旦那や鬼駆慈童の近くにも同じように鬼女がいつの間にか控えており、その
いずれもが、品のいい酒瓶と盃を携えている。

(コレが・・・!!大江山の鬼王の・・・『鬼隠し』・・・・・!!!!)

 頭の中に響く鬼駆慈童の声は驚愕に満ち満ちていた。たぶん、それに訊き返す、
俺の声にも。

(『鬼隠し』・・・!?『神隠し』じゃなくて・・・!!?)

(アア、そうダヨ。ぶっちゃけレば、任意のものを任意の場所に転移する・・・それ
だけの『術』なんだけどネ・・・、普通、この手の術には移動場所や移動対象に何らか
の術式陣や呪符を付与し・・・高度なところでも「気」や「念」をもって空間を切って
貼り直したり・・・とか、するものナンだけど・・・
 この鬼女たちやこの座敷にはそんな様子は全く無いし、力の動いた気配も形跡も、
まるでナイ!!!!
 平安時代の伝説じゃ、この鬼王はこの『鬼隠し』でもって大江山に居ながらにして都中
はおロカ、この日本全国津々浦々、はてハ海を越えた大陸からも人をかどわかし、攫った
というけど、これじゃまルデ神々の使う『神隠し』ダヨ・・・・!!!!!!)

(ちょっと待て・・・!!それはもう『奇跡』のレベルだろ!!?そんなん、もう『術』
なんて言えるのかよ・・・!!!??)

 そうした、俺たちの内心の動揺はどこ吹く風で目の前の鬼女たち(けっこー可愛い・・・)
は優雅な手並みで盃をなみなみと満たし、

「ごゆるりと・・・」

 うやうやしく、差し出してくる。

95 :酒呑の鬼王と天魔の宴 10:2013/09/04(水) 14:07:54.12 ID:m4UPFMfS
「有難きお心遣い、痛み入りまする。」

 真っ先にそれに応えたのは、先ほどまであれほど熱くまくし立てていた旦那だった。
いつの間にか、もとのように隙なく着座している。
 旦那も、この鬼駆慈童にすら正体の掴めないこの鬼王の転移術(と、言っていいのか?)
の規格外っぷりを感じていないはずもないのだが、それはおくびにも出さない。

「お、おう。」

 俺はというと、情けないことだがその秀麗ながらもどこか野の強さ、儚さ、といった
美しさすらをも感じさせる鬼女に対し、少しどぎまぎしながら、その盃を受け取る。
・・・・・・・・・この鬼女たち、一人(?)くらいお持ち帰りできないかなー・・・・・

(『わーたん』あたりと、修羅場になるヨ?)


―・・・心を読むな、鬼駆慈童。

「これは・・・!!!」

 ????
 俺と鬼駆慈童の内心のしょーもないやり取りをさえぎって、旦那が驚愕の声をあげる。
 そのときには俺も貰った盃の酒に口をつけていたが、一口ふくみ、その旦那の驚きの
理由を知る。

「・・・・・・・・甘っめぇ・・・。」

 その酒は、信じられないくらい、甘かった。しかも深く深く上品なコクがあり、
ノドごしもたまらない。
 一瞬、甘酒かとも疑ったが、盃になみなみと注がれた酒はどこまでも澄んだ清酒で、
天魔党で飲み慣れた、あの旦那もお気に入りの甘酒特有の濁りなどみじんもない。

(おいおい、一体どうやったら清酒でこんな蜂蜜みてーな甘い酒が造れんだよ・・・!?)

 ちょっと想像がつかない。さすがは「酒呑」童子の酒というところか。
 甘党揃いの天魔党に在って、しかもこと甘さに関しては一切の妥協を許さない、つーか、
許せない俺たちの舌をもうならせるこんな酒を飲んで・・・と・・・待てよ・・・?

96 :酒呑の鬼王と天魔の宴 11:2013/09/04(水) 14:30:24.06 ID:m4UPFMfS
「その・・・酒呑童子・・どの、も甘党で・・・?」

 俺の思考のつづきは、しかし、気付けば口をついて出てしまっていた。
 満座の視線が俺に集中する。

―当然、鬼王の視線も

・・・・・・・・・・・・・

 俺は・・・その時、その鬼王が何故、「童子」と呼ばれるのか、
判ったような、気がした。

 俺の方を見た鬼王の表情は、その、圧し潰してくるような威圧感は、そのままに、
まるで悪戯を成功させた童子のような、屈託のない笑みを浮かべていた。

「いいや。」

 先ほどまでのつれなさが信じられないほどに、人懐こそうな、しかし、慄然とする
ような、全身の毛を総毛立たせるような口ぶりで、鬼王は言った。

「そなたらが甘党だとは聞いていたのでな。とびっきりの甘味酒を馳走させた。」

・・・・・・・・・

 どう反応したらいいのか、解らない。
 「客」のことを知り、「客」の好むものを用意しもてなす。
 それは、当たり前の礼儀であり、「交渉」を有利にすすめる「戦術」のいろは
でもある。

 だが、この鬼王の「当たり前」はなにかが根本的に違っているようで、恐ろしい。
それも、底無しに。

「我らのことを存じ上げておられたとは、光栄の極みにござりまするな。」

 動揺の許されない旦那は、努めて平静に、応じる。
だが旦那も解ってるはずだ。一体、この鬼王はどこまで俺たちのことを知っているのか?そして、
知った上で何をその腹中に持っているのか?

 鬼の化かしあいが始まるものと思われたが、先にその口火を切ったのは、意外にも、
鬼王酒呑童子のほうだった。

97 :酒呑の鬼王と天魔の宴 12:2013/09/04(水) 15:00:02.71 ID:m4UPFMfS
「戦国の世に鬼に攻められ、鬼に挑み、鬼に滅ぼされ、鬼を滅ぼし、鬼と化した
『天里国(あまさとのくに)』の成れの果て、天魔党・・・か。
 そういえば、かの戦国の世を終わらせし尾張(おわり)の国の『覇王』は己のことを
『第六天魔王』と名乗っておったな―」

「ほう、我らが時代が覇者、尾張守(おわりのかみ)信長公をご存じで―?」

「知らぬほうがおかしかろう。彼の者がこの日ノ本に平安の御世のごとく、『平安楽土』を
再来させんとし、近江(おうみ)国に築いた「安土(あづち)城」は我もわざわざ出向いて
見に行った。
 ・・・まことに美事なる城、天晴れなる城で、思わず見とれ、遠目にのぞみつつ酒宴を開き、
三日三晩飲み明かしたが、あの酒は実に旨かった。」

「まるで、昨日のことみたいな言い方だネ、鬼王サマ。でも、安土城は・・・」

「うむ。天下統一を目前にした覇王の死とともに、灰燼と帰した。
 あのときは我も・・・鬼にはもはや関わりなき人の世のことと知りつつも、哭いたな。
 まったく、惜しいことをしたものよ。」

 そう言うと、鬼王はスン、と鼻をひとつ鳴らした。どうやら、それは本当のことらしかった。

「アンタほどの・・・大鬼王が・・・?」

 思わず、いつもの調子で訊き返してしまったが、鬼王の眼差しは・・・
変わらずの怖気をまといつつも、妙に優しげで・・・

「鬼なればこそ、さな。坊や。」

 ・・・それに続く言葉は、俺たちには受け入れられないものだった。

「頼光と飲んだ酒の味には、あと一歩及ばなかったが・・・どのみち、戦国の世の精華にして
終焉たるあの安土の城を肴(さかな)に飲んだ、あの酒以上の酒をまた飲めるとも到底思えぬ。
・・・まあ、同盟など諦めるのだな。『天魔』を名乗りし戦国の世の落胤(らくいん)たる
鬼人たちよ。」

98 :酒呑の鬼王と天魔の宴 13:2013/09/04(水) 15:27:16.02 ID:m4UPFMfS
「!!?」

 気付くと、鬼王の姿が見えず、それが再び、唐突に立ち上がった黒金蟲の旦那の巨体
に視界が遮られたせいだと気付くのには、少し時間がかかった。
 さらに一拍遅れて・・・

「何をおおせられる!!!!!」

 旦那が、本気で、激昂していた。
 それは先ほどの高揚の比ではなかった。

「戦国の世の習いに終わりなどありませぬ!!!
否!!戦(いくさ)のことわりこそは、天界仏界人界魔界鬼界すべてを統べる唯一絶対の
真実!!!!
 比類なき大城とはいえ、安土の城が燃えたことなどいかばかりのことにございましょうぞ!!!
じじつ、信長公のあとを継ぎし者どもはそれを上回るはるかに巨大な城を築き、我らはそれをも
上回る鬼ヶ城を築いておりまするぞ!!??」

「ああ。『猿』の大坂の城も、『狸』の江戸駿府の城も安土の城よりははるかにデカかったなあ。
だが、デカさだけで言うなら、近ごろ『人界一』と言われる『すかいつりい』、なんてものもある。
・・・・デカさが問題なんじゃあない。
 あの城のほとりに在る琵琶湖には、我が故郷、越後国に降臨した『毘沙門天の龍』にもさんざん
噛み付いた・・・あの魔王にして覇王たるあの者にしてすらがもっとも恐れたという『甲斐の虎』
も眠っているというが・・・・
 あのときあの場にああいうものが現れ、それが二度と再び還らない・・・肝心なのは、そういう
ことなのだ。・・・黒き鎧の友よ。」

 友・・・??
鬼王のその意外な言葉に俺は一瞬、つまずきそうになったが、旦那は止まらなかった。

99 :創る名無しに見る名無し:2013/09/05(木) 03:08:02.33 ID:d7+4S5o0
おろ?続きは明日かな?

100 :品陀 ◆TOrxgAA4co :2013/09/05(木) 07:37:36.06 ID:xDsknn2g
>>99
すいません。
投コメと訂正で8レスいってしまって投下できなかったです。

今日はこれから仕事なので、今から少しだけ投下して時間があったら
夜にまた投下します。

101 :酒呑の鬼王と天魔の宴 14:2013/09/05(木) 08:01:07.74 ID:xDsknn2g
 鬼王と、旦那の問答が続く。

「そんなものは死すべきさだめの脆弱なる人のことわりにござりまする!!我ら鬼には
らち外のはず!!!なればこそ!!我らには全てを支配する資格がある!!義務がある!!
責務がある!!!!」

「鬼は人を超えたモノ・・・か。我にもそう思っていた時期はあった。だが、違うのだ。
違うのだ。黒金蟲、とやらよ。
 我もそう思い、鬼の力をもってずいぶんと、人や天人・・はては妖(あやかし)や鬼すら
もてあそび、いたぶり尽くしもしたのだがな、結局、満たされることなどありはしなかった。
 ・・・・おそらく、天界や仏界神界を蹂躙し、支配したところで、そうであろうよ。」

「馬鹿な!!天界神界仏界はあきらかに間違っている!!!
 あなたも見たはず・・・罪深きものが罰せられることもなく大手をふってのさばり、罪無きもの
が虐げれれ苦しめられるこの人界穢土(えど)の目も覆わんばかりの惨状を・・・・
 力持つ者には過ちを正す義務がある!!責務がある!!
 我ら天魔党にも・・・貴方にも・・・・・!!!!」

「・・・・その『罪無き者』にはお前達の国・・・『天里国』とその民も入るのか?
 ・・・たしか、海より出でし牛鬼どもに滅ぼされたのだったな?」

 そこで、両者ともに一息つく。
 旦那が静かに、やり返した。

「あなたの方こそ、だからこそ仏を、法を、僧を憎み、弘法伝教の二大師に挑んだのでは?」

 鬼王はしかし、その言葉には応じず、ただ、酒をあおった。

102 :酒呑の鬼王と天魔の宴 15:2013/09/05(木) 21:14:09.58 ID:xDsknn2g
永遠とも紛う、沈黙が通り過ぎ・・・

「・・・苦え、な。」

 鬼王が、そんなことを、ひとりごちる。
その酒は、さきほど俺たちに振る舞われたのと同じ酒のようだったのだが。

「苦げ〜ぇ、酒だ。まあ、こんな酒も悪くは、ない。悪くは、ないが・・・」

 鬼王が、つぶやく。
 正直、この二人の間に割って入れない俺自身の若輩が、心底もどかしく、腹立たしい。
 酒呑童子の言ってることは俺には測り知れないことだらけだったが、とりあえず「交渉」
は暗礁に乗り上げたあげく、最終かつ最悪の局面に向かっていることだけはあまりにも
明らかだった。

―自分をせめるんジャなイ。ボクにしてもそウさ。

 「最長老」の鬼駆慈童の思念が、虚しく響く。

―デモ、覚悟は出来てるんダロ?

 当たり前なことを言いやがる。
 黒金蟲の旦那を倒すのは、俺だ。
 ほかの誰にもそれだけは譲れはしない。その「場」と「時」が整うまではどこまでも旦那に
ついていくし、旦那の敵は、俺の敵だ。たとえ、それが伝説に謳われる大悪鬼の王、大鬼王
だろうと知ったこっちゃない。

 もう、とうに癒えたはずの、胸の傷の痛みが、甦る。
 俺は、あのとき、この痛みとともに、生まれた。
 たぶん、この痛みを忘れたとして、邪念の塊の・・・「鬼土」の意志、としての
「俺」は残るのだろうが、そんなのはもう、「俺」じゃない。
 そして、いま俺の目の前で静かに憤る黒甲冑の鬼人がいなくなることが・・・
その「痛み」が無くなることをも意味する以上、ここで「最悪の事態」が起きた場合の、
俺の取るべき行動、など、判りきった判りきったことだった。

103 :酒呑の鬼王と天魔の宴 16:2013/09/05(木) 21:38:01.24 ID:xDsknn2g
―生憎ダけど、キミにばかりいい格好ハさせなイよ?

 鬼駆慈童が、水をあけておきながら、水を差す。
全く、コイツは・・・

―「術師の長」としてハ、悔しいことダけど・・・『我が君』が行方不明で未だ探し出す
糸口も見えナい以上、党統括の要である、この脳筋虫を失ウことは、スナワチ、天魔党が
終わることをモ、意味すル。
・・・まア、任せておきタまエよ。この老体一つでもっテ、君たチを逃がすことくらイ、ワケない。

―躁に入ってボケてないか?鬼駆慈童?
「老体」っつっても、「体」のほうはまだまだ俺と変わらんようなガキだろうが!!
 俺のほうは、お前ほどの術師ならまた鬼土から別な「俺」をでも、いくらでも生み出せるだろ?
すっこんでろよ。

―ヤレヤレ、無茶を言わないで欲しいネ。キミのその旺盛にしてどこまでも純粋な闘争心や戦闘センスが
符の呪文字や試験管の中から自然に湧いテくるとでも思ってルのかね?
 そんナことがあルんなら、ボク等天魔党はとっくに天下を握っテいルよ?

―へいへい。だからこうして黒金蟲の旦那も猛者のスカウトに精を出してるんだったね、と。
俺が悪うござんした悪うござんした。

 まあ、そのスカウトに党最強の三巨頭が雁首を揃えて出張っていながら、こうして、このとおりの
かつてないピンチに陥ってる、というのはどうにも笑えない話だが・・・

と・・・


「・・・余興が、欲しいな。」


 俺と鬼駆慈童の覚悟をさえぎったのは、そんな、無類の酒好きの鬼王の言葉だった。

104 :酒呑の鬼王と天魔の宴 17:2013/09/05(木) 22:07:16.09 ID:xDsknn2g
「余興?」

 旦那が訊き返し、俺たちも思わず鬼王を見返すと、そこには、あの「童子」のような、
底なしに悪戯っぽく、底なしに不気味な、あの笑みが浮かんでいた。

「うたた寝をもよおすような甘い酒も良いものなのだが・・・
 苦い酒には、こう、目の覚めるような余興があると、最高なのだぞ?
 そなたら、戦国の世より生きているというなら、もうかれこれ四・五百年は
生きておるはずだが・・・くくく、まだまだ酒の愉しみ方を知らんと見えるなあ?」

 そう言うと、鬼王は手持ちの酒を飲み干す。
 しかし、近くに控える茨木童子は、今度は替わりを注ごうとはしなかった。

「なにぶん若輩の身、『酒呑』の名を冠する鬼王の御身にそう言われては、返す言葉も
ありませぬな。」

 旦那もまた、表面には落ち着きを取り戻していた・・・が、それが、ひといくさに臨む
滾りを秘めた落ち着きだってことはあまりにも明らかだった。

「それに加え、粗相(そそう)を働いた客分としては饗応の主の求めには何を措いても応えねば
ならぬというもの。
 はてさて、偉大なる酒呑の鬼王さまは一体、なにを求めることやら?」

 そして、俺の知る、いつもの旦那のあの自身たっぷりの不敵な調子で、続けた。
 その、後半は完全にとぼけた風の旦那の言葉に・・・


 伝説の大悪鬼と呼ばれる・・・
 大鬼王・大江山の酒呑童子は、高らかに哄笑し、答えた・・・・!!!!!!




「その苦げ〜ぇものを!!!ぜ〜〜んぶ!!!ぶつけてきな!!!!!
我も、鬼よ!!!!毒を喰らわば・・・・皿までも、喰らってやろうぞ!!!!!!!」

105 :酒呑の鬼王と天魔の宴 18:2013/09/05(木) 22:39:55.60 ID:xDsknn2g
 その、鬼王の言葉が終わるか、終わらないかの刹那―

「中成転身(なかなりてんしん)!!!・蜘蛛成(くもなり)!!!!!」


ダダダダダダダダンッッッ!!!!!!!!


 一瞬にして、その下肢の全てを蜘蛛のそれと化し、跳躍力・疾走力を乗算飛躍的に高めた
旦那が跳ね―



「茨木、手ぇ出すなよ。こいつは・・・宴の主の『俺』だけの愉しみだ・・・!!」


 涼しげにそんなことを言った鬼王は、旦那が、地上疾駆においては、最速・最強の形態である、
「蜘蛛成」形態からいきなりもいきなりに放った・・・本気も本気の、渾身の正拳突きを・・・
こともあろうに、寝転がったまま、指・・・一本、・・・否・・・!!??爪、一枚、で・・・!!、
止めていた・・・!!!!!


「!!!?」


―さすがに、言葉を飲んだ、俺の背後の・・・

「ずるう御座いまするな、我が君。」

 まるで、睦みごとでも言うような距離から、そんな言葉が、かけられた。
 振り返り見ると、あのオトコオンナ(オンナオトコ?)の鬼、茨木童子が、
俺の背後すぐの位置で、腕を振りかぶったまま、その姿勢を止めていた。
 その腕には、袖の中から生え出でた無数の茨のツタが複雑に伸び、凶暴なまでに
絡み合っていた。

106 :酒呑の鬼王と天魔の宴 19:2013/09/05(木) 23:01:35.74 ID:xDsknn2g
「!!??」


 再び、俺は息を飲む。そんな俺の驚愕をよそに、この、主と共にその名を伝説に刻む
大鬼は続ける。

「せめて、この者くらいは譲ってくれても?なにやら・・・この私と同じ匂いが致しますゆえ、
さきほどより気になっておりましたのですが。」

「駄目だ。」

 鬼王の返事はにべもない。

 ・・・・・・・・・・

 て、いうか、・・・・・『同じ匂い』・・・?『気になっていた』・・・・・?

 あまりにも引っかかる、あまりにも引っかかる、その茨木童子のその言葉に気を取られた隙に・・
・・・・


「!!!!????」


 俺は、その鬼に、大事なものを奪われてしまっていた・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・つまり・・・・・・・・・・・・・唇・・・・・・・を・・・・・・・。


「☆○△×◎□★☆●▽!!!!????〜〜〜〜〜〜!!!!!」

 言葉にならない言葉を叫び、俺は、俺の切り札のはずの神器・干餓鬼を、こともあろうか、
真っ先に取り出し、滅茶苦茶に振り回していた・・・・・・・・と、おもう。
たぶん。

「頑張ってね?お嬢ちゃん?」

 そう妖艶に微笑み、ぞっとするほど美しい鬼女(?)が消えていったような気がしたが、
それが奴だったかどうかは判らない。
 今にして思えば、その時点で切り札を出したのみならず、『奥の手』まで見透かされていた
ことにも気付かなかったのは、不覚、というよりほかはない。

107 :酒呑の鬼王と天魔の宴 20:2013/09/05(木) 23:22:45.68 ID:xDsknn2g
「ちょッ・・・!?落ち着きたマエよ!!ヌエ!!?」

 鬼駆慈童の制止の声が聞こえたような気がしたが、俺は止まらない。
 鎖鎌である干餓鬼の鎖と鎌と分銅が広間中を荒れ狂い、襖や欄間、柱や畳を縦横無尽
に切り裂き、抉り、その精気を吸い散らし、塵と化さしめる。


ガッ!!!!


「!?」

 と・・・しかし、干餓鬼はほどなく、鎌部分が何か重たい重たいものに深々と突き刺さり、
その動きを、止める。
 ぴくり、とも動かない。
 一拍遅れて、俺はその刺さった「もの」に、愕然とする。


「痛えな。」

・・・それは、まるで、蝿が止まったのを鬱陶しがるかのようにつぶやく、鬼王の、
こめかみ、だった。鬼王は旦那の正拳を相変わらず留めたまま、干餓鬼の鎖をもう一方
の手でいじりつつ、続ける。

「鎖、か。懐かしいな。鎌の方の刃もなかなかのものだが、この鎖も・・・『神器』として
実に良く鍛えられている。・・・・さすがに『あの時』俺を縛り付けた神鎖には及ぶべくも
ないが。」

 人間、どころか並みの鬼でも即死していておかしくないような状態だというのに、鬼王は
まるで世間噺でもするかのような調子で、語る。

「しかし、ヌエ、と言ったな?」

 そして、続けて、はじめて俺の名を呼んだ鬼王の言葉には・・・

「このままで良いのか?」

 あろうことか、俺を気遣う色が込められていた!!!?????

108 :酒呑の鬼王と天魔の宴 21:2013/09/06(金) 14:05:18.65 ID:F/Y3FbS/
「・・・!?・・いかん!!ヌエ!!干餓鬼をすぐに退け!!!」

 その鬼王の言葉を真っ先に理解したのは、俺ではなく、旦那だった。鬼王と旦那の不可解な
気遣いに俺の理解が追いつくのを待つことなく、俺の身に『異変』は訪れた。


 ジュウウウウウウゥゥゥ・・・・・


 まず、何かが焼け爛れるような音がし・・・

「ぐあっ!!!!????」

 その、強烈な激痛と、それでいて四肢を失う喪失感をも兼ね合わせているような感覚に・・・
俺は「忍び」としてはあるまじき大きな苦悶の声をあげてしまった。

 見れば、干餓鬼を握った俺の利き腕が肘の下までどす黒く黒ずみ、まるで汚水が沸騰するかのように
泡立ち、腐った肉の焼け焦げるような強烈な異臭を放っている。

「ヌエ!!?まずい!!まずいよ!!!すぐに干餓鬼を放すんだ!!!」

 鬼駆慈童が、思念ではなく、その依り代となっている少年の声帯を大きくふるわせ、俺に
叫ぶ。・・・しかし・・!!

「ぐっ・・・ダメだ・・・外せねえ・・・・!!!」

 干餓鬼を握った俺の右手は完全に硬直しきり、俺の脳からの指令をいっさい受け付けず、
それどころか黒く溶けた肉がくっついて固まり、外そうとして触れた手にまでその腐食を
移しかけ、俺は思わずその手をはなす。
 そうしてる間にも腐食はみるみる拡がり、干餓鬼を握る腕の肘を飲み込み、二の腕から肩
までにも達しようとしていた―


「『干餓鬼』・・・というのか?まるで、生き血をすする妖刀・村正だな?
肉や魂ではなく、血や精を好んですする―
 そんな鬼が持つエモノとしては、この上なく上等な代物だが・・・」

 こちらの大ピンチなどどこ吹く風の、変わらず涼しげで憎たらしいことこの上ない調子で、
鬼王が言う。

109 :酒呑の鬼王と天魔の宴 22:2013/09/06(金) 14:35:17.00 ID:F/Y3FbS/
「俺は酒も好きだが、その肴(さかな)にするに相応しい美しき木石草花も大好き
でな。天界神界人界魔界鬼界仏界を問わず、色とりどりのそうした景物を集めさせては
我が自慢の庭園に植え、愛でておる―」

 そういうと、鬼王は先ほどから旦那の正拳を止め続けていた指とは別な指を動かし、旦那の拳を―
ごく軽く―弾く―


「――――!!??」


「いカん・・・・!!?、呪具『鬼蜘蛛』!!!!」


 旦那の巨体が・・・たったそれだけの動作で―大きく吹き飛ぶ。
とっさに鬼駆慈童が投げつけた呪具の『網』を展開し、それを受け止めたが、それが
なければ旦那の巨体は館の壁をぶち破り、はるか彼方へすっ飛ばされていたかもしれねえ。


「―そんな、我が園の愛すべき草木花々を永遠(とこしえ)に枯れさせまいとする、我が『命』を
吸い尽くさんとするには・・・使い手の『器』がちと足らぬな。ヌエとやら。」

(『ちと』・・・どころじゃ、ねえだろが!!!クソが!!!!!!)

 出来ればその悪態は口に出して吐き捨ててやりたかったのだが、今の俺にはとてもそんな
余裕はなかった。
 干餓鬼を通して流れ込む大鬼王酒呑童子のあまりにも、あまりにも膨大な生命力エネルギー
は、本来なら無尽蔵に邪気も命も吸い尽くすはずの、俺の「鬼土」で出来た血肉すらをも飽和
させ、癌化させ、腫瘍化させ腐れ落ちさせていたのだ。

 意識が、混濁する。

 いよいよヤバイ、と思ったときだった―


「許せ!!!ヌエ!!!!!」


 旦那の気合の込もった裂帛の声と共に、肩に鈍くも強い衝撃が走り抜けた感覚
がして・・・俺は、我に還った。

110 :酒呑の鬼王と天魔の宴 23:2013/09/06(金) 15:12:44.08 ID:F/Y3FbS/
 先刻から較べれば、嘘みたいに覚めきった頭と目で旦那のほうを見やると、その手には
旦那の愛刀である神器・黒砂刀(くろざとう)が握られていた。

 続いて、俺の愛器を確認しようとして、俺はそれが、それを扱うべき俺の利き腕ごと、
なくなっていることに気付いた。

 ブスブスブス・・・・

 あたりに、炭が真っ白な灰と化すときに立てるような音が響き・・・


「これは『鬼土』・・・か?」


 俺に縁の深い単語を口にする鬼王の・・・どこか、面白いものを発見した子供が発するような
調子の声が、響く。
 鬼王の、先ほど、旦那を吹き飛ばした指には、俺の愛器、干餓鬼とともに、それを握るよく見慣れた
ものが、つままれている。もっとも、それは俺の見慣れたものとは違い、真っ白に燃え尽きており・・・

 ボロ・・・

 次の瞬間には崩れ去り、鬼王の指には干餓鬼だけが残されていたが。

「大陸の天竺より渡り来る白面金毛九尾の狐の姿をせし『本成』の鬼が
姫御前(ひめごぜ)玉藻(たまも)の前を経て、さらに岩に宿り、『殺生石』
と化したことがあったが・・・
 邪気や鬼気を帯びた鬼土が逆に人の形を成し、『鵺』と化したのか・・・・!!!
 これは・・・おもしれえ!!!
 おい、茨木!!!!
 お前が興味を持つだけはあるじゃねえか!!!黙って独り占めしようとしてたのか!!?
ずりぃぞ!!!!」

「・・・・・独り占めしたのは貴方でしょうに。壊しかけておいて今さらそれはないのでは?
・・・だから私が『遊び』たかったというのに・・・・・」


 ・・・・・・こっちの茫然自失など、相も変わらずどこ吹く風で、鬼王がはしゃぎ、その忠実なる
側近がそれを難じる。

 むかっ腹の立つことこの上ないのは確かだが、なんとかその屈辱をはね返し、俺は
状況を再確認する。

 まず、鬼王に突き立った干餓鬼から流れ込み、鬼土で出来た俺の体すらも飽和させ、俺を
殺しかけた無尽蔵にしてチートもチートなその生命エネルギーから俺を救ったのは、旦那と
その愛刀である神器・黒砂刀だ。

 今も隙なく鬼王に愛刀を突きつけ、不動の姿勢を保つ旦那はあのとき、俺の干餓鬼を握った
利き手を肩から斬り落とし、俺の身体を蝕み滅ぼしかけていた鬼王の生命エネルギーの奔流、
否、濁流を断ったわけだ。

111 :酒呑の鬼王と天魔の宴 24:2013/09/06(金) 15:39:37.26 ID:F/Y3FbS/
 まあ、干餓鬼の鎖を断つ、とかそもそも鬼王に刺さった鎌の方を引っこ抜く、とか
いう手もあったのだが、旦那の黒砂刀同様に神器である以上、(旦那の膂力を疑うわけでは
ないが)そうそう簡単に断ち切れるものでもないし、爪一本で天魔党一の旦那の剛力を受け
止め、そんな旦那の巨体を、「蜘蛛成」と化したその下肢の踏ん張りごとデコピン一発で
すっ飛ばすような、規格外も規格外の剛力を超えた剛力の持ち主の間合いに再び入って鎌
を引っこ抜くなんて、自殺行為もいいとこだ。
 良質(?)の鬼土さえ補給できれば(そうそうあるものでもないが)、俺の腕も再生できる
以上、旦那の取った行動はベストと言えた。


「また借りが出来たな。旦那。」

 いつでもそのフォローに回れるよう徒手空拳の構えをとりつつ、旦那の背後に控え、言うべきことを
言う。

「礼ならば、この『交渉』を成功させた暁の、宴の席で聞こう。」

 予想どおりの答えが、返ってくる。

「ソモそモ、生きて帰れるのかネ?こレは?」

 いつもどおりの口調ではあるものの、その内容には一片の余裕もうかがえないことを
言いつつ、鬼駆慈童も同様に、控える。


「これは返すぞ。い〜いエモノだ。せいぜい大事にしな。」


 こちらの覚悟に水を差すような鬼王の声が響き、干餓鬼が投げて寄越された。
 一応、油断なく回収してはおくものの、さすがにこの場ではもう使う気にはなれない。

(おい、鬼駆慈童、この状況を打開できる・・・なんかいい『術』はないのかよ!?)

 警戒は維持しつつ、鬼駆慈童へ思念を飛ばし・・・

(残念なガら、ナイね。)

 そして、すぐにそれを後悔する。

112 :酒呑の鬼王と天魔の宴 25:2013/09/06(金) 16:08:00.70 ID:F/Y3FbS/
(ひとつの国の人間をまるまる鬼に変えたのはお前だろうが!!??
ここで役に立つ術のひとつやふたつくらい知らないのかよ!!!???)

(勘違いしないデくれたマえ。ボクが変えたのハ『鬼人』であって、『鬼』そのもの
じゃあナい。
 キミもさっき言っタだろウ?このどこまデも純粋な『鬼』にしテ大鬼王たる酒呑童子
が使ってルのハ限りなく神の『奇跡』に近いナニカ、だし、その存在の仕方そのものが
ボク等『鬼人』や『心の鬼』とはなにか・・根本的に、違う。
 ・・・もとは越後国に生まれた人間ダッタ、というから対峙すれバ必ずのその正体の
糸口を掴メるはず、と思ってたケド・・・甘カッタヨ。)

(『鬼人』と『鬼』が違うのは判ってる!!だが、お前ら『鬼人』はそれでも、天里国に
攻めてきた・・・その『純粋な鬼』に勝ったんだろ!!?
 じゃあ・・この鬼王やあの、『オトコオンナ』にだって!!!)

(『オンナオトコ』では?)

(やかましい!!!!アレは断じて『オトコオンナ』だ!!!!!!!
・・・って、ンなことはどうでもいい!!!!!!!

 とにかく、『純粋な鬼』に勝ったこともあるんなら、この場だって打開できるはずだろ!!
四の五の言わず、お前の知る限りの術をまず片っ端から奴らにぶつけてみやがれ!!!!)

(そんナこと、さっきからやっテるヨ?)

(・・・・・・・・!!???)

 鬼駆慈童の、その思念からは、こいつには珍しい忸怩たる屈辱の感情すらも、伝わってきて
・・・俺もさすがに絶句しないではおれなかった。

 鬼駆慈童は、続ける。

113 :酒呑の鬼王と天魔の宴 26:2013/09/06(金) 16:31:44.71 ID:F/Y3FbS/
(さっき『術』ではなク、そもそモ黒金蟲自身の出した蜘蛛糸かラ作った・・・
呪具『鬼蜘蛛』を使ったのハそういうワケなのサ。
・・・ボクらの「天里国」を滅ぼしたのはたしかに、さっき鬼王も言った『牛鬼』だった
けど・・・奴らは一体、なんだったノか・・・・
 知ってのとおり、キミの部下には『黒丑ミキ』というその『牛鬼』を自称する少女もいるが、
たぶん、彼女と奴らモまた、根本的に異なっテいる、と思ウ。

 ・・・ワカラナイ、・・・ワカラナイヨ・・・どうして、あの時、ボク等はあの「鬼」たちに
勝てたのか・・・
 アレは・・・そもそも『牛鬼』は純粋な鬼、ナノか・・・?)

(待て!!鬼駆慈童!!!鬱になるのはここを切り抜けて『俺たちの』城に帰ってからにしろ!!!
考えるのを放棄するな!!!!!まだ試してない術もあるだろ!!試し続けろ!!!!)

 さっき、コイツは旦那が終わったら天魔党も終わる、てなことを言ったが、今、コイツに鬱になられて
も天魔党は、終わる。
 正直、鬼王の「生命の激流」は俺の全身を駆け巡り、たんに片腕を失う以上の深刻なダメージをも、俺
の身体に刻んでいたが、
それでも―


 こんなところで終わってたまるか―


 旦那との決着を付けずには終われない―死んでも死に切れない―・・・
気付けば、そんな思いが、形を変え、この、頭はどこまでもいいが、躁鬱で不安定な
若年寄を叱咤させていた。

114 :酒呑の鬼王と天魔の宴 27:2013/09/06(金) 16:57:35.13 ID:F/Y3FbS/
(無駄ダヨ・・・『究極の鬼』にして、『無』の鬼、『仏』の鬼とも言える・・・
『明王』はその視線ひとつで、鬼も、鬼の呪いや術・・・執心や怨念すらも消し去って
しまうというケド・・・その・・・『仏』に挑み続けタ、というこの鬼王の視線はまさシク、
ソレだ・・・・!!!!
 この鬼王に匹敵するという、いにしえの大悪鬼・・・『吉備冠者・温羅(きびのかじゃ・うら)』
に英雄・『吉備津彦(きびつひこ)』がしたとおり、その目ヲ潰すか・・・
 かつて、この鬼王に頼光がしたように眠らせるかしてその目を閉じさせるかしない限り、術は
『術』のもとである『呪』や『式』ごと、根こそぎかき消されてシまう・・・!!!)

(なら、どうにかして奴の目を塞げば・・・)

(そンナ単純な問題じゃなイ。物理的に目を塞いだり、潰したりしても無意味ダ。
断たなければならなイのは、鬼王のボクらに対する認識や認知そのもノだからネ。
だカラこそ、英雄吉備津彦は神器の弓矢で・・・本来なら無限に再生すル筈の鬼王
温羅の目をその再生力ごと潰し、頼光は神の酒で眠らせて、その意識ごと鬼王の
認知や認識を閉ざしたんじゃあナいか!!!!!!)

 その、悲鳴じみた、鬼駆慈童の思念に・・・


(『神器』ならば・・・我らも持っているではないか―)


 落ち着き、そして、静かな覚悟に満ちた思念が、割り込んできた。
 誰のものか、なんてのは、考えるまでもない。

(それは・・・アンタのその、『黒砂刀』のことか・・・!?しかし、同じ『神器』の
俺のは・・・・)

(たしかに・・・一見、利かなかったようには、見える。だが、鬼王がそれをそのまま破壊
もせず、そのまま返して寄越したのが、『破壊しなかった』のではなく、『破壊できなかった』
からだとしたら・・・?)


!?

115 :酒呑の鬼王と天魔の宴 28:2013/09/06(金) 21:25:29.91 ID:F/Y3FbS/
 思わず、俺は干餓鬼を見やる。そういえば、鬼王のあれだけ底なしの生命力の奔流に
さらされた、というのに俺の身体とは違い、傷ひとつない。
 これが、鬼王もさきほど口にした、強い呪力を持っていたとしても人の手に成るモノ
の域を出ない、村正、のような並みの妖刀なら、俺の腕同様、鬼王の生命力に耐え切れず、
腐り錆びて朽ち果てていたはずだ。

(あれしきのことで取り乱すのは、褒められたものではないが、貴様のお陰で鬼王に挑む
糸口に確信が持てた。礼を言うぞ、ヌエ。)

 あ・・・あれしきぃ・・・・・???
 俺にとっては、あんなオトコオンナに(女だ!!あれは、断じてオンナだ!!!)・・・
「初めて」を奪われたことは人(?)生の大事も大事も大事も大事なのだが、さすがに、
そんな覚悟と落ち着きに満ち礼をも尽くした、武人として非の打ち所のない旦那の思念
には二の句を継げなかった。

 だから、俺は、俺が、ほかの誰でもない、俺だけが言わなければならないことを、旦那に、
声に出して、告げる。

「確信と・・・覚悟はいいとして・・・旦那、俺の言葉を忘れちゃいないよな?」

「ふ・・・『お前を倒すのは、俺だ。』・・・か?ヌエよ。」

「解ってるんなら、いい。」

 もう、何を語らずとも、いい。旦那がやると決めたんなら、俺は影として、その全てを
支え抜くだけだ。

「ヤレヤレ、付き合いはボクのほうが遥かに長イはずナんだが・・・」

 鬼駆慈童が、割って入る。

「キミたちは本当に良いコンビだヨ。まあ、ボクも負けないガね?」

116 :創る名無しに見る名無し:2013/09/06(金) 21:30:29.67 ID:47veM2Rj
これは…そもそもが勝負にならない?!

117 :酒呑の鬼王と天魔の宴 29:2013/09/07(土) 13:45:13.98 ID:QHoxuCu+
「鬼駆慈童、これより私は鬼王の『無』に我が『無』をぶつける。
 その後で使う術は・・・解っていような?」

「無論だトも。」

「ヌエ、干餓鬼と利き腕なしでどこまで援護できる?」

「安心しなよ、旦那。」

 ああ、そうだ。これこそ、旦那だ。
 これこそは俺・・・・・・いいえ、
 『私』の、旦那よ。



 既に、私、の準備は、整っている。

「この腕じゃ四肢をフルに使う『虎成(とらなり)』は無理だけど・・・そもそも四肢の
いらない、もうひとつの『奥の手』なら・・・・・問題ないわ。」

「ふ・・・そうか。」

 私の口調の変化で、旦那はすべて察してくれたようだ。

 そう、雄々しく猛る心を最大限に解放する「虎成」と違い、コレ、は柔らかく、しなやかな心
を最大限に解放しなければならない。

 しぜん、私の思考までもがぐにゃり、と、あたかも熱っせられた鉄が曲がるように、どこまでも、
どこまでも柔らかく、なっていき、心は積み上げられる論理性より、昂ぶる感情のほうが、強まって
いく・・・


「ふふふ。」


 不快極まりない、あのオンナオトコ(アレはオトコよ!!絶対に・・・オトコよ!!!!)の
鬼の含み笑いが聞こえる。

「どうやら、『お嬢ちゃん』の姿を拝めそうね?」

 見破られていたことは、この際、どうでもいいこと。

と―

 気付けば、鬼王が、その身を起こしていた。


「冴えている。・・・・・苦いが、じつ〜〜〜〜〜に、良く冴えた酒と、余興だ。
宴もたけなわ、だな?」


 ただ、それだけの動作なのに、寝ているときとは、別次元のプレッシャーが、かかる。

118 :酒呑の鬼王と天魔の宴 30:2013/09/07(土) 14:11:58.96 ID:QHoxuCu+
 けど、構うものですか。
 プレッシャーに抗するのは、旦那が、してくれる。私は、流せばいい。そうして切り抜ける
ことができたなら、活路は後方の鬼駆慈童が必ずや見出してくれる。
 私たちは三位一体。鬼王酒呑童子、貴方は一体。そこに必ず、付け入る隙がある。


 すう・・・


 身体の『変化』を完結させるべく、私は大きく息を吸い込み・・・


「中成(なかなり)転身・蛇成(へびなり)!!!!」


 吐き出すとともに、それを完結させる。
 すでに柔らかく溶けていた精神と、思考の在りようが、身体の隅々まで波打って伝わり、
満ち満ちていくのが、はっきりと実感できる。
 肩は首に向かって縮み、胸筋の緊張がほぐれると共に、大地に向かって垂れ落ちる双丘の
重みの感覚が生まれる。腰の上部が引き絞られるのとは裏腹にその下部は逆に拡がり、腿の重み
が増し、股の間の感覚は・・・・・まあ、語らないでおきましょうかしらね。

 ようするに、私の身体は、「力」に満ちた男の身体から「しなやかさ」に満ちた女の身体、に
変化していたのだ。身体の重心もそれに伴い、かなり変化していたのだけれど、「人間部分」の重心
は今はあまり重要なものではなかった。

「おやおや生めかしいこと。」

「それ」に対しまっさきに感想を漏らしたのは例のごとくあの女男だったが、それに続く鬼王の
感想はもっと具体的だった。

「蛇・・・か。それにしても性まで変えての変化(へんげ)とはな。」

 そう―私の膝から下は左右一体となって長く長く伸び、びっしりと鱗に覆われた蛇身と
なっていた。

119 :酒呑の鬼王と天魔の宴 31:2013/09/07(土) 14:42:26.64 ID:QHoxuCu+
 生あるモノが生ある肉の身のままに鬼と化したモノを『生成(なまなり)』と言い、
それが、純粋なる精神体の鬼に近づくごとに『中成(もしくは、半成)』・『本成(ほんなり)』
と呼ばれるモノに成る、というが、さっきまでの、己を「俺」と呼んでいた青年の姿を私の
『生成』とするなら、この蛇女の姿こそは、私の『中成(なかなり)』と呼ぶべき姿だった。

 もともと獣の性(さが)が強く、一種の合成獣(キメラ)である「鵺(ぬえ)」の名を持ち、分類
としては獣鬼、とでも呼ぶべき鬼の私には、もうひとつ、男身のまま『中成』となる、
『虎成(とらなり)』という、純粋に力と疾さ、そして爪牙の鋭さを増す形態もあったのだが、
こと「力」においてはそもそも四肢が揃っていたとしても黒金蟲の旦那に敵わない上、そんな旦那
の全『力』を指一本、爪一枚で受け止め、デコピン一発で弾きとばす規格外も規格外の『力』を持つ
ような鬼王には「力」とは異なる『強さ』をぶつけるしかないことはあまりにも明らかだったのだ。

―この形態でもって・・・この形態の『強さ』でもって、旦那や鬼駆慈童の『強さ』をうまくつなげる
ことが出来れば・・・鬼王の『力』にだって抗しうる。


 根拠を問われれば答えには窮したのでしょうけれど、そのときの私には、そんな奇妙な確信が、確かに
あったのだった。


 ベシャリ・・・・・


 まるで、流れ滴り落ちる水のように、私は地に伏すと・・・


 シュルシュルシュルシュルルルルルル!!!!!!!!


 あたかも、地を這う稲妻のごとく、鬼王に這い寄り・・・・・!!!!


 ダン!!!!!!!!!!


 それに呼応して、黒金蟲の旦那が、跳ぶ!!!!!



「限定本成転身(げんていほんなりてんしん)!!!!!!!
 ・甲王成(こうおうなり)!!!!!!!!!!」

120 :酒呑の鬼王と天魔の宴 32:2013/09/07(土) 15:12:42.10 ID:QHoxuCu+
 そして、その身を蟲の王者のそれと化えその翅で宙を疾駆し、振りかぶった愛刀を、
あたかも甲虫王のその角のごとく頭上に掲げ・・・・全身を一振りの剣(つるぎ)とし、
鬼王に迫る!!!!!!

 鬼王は、這い寄る私には目もくれず、まるで軽く虫けらでも(間違ってはいないが)摘まむような
仕草で、旦那の黒砂刀を、止めようとする。

 さきほどの様子を見るかぎり、たとえ旦那がエモノがを拳から神器の刃に変え、さらには中成の上
を行く・・・制御不能の「本成」の力をぎりぎりの分で解放させて叩き付けたとしても、この鬼王には
たいした違いではないのだろう。
 ましてや、中成に過ぎないこの私の蛇身がその身に絡みつき、渾身の力をもって締め上げたとして、この
鬼王は意にも介さないのだろう。


 だが・・・鬼王よ、貴方がいかに桁外れの力を持っていようと、その身は「地」に支えられ立っている!!!
それが・・・貴方の『隙』なのだ!!!!!
 ・・・・貴方を支えているモノが・・・貴方ほど頑丈でも不可侵でもないのは・・・・さっき「干餓鬼」を
振り回したときに判っている!!!!!!


「む・・・?」


 蛇の姿を取った獣鬼蛇妖である私の・・・その定番と言っていい巻きつき、締め付け
攻撃が、然るべきタイミングに来なかったことを、鬼王が訝る。

 そう―

 目にも止まらぬ疾さで鬼王に這い寄った私は、しかし、その蛇の本能には背き、獲物たる
鬼王に「巻きつき」などはしなかったのだ。

 私は・・・その蛇身でもって、鬼王を、「包囲」していたのだ。
 あたかも、西洋の魔術師が悪魔を喚び出し、閉じ込める際に地に描くという、
円陣・魔法陣のように。


「!?」


 そして・・・
 鬼王がその「意味」に思いを巡らすよりも早く―
 私は、『虎』でも、この『蛇』でもない、本来の姿に、還る―・・・
 すなわち、人の想い、邪念や鬼気をはち切れんばかりに吸った―
 ―『鬼土』へと―



ガッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!

121 :酒呑の鬼王と天魔の宴 33:2013/09/07(土) 15:40:22.34 ID:QHoxuCu+
 私と―旦那の狙いは、見事なまでに、図に当たった。
 鬼土と化し、瞬時に鬼王の足場の畳や床と同化した私は、すぐさまそれをぬかるませ、
鬼王の身体を目一杯に、揺さぶったのだ・・・!!


 しぜん、旦那の刃を止めようとした鬼王の手は空を切り・・・


 タラ・・・


 もとの蛇身に戻った私は・・・たしかに、見た。
 その眉間を捉え、打ち据えた黒砂刀の刀身に・・・
 絶対不可侵にして無敵と思われた大鬼王・酒呑童子の血が一筋、流れ往くのを・・・


 しかし・・・


 「くく・・・」


 静まり返った広間に、低く、小さく、しかし、恐ろしいくらいにはっきりとした、鬼王の嗤いが
こだまし、染み渡ったかと思うと・・・・


「くくくくははははは!!!!!!!
 あはははははは!!!!!!!!
 かははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!・・・・」

 次の瞬間には、文字通り、爆発するような、「大爆笑」へと、転じていた。
 空気までもが、びりびりと、震える。


「いい!!いい!!!いいぞ!!!!お前ら!!!!!!
 かははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!
 いつ以来だ???こんない〜〜〜〜いのを、貰ったのは????
 くはははははははは、伝教大師最澄坊よ!!!弘法大師空海坊よ!!!!
 お手前らの錫杖や独鈷(とっこ)の一撃を思い出すぜ!!!!!!
 あれはすっっっっっっげえ、効いたなあ!!!!!!!!
 そういや『太平の大乱』の時にゃこんな『無の刃』を振るう強〜〜〜〜ぇ侍も
 いたっけなあ!!!!????
 こいつは・・・・苦え苦え苦ぇ酒に相応しい・・・最高の余興だ!!!!!!!!」

122 :酒呑の鬼王と天魔の宴 34:2013/09/07(土) 16:07:47.13 ID:QHoxuCu+
 そう言うと、先ほどから微動だにしない旦那の黒砂刀にその眉間を打ち据えられたまま、
傍らの盃に手を伸ばすと・・・

 ゴクゴクゴクゴクゴクゴク・・・・

 いつの間にやら満杯に注がれていた酒を一気に飲み干し・・・


「ぷは〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっっっ!!!!!!!!!
 旨え!!!!!旨え!!!!!苦ぇが・・・・!!!旨え!!!!!!!
 いやいやいやいやいやいやいや!!!!!
 この一杯のために生きてんな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!!!!」

 ・・・このうえなく、オヤジ臭いことを、のたまう。

「ホント、我が君ながら、なんとかならないのかね。この親父臭さは・・・」

 不意に、思っていたことと全く同じ感想が投げかけられたので、見やるとそこにはオンナオトコ・・・
もとい、茨木童子が大酒瓶を携えて佇んでいた。
 どうやら先ほどの酒を注いだのも彼(女?)らしい。

「でも、ありがとう。」

 ずずい、と顔を近づけてくると(当然、唇はガードした)、そんなことを、言ってくる。

「あんなに楽しそうな我が君はほんとうに、何百年かぶりですものね。」

 その物謂いは、まるで、恋人のように優しげで・・・

「・・・だから」

 そして・・・

「くれぐれも、失望させないでね。」

 ・・・底なしに、冷たかった。

 ぴたり、と鬼王の哄笑も止んでいた。
 さきほどから、そこは何も変わっていない。
 旦那が黒砂刀を鬼王の眉間に振り下ろしたまま、何も変わっていない。
 変わっていない・・・が・・・



「これで、終わりじゃないよな?」

123 :酒呑の鬼王と天魔の宴 35:2013/09/07(土) 16:39:22.31 ID:QHoxuCu+
 鬼王の顔が、およそ「酒呑」の名にふさわしからぬ、素面(しらふ)の顔に、変わっていた。
 私の、蛇身のその長い長い背筋を、脳天から尾の先まで、冷たいものが一気に駆け走る。


(こいつ・・・)


 こいつは、「余興」と、言った。酒の席の、遊びだと、言った。だが・・・

(本気なの・・・・・・・!!!????)

 その、「余興」を鬼王が終わらせようと思えばいつでも終わらせられたのは、あまりにも、
あまりにも、明らかだった。
 さっき、干餓鬼を突き立てられたときに、あえてあの命の奔流の流れを強めていたとすれば、
私はとうにただの真っ白な土くれと化して散っていたし、旦那を弾いたデコピンが旦那の放った
のと同じ正拳(どんな威力かは・・・想像したくない想像したくない)だったとしてもおかしくない。
鬼駆慈童に至っては、睨みひとつでその外見どおりの無力な少年にされてしまっているのだから、
言うには及ばない。

 鬼王は、明らかに「本気で」手加減して、私たちの実力以上、を出させようとしている・・・つまり・・・

(なめプ、ってわけ!!!!!!???????)

 私は、心の中で、あまりの屈辱に、絶叫していた。
 これが―大江山の大鬼王・酒呑童子―・・・・・

 蛇身の体が、わなわなと震え、屈辱と怒りが、恐怖と―絶望へと―変わりかけた、
そのときだった―


「フタリとも、グッジョ〜〜ブ、だヨ?」


 小憎たらしいことこの上ないが、このときばかりは、天使のような少年の澄んだ
声が、響き渡った。

 見やると、そこには、その身の回りに色とりどりに光る術式文字の散りばめられた、
円形・方形・角形さまざまの立体術式陣・魔法陣を十重二十重(とえはたえ)に、
幾何学的に展開し纏う翁面の少年が半ば宙に浮遊しつつ、佇んでいた。

124 :酒呑の鬼王と天魔の宴 36:2013/09/07(土) 17:09:47.10 ID:QHoxuCu+
「鬼駆慈童!!」

 正直、コイツにここまで仲間意識を感じたのは、私の短くも濃厚な生の中にあっても、
これが初めてのことだったかもしれない。


「ほおう・・・」


 鬼王が、さきほどの底なしに冷酷な表情とはうって変わり、底なしに愉しげな
表情で、その光景を、愉しむ。

「坊や・・・いや、今は嬢や・・・か、・・のエモノもなかなかたいしたものだが、
俺が『仏』より盗んだ『滅却の鬼眼』を破るとはな。この神器の太刀も・・・お前さん
や嬢ちゃんの腕同様、たいしたものだ。
 ・・・銘は何という?黒金蟲よ。」

「『黒砂刀(くろざとう)―』と申しまする。お褒めに預かり、恐悦至極―」

 鬼王の賞賛に、旦那はそつなく答えた。

「『黒砂刀』に『干餓鬼』か―そなたらの名同様、覚えておくぞ。大事にすることだ。」

 鬼王の愉しげな賞賛は続き、そして・・・


「おい茨木!!!最高の贈り物をくれた客人に返礼する!!!!
 『大師』を見せてくれようぞ!!!!!!!」

「なっっっ!!?????ちょっと待たれよ我が君!!!!!
 『大師』をこんなところで振るうお積りか!!!!??????」

 なにやら・・・果てしなく嫌な予感をかき立てさせる単語を腹臣・茨木童子につげると・・・



 大鬼王・酒呑童子は、ついに、その席を立ち上がった―・・・・!!!!



 間髪置かず、その手に、巨大な鉄杖(いや、棒か・・・???)が出し抜けに現れたかと思うと・・・


「その武器と腕―そして己が世界や時代を失ってなお戦い抜くその『魂』に敬意を表し、『我』もまた鬼王の力もて
応えてくれようぞ!!!!!!!!!
 見事、鎬(しの)いでみせい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 私の視界は、真っ白に、染まった・・・・・・

125 :創る名無しに見る名無し:2013/09/07(土) 22:18:00.06 ID:0HNZvXls
おぉっ?!一体、どーなった?!
ここで一掃されてしまうのか!
そして『伝説』の攻撃とは一体どんな攻撃なんだ?!

126 :酒呑の鬼王と天魔の宴 37:2013/09/08(日) 21:26:08.73 ID:WDidCXLn
・・・・・・・・・・・・・・・・・



 そして・・・
 光が戻ったと思えば、『全身』で感じていた大地の感覚が無く、
 私は、宙に浮いていた。

「ヤバかったネ・・・」

 振り返ると、鬼駆慈童と旦那が、同様に浮いている。

「鬼駆慈童、これはあなたの術?」

 私が、こうなってしまってはあまり意味のない蛇身の下肢を人間のそれに戻しつつ(『蛇成』に
なるとしばらく元の男身には戻れない、『虎成』はその逆だ)鬼駆慈童に訊くと、

「アア、そうサ。転移と、浮揚の術をかけタ。」

 そう答える。よく見ると、先ほどより、その周囲の術式陣が減っていた。

「浮揚はいいとして・・・『転移』?」

「下を見たマエよ。」



 促され、下をみやって・・・絶句する。

 そこには、先ほどまで私たちがいたものと思しき、天魔党の「鬼ヶ城」にも匹敵する巨大な
鬼王の御殿が・・・ひしゃげ、「潰れていた。」
 『それ』は、例えていうなら、隕石が落下して出来たクレーターで、端のほうはかろうじてその
原型を留めているものの、中心にいくにつれ瓦礫は「砂礫」と化し、中心は、完全にぽっかりとした、
虚ろな空洞と化している。


「・・・・・童子殿はあの鉄杖を『大師』と呼ばれていたが・・・・」

 旦那が重苦しく、口を開く。

「まさしく・・・『鬼に金棒』・・だな・・・。」

「そんなレベルじゃないでしょう!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 さすがに、それには私も絶叫をもって突っ込まずにはいられなかった。
 ヤバい。どー考えても、ヤバすぎる。
 酒の余興で己の御殿をもここまでしてしまうとか、『力』もそうだが、メンタリティのほうも、
ぶっ飛びまくってる。あの鬼王は。

127 :酒呑の鬼王と天魔の宴 38:2013/09/08(日) 21:57:08.94 ID:WDidCXLn
 さすがにドン引きを通り越して呆然としていると・・・


「うむ。我が自慢の庭園の愛しの木々たち花たちは全くの無傷だな。
 我ながら、見事な力の按配(あんばい)だ。
 そうは思わんか?茨木?」

「と、いうか、その愛着をもう少し御殿の方に向けてくださってもよろしかったのでは?
 我が君・・・・・・・」


 当たり前のように宙に静止する鬼王と、なかば呆れがちにそれをいさめる忠臣の姿が、そこに
はあった。

「馬鹿を言え!!!御殿なぞはまた創り直せばよいが、生あるものは古今東西、ひとつとして同じ
ものはないのだぞ!!?
 いいではないか。此度(こたび)の客人の来訪と酒宴を記念して、新しい御殿を築けば。
 ・・・そうだな、今度の御殿は『すかいつりい』にちなみ、あの・・・『じゃいあんと・せこいあ』
が良く見える造りにして欲しい。それで、酒席の大舞台を載せた大屋形舟が滝を昇るようにして・・・
そうだな、あの大池を潜るようにして、泳ぐ魚達の姿を文字どおりの肴(さかな)にして飲みてえ!!!

 ええい、シロナガスクジラ生け捕りにして来い、つってただろうが!!!!
おいこら石熊!!!!!てめえ、まだ捕まえてきてねえのかよ!!!!!!!」

「我が君・・・・・・・近ごろ、見かけないと思ったら・・・・石熊童子にそんなことを
命じておられたのですか・・・・・・・・・・・・・

 あんなものを勝手に捕えるとなったら、人間たちはもとより、海神・綿津見(わたつみ)さま
やあの海の剣魔・天真正(てんしんしょう)殿が黙っておられるわけないでしょうに・・・・・・」



 茨木童子が・・・主の子供のような・・・・否、子供そのものの駄々に深〜〜〜々と、ため息をつく。
・・・・・・・・・・・・・・・・・どうやら、コイツも相当の苦労人らしい。
 みると、こいつら同様、当たり前のように宙に浮くほかの大鬼たちも一様に、似たような顔をしていた。



 もっとも、先ほど私に酒を振る舞ったあの鬼女だけは、それとは異なっており、それはその時の私には気付く
べくも知るべくもないことだったのだが・・・・・

128 :酒呑の鬼王と天魔の宴 39:2013/09/08(日) 22:23:44.40 ID:WDidCXLn
 そして、その最悪の童子の眼差しが、こちらを向く。
 思わず、構えずにはいられなかったのだが、しかし・・・・・



「う〜〜〜〜〜〜む。まだ、頭がクラクラする。・・・ちと遊びすぎたようだの。
これでは、『暇(いとま)ごい』する客人を『引き留める』ことはどうやら、出来そうにないな?」



 鬼王の口から出てきたのは、そんな、心底残念そうな言葉だった。

「!?」

 思わず、鬼駆慈童のほうを見ると、鬼駆慈童は、黙って小さく、うなずく。



 そう・・・・

 旦那の神器・黒砂刀の持つ『無』の力は確かに鬼王の・・・『滅却の鬼眼』と呼ばれた
『無』の視線を打ち破り、鬼駆慈童の「転移術」という『退路』を確保し・・・・・
 俺たちは・・・『天魔党』は・・・・最悪の危機を、脱していたのだった!!!!!


 ・・・もっとも、鬼王の視線の力がいつまた戻るとも限らない。『退却』は、可及的速やかに成されなければ
ならなかったのだが・・・・・・


「・・・に、しても・・・・・」


 ・・・・それに続く、鬼王の言葉が、俺たちをその場に、強く、深く、縫いとめる―

129 :酒呑の鬼王と天魔の宴 40:2013/09/08(日) 22:50:30.66 ID:WDidCXLn
「・・・我の生まれた時代にも「呪」や「式」で『術』を編み、鬼を祓う陰陽師はいたが・・・
まさか、それがそうして我が『鬼隠れ鬼隠し』や風神雷神の『飛天』まで真似るまでになるとはな。


・・・あの大陰陽師、安倍(あべ)や役(えんの)、なにより、鬼と化した哀れな方相氏追儺(ほうそうしついな)
どもも草葉の蔭で喜んでいることだろうぜ?」







 追儺(ついな)―・・・・・・!!!!?????

   役(えんの)―・・・・・・・・・!!!!!???????


ズキン!!!!


 それは― 良く知ってはいるが・・・ 苦々しい味わいと・・・ 鈍い痛みを、
掻き立てずにはおれない、単語だった―・・・・・


 それが、こともあろうに、他ならぬ、この大鬼王の口から出し抜けに出てきたことに
面食らい、安堵の想いは吹き飛び・・・・・・・・



 私の意識は、数ヶ月前の、忌まわしい記憶に飛ばされずには、おれなかった。




 それは―在り得ない、敗北だった―

 「私」にとっても―「俺」にとっても―
 なにより、黒金蟲の旦那や―鬼駆慈童と―ここにはいない、四天王が最後の一角・局(つぼね)に
とっても―

―天魔党の―その、すべて、にとっても―

130 :酒呑の鬼王と天魔の宴 41:2013/09/08(日) 23:23:10.17 ID:WDidCXLn
 ・・・・・


 その日―


 「俺」たちは、永らく天魔党という巨獣にまとわりつき、飛び回っていた、鬱陶しい
蝿を・・・虫けらどもを・・・『罠』にかけ、『駆除』する―・・・

 ただ、それだけのことを済ませる・・・ただ、それだけの、筈だった―・・・


 『虫けら』は、二〜三十匹くらいで徒党を組んでいたのだが、その『頭』は・・・
あたかもその舞い散らす紅葉のように袖の割れた振袖に・・・いにしえの鬼女の面を
その頭に横掛けし、紅い瞳を燃やし、大薙刀をふるう・・・鬼人の少女だった。




 名前は・・・思い出したくもない。



 その少女は、鬼人のくせして、愚かにも、人と交わっていた。どころか、低級な鬼・「心の鬼」
を狩る、という人間の退魔士のような真似をし、だのに、そうして祓ったはずの、心の鬼と馴れ合い、
あまつさえ、己を祓うその退魔士のガキとまで友達ごっこをしていたのだ・・・・!!!!!!


 その、語るのも馬鹿馬鹿しい愚か者が、我らが天魔党に初めて楯突いてきたときには・・・誰もが、
嗤った。
 その鬼人の少女は、旦那や鬼駆慈童、局のように人為的に鬼になった鬼でも、私、もしくは「俺」の
ように自然発生的に生まれた鬼でも、この鬼王のようにどこまでも純粋な妄執と因業で人の変じた純粋
なる鬼でもない・・・いわば、「種族」としての鬼、『鬼人』だった。
 その少女を含め、もう数えるほどしか残っていないという・・それはそれで、鬼としては変り種で
あることには違いないが、そんなたいした力を持ちうる存在とも思えなかったため、「俺」も部下の
『綿抜鬼(わたぬき)』といった鬼たちを使い、遊び半分に嬲り殺して終わらせるつもりでいたのだが・・・



 刺客たちは・・・・その少女と、その一味に、返り討ちに遭ったのだ。ことごとく。

131 :酒呑の鬼王と天魔の宴 42:2013/09/08(日) 23:51:25.28 ID:WDidCXLn
 当然、少女の一味の側も無傷で済まされたわけもないのだが、その手負いの窮鼠、兎、に対し、
獅子・・・すなわち、黒金蟲の旦那が、一味を党の『敵』とみなし、全力をもって叩き潰す決断を
下した。

 綿抜鬼が遅れを取った一件もあり、「俺」も、鬼駆慈童も・・・そして、局も、周到に罠を張り
巡らした。あたかも、蜘蛛が巣を張るように。

 まずは、綿抜鬼の報告で判明していた、少女の執心する人間の小娘と、その妹分の『鬼人』のガキ
を(血はつながってないらしい。どーでもいいが。)、さらった。そして、そいつらを人質に少女の
一味をおびき寄せる一方で、計画に万全を期すため・・・

 小娘には、鬼駆慈童が『鬼化の法』を施し―
 鬼人のガキは、その内に巣食っていた『邪恋(じゃれん)』なる心の鬼を、局が覚醒させ―


 どちらにも、決定的なタイミングでこちら側になびき、一味を裏切るよう、入念な刷り込みと洗脳を
施したのだ―


 舞台のほうも万全だった。

 選ばれたのは人間が「旧天里(あまさと)城址」と呼ぶ古城址・・・すなわち、天魔党の
鬼人たちが生まれ、その力をもっとも発揮できる・・・いわば「聖地」だったのだ。

 正直、「俺」はあんな連中にそこまでする旦那をいぶかしんだものだった。
 むしろ、全「戦力」とは言わないまでも、全「主力」を投入するその布陣に、あるいは、これは来るべき
天界神界魔界鬼界仏界との戦に向けた模擬戦じゃないか?とまで疑ったくらいだ。

 「俺」のほうはというと、これまた少女が執心していた、人質の小娘の兄貴らしい人間の男に接触し、(時には
そいつに化け)少女の中にいた心の鬼、『未恋(みれん)』を刺激し、揺さぶりをかけたりしていたわけだが、今
にして思えば、旦那には少女をはじめ、一味を党側に引き込む意図もあったのかもしれない。

132 :創る名無しに見る名無し:2013/09/09(月) 00:57:05.63 ID:zZcUxAMQ
結構ネタがディープだ。色々調べてんなー

133 :酒呑の鬼王と天魔の宴 43:2013/09/09(月) 15:05:09.83 ID:MBhHGe0x
 考えてみれば、虫けら、とは言ったものの、一味の中には年古り、土地神レベルまで
高まった霊力を持った猫又、あの英雄吉備津彦と同一視される『桃太郎』を助けた犬の
末裔とも言われる狗族のガキ、鬼駆慈童にその得意な術でもって煮え湯を飲ませたという
天狗のガキ、・・・とうてい信じられないが、部下の『黒丑ミキ』の報告によれば、かの
地獄の王、閻魔天の娘、なんてのもいて、スカウト厨の旦那ならずとも、潜在的戦力と
しては一考したくなるような面子が揃っていたとは、いえる。
 まあ、研究対象として主に面白がったのは鬼駆慈童で、現実主義の「俺」としてはどいつ
もこいつも戦力外、問題外のガキにしかみえなかったのだけども。(ちなみに、局はという
と、そいつらの『可愛さ』に浮かれていた)



 しかし、そんなガキ共に、こともあろうか、天魔党は敗れ、多くの鬼人兵たちを失ったのみならず
「俺」たち四天王もまた深傷を負わされ、敗走を余儀なくされたのだった。


 黒金蟲の旦那、鬼駆慈童、局、そして、「俺」、
 それぞれに深傷を負わせたガキどもの名は、それぞれに忘れられないものとなったが・・・



 私が忘れたくても忘れられない名・・・・
 それが、「役 追儺(えんの ついな)」という、退魔士の小娘の名だったのだ・・・・!!!!



 ニタリ、と鬼王が嗤う。

「何だ、嬢ちゃん。遭ったことがあるのか?
 ・・・『役(えんの)』や、『追儺(ついな)』の末裔に?」

134 :酒呑の鬼王と天魔の宴 44:2013/09/09(月) 15:24:26.68 ID:MBhHGe0x
「俺」は応えない。
 出遭ったものは、二重の意味で、どんピシャリ、だったのだが、鬼王が思ってるらしきものと、
「俺」が見たものとの間にあまりにもあまりにも深い深い隔たりを感じ、口を開けずにいたのだ。
・・・と、同時に、どこかで、あの敗北を妙に納得している「私」を感じても、いた。



 思えば、「あの日」は―
「在り得ないこと」だらけだった―



 そして、その、無数の「在り得ないこと」の連鎖の、最初の引き金を引いたのは、
あの、人間の小娘だったのだ―!!!!



 その、鬼駆慈童に念入りに鬼化の術を施され、局にその精神を闇へ―すなわち、こちら側へ―
引き込まれた、どこにでもいるような人間の小娘は、計画どおり、馴れ合っていた鬼人の少女の目の前で、
鬼と化し―
 その爪と、牙で、少女を切り裂き、喰らい、今思い返すだけでもゾクゾクするほど、いい声で、
哭かせてくれた―

 そして、その愚か者に相応しい絶望とともに、その鬼人の全てを終わらせてくれ―る、筈、だった・・!!

 しかし、少女の息の根が九分九厘止まりかけた・・・そのとき・・・!!!
その、「最初の」在り得ないことが、起きた・・・・・!!!!!!



 こともあろうか・・・!!!



 小娘が・・・『戻った』のだ・・・・!!!!!!!
 人間、に・・・・・・・・・・・・!!!!!!!!!!!!!!!!!!





―バカナ・・・!!??アリえナイ・・・・!!!???
 コンナノ、絶対に、アリエないヨ・・・・・・!!!!!!!!???????

 その時の、当の鬼化の術をかけた鬼駆慈童の絶叫は、今も「俺」の耳にこびりついている・・・・

135 :酒呑の鬼王と天魔の宴 45:2013/09/09(月) 15:51:24.34 ID:MBhHGe0x
 旦那も、局も、表向きには抑えていたものの、鬼駆慈童と同じ衝撃を受けていただろうことは、
想像に難くない。

 と・・いうのは、ほかならぬ「俺」もそうだったからだ。


 そして・・・そこから、『奇跡』が、戦場全体に、連鎖的に波及した。
 その霊力の高さから、もっともマークされ、術師たちの集中攻撃をあび、ほぼ封印され
かけていた猫又が、その封をはね返し・・・同じく囚われ、こちら側に完全に篭絡されて
いたはずの『邪恋』がこちらに向かってその大太刀を翻し・・・狗族と天狗のガキどもは
風術の完成形と言われる、気象操作を信じられない精度でやってのけ・・・例の
『閻魔の娘』は原初の混沌、なんていうこれまた馬鹿げた力で地獄の蓋をこじ開け・・・
どこで見ていたのか、少女と同じ鬼人「族」の生き残りらしきその劣化コピーみたいな少女
たちも駆けつけ・・・雑魚同然だった5匹の心の鬼のあるものは伝説の怪鳥「イツマデ」や
神鳥「ヤタガラス」並みに変化してのけて戦場を混ぜっ返し、人間態に変わったある者など
は、一時は二刀流で旦那や「俺」の中成を押し返したりすらした。


 そして、それら「在り得ない」ことどもの中でも、もっとも「在り得ない」変化をしてみせた
のが、くだんの首魁の少女と―・・・誰あろう、『役追儺』だったのだ―・・!!!!


 少女は、そのとき、俺たち、天魔党の鬼でも制御できるのは稀で・・・完全制御となるとさらに
皆無になる・・・鬼の変化の最終形態である、『本成(ほんなり)』の力を・・・・
在り得ない安定度で制御してのけて、黒金蟲の旦那を退け・・・・!!!!!!!!!



『役追儺(えんのついな)』は―・・・・・

136 :酒呑の鬼王と天魔の宴 46:2013/09/09(月) 16:12:20.32 ID:MBhHGe0x
「俺」の目の前で・・・あろうことか、鬼、となったのだ・・・!!!!!
『鬼化の術』のごとき、術も・・・式も・・・一切用いることなく・・・・!!!!!!


 そのとき、「俺」は「虎成」の爪牙と、神器・干餓鬼で『役追儺』をいいようにいたぶり、
その命もほとんど吸い尽くしかけていたのだが・・・
 ちょうど、先ほど鬼王にされたようなことが、その時も起こった。

 さすがに、「俺」の体を癌化させ、腐れ落ちさせるなんて出鱈目な域には達しなかったものの、
全身をその溢れんばかりの霊力(?)で焼けただれさせられ、それ以後、俺の爪牙も、干餓鬼も、
その、従えていた式鬼の憑いた盾はおろか、その身にも歯を立てられなくなり、それまでは逆に
「俺」の身にかすり傷ひとつ付けられなかった―同じく、式鬼を憑かせた―矛が、「俺」の身を
切り裂き、貫いたのだ―



 シクリ・・・



 完治したはずの、そのときの傷の疼きに、私は、ようやく「今」に還り、鬼王をにらみ返した。
 鬼王は、変わらず、愉しげにこちらを眺めている。

「鬼王よ。」

 私は、問い返した。

「貴方は、何を知っている・・・?
 その長き生の中、役(えんの)や・・・その追儺(ついな)と・・・
 一体、何があった・・・?」

 鬼王は、そんなやりとりを、心底愉しむ風に、応じる。

「さあて、なあ?」

 一瞬、はぐらかされたのかとも思ったが、それを打ち消すかのように、鬼王はさらに続ける。

137 :酒呑の鬼王と天魔の宴 47:2013/09/09(月) 16:35:36.96 ID:MBhHGe0x
「我が・・あの・・・闇夜が最高に愉しく、
 祓う者も・・・祓われるモノも、最高に輝いていた・・・平安の御世(みよ)に
 在ったとき―

 忌まわしく、憎らしくも・・・愛しき我が敵にして、友、と見定めたのはいと畏き
法力僧や、いと雄々しき侍どもであったからな・・・。
 ・・まあ、神々に仕える禰宜や巫女とやり合ったこともないではないが・・・やはり、
いにしえの鬼王、『吉備冠者・温羅』殿を討ち祓った半神半人の『桃太郎』・・・
『吉備津彦』なんて化け物がいたころとは、やはり、時代が違うな。たいした者はいなかった。

 ・・・役(えんの)や安倍(あべ)・・・そして、方相氏・追儺といった大陰陽師とも
やりあいはしたが・・・」


「『やりあいはしたが』・・・・何だ!!!???」


 気付けば、私は鬼王の話に聞き入り、もどかしさすら覚え、先を促していた。

 鬼王は、私のそんな様子に、満足げに目を細め、・・・そして・・・さきほど鬼駆慈童も
口にした『吉備冠者・温羅』同様、初めて聞くというのに・・・・なにか、底なしの不安と
怖気(おぞけ)を掻き立てないではおられない・・・
 『その名』を、口にした―


「我が伝教弘法の二大師に深傷を負わされ、大江山に引き篭もっている間に都に現れ
出でていた―

『六条の女御(ろくじょうのにょご)』―

 ・・に陰陽師どもは軒並みその力を使い果たし、あまつさえ呪われすらもしていた者すら
おってな―・・・
 やはり、たいした者は残ってはいなかったのだ―」



 ロクジョウノニョゴ―



 なにか・・・ 聞いてはならないことを、そのとき、私は聞いてしまったような気がした―

138 :酒呑の鬼王と天魔の宴 48:2013/09/09(月) 17:01:36.43 ID:MBhHGe0x
 この鬼王に最初に目を合わせた時と・・・さきほどの『吉備冠者・温羅』という名に
掻き立てられるものとも違う・・・なにか、根源から湧き出てくるような、不安が心を
締め付け、それに駆け立てられるように口を開きかけたときだった・・・


「六条の・・・女御・・・・・!!?」


 その名を、驚愕とともに復唱したのは、旦那だった。鬼王は、愉しげに、それに続く
言葉を待つ。

「酒呑・・・童子殿・・・!!?その・・・六条の女御とは、もしや・・・あの『般若』の
ことでござりますか・・・・!!!???だが・・・あの『半成(はんなり)』の鬼女は・・・!!!!
『オリジナル』の般若は・・・・・・!!!!!!!!」

「そうだな。『御伽草子』に語られる我同様、『源氏物語』の紙上の上の、架空の鬼、と思われておるな?」

「!!!!????」

 こともなげに答える鬼王の言葉に、旦那は沈黙する。


「くくく・・・つくづく面白きことよ。どうやら、そなたの方は『般若』のほうに、なんぞ
遺恨があるようだの?」

 『般若』・・・そう、それこそは、黒金蟲の旦那に、あのとき拭えぬ屈辱を刻んだ刻印の、
その一部だった―
 あの一味の、首魁たる少女がその身につけ、その霊力の根源ともなっていた呪具・・・それこそ
はその『般若』の鬼面だったのだ―・・・・・


「そんナ・・・マさカ・・・・・」

 鬼駆慈童の震える声が聞こえる。
 どうやら、旦那と同じく大きな衝撃を受けているらしかった。



「『六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)』は―
 実在した、とイうのカ・・・―?」




 鬼駆慈童の、口にした、その名に、場の空気が再び、変わった。
 先ほどの『六条女御』とは―比べものにならないくらい―

139 :酒呑の鬼王と天魔の宴 49:2013/09/09(月) 17:21:33.17 ID:MBhHGe0x
「あ〜あ。言〜っちまった。言っちまった。
せっかく『女御』なんてぼかしてやったのにな〜〜〜。」

 ・・・その鬼王の言葉は―少し残念そうでありながらも、悪戯っぽい子供の
ような響きを伴っていた。

「知〜らねえぞ、知らねえぞ?
 『あの女御』の真名忌み名はかの光源氏すらも知りえなかったものだが、その『仮の名』
 でも、あの女御はそれを口にする者の全てを把握している。
 の〜ろわれるぞ。呪〜われ〜るぞ?」

 そして、その後半は完全に童(わらべ)の囃子だった、が・・・・

「まあ、もっとも、あの『女御』はその自身の顔を形取った物の視るものも全て把握してる。
今さら・・・といったところではあるな、そなた等の場合。」


 それに続く言葉に、私たちはもう・・何度目になるかもわからない絶句を更に強いられずにはおれなかった。

「それは・・・つまり・・・・・」



「ああ、そうだ。あの女御はすべて視ておったぞ?そなたらと・・・

あの・・・




『日本鬼子(ひのもとおにこ)』の大いくさを―な―?」







 ひのもとおにこ―

 ひのもとおにこ―

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・

140 :酒呑の鬼王と天魔の宴 50:2013/09/09(月) 22:19:25.54 ID:MBhHGe0x
 ひのもとおにこ、ひのもとおにこ、ひのもとおにこ・・・・・・
ひのもとおにこひのもとおにこひのもとおにこひのもとおにこひのもとおにこひのもとおにこひのもとおにこ
ひのもとおにこひのもとおにこひのもとおにこひのもとおにこひのもとおにこひのもとおにこひのもとおにこ
ひのとおにこひのもとおにこ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
           ・
           ・
           ・
           ・

 私の意識は、鬼王が口にした、その名に余すところなく、塗りつぶされた・・・

 そうだ。あえて忘れていた。忘れていたかった・・・・!!!!!!
 そもそも忘れられるはずも、なかったのだ。
 最強にして、無敵のはずの、天魔党を破ったあの一味の、首魁の名を・・・・!!!!


 「役追儺」は―私が、「俺」が、個、として雪辱を果たさねばならない者の名―
―しかし―日本鬼子―そいつは、・・・そいつだけは、天魔党が―
―天魔党四天王・忍が頭領・ヌエが・・・
天魔党の一員として、雪辱を果たさねばならぬ者・・・・!!!!!!!!!




「い〜い顔だ。」

 どこか遠くから届くような虚ろさで、鬼王の声が響く。

「我も頼光に討たれるまでは、散々に人を嬲り、それを肴(さかな)にしてずいぶんと飲んだもの
なのだがな・・・
 今のそなたらほどに味のある苦い面をした者も、そうそうはいなかったものぞ・・・・・!!!!!」


 それはよかったな。
 ・・・心で皮肉を言いつつ、鬼王を見る。例によって、一杯でもやるのかと思ったが、しかし、この
鬼王にしては珍しく弁えたものなのか・・酒を口にするようなことは、なかった。

141 :酒呑の鬼王と天魔の宴 51:2013/09/09(月) 22:43:49.01 ID:MBhHGe0x
 私は、ふたたび、干餓鬼を、取り出す。
 鬼王に対しては無用の長物だと解ってはいても、それを取り出さずには、いられなかった。
 慣れた感触と共に、あのとき、役追儺に、日本鬼子に、味わわされた、苦い苦い思いが甦り、
自分でも、驚くほど、意識が冴えわたっていく。

 だが―

「貴方も視てたの―? その・・・私たちの、『醜態』を―?」

 冴えた意識は、しかし、問いとなって、鬼王にぶつけられる。

「いいや。」

 鬼王が、即答する。

「見ようと思えば見られぬこともなかったのだが・・・
 生憎と、そなた等の存在は知っておったものの、これほどまでに面白き者どもとも知らなんでの?
 『さる筋』より又聞きしたところに、そなたらよりの此度の席の申し入れが重なり、それを受けた
しだいだ。」

「サる筋・・・だっテ・・・!?それハ・・・??」

「今、そなたが口に出してしまったではないか。今もこの場を「視て」おる・・・
『その者』からぞ。」


「なん・・・だと・・・・?」

 寒気がする。

 鬼王の話を総合すると、その全ての般若面のオリジナルにして・・・この鬼王が一目置く以上、
最強の鬼女の一体とみて差し支えない、その鬼女は、あの「日本鬼子」の身に付けた己を模した面
を通してあの戦いの全てを見、「己が名」の呼ばれた、今、この場も見ている―ということになる。
 おそらくは、この鬼王が己の話を振り、こちらがその名を口にした―というのも計算ずくだったの
だろうが―・・・


 一体、何故―?

142 :日本Ω鬼子 ◆1yM6qbhqY6 :2013/09/10(火) 10:35:25.58 ID:VP3FLnRU
どんどん話が大きくなってくなぁ…

現時点での感想はあるけど、
とりあえず話を最後まで見届けてからにします。

143 :酒呑の鬼王と天魔の宴 52:2013/09/10(火) 16:24:04.22 ID:zy4ry6Nt
・・・・・・・・
 あの戦いを見ていた、というだけでも充分に得体が知れない、というのに、その上で、
半ばまでこの会談を仕組み・・・なおかつ、おそそらくは計算ずくのうえで、こうして鬼王
を介しそのネタバレまでしてのける・・・・

 この鬼王もはてしなく掴めない・・・、が、そのまだ見ぬ鬼女の女王・六条御息所の得体の
知れなさ、掴めなさ、不気味さは・・・


「深く考えねえほうがいいぞ。嬢ちゃん、今のお前さんは、特に、な?」

―鬼王が、思考をさえぎる。

「何ですって?」

「さもなきゃ・・・」

 さらに続ける。

「あの女御に喰われるぜ?今、この場で。」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・一体、今日という日は、いったい、どれだけ驚けば、終わるのだろうか。
 とうぜんながら、鬼王には冗談を言っている様子は、微塵もない。
 と、いうか、この鬼王にはこれまでを見るかぎり、冗談で人を笑わせるという趣味自体が、ない。
どこまでも、残酷な真実を語り、その衝撃を受けるこちらを心底愉しんでいるのだから、なお、タチ
が悪い。


「は・・?」


 頭が、理解を放棄しかけているのをうっすらと自覚しつつ、呆けたように、訊き返す。

「忍者・・・いや、今はくの一、か・・・。見たところ、お前さんは獲物に音も無く、姿も変えて
忍び寄り、それを喰らう『たいぷ』の鬼のようだが・・・」


 もう、何を聞いても驚かない。何を聞いても驚かない。驚けない。驚けるわけがない。
何でも来い。何でも来なさい。何でも来やがれ。何でも・・・・


「・・あの女御には、お構いなしなのだ。獲物・・・『喰らわれるもの』と、己、との間の『距離』など、な。」



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・えー・・・・っと・・・

 完全に、真っ白に思考停止してしまった私の頭に、鬼王の声は、さらに響く。

144 :酒呑の鬼王と天魔の宴 53:2013/09/10(火) 17:02:07.37 ID:zy4ry6Nt
「まあ、我も喰らいたいものを己が眼前に『鬼隠し』でもって『縮地』させることくらいは
出来る。だが、いざ喰らおうとすればそなた等や・・そもそも人間をはじめ全ての畜生動物
がそうするように、普通にかぶりつかねばならぬのに対し・・・」

 そして、頭(かぶり)を振って、言う。

「『喰いたい』と思ったときには、その『想い』でもって、既にもう獲物を、喰らってしまって
おるのだ。あの女御は、な。」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・あのー・・・・鬼王・・・・サマ・・・・?
それって・・・どーゆー・・・・・

「まあ、安心せい。」

 そんな私の呆然自失を、知ってか、知らずか、鬼王の話はさらに続く。

「あの女御が好んで喰らうは、想い煩(わずら)う女子(おなご)の思いや心ぞ。
今の形(なり)はともかくとして・・・その戦の折は、先ほど同様、男子(おのこ)の
形(なり)をしておったのであろう?
 オンナオトコやオトコオンナにあの女御が食指を伸ばすとも思えん。」


「・・・・・・それは悪うございましたな、我が君。」

 ・・・・・・それは悪かったわね!!!!!

 オンナオトコ・・もとい、茨木童子と完全にシンクロしていたのは腹立たしいが、少し怒って、
ようやく私は落ち着きを取り戻した。
 しかし・・・待てよ・・・・それじゃあ・・・

「その・・・童子殿。今もこの私たちを見ているというその・・・『六条の女御』は、鬼女・・・
いや、鬼人の女を喰らったりはしないのですか・・・?」


 そうだ。己が名を呼ばれただけで、どこに在ろうと呼んだその者を見、己の顔をかたどったもの・・
すなわち、『般若面』の目からも、それが見たものを覗き見れるというのなら・・・


「今の六条の女御は普段、己が周りにはべらせたお気に入りの鬼女たちの『心』を喰らっているという―
が、まあ、喰らおうと思えば、いつでも喰らえるのではないか?その、そなた達に煮え湯を飲ませた・・・

『日本鬼子』も。

 なにせ、かの娘はほかならぬその女御の顔を模した『般若面』を常日ごろ、肌身離さず身につけている、
というのだからな?」

 鬼王は、私の問いの核心をズバリと突いてきた。

「ああ、だが、勘違いはするな。」

 そして、続ける。

「今のそなた等同様に、四六時中、いつでも喰らえるはずの『日本鬼子』を喰らわぬからといって、
あの戦の折、そなたらの仲間の鬼女の心を喰らったり、『般若面』を通して『日本鬼子』の側にあの
女御がテコ入れした、なんてことは、ない。」

145 :酒呑の鬼王と天魔の宴 54:2013/09/10(火) 17:25:21.93 ID:zy4ry6Nt
「何故、そう言い切れルネ?」

 どうやら、その可能性を考えていたらしい鬼駆慈童が訊き返す。

「さっき言ったであろう?『その筋』・・すなわち女御本人の使いがそう言っておったのよ。」

 それについては、特に面白くもなさそうに、鬼王は言った。

 私は、虚空を見渡した。
 今もこの『場』を見ているという、その六条の女御の、せめて気配のかけらくらいでも、
見当たれば、と思ったが、空はどこまでも蒼く澄み渡るばかりで、とうぜんながら、そんな
ものは微塵も感じられはしなかった。

 しかし・・・

(六条の・・・御息所・・・・!!!!!)

 決して口にしてはならないその名を・・・心中で大きく叫び・・・私は、問いかけずには
おれなかった・・・。

(貴女は・・・あの「俺」たちのぶざまな負け戦を見て・・・それでいて、この交渉には裏で糸を引き・・・
そして今、鬼王にその存在を知らしめつつ私たちを見下ろし、いったい、何を思うというの・・・・!!!!!
いったい、貴女は、なにがしたいの・・・!!!!!!!??)


 心が、憤りで満たされる―
 まだ―見も知らぬ相手への憎しみで、心が塗りつぶされる・・・


 と―


 そのとき、だった。








―『ほんに初(う)い嬢よのう―……』





 その、突如として、私の脳裏・・・否、全身にわん・・・と響いた、その声は、
恐ろしく、あったかく―
恐ろしく、柔らかく―
恐ろしく、雅びで―

146 :酒呑の鬼王と天魔の宴 55:2013/09/10(火) 17:39:45.04 ID:zy4ry6Nt
―・・・・・




―『半ば男(おのこ)といえど・・・その負けん気―憎しみ―・・・
 いとど・・・いとど・・・愛(め)ぐいぞえ―? 愛(め)ぐいぞえ―?・・・』





 そして―
身の毛のよだつような―・・愛(いと)しみと―慈(いつく)しみに―満ち満ち満ちていた―・・・


「ヌエ・・・?」

 私の異変に、いち早く声を上げたのは黒金蟲の旦那だったが―・・・


「御息所どの・・・」


 事態を、いち早く把握していたのは、鬼王・酒呑童子だった―


「ご趣味をお変えあそばしか・・・?
 貴女の勧めもあって招き入れたものとはいえど・・・ヒトの客人を『つまみ喰い』とは、
関心できませぬな―・・・・・・・・・・・」


 その、鬼王の古い古い馴染みをたしなめるような声を最後に―・・・・・・




 私の記憶は、ふつり・・・、と・・・・途絶えた―

147 :創る名無しに見る名無し:2013/09/10(火) 23:41:41.30 ID:zb2FlQcv
二転三転。目が離せません!!

148 :創る名無しに見る名無し:2013/09/11(水) 18:12:26.80 ID:F+fzw3zh
もはや、鬼というより神仏の領域にまで達しているなあ。

149 :酒呑の鬼王と天魔の宴 56:2013/09/11(水) 22:46:38.69 ID:poEXQj7Q
・・・・・・・・・・・・・・・・





 荒城に―紅葉が舞う。
 その紅の渦の中心にいるのは、同じく、紅の衣をまとい、鬼女の面を頭に横掛けし、
華麗に、美麗に、たおやかに、舞う少女だ。

 と―そこに白い影が加わる。こちらは額に四つ目の鬼神面をかぶり、大きな巻き毛を躍らせ、
盾と矛を縦横に繰る少女だ。


 日・・・本・・鬼子・・・・!!!
 役・・・・追・・儺・・・・・!!!


 誰かが・・・その二人の名らしきものを・・・地獄の底から響くような・・・野獣のうなるような
・・・声ならぬ声で・・呼ぶ・・・・。

 いや・・・それは「誰か」なんかじゃ、ない・・・・!!


 俺
   だ!!!!!!!
 私


 地を駆け、這い、
 俺は、鬼子ののど笛にくらいつき、
 私は、追儺を締め上げる。


 しかし―・・・
 どちらも、ダラン、と、まるで人形のように力無くその肢体を下ろし、
 ただ、ゆらゆらと揺れるのみだった―


―ふざけるな!!!!!!!


 それは「声」なのか、思いなのかも解らない―


―もっと抵抗しろ!!もっと懇願しろ!!もっと慟哭しろ!!
 もっと哀願しろ!!もっと後悔しろ!!もっと絶望しろ!!!!!!


 激情が奔流となって、体(?)を駆け巡る。
 しかし、獲物はこちらの期待するものはなにひとつ寄越しはせず、
朽木が朽ち果てるように崩れ落ち、四散する―

150 :酒呑の鬼王と天魔の宴 57:2013/09/11(水) 23:03:38.60 ID:poEXQj7Q
 後にはただただ静寂が残るのみ―・・・・と―・・


 否―


 ひとつだけ、残っているものが、あった。


 それは、あの・・・日本鬼子が身につけていた・・・
 鬼女の面、だった。




―『ほんに初(う)い坊よの―…ほんに初(う)い嬢よの―…』




 出し抜けに、その鬼面が、口を利いた・・・
 と、思ったら・・・
    俺
 誰かが を、後ろから羽交い絞めに、・・・否・・・
    私

 優しく・・・優しく・・・抱いていた。

―『母さん?』

 俺
  は、どこかで、これを夢と気付きつつも、そんな有り得ない単語を想い、振り返る―
 私

 そう―それは、『土』である自分には、決して『有り得ない』もの、
        私
 だが―夢の中で は悟っていたのだ―
        俺

 その背後に現れたモノ―それが、生あるもの全てにとって、『母』と呼びうるものなのだと―



 はたして、そこには、『慈愛』そのものが、在った―

151 :酒呑の鬼王と天魔の宴 58:2013/09/11(水) 23:42:29.04 ID:poEXQj7Q
 光輝く十二単(ひとえ)を優雅にまとい、白粉を滑らかに施したかのごとき白く滑らかな手
と澄みきった相貌―
 この世のものとは思えぬその顔にはいにしえの淑女のたしなみたる青眉(せいび)に
瞼(まぶた)の紅が映え、上品に同じく紅のさされた唇からは、黒く染められた歯がかすかに覗いて
いた―


―お前は・・・?


 その、赤・蒼・橙・桃・紫・白、いろとりどりの花(芥子・・か・・?)を周囲に
狂い散らせ、限りない慈しみと―限りない愛しみと―に満ち満ちた微笑をたたえた・・・
いにしえの淑女へ抱いた疑問は―そのまま、問いとなって、投げかけられた―が―


―さて、誰じゃろうの?


 帰ってきたのは、悪戯っぽい答えだった。
 くすり、と笑い、淑女は、続ける―



―そなたのその―瑞々(みずみず)しき憎しみと怨みつらみの向かう先には―・・・
 わらわの欲する愛しき愛しきモノも・・あるでの―・・・?


 なにを言っているのか―わからない―
 それは、たとえ、夢の中でなくても―そうだっただろう―


―喰ろうたそなたの心の分だけ―『力』を分けてやろうぞ―…だから―…


そして、そのとき、ようやく、気付いた。


―『骸の彦』と・・・・・『般にや』の・・・・・・おイタのせいで、見えて居るのに
 近づけぬ、愛おしき―愛おしき―愛おしき愛おしき愛おしき『あの娘』と―…わらわの
 逢瀬(おうせ)を―どうか索(つづ)めてお呉(く)れ―・・・・・・・・・


 その慈愛と―・・・冷酷に満ちた淑女の額から長い長い角が二本、天を突き刺すがごとく、
そそり立っているのを―・・・・・・

 あの般若面が、にたり、と笑ったような気がした―


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 そして、目を開けると―・・・

 そこは、天魔党鬼ヶ城の、よく見慣れた―・・・    俺の部屋、だった。

152 :創る名無しに見る名無し:2013/09/12(木) 09:11:39.21 ID:dqpAO7MF
お、急転直下ですな!
邯鄲の夢、となるか…?

153 :恵方巻き巻き ◆kIe7/eJrNc :2013/09/12(木) 09:12:18.62 ID:dqpAO7MF
ageちゃった、失礼

154 :酒呑の鬼王と天魔の宴 59:2013/09/12(木) 14:42:55.90 ID:FGMRMIKD
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 身を起こす―
 おそろしく体が軽い。

 自分の体を見回そうとして・・・
 はた、と「両手」が揃っていることに、気付く。


「何だ。まだ夢を見てんのかよ・・・」

 ひとり、ごちる― その証拠に―・・


「・・・!?・・ヌエ・・・さま・・・!!?」


 ほれみろ。わーたんがいる。

「みんな!!ヌエさまが!!ヌエさまが起きたよ!!起きたよ!!!」

 わーたんは、そういうと、ぱたぱたと走り去っていく。
 ・・・うーむ。ヤンデレのわーたんがこんな活発な一面をみせるとは・・・
なかなかに意外性のある夢よのう。


「大丈夫?」

 背後から、さきほどのあの・・『慈愛の鬼』の声が再びまた聞こえたような気がして
振り返ると、そこには、局が、いた。

 ますますもって、よく出来た夢だ。
 いや、出来すぎている。
 比較的さいきんに天魔党にスカウトされ(もっとも出世昇進のスピードは党史上随一だったが)
た俺のまだ見ぬ天里国の君主の乳母だった局は、いうなれば、天魔党の「母」だ。
 あの・・底なしにあたたかく・・柔らかく・・・そして、底なしに冷たく、むごいあの「母」
からの連想として当てはまるのは、このうえなく、妥当といえる。
 夢とはある種の連想で推移していくものなのだ。

・・・と

「可哀相に・・・」

 俺をみていた局の表情が、「母親」らしい、憐れみに満ちたものに変わる―

155 :創る名無しに見る名無し:2013/09/12(木) 14:56:21.20 ID:rWjo17ii
幻の中に迷い込んだか自室に転移されたか……

156 :酒呑の鬼王と天魔の宴 60:2013/09/12(木) 15:06:15.79 ID:FGMRMIKD
 それ自体は、心を優しく包んでくれるありがたいものではあったのだが・・・

「まだ、大江山の鬼王さまの御殿から心が帰ってないのね?」

 『鬼王』という単語に、その憐れみが出し抜けに、苛立たしい、腹立たしいものに変わり、
俺は跳ね起きた・・!!


「鬼王・・・・・酒呑・・・童子・・・・!!!!」


 搾り出すように・・呪詛を吐くように・・・鬼王の名を、搾り出す。

すると―


「ほほう。目覚めて真っ先に我が君の名を呼んでくれるとはな?」


 その苛立ちに油を注ぐような、あの―無性に腹の立つ『あの声』がし、そのほうを
振り向くと―はたして、そこにはあの鬼王の『影』が、在った。


「・・・茨木・・童子・・・!!」


 そう・・そこには、まるで、その場の主、居室の主とでも言わんばかりの佇まいで、静かに
くつろぐ、まごうことなきあの鬼王随一の腹心が、いた。

「やはり・・・これは、夢・・・いや、貴様の幻術か・・・・!!!?」

 干餓鬼が見当たらないので、俺はやむなく徒手空拳の構えを取る。
 伝説では頼光四天王が一人、渡辺綱(わたなべのつな)の前に出し抜けに現れ、その髷を掴んだ、
というのだから、あの鬼王と同じ『鬼隠し』の転移を使うのはまず間違いないこの
大悪鬼にそれがどこまで意味があるかはわからなかったが。

「やはり、ここはまだあの鬼王の御殿なんだな・・・!!!
 なぜ、俺の部屋や綿抜鬼や局の幻影なんて見せる・・・・!!!?
 答えろ!!!・・・茨木童子!!!!!」

「その御殿ならば、我が君が酒席のノリで木っ端微塵に粉砕してしまったではないか。
私がここにいるのは、ちょうどそなたが寝込んでいたのを幸いに居候させてもらっていたから
なのだが?
 ・・・・なぜか、この城のものたちに私は怖がられておっての・・・・」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えーっ・・・・・・と・・

157 :酒呑の鬼王と天魔の宴 61:2013/09/12(木) 15:31:42.46 ID:FGMRMIKD
 なんというか、茨木童子のその『伝説』に違わぬ力や存在感、威圧感からはあまりにも、
あまりにもあまりにもそぐわない、その、あまりにもあまりにも情けない言葉の「落差」
(本人はしかし、ものすごく愉しげだったが)に俺が思考停止に陥っていると・・・


「『同盟』は首尾よく果たされたのですよ?ヌエ。」


 慈しみに満ちた、局の声が、言葉が、助け舟となって真っ白になった俺の頭のなかに
染み渡る。
 母親に見つけてもらった迷子の心持ちとはこういうものなのだろうか。


「マジ・・・・・か・・・・・よ・・・・・・・?」


 それは、「ヨロコバシイ」ことだ―この上なく、この上なく、喜ばしいことだ。
党を挙げて、祝宴を催し、部下たちには己の武勇譚でも、もったいぶり、思い切り誇張もして
語ってやらなきゃならないな―黒金蟲の旦那や鬼駆慈童とは月でも見ながらしみじみ語り合い、
しかし、論功行賞ではきっちりこちらに有利に持っていかないといけない。それとこれとは話
は別だ―だいたい、術師どもには鬼駆慈童を崇拝するばかりで、ロクな働きもしてないごくつぶし
も多いのだから、研究棟のひとつも潰して『忍』の情報解析処理部に回してほしいんだから―
でも、このあいだミキティーがやらかした呪具紛失とかはうまいこと誤魔化さんとな、あれは
さすがに『陰』の連中もキレるだろうし・・・・―

 と・・そんなことが次から次へと思い浮かんでくるのだが、それらはことごとく意識の表層を
上滑っていく。

 とにかく、実感が、持てない。

 これは、目覚めたばかりだからとか、そんなささいな理由からではないらしいことは、あまり
にもあきらかだった。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 とりあえず、「あのとき」と「今」の違いを整理しよう。


「局、お前が俺の腕や体を直してくれたのか?」

 まず、この場の現実感を薄めている一番の原因を、尋ねる。

158 :酒呑の鬼王と天魔の宴 62:2013/09/12(木) 15:59:32.24 ID:FGMRMIKD
 蛇成形態から普段の姿に戻るときには、なにせ、女の脳から男の脳に戻るわけなの
だから―いつも多少の混乱程度は、ある。
 しかし、両手が戻っていることに加え、恐ろしく体に力がみなぎり、体が羽のよう
に軽いことがその混乱を極大化し、夢うつつも判然とさせずにいたのだ。


「いいえ。」

 しかし、天魔党随一の『癒し』の力を司る鬼女は、その頭(かぶり)を振った。

「ヌエ、貴方の腕は、私がなにをせずとも、勝手に『生えて』きたのですよ?」


 言葉を失う―
 鬼王の生命力の奔流にさらされ飽和させられ、癌化し腫瘍化し・・ただれ腐れ落ち、真っ白な
灰となった腕が・・・また『生えて』きた―・・・・????


 と・・・いや、待て・・・よ―?



「ソう―・・・腕を再生さセたのは、君の体に満ち溢れていタ鬼王の生命力ダよ。
まあ、過ぎタル『薬』は『猛毒』だガ、適量なら『大良薬』というワケだネ?」

 俺の内心の疑問に答えたのは、よく聞きなれた、あの小憎たらしい生意気極まる若年寄
の声だった。

 見やると、そこには息を切らしたわーたんと鬼駆慈童と・・・そして、黒金蟲の旦那の巨漢が、
あり・・・
 ようやく―・・これが、夢などではない、まぎれもない現(うつつ)である、ということに全て
の合点がいき、俺の腑に落ちた。

「調子はどうだ?ヌエよ。」

 いつもどおりの、落ち着き・・・厳かで重厚な声で旦那が問いかける。その内心を測るのは
・・・まあ、野暮というものだろう。

「前よりいいぜ?」

 だから、俺も答える。いつもどおり、軽く、チャラく。

「今なら、アンタの寝首も軽〜く、掻けそうだぜ?旦那?」

 その軽口に、旦那は軽く目を閉じ、薄く笑って答えた。


「ふ・・・それはなによりだ。」

 体がうずうずしてくる。もう布団なんぞ引っ被ってはおれずに立ち上がり、俺は問うた。

159 :酒呑の鬼王と天魔の宴 63:2013/09/12(木) 16:18:18.25 ID:FGMRMIKD
「なあ旦那・・・
 そのオトコオン・・じゃなくて、茨木童子がいて、『同盟』がうまくいったのは分かったんだ
けどよ・・・、いったい、あそこからどうやってそこまでいけたんだ?
 確かに・・・鬼王サマの機嫌は良さそうではあったんだが・・・・」


 そうだ。


『これで、終わりじゃないよな?』


 たしかに、あのとき―・・『私』と、旦那が、渾身の連携で、俺たちの・・『天魔党』の・・
意地の一撃を見舞った時―・・・
 鬼王は、たしかに、そう言っていた。

 その直後に、鬼駆慈童が鬼王たちの得意とする・・鬼王の言葉では、『縮地』や『飛天』を再現
してのけ―
 そしてなにより、あの『女御』―
 ・・・の闖入があったとはいえ結局俺たちは・・・というより、「私」は、鬼王にさらなる『力』
を見せ付けることはできなかったのだ―

 それとも・・・俺抜きで・・・、『私』抜きで・・・、旦那と鬼駆慈童は『力』を見せ付けたの
だろうか・・・?
 『私』と以上の連携を、鬼駆慈童は黒金蟲の旦那と、やってのけたのだろうか・・・・・・・



「なに、我らにも、我が君にも落ち度はあった。
 私がここにいるのはその『誠意』を示すためでもあるのだ。ヌエよ。」


 意外にも、妙な思いが掻き立てられるのを押しとどめてくれたのは、茨木童子のそんな
言葉だった。

「誠意・・・?」

 思わず、訊き返す。

160 :酒呑の鬼王と天魔の宴 64:2013/09/12(木) 16:40:03.39 ID:FGMRMIKD
「いにしえの鬼王・『吉備冠者・温羅(きびのかじゃ・うら)』殿や、
エミシの『悪路王(あくろおう)』殿・・・
 それに天より降りし鬼神『大嶽丸(おおたけまる)』殿、
などとの間でもそうだが・・・
 我が君とあの『鬼女の女王』の間にも、この茨木にすら測り知れぬものがある
ということだ。

 ・・あのとき、そなたらの全てを見せてもらえなんだは残念至極であれど、なに、
その責(せき)はあの女御にも負ってもらえば良いこと。

 それに、なにより・・・」


 そして、性別不詳のその大悪鬼は、ぞっとするような妖艶さで俺に笑いかけ、言った。

「そなたとしても、このままで済ます積もりは、あるまい?」

 あの般若面の嗤いと、茨木童子の笑いが、完全に一致する。
だから・・・・


「当っっったりめーだ!!!!!!!!!!」


 俺は、ほかならぬ、「俺」自身に従い、声を張り上げていた。


「『女御』だか『鬼女の女王』だか知らねえが、ここまで虚仮にされて黙ってられるか!!!!!
この借りはかならず返す!!!!!!・・・・・けど、その前に・・・おい!!!
客人!!!!!!」

「何だね?」

「俺の部屋に厄介になってるっていってたな?
 それは、まあ・・、いい。まあ、いい。
 まあ、いいと言ったら、・・いい。」

「嫌ならほかに移っても・・・」

「いいと言ったら、いいと言ってる!!!!
 それより、この城の中のことは把握してんのか!???」

161 :酒呑の鬼王と天魔の宴 65:2013/09/12(木) 17:20:08.67 ID:FGMRMIKD
「いや、もっぱらこの部屋で君の寝顔や、女体から男体に戻っていく様子とかを愉しんでた
からなー・・
 ほかは、あまり見てはおらぬな、そういえば。」

「この、ど変態が!!!!!!!・・・・って、それはもういい!!!!
 とにかく・・この城は侵入者に向けた罠だらけで・・・!!・・アンタがそれのひとつや
ふたつを踏み抜いたとしてどーなるものとも思えんが―・・・・わけもわからず、うろうろ
されたら、それを統括する天魔党『忍』の統帥として困るんだ!!!!!!
 いいか!!!
 この俺がじきじきに案内してやるから、とにかく、ついてきやがれ!!!!いいな!!!

 おい!!!綿抜鬼!!!!お前も一緒だ!!!!!!!」


「え``````````````````````````````````???????????」

「案内(あない)・・・?いやそれは願ってもないのだが・・・」

 出し抜けに、規格外も規格外の化け物のお守りの片棒、という面倒極まりない仕事を振られ、
普段よりもなお、顔面蒼白になるわーたん(修行の足りんやつめ。可愛いから、まあ、いいが。)と、
その剣幕に少し付いてこれない風でいる当の化け物には構わず、俺は歩き始める。


 そして―


 出口で振り向き、半ベソで追いすがってくるわーたんと、隙も音もなく歩を進めてくる客人の
頭ごしに同志の三鬼へと、なにより、旦那へと・・・振り返り、告げる―


「忘れんなよ、旦那。」


 何を、なのかは、言うまでもない。だから、旦那の答えも、いつもどおりだった。


「ああ。私はいつでも待っておるぞ?ヌエよ。」


 その答えの終わるのを待てず、俺は部屋を出た。 

162 :酒呑の鬼王と天魔の宴 66(終):2013/09/12(木) 17:40:52.29 ID:FGMRMIKD
 見慣れた天魔城の光景が眼前に拡がる。
 吸い慣れた瘴気が、ひどく心地よい。


 強く、ならねば。


 ここに来た当初は、ただ、ただ、黒金蟲の旦那に勝ちたい、ただ、それだけだった。
 今もそれは変わらない、が・・・
 しかし、今はその旦那との間に片付けねばならないモノが無数によこたわっていた・・・・


「日本鬼子(ひのもとおにこ)」
「役追儺(えんのついな)」
「酒呑童子(しゅてんどうじ)」
「茨木童子(いばらぎどうじ)」


 そして・・・


 鬼女の女王「六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)」


 口に出してはならぬその名を心で唱え・・・

「この借りは必ず・・・必ず、返すぜ・・・。」

つぶやく。

 そもそも最終目標よりも大きいと思われる障害が、間に隆々と横たわっている、という珍妙な状況では
あったのだが、不思議と、俺はそれを愉しんでいるようでは、あった。

―旦那だって、これで終わるはずが、ない。

 鬼の時間は無限だ―俺にも―旦那にも―

 旦那なら、必ずや、その障碍を打ち砕き―そして、同じく、打ち砕いた俺の前に、
必ず、立ちはだかる―


「俺も、待ってるからな、旦那。」


 『その刻』のために―

「ヌエさまーーーーーーーーーー!!!!!待ってよーーーーーーーー!!!!!!
 こいつ、怖いよーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」


 俺はいまや、紛れもない俺の「家」となった、天魔城を―駆けた―。

163 :創る名無しに見る名無し:2013/09/13(金) 00:21:08.83 ID:TNSaZVq8
後はエピローグだけっ

164 :酒呑の鬼王と天魔の宴 エピローグ1:2013/09/13(金) 15:06:25.27 ID:4hT2Ighr
トン、カン、トン  トン、テン、カン  トカトントン ・・



 木と木、木と金、金と金のぶつかり合う小気味良い音が、『現世(うつしよ)』と・・
『幽界(かくりよ)』の狭間に在る・・・「大江山」であって、「大江山」でない、
大江山の、どこまでも青い青い空に響き渡っていた。



「・・近ごろは、人間たちの大工仕事もめっきり減っておるというからなー・・・」


 瓦礫に一際、巨きな影が腰掛け、そんなことをもらす。

「このどこまでも青い空に響いてく槌(つち)の音を聞きながら一杯・・っつーのも、甘露甘露。
 いやいや、いつまでも聞いていたいくらいよのう。
 どうだ、そうは思わんか?茨木?」

 上機嫌で空の杯を虚空に向ける鬼王はそこで、はた、と気付いた。

「あー・・・そうか、そういや使いに出してて、いねえんだったな。」

 しかたなく、己で注ごうとすると・・・


「槌を響かせ大工仕事されている方々にしてみれば、たまったものではないと思いますが・・・
 お替りなら、私が酌をいたしましょうか?童子どの?」

 そこに、鬼女の声が割り込む。


「おー、客人の酌も頼んだうえに、このうえまたとは済まぬな。
 されど、お言葉に甘えようぞ、『客人』。」

 鬼王は、いさめなどはどこ吹く風で、応じる。
 それは、あの戦国の世の徒花(あだばな)のごとき鬼人の客人たちをもてなした、
いにしえの女房姿の鬼女だった。

「・・しかし、参ったな。」

 一息ついて、鬼王が考え込む。

「野郎どもや、我が配下の鬼女たちならばいざ知らず、かねてより客分として我が御殿にて暮らして
頂いておった、高貴なる女御の使いたるそなたをこうして屋外にさらす、というのもどうにも心苦しき
ことよの。
 ・・宴に興が乗ってのこととはいえ、そこまで考えが及ばぬとは、この酒呑童子もうかつであったわ。」


 しかし、鬼女はそんな鬼王の反省の弁には、くすり、と笑い、応じる。

「ええ。これではお暇(いとま)を申し上げ、我が主のもとへ戻るよりほか、ありませぬね?

 ・・・・・・わざと、で御座りましょう?童子どの?」


 鬼王は、酒を愉しむかのようにあさっての方へ目を泳がし、答える。

165 :酒呑の鬼王と天魔の宴 エピローグ3:2013/09/13(金) 15:44:16.80 ID:4hT2Ighr
「何のことかな?」


 くすくす、と鬼女は笑った。

「ほんに困ったもの。
 我が『目』は般若の面(おもて)やその御名(みな)同様、我が主と共に在り、こたびは
『あの者たち』のみならず、鬼王さまの御殿の中などと、なかなか見れぬものも存分に『視られた』
というのに・・・
 これでは、あらあら、女御(にょご)さまに何と申し訳を立てたものでしょう?」

 言葉のうえでは、困り果てたという文句を並べるものの、しかし、どこまでも愉快そうに、
鬼女は言う。


「しかし、解せぬな。」

 そんな、鬼女の奇妙な抗議には取り合わず、鬼王は疑問をぶつける。

「そなたのここでの甲斐甲斐しさには、まことに世話になった。まるで、我が御殿に大輪の花が咲いたようで、
我が女房(にょぼう)の鬼女たちはもとより、我が配下たちも・・・最後までそなたを疑い疎んじておったあの
茨木ですらもそれに感じいらずにはおられなかったゆえ、こたびの酒宴もつつがなく開けたものなのだが・・・」


 そして、目を細め、厳しく問う。

「・・そなたはこれよりここを去り、ここで味わい、開かせ得たその『心』のすべてを、あの
『女御』に捧げ、喰らわせる、というのだな?」


 空気が静まり、重みを、増してくる―
 しかし、鬼女は、どこまでもすずしげに、たたずんでいた。


「引き留められますか? 酒呑童子さま?
 もし、貴方ほどの大鬼王さまにさようになさられるのでしたら・・・たとい、それを断り、
この場で八つ裂きにされたとして・・光栄の極み、と申すよりほかはありますまいね?」

「ふん。それを出来るのなら、こうして己が屋敷を、そなたとの思い出ごと、瓦礫に還したりなども
しておるまいよ。」


 鬼王は、苦々しげに、杯を傾け―しばしの、沈黙が、訪れる―


「恨んでは、おらぬのか―?」


 そして、鬼王が、そんなことを訊いた―


「誰が・・?、誰を・・?、で、御座りまするか―?」

 その問い返しは、無垢なる少女の、それだった。

「そなたが―、そなたの主を―、だ。
 『あの女御』は、市井で静かに生きていたそなたを、こともあろうに―
 そなたの想い人たる、あの『貴公子』との想いの通じた―
 その人生最高の『至福』のさなかに、呪い殺し・・・
 その魂をそうして鬼界へと堕とした、張本人であろう?

166 :酒呑の鬼王と天魔の宴 エピローグ4:2013/09/13(金) 16:19:21.63 ID:4hT2Ighr
 ・・・なにゆえ、怨まぬばかりか、そうして忠節以上の想いをもって付き従い、
あまつさえ、その『心』をもその供物として、捧げ喰らわせまでする?」


 その問いに、鬼女は少し黙したものの、やがて、その来し方のごとき―はるか彼方に眼差し
を向け、答えた。


「切なく切なく想い想った愛しきお方と―・・その想い通じたその時が―
必ずしも、『至福』、とも限らぬものなのですのよ・・?
 ・・・鬼王さま。」

 そして―続ける。

「いえ―・・・
 あるいは、『その時』こそが、『至福』こそが、全ての忌まわしき忌まわしき『絶望』の根本なの
やも、しれませぬ―
 酒呑童子さま、
 少なくとも、私は、『あの時』、『女御』さまに救われたのですのよ。
 なればこそ、私などよりもずっとずっと高貴なる方々の居並ぶ、あの方の御前に在っても無量の感謝と・・
・・矜持をもって控え、ここにこうして、貴方さまの御前(おんまえ)に使わされるような、この大役も
賜ったのですから―」


「『至福』が・・・『絶望』・・か・・・、逆もまた、然りだな―・・・・・」


 奇妙な鬼女の答えに・・・しかし、鬼王はなにか、異なる感慨を呼び覚まされたかのように、
ひとり、ごちる。
 そして、ともに同じ方向を眺めるも、それぞれ視えているものは、どうやら真逆なるものである
らしかった―



「最後に、ひとつだけ訊かせよ。」


 眺めている間に、鬼女の心もまた、はるか遠くに去りつつあったのだが、鬼王はその名残に
問いかけるように、問うた。

「何でございましょう?」

 振り返るようにして答える鬼女に、鬼王は『その名』を口にした。


「『日本鬼子(ひのもとおにこ)』と言ったな?そなたの主の面(おもて)を形取る呪具をその身にまとい、
あの戦国の世の徒花(あだばな)たる鬼人たちを破った『鬼人族』の少女の名は?

 ・・・なぜ、そなたの主はそうまでしてその娘に執心する?」


 その問いに・・・鬼女は、愉快そうに―おそらく、その主の命により、この鬼王のもとに在った間でも、
もっとも愉快そうに―・・嗤い、答えた―


「簡単なことに御座ります。・・全ての鬼女は『あの方』の娘も同然のモノに御座りますが、その中に在って、その娘は、
女御さまのそのお姿をもっとも良く写し現した『影』・・・いえ、『鏡』だから、に御座ります―

167 :酒呑の鬼王と天魔の宴 エピローグ5:2013/09/13(金) 16:41:18.35 ID:4hT2Ighr
・・・女御さまは、天地(あめつち)の間の誰もがそうするがごとく、ただただ己自身を求めて
おられるだけ、・・・ただ、それだけなので御座りますのよ?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 鬼王は、押し黙った。
 鬼女はひとしきり笑うと・・やがて、静かに歩みだした。
 鬼王に、その背を向け―


「然(さ)らば―・・女御さまが・・・主が・・・
 六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)さまが、待っておられますゆえ・・・」


 そして―その名を、告げた―
 その意図は、あまりにも、あまりにも、明らかだった。

「・・・次に逢うとき、そなたはその主にここで得た『心』の全てを喰らい尽くされ、もはや共に
過ごした我にも、我が臣たちにも、なんの感慨も覚えはせぬのであろうな―・・」


「・・・致し方ありますまい。私の・・・・いいえ、全ての鬼女、全ての女子(おなご)の心は、
御息所さまの大御心を満たすためにのみ、存在するのですから・・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ふ・・・・・・・・・、狂っておるな。実に、狂っておる。実に、実に、鬼らしい。」

「・・なれば、貴方さまも次に見(まみ)えたとき、この身を存分に切り裂き、喰らえば宜しいでしょう―
鬼らしく。」

「もとより、そのつもりよ。そなたが我が前に現れた、そのときより、な。」


 そして、大鬼王・酒呑童子は、最後にその鬼女の名を呼んだ。




「然ればな。

『夕顔(ゆうがお)―』―・・・

般若と絶望に魅入られし、平安の御世の鬼女よ―」







 トン、カン、トン トン、テン、カン トカトントン ・・・

 その主の無理無体に応えんとする、けな気な槌の音は、変わらず続いていた。

168 :酒呑の鬼王と天魔の宴 エピローグ6:2013/09/13(金) 17:11:39.58 ID:4hT2Ighr
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「なーんつうか・・・・」


 鬼女の去った彼方をぼんやり眺め、ちびちびと酒を口内でもてあそびつつ、鬼王はつぶやく。


「・・・てめえが山の神に貰った、とかいうあの『鎖』を思い出すな・・。
なあ・・・」


 そして― その長き生の中にあって、最も忘れられぬ者の名を、口にする―


「・・・頼光(よりみつ)よう。」


 独り言は、続く。しかし、宿敵の名を口にした鬼王の語りは、しかし、どこまでも、どこまでも、
穏やかだった―


「『俺』も、まあ、『魂の自由』だか『心の自在』だかを知りたくて知りたくて、いろいろ他人をさらい
かどわかし、・・・その身も、・・その心もいいように縛り付けてもてあそび・・・
 最後の最後で、てめえに逆に『縛られ』、散々にブッタ斬られてようやく・・・そのなんたるかも教えられた
わけだが・・・・・」


 そして、飲み下す。

「あそこまで心を縛りつけ、しかもそれに『至福』すら与えるあの女御の『鎖』ってのは、
なんなんだかなあ・・?」


 新たに飲もうとした鬼王はしかし、ふと、その盃に並々と溜められた酒の湖の上に、小さな、
赤い舟がひとつ・・ぽつんと浮かんでいるのに、気付いた。


「よう―・・。 これは、『いらっしゃい』だな。『夕顔』の次に『紅葉』の来訪とは、こいつは
洒落が利いてるぜ―」


 それは― 枯れることなき鬼王の庭園の中にあって―・・ 永遠に『枯れ落ち続ける』紅葉の葉の、
一枚、だった。
 鬼王は、目を細め、愛おしいものを抱き上げるように、それを用心深くつまみ上げ―


「行きな―
 どこまでも、どこまでも、飛んで行きな―・・・」



 風に、解き放った―
 紅葉は、舞い上がり、紺碧の空を駆け上がっていく―

 どこまでも― どこまでも―

169 :酒呑の鬼王と天魔の宴 エピローグ7(終):2013/09/13(金) 17:21:20.46 ID:4hT2Ighr
 そして―


「気をつけな。嬢ちゃん―・・・」


 まだ見も知らぬ、『その娘』に、鬼王は言葉をなげかける―



「ずっと―・・ ずっと昔から―・・
 お前さんを『愛おしみ』―・・・ 欲しているモノは―・・・・・


 凄っげえ― 凄っっっっげえ―・・・

 おっかねえぞ?」





 トン カン トン トン テン カン トカトントン ・・・・・


 「大江山」の鬼たちの打つ槌の音は、いつまでもいつまでも響いていた。





             酒呑の鬼王と天魔の宴          ―了―

170 :品陀 ◆TOrxgAA4co :2013/09/13(金) 17:30:09.48 ID:4hT2Ighr
 これで、『酒呑の鬼王と天魔の宴』は終りになります。

 ここまで、読んでくださった方、途中、感想やレスを下さった方、恵方巻き巻きさん、Ωさん、
どうもありがとうございました。

 ほんとうにかなり突っ走ったストーリーを作ってしまったようにも思えますが、この作品で鬼の話を語り継い
できた先人の思いを少しでも鬼子さんぷろじぇくとに反映、参加させられることができたのなら、もっかの僥倖です。

171 :創る名無しに見る名無し:2013/09/13(金) 21:28:41.74 ID:TNSaZVq8
面白かったーっ!!大作投下乙です!それに伝説の鬼の設定が凄まじかったですw

色々なネタを拾った上で独自解釈や独自設定も散見してて、設定面でも見応えありました!
しかし、双方の陣営も痛み分けみたいな結末を迎えたようですなあ。それぞれどのくらい損失があったのかわからないし…
・・・膠着状態?今回、同盟を目論んだのはその膠着状態(?)を打破せんがために申し込んだっぽいですね。

172 :日本Ω鬼子 ◆1yM6qbhqY6 :2013/09/14(土) 10:57:16.56 ID:CNAhTyB+
まず、感想。読み応えありましたし、惹き付けられました。
最初は「あー?こんな長ったらしい話に付き合ってられっか」くらいに
ふて腐れてたんですが、読み始めたら止まんなかったです。

「外伝の制約」で、最終的にプラスマイナスゼロにしなければならないので
どうしても不自然なところが出来てしまうのは致し方ないところ。
それを踏まえた上であれば、鬼子創作の「外」にいる人にも
充分楽しめると思いますね。
「萌えキャラ日本鬼子」の物語としてではなく、
あくまで「日本の伝説上の鬼」の物語としてではありますが。

そして、それが私としては残念だったところです。
「ああ、品蛇さんもまた、『日本鬼子』というキャラクターに対してではなく
『鬼子創作』という集団にこそ魅力を感じている人なんだな」と。
本体である「日本鬼子」が、触れてはいけない、侵してはいけない
「タブー」になってしまっている感じが、「鬼子創作」の作品には見て取れます。
まるで萌え化される前の「日本鬼子」という言葉が、
日本人にとって「深く関わってはいけない」ものだったように。

173 :品陀 ◆TOrxgAA4co :2013/09/14(土) 16:43:28.09 ID:sWFIW7lt
>>171
どうもありがとうございます!!

 酒呑童子の射程無制限の強制転移に、御息所さまの射程無制限のマインドドレイン、
というのはわりと原典どおりの能力なんですが、よくよく考えたらほんとうにぶっ飛んだ能力
ですねw
 さすが伝説の鬼たちは格がちがったw

 やはり、『決戦』のあとは膠着状態、と考えるのが妥当そうですね。双方にいなくなって
しまった面子もいるのかもしれません。わーたんはいるのに、もう一鬼、ヌエの天魔党スカウト
時からの付き合いのはずの『彼女』が今回出てこなかったのもひょっとしたら・・・、ですね。
 ヌエはトラウマとかは封印してしまうようなタイプに思えますので、途中まで鬼子さんの名前
を忘れてたように、『彼女』の記憶も封印しているのかもしれません。

「決戦」の顛末については自分ひとりで突っ走るのもどうかと思うので、本スレの皆さん
や他のSS書きの皆さんとも詰めていきたいですね。
 とくに、自分の設定だと田中さんがコニポンともども、えらいことになってるので、
ぽてろんぐさんの日常パートに支障を来たさない落としどころも探りたいです。

>>172
 お付き合いくださってありがとうございます。

 ただ、「萌えキャラ日本鬼子」の物語に欠くべからざるその敵キャラと「伝説の鬼」の物語
を苦心して融合させたところに「『萌えキャラ日本鬼子』の物語じゃない」とは、相変わらずの
生き急ぎっぷりですね。
 肝心なことは、こうして、古典世界の伝説の鬼たちを持ち出しても、全く違和感のない日本鬼子
ワールドの可能性を示せたことなんですが。

 「『日本鬼子』というキャラクターに対してではなく『鬼子創作』という集団にこそ
魅力を感じている」云々については、

「賢は孤ならず。」

 と、ひとことだけお答えしましょう。
 熱い鬼子創作の皆さんへの、熱い思いもなしに、熱い鬼子さんのキャラクターに辿り付けるとは、
自分には、到底思えません。

 タブー視しているというか、今回、自分は敵キャラのストーリー、という必要な外堀を埋め、
「さあ、どうやってここから鬼子さんたちの勝利を魅力的に描く???」
という、問題提起をしたまでです。
 だいたい、「鬼子さんVS黒金蟲」「ついなちゃんVSヌエ」
の顛末は示唆したものの、それ以外にも天魔党の他の面子や四天王の局、鬼駆慈童、それに鬼子さん陣営の、
般にゃー、わんこ、いずりん、閻にゃー、いずりん、夜叉子たん、五変態、風太、鬼崎、etcetcと、描かな
きゃならないキャラたちの対戦カードがわんさかあるのはお判りでしょう?

 そうした周囲の核心のひとつを示唆的に描き、鬼子さんを描いてないからといって、
鬼子さんを「タブー視」というのも、ほんとうに変な話です。


 先はまだまだ長いですよ。あのチート鬼王を少し見習って、どこまでも愉しみながらいきましょうよ?

174 :品陀 ◆TOrxgAA4co :2013/09/14(土) 16:45:34.12 ID:sWFIW7lt
>>171
どうもありがとうございます!!

 酒呑童子の射程無制限の強制転移に、御息所さまの射程無制限のマインドドレイン、
というのはわりと原典どおりの能力なんですが、よくよく考えたらほんとうにぶっ飛んだ能力
ですねw
 さすが伝説の鬼たちは格がちがったw

 やはり、『決戦』のあとは膠着状態、と考えるのが妥当そうですね。双方にいなくなって
しまった面子もいるのかもしれません。わーたんはいるのに、もう一鬼、ヌエの天魔党スカウト
時からの付き合いのはずの『彼女』が今回出てこなかったのもひょっとしたら・・・、ですね。
 ヌエはトラウマとかは封印してしまうようなタイプに思えますので、途中まで鬼子さんの名前
を忘れてたように、『彼女』の記憶も封印しているのかもしれません。

「決戦」の顛末については自分ひとりで突っ走るのもどうかと思うので、本スレの皆さん
や他のSS書きの皆さんとも詰めていきたいですね。
 とくに、自分の設定だと田中さんがコニポンともども、えらいことになってるので、
ぽてろんぐさんの日常パートに支障を来たさない落としどころも探りたいです。

>>172
 お付き合いくださってありがとうございます。

 ただ、「萌えキャラ日本鬼子」の物語に欠くべからざるその敵キャラと「伝説の鬼」の物語
を苦心して融合させたところに「『萌えキャラ日本鬼子』の物語じゃない」とは、相変わらずの
生き急ぎっぷりですね。
 肝心なことは、こうして、古典世界の伝説の鬼たちを持ち出しても、全く違和感のない日本鬼子
ワールドの可能性を示せたことなんですが。

 「『日本鬼子』というキャラクターに対してではなく『鬼子創作』という集団にこそ
魅力を感じている」云々については、

「賢は孤ならず。」

 と、ひとことだけお答えしましょう。
 熱い鬼子創作の皆さんへの、熱い思いもなしに、熱い鬼子さんのキャラクターに辿り付けるとは、
自分には、到底思えません。

 タブー視しているというか、今回、自分は敵キャラのストーリー、という必要な外堀を埋め、
「さあ、どうやってここから鬼子さんたちの勝利を魅力的に描く???」
という、問題提起をしたまでです。
 だいたい、「鬼子さんVS黒金蟲」「ついなちゃんVSヌエ」
の顛末は示唆したものの、それ以外にも天魔党の他の面子や四天王の局、鬼駆慈童、それに鬼子さん陣営の、
般にゃー、わんこ、いずりん、閻にゃー、いずりん、夜叉子たん、五変態、風太、鬼崎、etcetcと、描かな
きゃならないキャラたちの対戦カードがわんさかあるのはお判りでしょう?

 そうした周囲の核心のひとつを示唆的に描き、鬼子さんを描いてないからといって、
鬼子さんを「タブー視」というのも、ほんとうに変な話です。


 先はまだまだ長いですよ。あのチート鬼王を少し見習って、どこまでも愉しみながらいきましょうよ?

175 :品陀 ◆TOrxgAA4co :2013/09/14(土) 16:47:13.24 ID:sWFIW7lt
長レスの重複投下、すみませんでした。

176 :日本Ω鬼子 ◆1yM6qbhqY6 :2013/09/14(土) 19:14:31.69 ID:PXYE/hz4
>>173
>先はまだまだ長いですよ。あのチート鬼王を少し見習って、どこまでも愉しみながらいきましょうよ?
まあ、「楽しめなくなった」からこそ本家から離れたんですけどね。

かれこれ2年くらい「外堀を埋める」と言い続けてるのが本家かと。
それでいて、なっかなか「鬼子本体の魅力」が描かれてない、っていう事に
物凄く違和感と焦燥感を感じてた訳ですわ、自分。
外から入ってきた人が「鬼子ってどういうキャラなのか」が
全然見えてこないんじゃないか、って。

あるいは、もうコレ本家の人間も鬼子を使いあぐねて、
より「使い勝手のいい」周辺キャラ描写に逃げてるんじゃないか、みたいな。
「自由な創作」のはずの鬼子創作で、
肝心要の主役が実は「本家の人間ですら使いづらい」んじゃないか、と。
多分、本家ですら誰も、「日本鬼子というキャラクターの魅力」について
「ズバッ!」とは言えないんじゃないでしょうか。
もう萌えキャラでも何でもなくなっちゃったような気がしますし。

あなた達にはたっぷり時間があるのかも知れませんが、
正直、どんどん鬼子が歪んで、人心が離れていくのを見続けるのは辛かったです。
待ってる方の時間も等しく流れているし、
いつまで経っても期待した鬼子が見れないと分かったら、それは離れていくしかないです。

177 :品陀 ◆TOrxgAA4co :2013/09/14(土) 20:09:01.74 ID:sWFIW7lt
その『離れていく中』で自分は逆に『入ってきた』んですけどね。

 あいにくですが、自分はひとり「鬼」というテーマを追い続けてて、その「楽しめなくなった」
なんてのは反吐がでるほど味わいましたから、Ωさんはまだまだ辛抱も忍耐も足りない
ようにしか見えません。

 ちゃんと、鬼子さんを描いてる人なんて、かださんやぽてろんぐさんはじめたくさん居られる
じゃないですか。
 問題はそれぞれの鬼子さん像から統一イメージをいかに見出すべきか、で。

 とりあえず、自分は鬼子さんが天魔党と決戦に臨むとしたら、「こういう試練は絶対に乗り越えないと
いけないだろう。」というものは示しました。これを乗り越えられるのが、『統一イメージ』鬼子さん
となりえるはずです。
 なかなかこれに肉付けするのも容易ではないでしょうが、これに挑む人が必ず現れることをとりあえず
信じることにしてしばし待ち、どうしても無理なようなら、自分で挑みます。

 まあ、その前に『縁起』のほうで人と鬼の間で揺れる鬼子さんの存在的ポジションを固めておきたいので、
とうぶんSSに挑むのは無理なのですが。

 Ωさん、以前に頼みたかったことなんですが、いろいろな鬼子さんのストーリーがある中で、
Ωさんはどのくらいそれを把握してますか?
 よければ、Ωさんの理屈っぽさを見込んで、そのストーリー群の間にある矛盾点を洗い出し、統一ストーリー
を構築していく、とかいったこともお願いできるものならお願いしたいのですが。


 とにかく、言い争ってもしょうがないので、どこまでも建設的にいきましょう。
自分はとうぶんは鬼子さんの根っこの部分になり得る、鎌倉時代の鬼子さん創りを頑張りますので。

178 :創る名無しに見る名無し:2013/09/15(日) 04:00:26.63 ID:Y8BcLwPx
品陀さんはピクシブなどにアカウントは持ってましたっけ?SSスレは時が来たらオチてしまいますから。
これだけの大作、折角ならピクシブ等の場所に置いておいた方がいいんでないかと思ったりして

179 :日本Ω鬼子 ◆1yM6qbhqY6 :2013/09/15(日) 11:24:12.07 ID:SUSxDw8p
>>177
「今のままでいいじゃん」は、「前向き」とは言わないと思う。

あと「ストーリー群」ってどれくらいあるのか把握できてないんですけど、
「鬼子創作」の「暗黙の了解」の中で予定調和に進んでる話を全部読んで
「ああ、やっぱり芯が見えてこない」と確認する作業とか苦痛すぎる。
他所の同人誌買ってまでソレをやった人は本家にもいないんじゃないですか?
R18まで含めて網羅してる人はいますかね?

まあ、続きは本スレの方ででも。

180 :創る名無しに見る名無し:2013/09/15(日) 13:37:38.26 ID:1PoE/ZhP
>Ω氏
>>176の「鬼子本体の魅力」の問題提起はありがたく頂きます(自分の心のすみにずっとあったことを改めて想起させられたことには感謝します)。
ただ、これ以上批判を続けて、批判で場を支配するのはやめてくださいね。

あなたにはご自分の考える「鬼子本体の魅力」の方向性があるのでしょう。他の人の創作がそれに全然沿っていないように見えるから苛立っているのでしょう。
人に向いてほしい方向があればまずは自分でやればいい。人をどう動かすか考えればいい。人を批判してもふつう人はついてきません。それはあなたも分かっているはず。

181 :品陀 ◆TOrxgAA4co :2013/09/15(日) 19:53:49.53 ID:AIEtJxz8
>>178
 それが持っていなくて・・
自分では投下してみてはじめてこんなに長い作品だと気付いた情けないしだいで・・・
もし遺す価値を認めていただけるのでしたら、どなたか、なんらかの方法で保存して
いただけないものでしょうか?

 ほんとうに手前勝手なお願いだとは思いますが、創作についてはいろいろとアイディアは
あるものの、そうしたことにはほんとにほんとにとんと疎くて・・・

 もしそうして頂けるなら、今回提示した鬼子さんストーリーの今後の展開にはほんとうに
責任をもって取り組ませていただきますので・・

>>179
 じゃあ、もう何もいうことはないです。
 自分は議論なんかより鬼子さんの創作をしたいので、漫画のほうに取り組みます。



最後に、
「鬼子さん陣営VS天魔党」決戦のストーリー描写に挑みたい、という勇敢な方。もし
自分なんかでよければ、いつでも相談に乗りますので、この品陀のコテハンに呼び出しを
かけてください。
 頑張って皆で鬼子さんたちと、天魔党の行方を見届けましょう!!!!

182 :創る名無しに見る名無し:2013/09/15(日) 21:41:38.49 ID:bjDx3DcA
pixivのアカウント、持ってないなら、特段の事情がなければ作るといいと思いますよー。
無料で簡単に作れますし、ほかの作品も見やすくなりますし。

183 :創る名無しに見る名無し:2013/09/15(日) 21:49:45.41 ID:KyxIAGFg
あと、いつぞやの騒動で離脱を決意した人とかでなければ…ですね。

184 :日本Ω鬼子 ◆1yM6qbhqY6 :2013/09/16(月) 08:51:38.72 ID:n5kZEUq9
>>180
やってはいますけどね;
本スレで文句付けられたので
「日本鬼子」で検索しても引っかからない形でやってるので、
何もやってないように思えるかも知れませんが。

185 :創る名無しに見る名無し:2013/09/17(火) 15:24:49.51 ID:8j4m9O30
\ノ\   ,/ヽ、/ /\ ノ \
  \ノ\/   Yレ'    \ ノ \   さ つ ば つ と し た す れ に
   ヽ、ノ大ニ>|<二大  \ ノ ヽ、           む し む し ゃ が !
     Yて丁≧ュyェ≦王]W》/ \ノノ
     ム_〈モ─┰i''i─┰チ川ム:::::::::::::::   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
     I川|  ̄シ小ヾ ̄I|‖)::::::::::::: < カレーの王子さまこそ至高 │
     |川ト /    、 川 |\:::::::::::::   \__________/
.      ム川 ヽ、ィ==(  ,イ||ト、|:::::::::::::  __
   /\ソ川州ヘ__,/ .| ,川::::::::::::::::::    /
   /  介リ洲  ヽy//川川/::::::::::::::::::   /
  テとつナヽ二フ  //_リ ノ:::::::::::::::::::  (___,
 ̄ ̄(ミヽノ,////,;;::'';";"''::,./::::::::::::::::::::::      力
ヽ、/ケ介 ///,,;;;;;';';" . : . : .こヽ.::::::::::::::      |ノ
  Yソ 人.//━━━━┯┯さノヽ、::::::::      │

186 :創る名無しに見る名無し:2013/09/17(火) 23:45:31.83 ID:ub+nE+bv
>>184
ときどき見かけますから存じていますよ。
最近のΩnikoさんはますます可愛い。

187 :創る名無しに見る名無し:2013/09/17(火) 23:48:51.50 ID:ub+nE+bv
>>185
カレーを召し上がるようになるとは、ずいぶん辛党になられましたね、旦那!

188 :日本Ω鬼子 ◆1yM6qbhqY6 :2013/09/19(木) 09:24:29.40 ID:oDPdvPkk
>>186
こっちでは珍しく褒められたので思わずたじろいでしまいました;

個人的には本家を全否定したい訳でもなんでもないんですけどね。
ただ、「あなた達とは違った見解が世の中のはある」っていうのを
提示したい。

ひとりひとりの中に「自分の『日本鬼子』」があっていいし、
だけど全体として見た時に、それは誰のものでもない
「ネット民の共有財産」で、
そしてそれらは「日本鬼子」で繋がっていて
結果的に「大きな和」を形成していてほしい、
というのが自分の中の理想でした。

それぞれの思惑や価値観は違っても、
それぞれが認めあい、違いを許しあって
その中で「ゆるいルール」や「暗黙の了解事項」が生まれるとしても
それが創り手を縛るものではない、そんな作品群であってほしかった。

でも、いつの間にか
「力のある創り手の『鬼子ワールド』に依存して、
その枠組みに当てはまるモノだけを『正統』とみなす」雰囲気が
鬼子創作の中に出来てしまった、と私は感じています。

それもまた、私達の選択した結果ではあるのですが、
そのために鬼子が「誰のものでもない」性質を失い
「誰もが気楽に参加できる創作」でなくなってしまって、
それ故に「鬼子作品を作る人がごくごく限られてしまう」状況になってしまったなら、
私は「かけ間違えたところまでボタンを外したかった」のです。

でも、本家は「掛け間違えていない」と考えている。
根本的なところで、私は「鬼子創作」とすれ違ってしまって、
「そこには居られない」と感じてしまった。
私が「そこ」と感じた、その「境界線」が
今の鬼子創作にはあるんじゃないかな、と思うのです。
それが、かつて「萌えに国境はない」とまで言わしめた
「萌えキャラ 日本鬼子」の姿だとしたら、
あまりにも悲しい話ではないか、と。

189 :創る名無しに見る名無し:2013/09/19(木) 11:46:21.61 ID:vi7ViOiR
              ,x-ー、''"'''ー-x,,
             /::::::;ハ、::::::::::::;ハ`メ^y-,
              /:::::::::/  ミ;;:::::::ヾ、人::ヾY^,,
         _.,--|ヽv")人 ⌒ ヽwノ  スヘ トj、ヽ
        ゝ、,力父⌒Xヾ,,-=、   '⌒ ∨ノハノ  
      ,r'" ̄~    ∨入´,, ,,      '' ''ルリ' "
    ,r '゙~        .乂父ミ   ィ'⌒)  ノW   めばえさけ〜♪     
  ,/             \ミ    ̄ ,,ィ'W'
x'´          __人彡'叉ヽ大゙Y彡'  rγヽ
{       __ ___ノー─く\ヽ 》゙゙ヽノ`〈ノ   \ノ
゙'ー--─i'´ /´~     `ヽi乂  // }
 ,へ、 `´\        i'" ̄ ̄ ̄ ̄|  /^ヽ、
(_λ_ノ     (____ノ、,,____|  乂_乂.ノ
  r⌒Y⌒ヽ  /    ,/ ` .__________|
  `ヽ、 ,ノ  /     ,_/~`''''′    |
    `Y    |____,...-ヘ,__    __,,/
           |. 〈,,,,,,--′`゙゙゙゙゙i´ │
           ヽ,Yノ      | ̄|
                    |  |
                    | .,ト-x,
                   .|"⌒ヽ )
                    ~'''"゛^^

190 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2013/09/19(木) 13:09:37.19 ID:u6w9pzHc
( ゚ Д゚)y─┛~~ 書き込み出来るかテスト

191 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2013/09/19(木) 13:12:14.03 ID:u6w9pzHc
ぉお!解除されている。

>>189
もっふもふ

先の読めない展開、魅力的な表現、そして引き込まれていく物語って
おおよそ他者が考えつかない展開になるんですよね〜。
そんな時に【他人が表現した展開・設定に好き嫌いがある】ことは
それ自体各々の創作で歓迎したいな〜っと。
喜ばしい事ですよね〜。上から目線になっちゃってます?
楽しいSS・AAが増えればいいな〜。

192 :創る名無しに見る名無し:2013/09/19(木) 14:55:01.72 ID:Yz+0RCbL
SSおつー

違う鬼子を認めない流れなんてありましたっけ?
スレ内ではルールを守れば好きにやっていいし
スレ外ではエログロOKで実際やってる人もいるし
すごい自由だと思うんですが。
自分もいろんな鬼子がいたら嬉しいし。
ピクシブで田中さんやついなちゃんはいるけど、
主流になってる作品とはずいぶん色の違う小説が投稿されてるよね。
すごく楽しみにしてる。ああいう鬼子さんもかっこいい。

193 :創る名無しに見る名無し:2013/09/20(金) 16:57:44.38 ID:jO0NTR6z
                  ,,,〃'..::  ̄ ̄ ::::... 、
                r':::::/::::イ:::::::l:jハ:::::ヽ:::::\,ノノノ_,
               彡イ:::|::/‐|:::::::l/┤ハ::l::::|::::r洲ッヘ
                彡::仏≦ヘ::/ z≦ハl::::|::::ド、:::::ハ  田中さん(bot)、
                /::::;リ ヒソ ′ヒソ /::::ノ:::ハ::::::ト、    今日も今日とて
__________ 'リ::::(        /::::::[):::ネ必:::::ミ      修羅場哉
|             | |  lハ::仆 .._ −   /::::;イ::::::人川::::ネ、
|             | |   ソル::::ソ勿ネ⌒ツvk'::::刈  リ::::メ'゙
|             | |   リルr':.父yヘ、_,ノ"ッ'⌒メ;メ、彡::八
|             | | rm"メナ/.:./:.:.:.|ト、:.:/:;ィ壬ヂメ彡'" __
|___________|_|('エ"とノ' ̄ ̄に`ン ̄_,ノ ̄ ̄ ̄ /|
     _|__|_|_     ~ ̄ ̄      ̄" ̄




                  ,,,〃'..::  ̄ ̄ ::::... 、
                r':::::/::::イ:::::::l:jハ:::::ヽ:::::\,ノノノ_,
               彡イ:::|::/‐|:::::::l/┤ハ::l::::|::::r洲ッヘ
                彡::仏≦ヘ::/ z≦ハl::::|::::ド、:::::ハ  …又暫くは
                /::::;リ ヒソ ′ヒソ /::::ノ:::ハ::::::ト、    遊んで貰えじ
__________ 'リ::::( ""    U ./::::::[):::ネ必:::::ミ
|             | |  lハ::仆 .._ へ  /::::;イ::::::人川::::ネ、
|             | |   ソル::::ソ勿ネ⌒ツvk'::::刈  リ::::メ'゙    
|             | |   リルr':.父yヘ、_,ノ"ッ'⌒メ;メ、彡::八     
|             | | rm"メナ/.:./:.:.:.|ト、:.:/:;ィ壬ヂメ彡'" __
|___________|_|('エ"とノ' ̄ ̄に`ン ̄_,ノ ̄ ̄ ̄ /|
     _|__|_|_     ~ ̄ ̄      ̄" ̄

194 :創る名無しに見る名無し:2013/09/21(土) 00:32:21.98 ID:rqD/k9on
わーたん田中さんをネットストーカーまでしてるんかwwww

195 :186:2013/09/22(日) 01:57:44.08 ID:eU7uhzkL
>>188
最近むしろ、独自の(かつ今までになかった)方向性の作品の割合が高い気もするんですがね。

要するに、あなたの作品の方向性は全く否定しませんが、
仮想敵との主導権争いとかはどうでもいいです。とだけ。

いま鬼子創作してる人たちって、べつに一枚岩じゃないですよ。
争うよりも他のことが好きなだけ。

196 :日本Ω鬼子 ◆1yM6qbhqY6 :2013/09/22(日) 10:05:33.67 ID:5eFM23SM
>>195
まあ、俺も主導権争いとかどーでもよくなったんで
最近スレ荒らしもしなくなったんですけどね。

「自分が楽しいと思う事をやって、
それに付いて来ている(同じ価値観の)人たちが満足してるんだから
それ以外の外部の人たちは関係無い(どうでもいい)」
という認識が根本にあるなら、
自分の焦燥感をどう説明したらいいのかわからないし、
そのくらいなら自分の手を動かした方が建設的ですしね。

どっちみち本家にいても「何のバックアップも受けられない」訳で
だったら自分は「音楽作る」のと「CGモデル動かす」以外は
自分一人でなんとかできますし。

いや、これが結構重要な事かも知れない。
本家は、創り手にどういうバックアップができるのか?
「創り手に任せて、いい作品を作ってもらう」のを
単に傍観しているだけであれば、
創り手にも「鬼子にこだわる」理由はないんですよね…
むしろ、「日本鬼子ぷろじぇくと」と「無関係」な方が
よっぽど自由に「和風鬼娘モノの創作」が出来る。

「震災は鬼子と無関係」発言の時も思ったんですけど、
そちら側も、もう少し「他人」に関心持った方がいいですよ、
俺が言うのも間違ってますけど。
芋さんじゃありませんが、「価値観」なんてひとつじゃない。
あなた達の「NO」が、誰かの「YES」でもあって、
創り手がそれを否定したりバカにしていたら鬼子だって嫌われてしまう。

197 :創る名無しに見る名無し:2013/09/30(月) 18:24:24.48 ID:bjXM/yOg
>>193
botに嫉妬。

198 :創る名無しに見る名無し:2013/10/09(水) 13:41:28.24 ID:Kyy8SH8x
        彡::/::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ハ::::::::::ヽ、:::::::::::)  興 田  お
     、.__ノ::/:::::::::i::::::/::::::::::::::::::/  ヾ、::::::::::l:::::::::´ヽ  味 中  生
   、.__//:/:::::::::::|::::/|::::::::::::::::/  ,:,r-'ト、::::|:::::::::::::::ノ  あ  さ  憎
      /:/::ィ:::::::::l:::ノ |:::::::::::::/ィ'´ ,..........`}:l::::::::::::::´ヽ り  ん  様
     ,イ/::l:::i:::,A-ト‐f::::::::::ズ  二,.--o-|リ:::::::::::::;_.ノ ま .以  で
      l::::::::::l:|、::| .l:|-┤:::::;イ   ´ ゙、:,じリ| l::::::::::::::::ヽ せ .外  す
      |::::::::::::::Vl Tニbミ:::|      ゝ-‐'チ:::::::::::::´,) ん は  が
      |:::::::::::::::::λ ゙、;;リ;人       ,仏::::::::::::::´,) !
      |:::::::::::::::::ハ::゙、    ,       ,イ::::::::::人:::::::´⌒ヽr'⌒Y⌒V´
      |::::::::::::::/ |::l          彡:::::::::/洲|::::::::::::;;;;メ'ぞ 、'::::::′:::::ヘ、
      |::::::::::::/ ノ::::`ヽ、   r─-( 爻:::::::人,へ|::::;;;;i刈川毛 ヾ、::::::::::::::::ヽ、
      |::::::::::/ 彡:::::::::::::::::`ー─-ォ,ィ父::;,ノ/  ヾ、!州州リ耗  ヾ、::::::::::::::::ヽ、
      |::::::::/ 仏:::::::::::::::::::::::::::::r''"} ケ刈√   /" ̄ ̄`ヽミぞ  チ:::::::ヽ::::::::::)ヽ、
      |:::l::::ト刃:::::::::::::::::::::::::::::/ ,ハ ,イ   ァ'´       `ヽ、,彡:::::::ノ:::::::ノ
      ヽ:::リ匁:::::イ::::::::::/⌒''"|,〃 /   /,|/        ,_,ィ'":::::::ツ::::::::メ
      入杉州;八;;;:::/  り!人|,/   /  {ム.     _,_] リ::::::::::人:::::ぞ_,ノ
        リX::::::ミ、Y  イ/|/   // __父八 ,/ ,]    人:::::ノ  ヾ、:::ヽ、
         人::::::ミ_,/ ヽツ/___/ ̄| ̄_|歩-\イY‐─〜'⌒Yれイ    ,メ::::::)
           \::ソ__,.ィ'" ̄    ̄` ̄"´ 八,ィソ木⌒^く   ノ }     勿メ
            Y{ノ' |/\/\/\,A,へ/V|l! ヾ、  \ ヽ、,介 大     "ヌ

199 :創る名無しに見る名無し:2013/10/09(水) 23:37:39.17 ID:grybbEqx
とーとー言い切ったーーーーっ?!

200 :創る名無しに見る名無し:2013/10/15(火) 15:04:36.44 ID:XyDGAClD
次の大作はいつだ!?

201 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2013/11/13(水) 20:54:56.20 ID:odh4VZEY
今宵も超〜安定のSSスレ。
素晴らしいSSやAA達のさえずりからはや一ヶ月が
経とうとしている。
いかん。何か投下しなければ・・と
書きなぐったSSを投下します。
お付き合いよろぴくです。

202 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2013/11/13(水) 20:56:45.60 ID:odh4VZEY
【ココハドコ?】

 秋の山野に咲く1年草。
日当たりの良い場所を好み、9月から11月にかけて可愛らしく咲く花がある。
恥ずかしがりやなんだろうか、葉の片側だけに花を付けて縦に列を作る。
その花は淡い紫色に化粧をし、ゆるりと反り返る様が薙刀に似ている事から
薙刀香需(なぎなたこうじゅ)と名付けられた。
また薬草として重宝されており、全草を利尿・解熱・発汗などに使われる事があるそうだ。


 [秋の夜長]と言えば情緒ありそうだけど、現実はかなり違った姿をしているものね。
冷たい風が吹き荒れ、行き交う人の波と車の黒いガス。
たまに大きな犬が私に向かって足を上げるの。
道路沿いにある歩道の脇に電柱があり、その下のコンクリートから顔を覗かせているのが、

━━━わたし━━━。

そう、私は[薙刀香需]なの・・・多分・・・。
私は咲いて出てくる前に、色々勉強したよ!
山間の綺麗な草原で、穏やかな風に撫でられながら幸せに佇む姿を。
でも・・・ここは全然違う。
勉強不足なんだろうか。誰も私を探しにこない。
熱のある人達の看病にと、私を探し回る人達がいるはずなのに・・・。
そして、私を見つけた人は必ず笑顔と一緒に暖かい手で包み込もうとしてくれるのに。

愛の無い冷たい場所に、私だけが佇んでいる。
でも、たまに声をかけられるんだ。
この間なんか、JKが・・・ってJKって知ってる?女子高校生の事だよ。
私、勉強したから色々知ってるんだ!
JK3人が近寄って来て、私のことをじ〜〜〜っと見つめるんだ。
だからドキドキしながら待ってたの。

「ぉお!いよいよかな?」

って思ったときに、1人のJKの言葉が・・・私の心を超ーーー雑に虐めたの。

「ねぇねぇ、この花って七草粥のお花?」

私は首がひん曲がったわよ・・・。「ポカーン」どころじゃ無いわよ。
ひん曲がって、ねじれて、倒れて・・・。
梨汁ならぬ香需汁~~ヘ(( ∂з∂) ブシャー:;:.,*+・・・・ってしてやりたかったわよ。
でも・・・私は[薙刀香需]。そんな事しちゃイケナイって事くらい解ってる。
秋に花咲く私だけど、七草粥には間違われたくない。
そうこうしない内に、もう1人のJKが私に顔を近づけて来たの。
サラサラヘアーの清楚な可愛らしい顔のJKが。

[あっこの人なら私の事を理解してくれてるわ!]

って思った瞬間の、あの強烈なセリフ・・・。

「七草粥じゃねーよ。秋の七草じゃね?」

私は首がひん曲がったわよ・・・。「ポカーン」どころじゃ無いわよ。
ひん曲がって、ねじれて、倒れて・・・。
私の根を抜いて、しなるムチの様に往復ビンタしてやろうかと思ったわよ。
でも・・・私は[薙刀香需]。そんな事しちゃイケナイって事くらい解ってる。
秋の七草ほどの知名度が無い私に・・・かける言葉じゃないじゃない。
JK達は[スマホ]ってやつで色々検索してたけど、結局私の事が解らなかったみたい・・・。
口を尖らしながら去っていったJK。
私は、心の中で叫んでやったの。

203 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2013/11/13(水) 20:57:49.12 ID:odh4VZEY
「くっさいパンツ、見せてんじゃねーーーーー!!」

ってね。
でも、こんなの平気なの。頭に血が上って[キィーーーーッ]てなるけど、
全然OK、OK!!
それよりどうしても我慢出来ない事があるの。
あいつが近寄って来たら、本当に、本当に危険度超〜MAXになる。

[犬]

犬だけは・・・本当にもう・・・。
奴ら・・私の存在を知ってるはずなのに、目の前で片足上げて大股開き。
この後の展開は・・話したくない。
とにかく、拷問・レイプ状態だわ・・・。

私は・・・色々な苦難を乗り越えて、我慢して、耐え忍んでるんだけど・・
誰も暖かく迎え入れてくれないの・・・。
そう━━━この夜空のように。
誰も届く事の出来ない深くて寂しい色に染まり、
雑巾を絞って流れ落ちた水の様に、灰色に濁った雲が顔をなでていく・・・。

[可哀想・・・]

私の名前も・・・[薙刀香需]じゃなくて、[可哀想]ってしてくれていたら、
少しは心が癒されてたかもしれない・・・。見上げる夜空が私と同じだから・・・。


「鬼子姉ちゃーん!そろそろ帰るよー!」

私の耳に、突然飛び込んできた深夜前の言葉。
頭の両サイドから大きな耳が出ている少年で、
赤茶系の袴の様なものを着ている。
その男の子が誰かに声をかけているようだった。
そのすぐ後ろに、紅色の紅葉柄の着物を着た女性が歩いていた。
そして・・・・・

目が合ってしまったの。

私の目を[じ〜〜〜〜〜]っと見つめてるの。
その鬼子と呼ばれてる女性が、私を見てる。
この女性・・他の人と何かが違う・・・。
だって・・角があるんだもの・・・。
眉間にシワを寄せながら、私にそ〜〜〜っと近づいてくる・・。

何か危険・・私の第六感が激しく上下に波打ってる・・。
この女性に・・何かされるんだわ・・・。
卑猥な指で、あんな事やこんな事をされてしまうのかしら・・・。
私に・・・その仕打ち、耐え忍ぶ心があるのかしら・・・。
その女性の卑猥な手が、薄笑を浮かべ近づいてくる・・・。
そっか・・・。もてあそばれるのね・・・。
私は・・・嗚咽しそうな感情を押し殺し、耐え忍べるようにと
あの歌を唄う事にしたの。私に力をくれるあの歌を。

204 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2013/11/13(水) 20:59:05.77 ID:odh4VZEY
[FALL BLOW]

「旅の道は〜 ひとりみの道〜♪」

あ・・あれ?キーがすごく違う。今の危険な現状に動揺してるんだわ・・・。
でも・・・頑張れ私!
それなら、[HAKUMEI]を唄をっと!

「ドウシテナノ〜言葉が痛く〜ぅて〜♪」

だぁぁぁ〜〜〜〜・・これもキーがぜんっぜんちがうーーーー。
やばい・・やばい・・・超やばいーーーーーーーーー!!

「あれ?やっぱりこのお花、薙刀香需だわ!」

私は[え━━━!?]ってなった。解る?[え━━━!?]ってなったの。
おマジナイの歌が唄えなかったのに、一番期待していなかった言葉を聞いたから
ほんっとうに[え━━━!?]ってなったの。

「街中には咲かない花なのに、こんな所に健気に咲いてるなんて!
 久しぶりに会えたから、すっごくうれしいなー」

な、なんですと!?頭の中に電流と激流が渦巻いてる状態の私。
この鬼子って呼ばれてる女性は、完っっっ璧に私の事を知ってるし、理解してるっぽぃ。
よし!!!!来い、来い、来い、来い、来い、来い、来い、来い〜〜〜!!

「そうだ、久しぶりに熱冷まし用のお薬でも調合しよっかな。
 こんな場所なんかで咲いてしまって、大変だったでしょ!
 薙刀香需さんで、お薬作らせてくださいな」

キタ━━キタ━━(゚∀゚)━━キタ━━!!

私の人生、勝ち組だーーーー!!!

鬼子という女性の手の香りはほのかに紅葉の匂いがした。
ピンク色で暖かな手に包まれた薙刀香需は、
顔が少し濃いめの紫色に染まり、幸せそうに夜空を後にした。

もう少し時が経てば、この街もやがてヒラリと雪景色になるだろう。
覆われて隠れてしまう小さな命達は、春と言われる未来へ向けて
力強く生きていくに違いない。
忘れてはイケナイ事、それは━━━━━━

「乳の話を しようじゃないか」


ちゃんちゃらり〜ん、おわり

205 :創る名無しに見る名無し:2013/11/14(木) 01:57:28.61 ID:ol00OVPj
乙でしたーよもやの薬草視点のSSとは意表をつかれた!
……て、効能を謳っている割には俗な内面の薬草だなっ?!

206 :創る名無しに見る名無し:2013/12/08(日) 10:52:57.33 ID:sFR9L7xp
【注意喚起】
いよいよしたらばの鬼子スレのアドレスが変更されるようです。
ブラウザで閲覧している人は暫くは自動的に転送されるそうですが、専用ブラウザの人はそうはいかないみたいです。
変更作業は12月10日の6:00から9:00の間に行われる模様。それ以降は新URL(http://jbbs.shitaraba.net/)に変更されるとのこと。
詳しくは下記URL参照のこと。
http://blog.m.livedoor.jp/bbsnews/article/54661274?guid=ON
……まぁ、一応こちらにも

207 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2013/12/09(月) 16:57:57.16 ID:mjAPw7hd
>>206ほうれん乙

今宵も超〜安定のSSスレ。
私が描いたどうでもいい薙刀香需SSからはや一ヶ月が経とうとしている。
誰かがSSを書き込まねば、
今宵、このスレは[最強で最悪な心の鬼]に支配されてしまう。
その名は・・・・・・・・・・

208 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2013/12/09(月) 21:03:23.88 ID:mjAPw7hd
さてさて、放置プレイもほどほどに
SSスレ板からの逆襲を押さえ込むべく、
新しい心の鬼SSを投下するにゃー

209 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2013/12/09(月) 21:05:46.92 ID:mjAPw7hd
短編小説『心の鬼とは』
【最強、最悪な心の鬼・沓石憑鬼(くついしひょうき)】

 無色透明な小さな塊が、お友達と手を繋ながらチラリ、チラリと
夜空の野原で遊んでいる。
月の光に照らされ、反射して白く見えるその塊は
[雪]と呼ばれる事がある。

真夜中──夜空が輝く雪をまとう時、まれに現れる鬼がいる。

「ぐふっ・・ぐわっはっはっはーーーーーー」

濁りが混じり大きく響くその笑い声は、生きる者には聞こえない。
憎悪の念が渦巻き、とても強い執念が込められている響きを知る者は
この世に存在しないであろう。
ほのかに輝く小さな光。ゴルフボールくらいの光が
雪をまとった夜空をゆらり、ゆらりと浮遊していた。

「ちっ・・。この白くて冷たい奴嫌いなんだよな」

大きく笑うモノが、そう言いながらゆらりと動く。
淡い光を帯びたソレは、古びた蔵の様な建物の上をさまよっていた。

「オレ様が出歩く時って、いつも白くて冷たい奴が沢山居る・・。
 邪魔なんだよなぁ・・前がよく見えねぇや・・・」

悪態を発するその淡い光が古びた大きな蔵の柱近くをさまよいながら
あたりを注意深く見回していた。

「う〜〜〜良い子はいねぇかぁ?良い子はいねぇかぁ??」

淡い光は入念に周りを見渡し、[良い子]と表現する何かを探していた。
そんな時、その光が一瞬パッと輝きを増す。

「ぃやっほ〜〜〜う!見つけた!!白くて冷たいモノをかぶってない良い子が!!」

そう言い放った瞬間、淡い光は瞬時に[良い子]に取り憑いた。
真夜中、田舎町の出来事なので、誰もそれを見た者はいない。

210 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2013/12/09(月) 21:07:41.59 ID:mjAPw7hd
 山間から覗く朝日が、田舎町周辺を暖かく包み込んでいる。
古びた大きな蔵にまでその手を伸ばし、うっすらと白む大地を綺麗に輝かせていた。

「・・・ぅう〜〜〜・・・」

輝く町には似合わない濁った声が、蔵の下から聞こえてくる。

「・・・しまった・・・。またやっちまった・・・。
 これで百と七回目・・・。一度取り憑くと割れるまででられねぇ・・・。
 良い子・・今までのとは桁違いに最強な硬さをしてやがる・・・。
 最悪だ・・・」

淡い光が取り憑いたのは・・・石。
しかも、蔵の束柱の礎石の上に置かれる根石に取り憑いたのだ。
この心の鬼は[沓石憑鬼(くついしひょうき)]と呼ばれる心の鬼。
元となるのは、この世に未練を強く残した古き右官・左官達(番匠・宮大工)の念である。
建物などの建設中に、土台が崩れその下敷きとなって突然この世を去った者達。
成りは小さいが、未練と言う念が膨大に集まって出来上がった心の鬼である。
この鬼は自ら好んで無いのだが、人や木ではなく石に取り憑いてしまう性質がある。
その場で動く事ができず、取り憑いた石をより強力にしてしまう・・・。
石が何らかの力により割るまで外に出られない可哀想な心の鬼。

しかし、我々人間には重宝されている心の鬼なのだ。
普通石が割れる時は、小さく[パチン]と音が弾けるだけなので気付く事があまり無い。
しかし、この沓石憑鬼(くついしひょうき)が取り憑いた石は、大きな音が鳴るのだ。
石の割れる音が大きく鳴るのではなく、割れて沓石憑鬼が飛び出す音が大きいのだ。
先人達はその音に気づき、家や寺、神社や蔵などを支えている石を見回して
破損箇所がないかどうかを調べるらしい。

今回、沓石憑鬼が取り憑いた石は大きな酒蔵の根石。
古いが立派な建物で、とても頑丈な根石で支えられている。
この石が割れて、外へ抜け出る事が出来るのは・・・多分、早くとも数百年後だろう。
立派な酒蔵には紅色の垂れ幕が施してあり、そこには
[祝!日本鬼子酒]と書かれている━━━

礎石や根石、またはブロック塀などが近くにある皆さん。
外で[パチン]と弾ける大きな音がしたら、一度調べてみて下さい。
もしかしたら・・・

忘れてはイケナイ事、それは━━━━━━

石の上にも三百年・・・あれ?年数違う??
スレで遊んでしまってすみませんでした。

【最強、最悪な心の鬼・沓石憑鬼(くついしひょうき)】おわり

211 :創る名無しに見る名無し:2013/12/10(火) 19:39:03.95 ID:sjZ3sTPS
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【脈々と】萌えキャラ『日本鬼子』製作31 【萌え】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/3274/1368539822/
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変更後
【脈々と】萌えキャラ『日本鬼子』製作31 【萌え】
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/3274/1368539822/

変更前
萌キャラ『日本鬼子』制作in運営相談所13
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/3274/1364553489/
          ↓
変更後
萌キャラ『日本鬼子』制作in運営相談所13
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スレッドのある板一覧
変更前
http://jbbs.livedoor.jp/internet/3274/
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212 :ついなとクリスマスと雪の夜:2013/12/25(水) 00:10:02.06 ID:bI9WOTGx
  ◇ ◇ ◇
 イルミネーションに彩られた街の中、雪がちらちらと降り始めていた。その雪の中、駅前で少年と少女は向き合っていた。

「んじゃ、いこっか。また迷ったら困るし。ほら、手」
そういって少年は目の前の少女に手をさしだす。

「は、はいぃっ……」
雪のように白い肌に特徴的なグルグルお下げをした少女は言葉少なに答えた。そして顔をうつむきがちなまま、おそるおそる差し出された手に手を伸ばした。
少女の名前は如月ついな。未熟ながらも鬼祓いを自らの使命にしている少女だ。普段は厳つい方相氏のお面をつけ、赤い色に縁取られた黒衣の衣装を身に纏い、鬼を祓っているが今日は女の子らしい暖かそうな服装をしている。
また普段は活発な少女であるが、彼の前では緊張でどうしても借りてきた猫のようになってしまう。
そして手を差し出している少年の名は田中 巧(たなか たくむ)どこにでもいるごく平凡な少年でついなの想い人だ。
偶然、駅前で出会った二人はこれから彼の家に向かう所だった。巧の妹であり、ついなの友人でもある田中匠(たなか たくみ)が一足先に家でクリスマスパーティの準備をして待っているのだ。
ついなという少女は少しばかり方向オンチで巧もそう認識していた。なのではぐれたりしないよう彼女の手を引いて家に案内しようとしていたのだ。
ついなの小さな手が少年の手を掴もうとしたした瞬間──

「にゃーーーっ!!メリーーークリスマーーーーース!」
横合いから二人の間に赤い影が割り込んできた。
「なななっ?!なぬな?」
不意に何者かが背中に覆い被さったため、ついついなは素の叫び声をあげてしまう。おまけについなは声の主に聞き覚えがあった。

「あーーーーっやっぱ、ついなっちだーーっ!メリーークリスマーーーーースっ!」
「ひぁぁあぁぁあっ?!」
ついなの背によりかかってぐるぐるとついなを振り回しながら、にぱっと笑ったその少女は赤いサンタクロースの衣装を着ていた。何故か肩に黒い猫をかけるようにのせている。
かぶったサンタ帽からは金色の髪の毛が顔をのぞかせていて、何故かサンタ帽の先端には白いふわふわのボンボンではなく、枝のついた葉っぱが一枚、ピコピコと揺れていた。

「ん?君は?この娘のトモダチかい?」
手を差し出したまま、キョトンと巧は尋ね返した。イマイチ状況が読み切れていない。サンタ衣装の少女は少年に向き直ると、片手をあげ明るく自己紹介をした。

「うん!閻はこのついなっちのトモダチだよ!このコはバッキー!」
そういって、ついなの肩から降りると肩にとまっている……というより、だらんとぶら下がっている黒猫を紹介した。ちょっと見、アクセサリーかマフラーのようだが、一応生きているらしい。
片目を開けて巧をチラと見ると興味なさそうに目を閉じた。それで紹介したことになったのだろう。少女は迷惑そうにしているついなから降り、巧を下からまじまじとのぞき込んだ。

「へぇ……閻ちゃんか。よろしく」
「……で、ついなっちと一緒にいるおじさんは一体ダレさ?」
「ははは、おじさんか。まいったなあ。おばあちゃんって呼ばれたりはするけど、おじさんって言われるのは初めてだよ」
巧はおじさん呼ばわりされたのにもかかわらず、特に怒らず苦笑するだけだった。その巧の後ろに閻から解放されたついなが「なんやねんコイツ」といいたそうな表情で回り込んだ。

213 :ついなとクリスマスと雪の夜:2013/12/25(水) 00:10:48.94 ID:bI9WOTGx
「ふーーーーん?」
閻はそんなついなにはかまわず、目をすがめて下から巧をのぞき込んだ。金髪の髪の毛が肩からさらりと肩から流れ落ち、帽子の葉っぱがピコピコと動いた。
「こんなのがイイなんて、ついなっちのシュミもわっかんないもんだねーーっ」
とたん、ついなは小さな悲鳴をあげた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!(///)」
そしてあわてたように両手を振るが、閻は全く頓着しなかった。
「んーーーー、聞いたことのある『声』だと思ったら、やっぱりついなっちだったしねっ、ねーねー、この衣装どぉーー?魔似蟲(まねむし)のチカラを借りたんだ!」
二人に向き直るとそうのたまった。少し離れて両手を広げ見せびらかすようにクルクルと回った。

「ふーん、かわいいね。ん?声?」
巧は怪訝そうな顔になった。普段のついなはやたらと活発でよくしゃべるが、巧の前ではほとんど喋らない。
まあ、それは緊張してるからなのだが、おかげで巧にはついなのことは「ほとんど喋らない無口なコ」と思われているのだ。
すると、閻は回るのをピタッと止め、まじまじと巧の後ろに隠れるようにするついなの顔をのぞき込んだ。どういう仕組みかはわからないが、帽子の先の木の葉がピクピクと揺れた。

「ふーん、ついなっち、そーーなんだーーー?」
なにがそうなのかはわからないが、閻はそう言ってついなの顔をのぞき込む。ついなの白い肌にカッと血が昇るのがわかった。

「ち、ちがっ!!!」
再び手を振って否定しようとするが、それ以上言葉は続かない。巧がいなければ、それこそ機関銃のように言い返すだろうが、巧当人が目の前にいる為、分が悪かった。
閻はちょっとイジワルそうな顔つきでついなの顔色をのぞき込んでいたが、いい案を思いついたと思ったようにニパッと笑った。

「んじゃぁ、閻が手伝ってあげるよ!儚鬼(はかなき)!ついなっちの心の代弁をしてあげて!」
そう叫ぶと、両手をあわせた。そして水をすくうときのように開いてみせた。すると手の中に手品のように小さな小人が現れた。何かの葉っぱを傘のようにさし、頭に小さなツノが生えている。閻の使役している心の鬼、儚鬼(はかなき)だ。
この鬼は対象の心の声を聞き、大声でわめき散らすとゆうハタ迷惑な能力を持っていた。

「っ!だっ、ダメェっ!!」
途端、ついなは顔色を変えた。そして咄嗟に閻の手のひらの小人を捕まえようと飛びかかった。今のついなの心の内を巧の前でぶちまけられてはかなわない。が、小人はそれを察知したかのようにサッと閻の手のひらから飛び降り、逃げ出した。

「ま、まてっ!!」
ぴょんぴょんと、素早く逃げ出した儚鬼(はかなき)をついな夢中で追いかけ出した。

「へぇ〜〜、近頃のオモチャってよくできているなあ。閻ちゃんっていったっけ?あの子の友達なら君も一緒にウチのクリスマスパーティーに来るかい?」
よく状況を理解してない巧が、儚鬼を追いかけるついなを見てケラケラと楽しそうに笑う閻に声をかけた。
 と、閻は不意に笑うのをやめ、ピッと巧に指をつきつけた。そして少し怒ったようなまじめな顔で言い出した。

「で、オジさん。ついなっちのことを『白いグルグルのコ』って呼ぶのやめなよ!ついなっちがかわいそうじゃないか!あのコは『如月ついな』ってちゃんとした名前があるんだからさ!」
何の脈絡もなく、そう言い放った。自分が巧の事をオジさん呼ばわりしている矛盾は全く考えてないようだ。

「あ、あぁ」
巧は唐突にそう言われ、キョトンとしながらも巧はあいまいにうなづいた。しかし、閻はそれをよしとせず、さらに畳みかけた。

「いい?『き、さ、ら、ぎ、つ、い、な!』いくら『白いグルグルの子』って口に出してなくても閻にはわかるんだからね!」
ぷんすかという表現が似合いそうな様子で強くそう言い募る。
「うん、如月ついな。だね。わかったよ」
そう巧が言うと、閻は耳をすませるように目を閉じたあと……
「うん、ちゃんとそう呼んであげなよ!きっとついなっち喜ぶよ!」
そういって、ニパッと笑った。

「ふーん?……で、さっきの質問だけど、一緒に来ないの?」
巧は再び閻に水を向けた。が、閻は巧の話を聞いてなかった。

214 :ついなとクリスマスと雪の夜:2013/12/25(水) 00:11:36.69 ID:bI9WOTGx
「もういいよ!儚鬼(はかなき)、戻って!」
そう声をかけると、小さな心の鬼は通りの植え込みからぴょんぴょんと飛んで閻の元に戻ってきた。
その後ろをついなが息をきらして追いかけている。植え込みの木と木の間を走ってきたためだろう、髪の毛に少し枯れ葉がくっついていた。そして、同じ場所に戻ってきた事に気がつくとやっと立ち止まった。
少しキツそうに膝に手をつき、息をきらしていた。

「じゃぁ、閻はもう行くね。オジ……巧おにーさんもついなっちもいい年を……だねっ!」
ついなのキッとした視線を感じたのか、巧の呼び方を訂正すると、出した時と同じように手のひらに乗った儚鬼(はかなき)を包み込むように手を閉じると、小さな小鬼は姿を消していた。
そして二人にひらひらと手を振ると、閻はたちまち人混みの中に消えていってしまった。

「うーん……なんだか嵐のような娘だったねー」
どうコメントしていいかわからない巧が狐につままれたような顔をしてつぶやいた。あまりにあざやかに消えたので呼び止めるスキもなかった。

「ご、ごめんなさい……」
別についなが悪い訳ではないのに、巧の横に来たついなはつい、そう謝っていた。それを聞いて巧はクスッと笑った。

「君が謝ることはないよ。でも、なんだか少し不思議なコだったねぇ」
巧はまるで心の中を読まれているような気分になっていた。閻は実際に儚鬼(はかなき)のチカラを借りて周囲の人間の心の声を聞いていたのだが、そんな事は彼は知らない。
ついなは答えに困って黙り込んでしまう。そんなついなの髪の毛についた枯れ葉をとってあげながら巧は言葉を続ける。
「さ、じゃ、いこうか。ついなちゃん……だっけ?はやく行かないと、パーティーに遅れちゃう」
そういって、手を差し出した。
「え…………」
ついなは急に自分の名を呼ばれ、虚を突かれたように巧を見返した。

「……ついなちゃん?」
巧は再び怪訝そうに呼びかける。
「あ。は、はは、はいっ!」
ついなは嬉しそうに応え、頬を紅潮させて巧の手を握り返した。

「じゃ、いこっか」
そういって、巧はついなの手を引く。イルミネーションを背景にしんしんと降りはじめた雪の中、ふたりは家に向け歩きだした──

                                        ──おわり──

215 :ついなとクリスマスと雪の夜:2013/12/25(水) 00:12:30.43 ID:bI9WOTGx
  ◇ ◇ ◇
──追記──
「閻、いいのか。せっかくの誘い、断ってしまって」
周囲に人気がなくなった頃、唐突に渋い声で喋りだしたのは閻の肩にかかっている黒猫だった。彼の本来の姿は大化け猫、大妖である。常に閻に付き従い、閻を守っている。閻は、今、人混みから離れて人気のない暗い道を歩いていた。

「うん、ちょっとね、あのコが目を覚ましそうだったからさ……」
閻は先ほどの快活さとは打って変わって少し熱にうかされたように答えた。

「!……『9番目』か……」
そう言うと、黒猫の姿が急に膨れ上がり、閻の姿を覆い隠した。次の瞬間、サンタの扮装をした閻の姿は消え去り、黒猫を模したパーカーに身を包んだ閻の姿がソコにあった。黒猫が閻の服に変身したのだ。

「……サンキュ、ばっきー。おかげで少しラクになった。でも、念のため、にゃー姉ぇのところにいかなきゃね」
そう言うと、人のいない道を急ぎ足で歩き出す。
「……しかし、久しぶりだな。ここしばらくはおとなしかったのに」
今度の黒猫の呟きは閻の耳元でささやくように聞こえた。
「やっぱり、強いチカラに反応するみたい。ついなっちの霊力にあてられたかな?」
閻の中には『9番目』と呼ばれる危険な存在が眠っている。それが目を覚まそうとするたび、閻は調子を崩すのだ。

「…………しかし、閻。なんでまたあんな事を?よけいなお世話ではなかったか?」
黒猫は一旦、深刻な話題から話を逸らすようにそんな事を聞いた。

「ん?ついなっちのこと?へへ、だってついなっちの心の声はあんなに巧さん巧さん言ってたのに、オジさんの方はちっともついなっちの名前、ないんだもん。ちょっとフコウヘイだって思ったんだ」
閻は明るくそう答えた。
「……そうか。だが、あれの成就は難しそうだが……」
黒猫はついなの様子を思いだし、少し気遣わしげにつぶやいた。

「ま、そーゆーの閻にはわかんないから、ニャー姉ぇに聞いてみるさ!きっとオモシロい話をしてくれると思うよ」
「いや……アイツに話すのだけはやめておいてやった方がいいんじゃないか……」
「んー?そう?」
黒猫のいう『アイツ』は恋バナが大好物だが、かき回すことにかけても一級品だ。閻がちょっかいかけるよりも厄介なことになるだろう。
もっとも、閻に知られた時点で手遅れな気がするが。黒猫は閻に気づかれないよう、心の中でため息をつく。
閻の言うニャー姉とは般ニャーのことである。派手好きで宴会好きではあるが、不思議と閻が必要とする時にはちゃんと面倒をみてくれる閻の保護者でもあった。

「ま、ほどほどにしておいてやれ。で、体調はおちついたのか?」
「うん、ヤッパリ辺りに人がいないとこのコもおとなしくなるみたい」
「ま、念のためにアイツに診てもらおうさ」
「そうだね。閻もこういう日はニャー姉ぇに会いたいしね」
そう呟くと、一人と一匹は人のいない道を急いで歩きだした──

216 :ついなとクリスマスと雪の夜:2013/12/25(水) 00:13:16.55 ID:bI9WOTGx
>>212-215
  ◇ ◇ ◇
 ……どうも〜メリークリスマス!これで通算三回目のついなちゃんのクリスマスです。
いつもいぢられ役としてロクでもない目にあってるついなちゃんにもたまには報われる日があってもいいよね!
……とゆーコンセプトのもと、この日だけはチョットだけいいことがあるのです!
今回のついなちゃんの「ちょっとイイコト」は『アコガレのあの人に名前を呼んでもらう』事です。このままあの人の中に名前が定着するか……それともアッサリ忘れ去られるか……は、まぁ他の方の創作にゆだねるとゆーことでw
あと今回、乱入してくるキャラがおりましたが、これはついなちゃんに訪れるであろう運命を回避できるかもしれないカケラの1ピースとしての伏線でもあります。
……まー本人にはハタ迷惑なプレゼントにしか思えませんでしょうがw
そして、クリスマスはついなちゃんの生みの親さんの誕生日でもアリマス!恵方巻き巻きさん、お誕生日オメデトウございます!
 それでは〜〜

217 :創る名無しに見る名無し:2013/12/25(水) 01:39:14.63 ID:T/Cy4hLA
>>212-216
おおー、ついなちゃん、とうとう一歩前進!!
しかもなんだか伏線っぽいのが…

この一歩は、人類にとっては大きな一歩である。と言えそうです!

ついなちゃんも親御さんもおめでとうです!

218 :恵方巻き巻き ◆kIe7/eJrNc :2013/12/25(水) 07:49:11.49 ID:kGb9MbhV
修羅場中につき、一言だけですが……
うわわわわーっっ、ありがとうございます!!!!
(『アコガレのあの人に名前を呼んでもらう』これ大事!
でも多分、田中兄は忘れるw)
ついなっちにとっても、人類にとっては大きな一歩!!!
(そしてついなちゃんと閻にゃーのこんなに長い掛け合いは初めて見ました…!)

219 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2014/01/25(土) 14:50:48.54 ID:e7kSCOrY
今宵も超〜安定のSSスレ。
田中兄とついなっちと閻ニャーの掛け合いからはや一ヶ月が経ってしまった。
何か投下しなければ・・・。
このスレはエロ鬼に蝕まれてしまう・・・。
と、言う事でSS投下させて頂きます。
新しい男キャラが出てきますが、お気になさらずに!!
一度に投下できなければ、二部構成という形で投下します。
一年半くらい前に出来上がったSSです。
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=28937949

220 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2014/01/25(土) 14:52:11.60 ID:e7kSCOrY
小説 「日本 鬼子」ひのもとおにこ 

【ありがと!鬼衛門くん】の巻


 「幼稚園児だった時の事を思い出す。
  何故だか解らないけど、暖かい風とともにその記憶が・・・」


 盛夏の始まりを告げる入道雲が、遠くの山間に見えている。
私はコミケ雑誌を片手に通い慣れた近くの公園で、木で出来たベンチに座っていた。
この季節になると、暖かな風が幼い頃の記憶を運んでくるんだ。
思い出せるのは年に一度だけ。
何故だか解らないけど、年に一度だけこの季節になると突然思い出したくなる事がある。 
今から12年ほど前、同じような暖かな風が吹いていたあの頃を。
私は目を閉じ、遠く深い記憶が蘇るように頭の中を整理する。
そしていつも涙が流れ落ちる。鮮明じゃない霞む記憶なのに・・・。


「おーい、田中ー!今日も一人で遊んでるのかー!!」

家から近い公園で、嫌みっぽく発せられるその声がいつも私の心を締め付けていた。
小さい時の私は人見知りが激しかった為、友達と遊ぶ事が出来なかったんだ。
私にはお兄ちゃんとお姉ちゃんがいるけど、今日は友達と遊びに行ってる。

独りぼっち・・・。もう慣れっこなんだけど、
そんな時にこいつらの声なんか聞きたくなかった。

「おーい田中ー!聞こえてるんだろ!!返事くらいしろよな」

そう声を投げつけてきたのは、同じ幼稚園の悪がき3人組。
よく先生にも怒られてるし、他のお友達にも意地悪をする。
この世で一番嫌いな3人組なので、無視しながら砂場でお団子を作っていた。

「田中ー!!返事しろって言ってんだろ!」

偉そうな声とともに、奴等の足が砂で出来たお団子を踏み潰してゆく。

[ぁあーー!!]

私は心の中で声を発し、奴等の足元を睨んだ。顔を睨む勇気が無かったからだ。

「ほれほーれー!!砂いじりなんかやめちまえー!」

悪がき3人組の足が、私の目の前で乱暴に振り下ろされてゆく。
そして、砂で出来たお団子が無くなってゆく。
自分で作り上げたお団子がある小さな空間は、
当時の私には、生きる全てが詰まっている感じがしていた。
全てを奪われた私は、初めて相手の目を見て睨む事が出来た。

【ドン】

奴等の手が飛んできて、突き飛ばされてしまう。
倒れこむ時に砂場の縁に膝をこすりつけてしまった。

「・・・いったーいぃ・・・」

私は、膝に手を当ててうずくまってしまった。

221 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2014/01/25(土) 14:53:11.20 ID:e7kSCOrY
「田中が悪いんだぜ!俺たちを睨むから」
「そーだ、そーだ。田中が悪いんだ!」
「田中が悪い!田中が悪い!」

悪がき3人組の勝ち誇った様な合唱が、私の心を押し潰してゆく。
痛いし、悔しいし、悲しいし・・・。でも反抗しようもんなら、また虐められてしまう。
私はうずくまったまま、弱い心と一緒に膝を抱えて小さくなっていた。
すると、

「見てたぞー!!!」

突然大きな、元気のいい声が飛んで来た。
その声は、幼稚園でもよく聞く声だ。
よく知っている声なのだが、いつも名前が思い出せない。
私は顔を上げて、声がする方を見た。
彼だ。いつもの彼。幼稚園で同じ組の正義の味方。
幼稚園で会う時は制服だけど、
彼の普段着は白色の【袴】と言うものを着ているらしい。
変った服なので、勇気を振り絞って前に一度聞いた事があるんだ。

そんな彼を見て、私以上に驚いた表情をしている悪がき3人組。
正義の味方の彼は、その悪がきに背を向けて股の間から奴等を睨んだ。
そして、ニヤッと笑いながら大きな声で・・・。

「砂嵐攻撃だーーーーー!!」

そう言いながら、彼は手で砂場の砂を悪がきめがけて飛ばしてゆく。

頭から砂を被った悪がき3人組は、泣きながら逃げていってしまった。
そう、彼はいつも私を守ってくれるんだ。でも、どうしても名前が思い出せない。

「あ・・・ありがと」

人見知りな私は、そんな言葉を言うのが精一杯だった。
けど、彼は満面の笑みを浮かべる。
いつもそうなんだ。私が「ありがと」と言う言葉を伝えると、
彼は誰にも見せない最大の笑顔を私に見せてくれる。

「たくみちゃん、大丈夫かぁ?」

正義の味方の彼が、心配そうに短い眉毛を下げながら声をかけてくれる。
そんな彼の表情を見ていると、なんだか頑張らないと!と言う気持ちがわいて来る。

「う・・うん。大丈夫」

また、精一杯言葉を搾り出す。

「あいつらまたたくみちゃんの事虐めやがって。明日、幼稚園で説教してやる!」

そう言いながら、彼は座り込んでいる私に向かって手を伸ばしてきた。
いつもの私なら、頭であれこれ考えてから行動するのだが、
その時だけは何故か自然に手を伸ばしていた。
ユックリと引っ張り上げてくれる彼の手は、とても温かかった。

「あーあ・・。たくみちゃんの膝から血が出ちゃってるよ。
 あそこに水道があるから綺麗にしようね!」

彼の優しい、力強い笑顔。いつも眩しいくらいの微笑を私にそそいでくれる。
でも・・・どうしても名前が思い出せない。

222 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2014/01/25(土) 14:54:21.02 ID:e7kSCOrY
服についた砂を払い、膝を洗い終わった。
私がハンカチで手を拭いている時、彼は水道で自分の手を洗っていたので、
このハンカチを渡そうかどうか考えていた。
考えていたと言うより、どういう風に言って渡そうか悩んでいた。
手を洗い終わった彼は、すぐさま自分の袴で手を拭いた。

「あっ・・・」

私は小さく言葉が漏れてしまう。
私の声に反応して、彼がまた笑顔で答えてくれる。

「僕の袴はハンカチがわりなのさ!」

満面の笑顔でそう答えてくれた。
私がハンカチを渡そうと、あれこれ考えてる事が解ったのだろうか。
私の性格を知り尽くしている様な返答だったので、思わず笑ってしまった。

一件落着。
いつもならこれでさよならなのだが、
何故か彼がいつもの言葉を言わない。
【バイバーイ】と言う元気な言葉が聞けるはずなのだが。

「ちょっと手をつなごうか」

唐突な彼の言葉。予期せぬ発言。
私は、驚きを隠せず下を向いたまま頬を赤くした。
そっと私の手を握る彼の暖かな手。
私は恥ずかしくて、彼の顔を見る事が出来なかった。
この感覚は・・・、好きとかいう部類ではない。
彼の存在は、当時の私には必要不可欠なものになっていた。
悪がき3人組から守ってくれる、お兄ちゃんのような、王子様のような。
そして気がつくと笑顔で横に居てくれる、不思議と体の一部分になっている様な。
そう・・・。大切な、とても大切な大事な友達。
しかし・・・名前が思い出せないんだ。
一歩も動かない彼。私もドキドキしてまったく動けない。
恥ずかしくて目線を合わせる勇気が無かったので、
前の方にあるブランコを意味なく眺めていた。
子供達で取り合いになるブランコだけど、今日は誰もいないみたい・・。
それに、何だか周りの景色に・・・・・色が無い様に思えた・・・。

そんな時・・・私の手を握っている彼の手に、ギュッと力が入った。

「お嬢ちゃん、時間だよ」

突然、低い声で耳に飛び込んで来た異様な言葉。
不意をつかれた私は、何も考えず声がする方を見上げてしまった。
とても特徴的な顔立ちだった。
白い太い眉毛の下に、垂れ目がちな優しそうな目。
鼻は鷲鼻で、その下に横長の白いヒゲ。
面長なその顔からは、優しさがにじみ出ているように感じた。
そして、そのお爺さんはニッコリと笑う。

223 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2014/01/25(土) 14:55:34.90 ID:e7kSCOrY
 ・・・・・・・・・・いつもそう・・・。
いつもここであの頃の記憶が途切れてしまう。
正義の味方の彼が、私の手をギュッと握る感覚だけは残っているんだけど、
少年の名前も思い出せないし、このおじいさんの事も解らない。
12年後の今、コミケ雑誌を片手に公園のベンチに座り、
空を見上げながら考えているんだけど、どうしてもこの後が思い出せないんだ。
そして・・・自然と涙が流れてしまう。理由は解らない。
悲しい事なんて何も無いのに、勝手に涙が頬を濡らしてしまう。

私は涙を軽くぬぐい、ベンチから立ち上がった。
いつもなら、元気な子供達のはしゃぐ声が聞こえる公園だけど、
今日だけは静かに都会の中でたたずんでいる。
音の無い空間。誰もいない公園。
夏なのに、色の無い景色が私を包んでいた。

いつも通り、これ以上何も思い出せない自分がここにいる。
歯がゆくなり家に帰ろうとした時、
突然後ろから暖かい風が私を通り抜けていった。

その瞬間━━━━

いつもと違う空間で、いつもと違う感情が込み上げてくる。
私は目を見開きながら空を見上げ、何故か大粒の涙を流していた。
今日は何かが違う。この感じ・・・12年前と同じモノだ。
そして、頭の中で何かが弾けた。

「契約完了」

12年前に聞いた、お爺さんの低い声だ。
いや・・・今、12年前の記憶が蘇ってる!
12年間、思い出せなかった記憶が突然溢れ出てきてるのだ。

横を見ると、正義の味方の彼が地面に横たわっていた。
何がなんだか解らない。彼の口から血が流れているのが見えた。
私は、震えながら後ずさりする。

「契約完了だよ、お嬢ちゃん」

低い声を発するそのお爺さんが、私に手を伸ばしてくる。
怖くて、身震いしたまま動けない私は、お爺さんの手の中に包み込まれる所だった。

「まってくれ、異世鬼流(いせきりゅう)」

彼の声だ。私は横たわっていた正義の味方の彼の方を見た。
その瞬間、体全身に鳥肌が立つ。
彼が着ている袴が何かにあおられたなびいている。
いつものかっこいい黒い目が・・・赤黒く染まっている。
そして・・・左目の下に、炎の様なアザが浮き上がっていた。
私はこの時やっと思い出した、彼の名前を。
変った名前で、格好よくて、強くて、優しくて。
そして、12年前に突然居なくなった彼の名前を・・・。

「火之基(ひのもと) 鬼衛門(おにえもん)・・・くん」

そう、鬼衛門くんだ。いつも悪がき3人組から助けてくれてたのは
火之基 鬼衛門くんだったのだ。

224 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2014/01/25(土) 14:56:44.79 ID:e7kSCOrY
鬼衛門くんは、笑顔で私の方を見ていた。
そして、おもむろにお爺さんの方に顔をもっていく。

「異世鬼流、今結んだ契約をこの女の子から僕に変更してくれないか?」

私は鬼衛門くんのその言葉が理解出来なかった。
何について話しているのか、何が起こっているのか・・・。

「ワシの名前を知っているのか!?・・・。お前は・・・闇世の民だな・・・。
 何者だ?」

首を軽くひねり、お爺さんが発したその言葉に反応し、
鬼衛門くんが右手を自分の坊主頭にかざした。
そしてその手をゆるりと下げた・・・。

目を見開き驚くお爺さん。
鬼衛門くんの額には、二つの突起物が浮かび上がっていた。

「ほほーう。珍しいモノを持っとるなぁ。
 鬼を狩る鬼一族か・・・。
 ひのもととか呼ばれてる様だが、何族のひのもとだ?」

お爺さんの口調が先ほどとは違い、慎重に言葉を選んでる様に思えた。

「炎を操る、火之基(ひのもと)一族だよ」

正義の味方の彼、鬼衛門くんの言葉の意味も、私にはまったく解らない。
一つ一つの単語の意味は大体解るんだけど、何故、そういう言葉に文章になるのかが
理解出来なかった。

お爺さんが不気味にニヤリと笑う。

「そうかそうか、炎のほうか。ではワシを散らして祓う事は出来んな。
 力も非常に弱いみたいじゃし、そんなに幼くてはワシに歯向かう事は出来んじゃろ。
 ボウズ、契約は完了してしまったんだよ。変える事は出来ないんじゃ。
 おとなしく下がっておれば、もうお前さんには何もしないよ」

鬼衛門くんをあしらう様な言葉で、威圧してくるそのお爺さん。
しかし、鬼衛門くんは引き下がらなかった。
尖がった石を拾い、自分の腕に傷をつけ、流れ出た血を人差し指でぬぐった。
そして、自分の額に血で“陰”という文字を書いたのだ。
私にはその漢字が解らなかったが。

「異世鬼流、一応僕も色々勉強しててね。
 この【印】でその女の子と結んだ契約を、僕に移す事が出来るだろ!」

鬼衛門くんは、まっすぐお爺さんの方を見据え、そう言った。

「・・・・・ほーぅ・・・。覚悟は出来てると言う事じゃな。
 力では勝てない相手に対して、その印を使ってくるとは賢い坊主じゃの。
 まぁええわぃ。炎を操る火之基一族をワシの配下に置けば、今後役に立つじゃろ」

そう言って、そのお爺さんはニヤっと笑いながらゆっくり消えて言った。
その瞬間、鬼衛門くんの額に強烈な痛みが走ったみたいだ。
両手で頭を抱えうずくまってしまった。

225 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2014/01/25(土) 14:57:45.69 ID:e7kSCOrY
「お・・・鬼衛門くん・・・」

私は彼に駆け寄っていったけど、彼の手がそれを遮っている。

「ごめんね、たくみちゃん。助けてあげられなくて・・・。
 解っていたんだけど・・・僕じゃぁ無理だったよ・・・。
 まだ幼いし・・力は無いし・・・無力な僕でごめんね・・・」

鬼衛門くんの目に、涙が溜まっているのが解った。
それを必死に我慢している姿を見て・・・私は・・・私は・・・。

お爺さんとのやり取りの意味は全く解らない。
でも・・・鬼衛門くんが居なくなる事だけはハッキリと解る。
私の為に鬼衛門君が居なくなる事が解る。私なんかの為に・・・。
私は涙を流す事しか出来なかった。
鬼衛門君が、私の方に向かって震えながら腕を伸ばし手のひらをかざしながら言う。

「たくみちゃんの事は、誰かが必ず守ってくれるよ。
 たくみちゃんには不思議な力が・・・・・」

そう言いかけた時、鬼衛門君の手のひらが輝き、
何かに引っ張られるように、私の目の前から消えていった。
この時、私は彼の記憶を忘れていったんだ。いつもの素敵な笑顔と一緒に。


 思い出せなかった12年前の記憶が蘇った私は、
泣きながら再び公園のベンチに座っていた。
何故だろう。どうして今日はこんなにも鮮明に思い出せるんだろう・・・。
そして、涙がぜんぜん止まらない。
そう、私は今、鬼衛門くんとお爺さんの会話を理解出来ている。
鬼衛門くんがいつも私を守って、助けてくれていたのは、
心の鬼が、私を襲う事が解っていたからなんだ。
じゃぁ鬼衛門くんも・・・もしかしたら・・・彼女と・・・。

「お嬢ちゃん、時間だよ」

突然投げつけられる言葉。
しかし、私はあのころを思い出す。12年前のあの低い声を。

「お嬢ちゃん、時間だよ」

いや・・・今、ここで聞こえてる。
体が勝手に反応し、その声がする方を見上げてしまった。
目の前に見覚えのある面長な顔の、優しそうなお爺さんが立っていた。

「契約完了」

その言葉を聞いた今の私は、とてつもない罪悪感につつまれた。
無知な私の身代わりになった鬼衛門くんの顔が、鮮明に浮かび上がってきた。
あんなに辛い事があったのに・・・鬼衛門くんを身代わりにしてしまったのに・・・。
私は馬鹿だから・・・たった今思い出した過去の過ちをまた繰り返している・・・。
私は・・・私以外の人を不幸に陥れてしまう・・・。いや、でも今、ここに誰もいない。
私とこのお爺さんだけだ。もう私以外の誰も不幸にはしたくない。
これが私の背負った運命なら・・・それに従う方がいいのかも・・・。
私は目をつむり、心の中で呟いた。
【ごめんね・・・鬼衛門くん】

226 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2014/01/25(土) 15:08:15.48 ID:e7kSCOrY
「まて、異世鬼流(いせきりゅう)」

聞き覚えのある綺麗な声が、後ろから飛んで来た。
振り向いて見ると、赤い目をした彼女がいた。
角が尖り、紅葉が舞い散る着物をまとった彼女がそこに立っていた。

「だ・・駄目よ鬼子ちゃん。【印】なんて絶対駄目」

私は、何も考えず涙を流しながら鬼子ちゃんにそう叫んでいた。
私の記憶では・・・鬼子ちゃんも・・・、

“連れて行かれる”

その言葉だけが、頭の中を満たしていた。
素早く、そして私をかばうように近寄ってきた鬼子ちゃんが言う。

「印って何?それよりたくみちゃん、少しさがっててくれる?」

そう言って、般若面から薙刀を取り出し身構えた。

【闘う気なんだ・・・】と私はすぐ感づいた。
いつもの可愛い黒い瞳が、赤く染まり相手を睨みつけている。
そして・・・いつも鬼子ちゃんが気にしている2本の角が淡く輝いている。
この時、私はある言葉を思い出していた。

【誰かが必ず守ってくれるよ】

そう、鬼衛門くんの言葉だ。
あの時、鬼衛門くんはこの事が解っていたのだろうか。
異世鬼流と呼ばれているお爺さんが、鬼子ちゃんを見ながら用心深く近寄ってくる。

「その目・・・。その角・・・。鬼の子・・・。ひのもと一族か・・・」

お爺さんは、そう言いながら今度は鬼子ちゃんから距離を取ってゆく。

「何処のひのもとだ?」

目を細くして、睨みながら言葉を発する異世鬼流。
12年前とは違った表情をしている。
鬼子ちゃんから、何か感じ取っているんだろうか。
鬼子ちゃんは私の前に立ちはだかり、右手で薙刀を1回転させた。
そして、薙刀をユックリ前へ突き出しながら言う。

「心の鬼を、散らして祓うひのもとよ」

その言葉を聞いた異世鬼流の形相が、突然激変する。
一度、大きく後ろへ飛び跳ね、両足を広げ、両腕を上げて身構えた。
その瞬間、異世鬼流の姿が異様なモノへと大きく変化してゆく。
細長く、鞭の様にしなる腕が四本。
墨色の袴の裾から見える足には、鋭く長い爪がある。
長細い顔は、白い髪の毛や髭で覆われている。
身長は2メートルほどあり、その威圧感で私の体がピリピリと震えるくらいだ。
鬼子ちゃんの表情も、相手の威圧感に少し押されている様な感じがした。

「鬼を祓うひのもと・・か・・・。厄介じゃな・・。力は大した事なさそうじゃが・・・
 用心したほうがいいじゃろ・・・」

白い髪に覆われた薄気味悪い顔の奥で、異世鬼流の目が光る。

227 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2014/01/25(土) 15:44:01.33 ID:TU98ojI7
「ワシが戦うまでもない。そうじゃ、こいつと力比べといこうか」

異世鬼流は、そう言いながら四本の手で素早く印を組む。
黒く光る異様な文字が渦を巻いて回りだす。
そして・・・。
その文字の中から、何かが飛び出してきた。

飛び出して来た何かが、鬼子ちゃんと異世鬼流の間に片膝を付きながらそっとたたずむ。
その姿は、鮮やかな赤い袴姿。その袴に、黄色い炎の絵が描かれている。
暖かな風になびく長い髪は、黄色とオレンジ色が混じっていた。
短い眉毛の下には、切れ長で綺麗な紅色に染まった目。
そして・・・、左目の下に・・・炎の様なアザが浮かび上がっていた。

「ひのもとだ。炎を操る火之基一族の民じゃ・・・」

鬼子ちゃんを追いかけてきた地蔵様が突然そう言った。
続いて、ヒワイドリとヤイカガシ、わんこと狐火の爺様も公園へと駆け込んで来た。
鬼子ちゃん達は、身構えながら地蔵様の言葉に耳を傾ける。

「こりゃー厄介じゃぞ・・・。本来なら・・・手強い心の鬼が現れた時、
 ワシ等と手を組んで鬼を退治する一族。
 その力は・・・計り知れん物をもっておる・・・。
 その火之基一族が・・・心の鬼に取り付かれてしもうたのか・・・」

狐火の爺様の周りに聞こえない小さな声が、思わず漏れた。

 「・・・鬼童丸の再来か・・・」

私は・・・・・、私は・・・・・、知っている。
彼の事を知っている。
身長や年齢、容姿の全てが変っていたけど・・・。
気付いてしまった。黄色とオレンジ色の長い髪の彼の事に・・・。
その彼が鬼子ちゃんの方に向きながら立ち上がった時、
わんことヒワイドリ、ヤイカガシが鬼子ちゃんと一緒に
彼の方へと走って行ってしまった。

「鬼子ちゃーーーん・・・・鬼衛門くーーーーん」

大声を張り上げた私の叫びが・・・この空間に虚しく響き渡る。
【ドガガ・・・】
鈍い音が、いくつか鳴り響いた。
ヤイカガシが地面に倒れ、ヒワイドリも腕から血を流している。
わんこも両手、両膝を地面に付き、口から血を流している。
鬼子ちゃんは・・・・・彼の足元にうずくまっていた・・・。

そんな状況を見た私は、無意識に鬼子ちゃんの所へと走って行く。
何も考えず、必死に鬼子ちゃんを両手でつつみ、
大声で叫んだ。

「鬼衛門くん、やめてーーーーーーーーーー!!!」

幼い時の彼の笑顔がとても大好きだった。
彼の言葉はとても優しくて、嫌な事を全て忘れる事ができた。
お父さんやお母さん。お兄ちゃんやお姉ちゃんとはまた違った
優しさを、私にそそいでくれた。
でも・・・私のせいで、突然姿を消す事になった鬼衛門くん。
彼の炎をまとった刀が、ユックリと上へ上がってゆく。

「だめよ鬼衛門くん」

228 :創る名無しに見る名無し:2014/01/25(土) 15:55:14.10 ID:geILJCzz
乙!
8回連投してしまったようですね。後は明日以降ですね。続きが楽しみです。
てか、一番気になる所で「続き」とは!くぅ!気になるぅ!!

229 :日本Ω鬼子 ◆1yM6qbhqY6 :2014/01/26(日) 16:56:17.58 ID:GtQJIDZ+
 特 報 

-「丑鬼」を名乗るその鬼を祓った鬼子の前に現れたのは-

十三人の「ヒノモト オニコ」だった!

「丑鬼を倒せるほど強くなってしまったお前を、現世から引き剥がす。
我らもそうやって、大切な者達と別れ、現世を守ってきた」

明かされる天魔党誕生の謎!
黒金「私が、国を守るために斬り捨てたあの鬼が…!」
  「私が、伝馬の国を滅ぼしてしまったのか!!」

鬼子「私が田中さんを殺してしまう前に、私も宿命に従うしか…
田中「絶対に、方法はある!!」

迫り来る決断の時。
ヒワイドリたちの抵抗も空しく、再び鬼子の前に十三人のオニコが集う。
「さあ、我らと共に…あたらしいヒノモト オニコよ…」

そこに現れる、謎の「鬼娘たち」!
「は!w 相変わらずしょっぱい事になってるのぅ”本家”!」
「ですが、”最後まであきらめなかった”デスね」
「ったく、別次元のゴタゴタにまでつき合わされちゃたまんねーっつーの」

鬼子、黒金、謎の鬼娘達と、”丑鬼”オニコとの最終決戦!!

「自分の運命だ。自分で決めて、自分でカタをつけろ」
鬼子「私はっ…!!!」

劇場版「日本鬼子 偽書・丑鬼編」

鬼子「これが私の答えです…  萌 え 散 れ っ !!!」

230 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2014/01/27(月) 13:53:48.16 ID:iCsacsgr
時丸です。
土曜日は連投規制により書き込めなくなってしまいました。
>>227 からの続きを投下させて頂きます。

231 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2014/01/27(月) 13:54:49.79 ID:iCsacsgr
私は何も考えず、鬼衛門くんに抱きついた。

「ご・・・ごめんなさい、鬼衛門くん。
 私のせいで・・・私のせいで・・・・・」

祈る思いで、必死に抱きついた。
12年前の出来事を叩きつける様に、そして思い出してくれるように
彼に必死に話しかけた。
しかし・・・今の鬼衛門くんには何も届かない・・・。
冷たい目で私を見下ろしている鬼衛門くんがいる。
でも・・・そんな目を見ていると・・・何故だかふと懐かしさが込み上げてきた。
そして、どうしても伝えたい言葉が頭に浮かんだんだ。

「ありがと!鬼衛門くん」

すると彼の目が一瞬大きくなる。
そして・・・鬼衛門くんの体が微妙に震えだした。
彼の心は・・・彼の心が・・・・・・・・12年という時を超えて・・・泣き叫んでいた。

「・・・たくみ・・・ちゃん・・・!?オレを・・・
 オレを・・・殺してくれ・・・・・」

彼は・・・彼には記憶が残っている・・・。
私の事を覚えている・・・。
━━━━しかし━━━━
鬼衛門くんが持っている刀が、徐々に上へと上がってゆく。
鬼子ちゃんは正気を取り戻していたが、私の後ろですごく迷っているようだった。
私が話をしている内容を・・・全て聞いていたみたいだ。
そんな時、ぎこちない表情で鬼衛門くんが鬼子ちゃんの方を見た。

「・・・散らして祓う・・鬼の子・・・だよな!?
 君なら解るだろ・・・。もうオレの気力も途切れてしまう・・・。
 だから・・・今・・・。今すぐ・・・オレを・・・殺してくれ」

鬼子ちゃんは・・・鬼子ちゃんの表情は・・・とても複雑で・・・
切なくて・・・。でも、私を守らなくちゃという・・非常に乱脈した表情をしていた。
そんな中・・・鬼衛門くんの刀が上へと上がりきってしまった。
彼の心が・・・儚く途絶えた瞬間だった。

地蔵様が口早に言う。

「しかたない・・・。狐火の爺よ、ワシ等も行くぞ」

鬼衛門くんの炎をまとった刀が、私めがけて勢い良く振り下ろされてくる。
鬼子ちゃんは、悲しそうな瞳で薙刀を・・・。

絡み合おうとする刀と薙刀。しかし、刀の動きの方が早かった。
迷っていた鬼子ちゃんの薙刀の軌道は、鬼衛門くんに届かない。

その時、鬼衛門くんの刀の軌道が変り、そこから発せられる炎がそっと薙刀に触れた。
薙刀の軌道が引っ張られるように優しく、虚しく変る。
鬼子ちゃんは目を見開いて驚いた。
鬼衛門くんの顔めがけて・・・薙刀が・・・・・・。

【バシュ―――――――――・・・・・・・・・・・・・・】

私の目の前で、鬼衛門くんの顔から血が噴出してゆく。
そのままのけ反り、勢いよく後ろへ飛ばされていった。

「い・・・いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーー」

232 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2014/01/27(月) 13:55:48.62 ID:iCsacsgr
正義の味方・・・。あの素敵な笑顔。優しくて暖かな手。
12年前、彼の全てを奪ってしまったのは・・・私・・・。
そしてまた・・・今度は・・・彼の命を・・・私が・・・。
私の・・・私のどうしようもない絶叫ともとれる大きな悲鳴が響き渡った。
私の声を聞いていた鬼子ちゃんも・・・・・とても辛くて悲しそうな顔をしていた。

その時、大きなダミ声が飛んでくる。

「鬼子ーーー!!
 異世鬼流の陰を飛ばしてやったから、その若者はもう動けない。
 今は異世鬼流だけを狙うんじゃー!
 奴は陰を強引に飛ばされて、動きが鈍くなっとるぞ!!」

狐火の爺様のダミ声を聞いた鬼子ちゃんは、その意味を瞬時に理解する。
鬼子ちゃんの薙刀が鬼衛門くんの顔に当たる直前に、
狐火の爺様と地蔵様の二人がかりで、鬼衛門くんに刻まれていた【印】を
強引に取り払ったようなのだ。
異世鬼流めがけて素早く駆け飛んでいく鬼子ちゃんの表情は、鬼と化していた。

「胸の印字を狙え!」

地蔵様の大きな声が飛んでくる。

「萌え散れーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

怒りを含んだ叫びとも聞こえる鬼子ちゃんのその声が、全てを包み込んでいった。
切り裂かれ、散らされた異世鬼流の陰が、
色の無い公園の中を、紅色のもみじと共に風に流されてゆく。

私は我に帰り、鬼衛門くんの方へと走って行った。
そして、彼の頭を抱きかかえ手のひらで黒く染まった顔をそっと撫でた。
目も開いていない・・・口も動いていない・・・息もしていない・・・。
私は大粒の涙を流しながら・・・・・。

「ごめんね・・本当にごめんね鬼衛門くん・・・・・。
 辛かったよね・・・私の事・・憎んでるよね・・・・・」

そこへ地蔵様と狐火の爺様が駆け寄ってきた。
狐火の爺様が、鬼衛門くんの顔にそっと手をかざしている。
地蔵様が、狐火の爺様の顔をうかがっていた。

「・・・どうじゃ?狐火の爺。間に合いそうか?」

狐火の爺様が非常に険しい表情で言った。

「・・・わからん・・・。地蔵様も知っての通り、
 異世鬼流と彼との契約を、強引に引き剥がしてしまったからな・・・。
 普通なら・・・即死じゃが・・・」

地蔵様も険しい表情になる。
そして、彼の上に乗って耳を心臓に当てた。

「彼・・・火之基一族の力が、かろうじて心だけは動かしているようじゃのう・・・。
 彼を直ぐに、闇世へ送るしかないだろう・・・」

狐火の爺様が地蔵様の方を見てうなずいている。

「鬼の里へ連れて行き、治療を施してみないと何とも言えんが・・・。
   一番近い火之基の里にも連絡を入れて、共同で治療にあたらねばなるまい・・・」

233 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2014/01/27(月) 13:56:44.19 ID:iCsacsgr
そう言って、狐火の爺様はわんこを呼んだ。
わんこは、おおよそ傷が治っているようだった。

「わんこ、すまんが彼とワシ等を乗せて、闇世まで走ってくれ」

狐火の爺様が私の目の前から彼・・・鬼衛門くんを引き上げて、わんこの上に乗せた。
そして、地蔵様、狐火の爺様を乗せて闇世へと走って行った・・・。

公園に残されたのは、私と鬼子ちゃん。
そして、何故かまだ倒れてるヒワイドリとヤイカガシ。

鬼子ちゃんがヒワイドリとヤイカガシの方へと近寄っていき、
二匹のお尻を、薙刀で突いた。

「痛て・・いてて」

「いつまで死んだふりしてるの?もう起きていいわよ」

鬼子ちゃんが、一瞬私の方を見て・・・そして背中を向けた。

「・・・ごめんね・・・たくみちゃん・・・。
 もし・・・きび爺(狐火の爺様)と地蔵様が彼の陰を飛ばしてくれなかったら・・・
 たくみちゃんは・・・・・今頃・・・・・」

「ちがうちがう、全然ちがう。何いってるの?鬼子ちゃん」

私は精一杯首を振りながらそう言った。

「違う・・違うよ・・鬼子ちゃん・・・。ごめんね・・・辛い思いをさせて。
 私を必死に助けようとしているのは解ってるもん。
 原因をつくってしまったのは私だもん」

鬼子ちゃんの手が・・震えている。
私には・・・鬼子ちゃんの心が痛いほど良く解る。
私と鬼衛門くんの話を聞いて・・・一瞬で迷いを消し去る事なんて出来やしない。
心の鬼を散らして祓わなければいけない鬼子ちゃんだけど、
その前に・・・私と同じ、一人の女の子だもん。
人一倍優しい心を持った鬼子ちゃんだもん。
鬼子ちゃんは何も悪い事をしていない。
鬼子ちゃんの心を苦しめてるのは・・・全て私なんだよ。

「鬼衛門くんは、どうなっちゃうのかな・・・?
 治療をするって言ってたけど・・・本当に・・・目を覚ますのかな・・・」

私は、下を向きながら自分の過ちを正す事を・・・人に託すことしか出来なかった。

「大丈夫。たくみちゃんのお友達でしょ!
 彼の心は、12年間たくみちゃんの事を忘れてなかったんだもの。
 考えられない程の、強い心の持ち主よ。
 少し時間がかかると思うけど、必ず元気になってくれるわ」

背を向けていた鬼子ちゃんが、ゆっくり私の方へと振り向きながら
優しくそう答えてくれた。
その時、鬼子ちゃんの全てが鬼衛門くんと重なって見えた。

「鬼子ちゃん・・・私の事で・・・、あまり無茶しないでね」

その言葉を聞いた鬼子ちゃんは、私に手を伸ばし微笑みながら言った。

「そんなの無理」

234 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2014/01/27(月) 13:57:39.73 ID:iCsacsgr
即答だった。
あまりにも直線的な回答だったので私は目が点になってしまう。

人型になったヤイカガシが、袴に付いた砂を払いながらぼそっと呟く。

「鬼子と田中って・・・二人で一人前みたいでゲス」

二人の重い会話に気を使ってか、ヤイカガシがそう呟いた。
公園に暖かな軽い風が流れてくる。
そして色を取り戻した公園には、可愛い雀が舞い降りチュンチュンと楽しそうに歌っている。

鬼子ちゃんが悲しんでると、私も悲しい・・。
私が苦しんでると、鬼子ちゃんも苦しんでる・・・。
そしていつも一緒に笑ってる。いつも一緒に!

私と鬼子ちゃんは目を合わせ、はにかみながら笑顔を作った。

「乳がね!」

人型になっていたヒワイドリが、腕を組みながらニタリと笑い
自慢げにそう呟いた。
暖かい風が、一瞬凍りつくのが解った。

この後、ヒワイドリがどうなったかは説明したくない・・・。

 【ありがと!鬼衛門くん】の巻

 おわり

http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=41168460

235 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2014/01/27(月) 14:04:58.99 ID:iCsacsgr
投下完了しました。途中で規制がかかり失礼しました。
皆さんも色々な鬼子ちゃんの話を書き込んでくださ〜い。
長編SSとなっているスレですが、短編でもいいんですよ〜。
プロジェクトの趣旨さえ守ってくれれば!

236 :柊鰯:2014/01/27(月) 20:25:27.15 ID:L3yFd9w7
乙でした〜。「ひのもと」一族ってまだありそうね。

237 :創る名無しに見る名無し:2014/01/27(月) 21:07:58.95 ID:JI1VPkag
乙でした〜読みごたえあったー
これがお蔵入りしてたなんてなんとモッタイナイ!

238 :創る名無しに見る名無し:2014/01/28(火) 01:39:40.17 ID:D51YGuz0
>>229
心の鬼、天魔党、牛鬼ときて、さらにその先ですかー!
未知の世界と、原点をしっかり押さえてるあたり、ぐっときますね。

>>231-235
時丸さんの鬼子ちゃんは、いつも一本気で凛々しいなあ。
「そんなの無理」には本当にやられました。

239 :日本Ω鬼子 ◆1yM6qbhqY6 :2014/01/28(火) 10:14:41.35 ID:LftJ+Gv3
>>328
本スレで「”鬼子の本成り大募集”企画」の話を振って、
ふと「それだと”強そうな鬼子”のデザインが集まるだろうし、
特に使われなかったデザインの救済・再利用先として
”本成り鬼子と同等の力を持つ敵・あるいは味方”てのはどうだろう」
とか妄想したらああなりました。

最終的には鬼子が本成りの力を分離して
「私に”強さ”があるとすれば、それはあなたではないと思います。
こうして、私の側にいて私を支えてくれる人たち、
遠くにいて私を見守ってくれる人たち…
そんな”縁(えにし)”が、私にとっていちばんの”力”ではないでしょうか」
みたいな良い事言って、ついでにチート能力のリセットもしてしまおう、
的な展開まで自動再生余裕でした。

240 :品陀 ◆TOrxgAA4co :2014/01/29(水) 11:36:41.33 ID:GwXMP4xx
>>235
時丸さんどうもお疲れさまでしたー!
鬼衛門くんのその後がきになります。

ところで、かねてから本スレのほうで話していた
大長編・日本鬼子(仮)のプロローグが完成しましたので、
以下に投下しようと思います。


かねてより話していたとおり、まだ肝心の鬼子さんは出てこない、鬼崎を軸にした話で、
プロローグ一編にも関わらず前の「酒呑の〜」よりも長くなるかという分量になってますが、
楽しんで頂ければ幸いです。

以下、「プロローグ」でお送りし、本編の方向性をちょっと出してしまう本当のタイトルは
その後で公開させていただきます。

241 :プロローグ1:2014/01/29(水) 12:00:35.32 ID:GwXMP4xx
 コツーン コツーン コツーン ・・・


 拾い広い暗がりと、そこに規則正しく立ち上がり並ぶ柱に、堅い革靴の音がこだまする。

 辛うじてその空間を照らす、切れかかった裸電球たちは錆びたパイプが縦横に走る天井を
ぼんやり照らし、はがれたコンクリ片の散乱する地面にその今にも消えそうな光を投げかけ―

 そこは、もう打ち棄てられて十数年は経とうか、という巨大なショッピング・モールの廃墟の、
さらに日の当たらぬ地下駐車場だった。


・・・と―

「………。」

 足音が、止まる。

 靴音の主は、ダークスーツの下にノーネクタイ、よれたカッターシャツを着込んだ、
目つきの鋭い、中肉中背の男だった。
 そのまま、その口にくわえたシケモクの煙をくゆらせ―何か思案していたようだったが―

「………『時間』まで、まだ少しある……な…。少し『小遣い』を稼いでおくか……。」


 か細い電球の明かりに照らされた腕時計の文字盤を一瞥し、そんなことを呟くと、おもむろに
その時計を外し、ポケットにしまい込み、その鋭い視線を、弱々しい光を飲み込む暗がりへと向ける。

・・・・・・・・・・・・・・
 

242 :プロローグ2:2014/01/29(水) 12:18:21.04 ID:GwXMP4xx
 口にくわえた、煙草の焼ける火の音も聞こえてくるかのごとき、静寂だった。

 ジリジリジリ…

 そして、火の音の調子が、変わる―

 それは、限界まで吸い倒されたシケモクの火がフィルターを焼く音で、それは同時に
ほとんどそのくわえる口の近くまで火が迫っていることを示すものでもあったのだが、
男は眉ひとつ動かさず………

 ジャリ・・・!

 出し抜けに、体の向きを変えたかと思うと……


 フッ!!!


 すぐ近くにあった柱へと、その吸い尽くされ殆どフィルターだけの燃えカスになった
煙草の成れの果てを吹き付ける…!!


 ・・・と

 グアアアアアアアアアアアアアアアア・・・・・!!!


 突如として、柱から異形の影がわき出したかと思うと、その身がみるみる炎に包まれる―
その業火の種火は、むろん、さきほどまで男の口元にあったあのシケモクの残骸だ。

「…ふん。半幽体のくせして、この程度の初歩の呪炎で身を灼(や)かれるか………
……雑魚め。」

 身を灼かれ、地獄の亡者のごとき悲鳴を上げる異形の者とはうって変わって、男の声音は冷たかった。

243 :プロローグ3:2014/01/29(水) 12:42:52.07 ID:GwXMP4xx
「廃墟に住まい、人を廃墟や退廃にいざなう心の鬼、流陰鬼(るいんき)…か。
まあ、お前のような鬼(もの)でも売り込み次第では金になる。
 安心しろ。
 『売り物』にならなくなる前に俺が助けてやる……」

 そう言うと、男は火ダルマになって暴れもがく流陰鬼(るいんき)と呼ばれた…鬼へと、
先ほどまで時計の付けられていた腕を向ける。
 その腕はいつの間にかまくられており…


「!!?」


 炎に包まれながらも、男の、その身の変化に、鬼が目を剥く。

 男の頭頂から、一本の角が、にょきり、と生え出でたかと思うと……
 露出させられたその腕にも異形の…鬼の顔が、あたかも、人面瘡のごとく、現れ、

 ギロ…

 流陰鬼を、見据える。

 ・・・・・・―

 流陰鬼の、動きが、凍りついたように、止まる。
 その身を灼く、炎諸共に。

「……飲み込め。」

 男が、低く呟くと、人面瘡ならぬ、鬼面瘡の口から霧が吹き出され、炎ごと凍りついた流陰鬼の
身を包む。それは、たとえて言うなら、消火器の消火剤を吹き付けられたような光景で、鬼はほどなく
白い彫像と化し……

 ズズズズズズズズズズ!!!

 うってかわって、先ほどとは逆に、吐いた霧を吸い込み出した鬼面瘡に…その霧ごと
吸い込まれ、飲み込まれる。

 あとには、何も残ってはいなかった―

244 :プロローグ4:2014/01/29(水) 13:07:59.00 ID:GwXMP4xx
 と―

 タッタッタッタッタッタ・・・


 先ほどの静寂が戻るかと思われた暗がりに、乾いた…小気味の良い駆け足の音がこだまする。


「ち……、見つかったか。悲鳴の大きさは予想外だったな…。」

 まくった袖を直し、腕時計もはめ直していた男が小さく毒づく。
 先ほどの鬼面瘡のみならず、頭頂の角もいつの間にやら無くなっていたが、流陰鬼を飲み
込んだ時にも微動だにしなかったその眉間に、小さくシワが寄っている。


「あー!!! やっぱりザッキーだー!! ほら、閻の言ったとおりだったでしょ?
ミキティー!!」

 駆け寄ってきた快活な足音の主が、やはり、快活な少女の声を上げる。

「……にんにん。」

 それに応えるように・・・落ち着いてはいるものの、どことなくかなりな背伸びをしているような、
少女の・・・おそらくは、返事なのだろう・・・奇妙な相槌が、交わされる。

「言われるまでもない。拙者もそう思っておったわ。閻ニャーどの。」

「えー? あの声が聞こえたときには『退却でござるよ!!』って言ってたじゃないー。
ここに来たときからもずっと怖がってたし、ミキティーは。」

「し・・・忍びに怖れなど、あ、有り得ぬ!!! あ・・・あれは、危険な場所におもむくえええ、
閻ニャーどのの身を気づかってのええええ演技でござる!!!そうでござる!!演技でござるよ!!!!」

「そうなんだー。 ミキティーって『てんまとう』なのに優しいんだなー。
たまに一緒にいる『じょうにんさん』はあんなに怖いのに。」

「待たれよ!! それは聞き捨てならぬぞ、閻ニャーどの!!! 『ヌエ』さまは
優しい方でござる!!!!!」


―・・・先ほどの静寂は、もはや、跡形も無かった―

245 :プロローグ5:2014/01/29(水) 13:50:30.30 ID:GwXMP4xx
 とりあえず、『ザッキー』と呼ばれた男は、シワの寄った眉根を軽くつまむと、天を
仰いだ。そこには殺風景な天井しかありはしなかったが。


「……何度も言ってることで、無駄は承知の上だが、一応言っておくぞ……閻、俺は

鬼崎(きざき)だ。」


 男―鬼崎は、苦虫を噛み潰すように、その…黒猫を模したフード付きパーカーを着込み、
大きなナップザックを背負う、快活な少女に言い放つ。
 その愛らしさとは裏腹の、尾ていから伸びる禍々しい尾をくゆらせ―鬼崎のほうを向き直る少女―

閻ニャー、もまた、

 鬼崎同様、人に非ざるモノであることは、あまりにも、明らかだった。

「えー? 『バッキー』と兄弟みたいで呼びやすいのにー。 ね? バッキー?」

 そういうと、閻・・・閻ニャーと呼ばれた少女は、被っている猫耳付きの黒フードをなでる。
フードには猫の目らしきものもあしらわれていたが、それが、とぼけるように、あさっての方へと
視線を移した。

「…このような闇社会の住人をも愛称で呼ばれるとは……、まったく、閻どのは本当に天衣無縫(てんいむほう)
でござるな。」

 もうひとりの少女が、明らかに寝不足を窺わせる隈のくっきり刻まれた目を軽くひそめ、口を開いた。
 こちらは、そのくの一装束に包まれる小ぶりな肢体にはおおよそ似つかわしくない、これまた禍々しい、
水牛のごとき角をその両のこめかみから生やしており、彼女もまた、人に非ざるモノであることが容易に
知られた。

「だって、ザッキーって閻が勝手に家に上がったときだって、何だかんだ言っても結局泊めてくれるし、ご飯も
くれるし、いい人なんだもん。
 ミキティーだってあの『じょうにんさん』を『ヌーちゃん』とか呼べばいいじゃない。ホントは優しい人なら、
皆もきっと怖くなくなるよー?」

「ヌエさまをそんな呼び方できるか!!! ・・で・・・ござる!!!!!」


 鬼崎は、それがどんな小金であろうと見落としてはならない、という、ブローカー・・という
より、商人、の鉄則をさきほど遵守したことを軽く後悔しそうになった。
 今しがたようやく、しつこくつきまとっていたのをまいたばかりだった、というのに。

 女三人寄ればかしましい、とは言うが、この二人は妙に波長の合うところがあるせいか、二人だけでも五人十人
以上にかしましかった。

246 :プロローグ6:2014/01/29(水) 14:13:49.91 ID:GwXMP4xx
 何を言ったとしても、この調子に油を注ぐだけになりそうなので、鬼崎は観念し、必要な
ことだけを聞くことにした。

「……おいミキティ…いや、黒丑ミキ。そもそもなんでお前がここにいる?」

「だいたい閻ニャーどのは!!・・・って・・・む?」

 どこまで本気で怒っているのかも判らない、いつもどおりの口論のさなか、フルネームを
呼ばれ、ミキティ……もとい、『天魔党』下忍・黒丑ミキは鬼崎のほうに向き直る。
 「いつもどおり」に戻られてはかなわないので、鬼崎は畳み掛ける。

「そもそもくの一・・・というか、忍(しのび)としてのお前の務めは、お前の仕える『天魔党』に
楯突いているとかいうアイツ・・・

『日本鬼子(ひのもとおにこ)』―

 ・・・の、監視だろう?それが、なぜ、アイツと関係ない・・・というか、険悪極まりない
俺なんかに付きまとう?
 それともなにか?
 お前の上忍(じょうにん)・・・上司の、奴(やつ)、が俺を見張れ、とでも?」

 そう言うと、鬼崎は、先ほど流陰鬼を難なく飲み込んだ・・・あの腕を軽くまくった。

 『奴(やつ)』と言った口調も静かなものではあったが、その呼称の主への底知れぬ嫌悪と憎悪
の念が込められており、それが黒丑ミキ、と呼ばれた少女・・・くの一に対する威嚇であることは、
あまりにも明らかだった。

 が・・・

「あー、そういえば、ミキティ、鬼子ちゃんを見失っちゃったんだよねー。」

 あっけらかんと、そう答えを返したのは、閻ニャーだった。

247 :プロローグ7:2014/01/29(水) 15:04:20.84 ID:GwXMP4xx
「な・・・・!!ななななな何を申される閻ニャーどの!!!せせせせ拙者は、
べべべ、別に鬼子どのを見失ったわわわわけではござらぬ!!な・・・なにやら、
神社で何者かと暗号のやりとりをしようとしていたから・・・!!
 それを解読する間、泳がせて・・・、そ・・・そう!!泳がせているだけでござる!!!」

「あー、そういえば、ミキティー、神社で鬼子ちゃんの書いた絵馬を一生懸命さがしてたねー。
でも、ああいうところで、人の願い事を勝手に見るのって良くないよー? パパもそう言ってたし。」

「ね・・・願い事・・・!? そ・・そんな筈はないでござる!! 昔の忍(しのび)はよく絵馬で伝言
していたと黒金蟲さまも言っていたでござる!! だから・・・!!!」

「情報古すぎじゃないかなー、ミキティー?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 頭が痛くなりはしたが、状況はだいたい飲み込めた。
 おおかた、そのまま帰るわけにもいかないので、たまたま通りかかり、声をかけてきた閻ニャーに
くっついて来たのだろう。
 さらに不幸にして迷惑なことには、その閻ニャーの気分と足が自分に対して向かっていた、という
ところだろうか。


「……ここから一番近い俺のアジトは知ってたな? 閻? メシもおごってやるし、泊まってもいい。
……とりあえず、今は帰れ。 頼む。」

 なにか・・・ なにか、物凄くなにかに負けたような気がしないではなかったのだが、このあと控える
『仕事』の障りになられてもたまらないので、鬼崎は、閻にそう、懇願するように告げた。
 この放浪少女の行動パターンと原理は閻『ニャー』という名からも判るとおり、猫のそれ、だ。

 今までの経験からして、多少プライドが傷付いたとしても、そう言っておけば、嬉々として、自分の寝ぐら
に帰ってくれるはずだった・・・

・・・の、だが、

「それが、そうもいかないんだよねー。」

 このときばかりは、違った。

 そう言ったかと思うと、閻ニャーは背負っていた少し大きめのナップザックを下ろし・・・

「?」

 その答えの調子に違和感を覚えた鬼崎は、そのまま、閻ニャーがその口を開くのを見守る。


 そして、その中にあったモノは、鬼崎自身、かねてより知ってはいたものの、まったく、まったく、
思いも寄らない、奇妙なモノ、だった。

「・・・・・・・・・・何やってんだ・・・・・アンタ。」

 そこにあった…否、いた、のは、古式の烏帽子(えぼし)と水干(すいかん)に身を包んだ、
一匹の兎、だった。

248 :創る名無しに見る名無し:2014/01/29(水) 19:37:12.92 ID:iDoz8fcV
あ、8回書き込んでしまったですね。続きは明日か。楽しみにしてます。

249 :柊鰯:2014/01/30(木) 00:28:16.73 ID:d6B/VoER
鬼崎は推したいキャラなので登場はうれしいにゃぁ。

250 :プロローグ8:2014/01/30(木) 12:22:30.57 ID:VV/A/4vR
 むろん、ただの兎などであるはずがない。
 この人ならざる者たちに囲まれ、そうして馴染まれている以上、いずれかの妖魅化生(ようみ
けしょう)であることは間違いない。

「おじさんー。 頼まれたとおり、鬼崎のところに連れてきたよー。」

 じじつ、閻ニャーも、それが人語を解するのをさも当然、という調子に話しかけたのだったが―

「む―? 様子がおかしいでござるな―?」

 黒丑ミキがもらしたその感想のとおり、その「兎」の様子は奇妙だった―

「商(あきな)いウサギ?」

 それが・・・その妖(あやかし)の名なのだろう・・・が、鬼崎の呼びかけに、その兎が反応することは
なかった。
 商いウサギ、はザックの中でうずくまり、堅く目を閉じ、ただただブルブルと震えていた―
 あたかも、どこにでもいる、普通の兎のように。

「ど・・・どうしたの・・・? おじさん・・・!?
 ど・・・どうしよう・・・!! どうしよう・・・!!
 閻が・・閻が・・・揺らしすぎちゃったからなの・・・!?」

 閻ニャーが、目に見えて狼狽する。この少女は図太いように見えて、他人の痛みには人一倍
聡く、繊細だ。

「落ち着け、閻。コイツがその程度のことでこんな風になるタマかよ。」

 鬼崎のその言葉からは、鬼崎と、その兎との馴染みの深さがうかがえたが、今の閻ニャーには届かなかった。

「ど、どうしよう!! おじさん!! どうしたの!? しっかりして!! 死んじゃ駄目だよ!!」

「お・・・落ち着くでござるよ! 閻ニャーどの!! こういうときは状況を正確に分析することが肝要でござるよ!!」

251 :プロローグ9:2014/01/30(木) 12:47:53.05 ID:VV/A/4vR
 そういうと、黒丑ミキはザックの中に手を入れ、兎に手を当てる。
 それはかなり慣れた手つきの応急の触診で、彼女がそうした訓練を受け、しかもかなり熟練している
ことが容易に窺えた。さきほどまでいじられ放題だった少女の面影はない。

「……脈は…正常でござるな。
 呼吸も、乱れてはござるが、致命的なものではござらぬ…と…なれば、これは外傷によるものなどではなく、
 心理・精神的な発作と思われるが、それは一体……」

「閻。 お前、コイツと一緒だったんだろ? 何かその時におかしな様子とかはなかったのか?」

「とっても元気だったよ!!
 『今日もアイツからしっかり借金を取り立ててやる!!驚かせてやりたいからよろしく頼むぞ閻ニャー!!』って
 言って閻のザックに自分から入っていったんだから!!!」


「ぐ・・・・・・・・!!?」


 今の様子からは到底想像はつかない、彼もよく知るこの兎の、煮ても焼いても喰えないふてぶてしさ、したたかさ、
なにより、商売根性を唐突に思い出させられ、同じ商売人でもある鬼崎はさすがにめまいを覚えた。
 「鬼としての力」はともかく、こと「商魂」においてはこの兎には勝てる気がしない。

―このまま葬ってしまおうか―?

 ちら、とそんな思いもよぎったのだが、それは、よく落ち着いた『男』の声にさえぎられた―

『鬼崎やミキの言うとおりだ。 落ち着け、閻。』

 声を発したのは―

 先ほど、『バッキー』と呼ばれ、目を反らした、閻ニャーのまとう、黒猫をあしらった、パーカーだった。


「………化鬼猫(ばきねこ)大主か。 お前の『主』もまだまだ、だな。」

『返す言葉もないな。鬼崎。」

 鬼崎がその黒猫のパーカーに話しかけると、パーカー・・・猫神・化鬼猫大主は少し面目なさそうに 
答えた。

252 :プロローグ10:2014/01/30(木) 13:16:37.09 ID:VV/A/4vR
「ねえ、バッキー。 おじさんは大丈夫なの?」

 本人にその自覚はないが、頼れるものの落ち着いた声でいくぶん落ち着きを取り戻した閻ニャー
はバッキー…化鬼猫大主に商いウサギの安否を尋ねる。


『……とりあえず…ナップを閉じて、背負っておくんだ、閻。 おそらく、彼にはこのまま、これから
ここで起きることには関わらせない方がいい。』

「え・・・・?」

『早くしろ。 多分、時間はもうあまりない。 そうだろう?鬼崎?』

「なに?」

 閻ニャーに問い返す間も与えない指示を下した化鬼猫大主にそう言われ、思わず腕時計に
目をやった鬼崎は、『仕事』の約束の時間に、もう一分も無いことに気付いた。

『鬼崎・・・お前―』

 あたふたと、ナップザックを閉じ、再び背負い直す閻ニャーを何をするでもなく眺める鬼崎に
化鬼猫大主が、ふたたび、問いかける。
 その声には、わずかではあったが、その猫神としての霊格からは意外、というほかはない感情―

 戦慄―

 が、込められていたことを、鬼崎は聞き逃さなかった。


「これから、一体―
 『何』と遭(あ)おうとしているんだ―?」


 コツ、コツ、コツ、コツ、・・・・・・・・

 『それは―』と答えようとした、鬼崎の言葉が発せられる間もなく、暗がりから、乾いた靴の音が
反響しつつ、聞こえてきた―

「「「・・・・・!!」」」

 その場にいる、全員が息を呑む。

「鬼崎どの・・・。」

 臨戦態勢を取ったミキが尋ねてくる―

「もう、身を隠す時間もねえだろ。 今回の『取り引き』に人数の指定とかはない。 変に動かれても
困るから、そのままそこにいりゃいい。」

「…承知した。」

253 :プロローグ11:2014/01/30(木) 13:48:34.59 ID:VV/A/4vR
 そう言うと、シメるときはシメる、そのズッコケくの一は、まだ状況に対応しきれていない閻ニャーの
傍らに寄り添う。
 立場上、そんなことをする義理などあるはずもないのだが、この少女はそんな妙なところで律儀なところ
があった。


 コツ、コツ、コツ、コツ、・・・

 切れかかった電灯の薄明の中に現れたのは―


 現れ出てきた闇の色と同じ、黒のロングコートに身を包んだ、長身の男だった―
 年の頃は二十代後半から三十代前半―といったところだろうか―


「鬼崎規武(のりたけ)―かい?」


 男の第一声は、妙に気さくなものだった。

「それにしても、随分可愛らしいお供を連れてきたもんだね。 闇社会の―そのまた闇に潜む
住人とはとても思えんな。」

 そう言って・・・笑う。
 男の言う『闇社会』において、真に警戒すべきは、狼や野良犬のようにすぐに牙を剥き、敵意
や、その当の、警戒心を顕わにしてくるような輩では…決して、ない。
 このように、一見、緊張感のないように見えて、牙を巧妙に隠す手合いだ。
 例えるなら…腹の満ちた獅子、といったところか。

 鬼崎は、閻ニャーやミキに少し目配せし、下がるよう指示すると、慎重に口を開いた。


「まず、確認しておきたい。」

 男との距離に気を配りつつ、続ける。

「この接触『経路』を一体、どこで知った?
 もう二十年は俺自身も使ってなくて、忘れかけていた場所なんだがな? ここは?」


 あえて取りあわなかったが、先ほど黒コートの男が鬼崎をよぶのに使った『規武(のりたけ)』という
名にしても、鬼崎の無数にある偽名の中でも最も古いものであり、この取り引き場所同様、他ならぬ鬼崎自身
も忘れかけていた名だったのだ。

254 :プロローグ12:2014/01/30(木) 14:16:39.28 ID:VV/A/4vR
「それが『カタギ』にとっては『大金』だったとしても・・・」

 男は、少しおどけるように、答える。

「目先の『小金』を追いすぎて己の通った道を振り返らない、というのが君たち、闇社会の住人諸君
の悪いところ、だな。
 『やった』ほうは忘れていても、『やられた』ほうが忘れてなくて、そこから、こんな風に話がもれる
ことだってある。」


―それはつまり、『鬼崎規武』になんらかの恨みを持つ者がいて、そこからこの『取引場所』及び自分への
接触ルートももれた、ということだろうか―?

 「もらした者」には自分への敵意や害意悪意があるのか―? 

 そもそもそうしたものから身を守るための偽名なのだが、ことと次第によっては、この『場所』ごと
『鬼崎規武』を完全に抹殺する必要もあるかもしれない― が―

 商いウサギや化鬼猫大主の奇妙な様子のこともある。
 鬼崎はこの目の前の得体の知れない男のことを探ることを優先した。

「お前― 人間、か―?」

 当座の、一番の疑問をぶつける―が―

「人間だが? なにか?」

 答えは… 予想通り、なはずなのに、なにか疑問をさらに深める、妙に拍子ぬけた、ものだった。

「退魔師、のたぐいか?」

 思わず問いを重ねる、が・・・

「当たらずとも遠からじ。 だな。」


 謎はますます深まるばかりだった。

「俺がなんなのか、なんて、闇社会の住人の君には、この際どうでもいいことじゃないかな?」

 そういうと、男は持っていたスーツケースをコンコン、と叩き、鬼崎や少女たちの意識を闇に
つのらせられるばかりの疑念から、そこへと引き付ける。

255 :プロローグ13:2014/01/30(木) 14:42:05.34 ID:VV/A/4vR
 そして、ボロボロのコンクリート床の、比較的きれいな場所にそれを置き、

「肝心なことは、ここに『仕事』と『コレ』があること―
 違うかな?」

 開く。


「「!?」」


 閻ニャーと、ミキが息を飲む。
 そこには、ある意味、鬼崎がもっとも『見慣れた』ものがあった。


「現金で一億ある。」


 スーツケースの中にぎっしりつまった札束のひとつを手にとり、ペラペラ…と鬼崎たちに見えるように
めくりながら、男は言った。表だけが本物であとは新聞紙…などというせこいトリックは、男の自信に
満ちた態度からしても、とうていありえそうになかった。

「マジかよ・・・・」

 仕事柄、そんな光景はよく見るものではある。
 だが・・・

「これは『手付け金』で、ここで受け取ったあと、仕事を受けなかったとしても、返してくれなくていい。
前金はこの200倍、成功報酬としては更に100倍出す。」


「!!??」


 こともなげに続ける男の言葉に鬼崎は言葉を失う。
 二人の娘はポカン、としており、話についてこれないでいる。

「さん・・・びゃく・・・おく・・・・?」

 巨額の金の動く闇社会においても、明らかにその額は桁が外れている。

「いったい・・・・・・」

 男の物言いにはそれをブラフと思わせない、なんというか……澄み切った当然さ、とでも
いったものがあり、とうてい、それが嘘とも思えはしなかったのだが、鬼崎は無理矢理にでも
疑念を呼び覚まし、ぶつける。
 闇で交わされる取引は、それがなんであれ、度肝を抜かれた方が負けだ。

256 :プロローグ14:2014/01/30(木) 15:08:24.59 ID:VV/A/4vR
「どんなヤバい仕事をさせよう・・・ってんだ・・・!? てめえ・・・!!!」

 最大限の警戒心をにじませ、男を睨みつけ声を絞り出す・・・が・・・

「一応、言っておくが、この金に後ろ暗いところは一切ない。 多分、今回、君に回ってきた
『仕事』は君の生涯でもっとも『まっとうな』なものになるだろうな。」

「・・・・・・あん?」

 そんな威嚇もまた、見事なまでにいなされ、すかされた。それも、このうえなく、あざやかに。

「資料だ。 目を通しておいてくれ。」

 間髪入れずに投げて寄越してきたクリアファイルも、なにも言えずにただ受け取るしかなかった。
 ざっと目を通すと・・・それはいずこかの『島』の衛星写真らしく・・・
 その名は・・・


「炭ヶ島(すみがしま)・・・・・?」



「写真は出来ればすぐに破棄したほうがいい。 この前、通った新法案の保護対象にぎりぎりで
引っかかるのでね。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


 鬼崎には、何となく、だがこの男の背後にあるものが読めてきた。
 この男は、自分たちのような、『闇』の住人ではない。
 おそらくは『光』の住人・・・それも、恐ろしく、恐ろしく、強烈な光、の中に在る者だ。

 まず、間違いなく、詮索はしないほうが、身のためだろう。
 そうして知りえる『光』の内情は『闇』で利用できるのはたしかだが、それは利用価値が高すぎる
がゆえに、ガセを掴まされたときの被害もまた、大きい。
 目の前の男は、そんな風に、『闇』を軽く踊らせ、自滅破滅させるくらいのことは軽くやってのけて
みせる雰囲気をまとっていた。

 『破棄した方がいい』写真にしても、それは、男のためにそうなのではなく、鬼崎や闇社会のために、
そうなのだろう。

257 :プロローグ15:2014/01/30(木) 15:35:39.18 ID:VV/A/4vR
「・・・・・それにしても、ずい分な大盤振る舞いだな?」

「さらに前に、『中枢』に巣食っていた『貧乏神』を一掃できたからな。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「・・・この島が・・・どうした?」

 どうやら、余計なことは考えるべきではない。
 そう判断した鬼崎は、ビジネスに徹することにした。

 男は即答する。

「そこで近々、大きな『祭り』がある。」

 そして、続けた。

「そこに『日本鬼子(ひのもとおにこ)』という名の鬼人の少女と・・・
それから、君が知りうる限りの、出来るだけ多くの『鬼』たち、『妖(あやかし)』たちを、
招き寄せて欲しい。
 手段は任せる。
 前金にはその必要経費も含まれている。」



「え・・・・・?」

 と― 一拍おいて、そう声を上げたのは、終始わけのわからなかった会話の中に良く知った名を聞きつけた、
閻ニャーだった。

「お兄さん・・・・ 鬼子ちゃんをどうするつもりなの・・・!!?」

「!?・・・閻!!・・・馬鹿・・・!!」

 気付いたときには遅かった。男が、少女に笑いかける。

「面識があるのか。 話が早いな。」

「オジさんをあんな風にしたのは、お兄さん・・・!! アナタだよね!!?
まさか・・・ 鬼子ちゃんもイジめる気なの・・・・・・!!!!」

 閻ニャーは、勘のいい少女だった。
 鬼崎と、その男の話の内容は判らないにしても、先ほどの商いウサギの異変の原因が、この男が、
今、こうしてこの場にいること、在ること、そして、今この男の話題が友人に及んでいること自体が
その大事な友人への深刻な脅威であることだけは正確無比に察し、緊張を高めた。

258 :プロローグ16:2014/01/31(金) 20:33:54.78 ID:0JOG2cHK
 男は― 笑っていた。

 その目は、明らかに、閻ニャーの背負ったナップザックの中で今もうずくまる、商いウサギの存在を
看破している。

 閻ニャーの、猫のそれにしては禍々しすぎる尾が逆立ち、閻ニャー自身も自覚しないうちに、軽く前傾
姿勢を取る。あたかも、猫科の獣が臨戦態勢を取るように。

「おい・・・・・!?」

 閻ニャーはこれでいて、極めて強い霊力を持ち、先ほど何の苦もなく『心の鬼』を一匹飲みこんだ鬼崎
でも、持て余しそうな『心の鬼』を『トモダチ』と称して使役する。 それも、複数。 先ほど口を開いた
『化鬼猫大主』に至っては土地神レベルの猫神だ。 そんなものたちを一度に解放されては、この男の正体
を知ることはもとより、この取り引き自体、この崩れかかった地下駐車場ごとおじゃんになりかねない。

 この不気味な男に手の内を見せるのは避けたかったが、閻ニャーを止めようと鬼崎が『腕』の力を解放させ
かけた―その時だった―


「ほう。おぬしも『日本鬼子』を付けねらっておるのか。」

 ミキティ―黒丑ミキ、が閻ニャーと変わらない緊張感を漂わせつつも・・・冷静沈着なたたずまいで・・
・閻ニャーと、男の間に割って入った。

「また、可愛らしい嬢ちゃんだね。 君は?」

「天魔党『忍』部隊が頭領、ヌエさまが直属の下人・黒丑ミキ。」

 そして、男の問いにも、よどみなく答え、名乗る。

「天魔党・・・。」

 その答えに、男は、いぶかるようながらも、何か思い当たるような口調で、答える。

 明らかに、その存在を知っている。


「『天里県』天里城址に封じられ、近ごろよみがえったという、あの戦国時代の亡霊たちか………
しかし、それにしては妙だな。」

「なに・・・?」


 やはり、男は『天魔党』を知っている。 だが、その上で、なお、男は疑問の眼差しを、
ミキに向ける。

259 :プロローグ17:2014/01/31(金) 21:03:34.06 ID:0JOG2cHK
「『牛鬼』だろう? 君は? 『天魔党』の元になった国・・・『天里国』は牛鬼に滅ぼされた
と聞いている。
 憎み呪われ忌まれ恨まれている存在のはずなのに、仕え使われているのかい?」


「・・・・それは・・・・!!!」


 男の口にした疑問に、ミキが鋭く息を飲み、押し黙る。
 普段のドジをいじられて困っている様子とはわけが違う。

 どうやら、彼女のもっとも触れられたくないところに触れられた、ということだけは、あまりにも
明らかだった。

「ミキティ・・・?」

 閻ニャーも、先ほどまでの敵意を思わず忘れ、ミキを気遣う。


「拙者のことは・・・・・・関係・・・ないでござる・・・。」

 搾り出すような声で、ミキはそれ以上の詮索を…打ち切った。

 そして、問う。

「それより、『日本鬼子』の動向監視は、主より下された我が務めゆえ、答えて貰おう。
 ・・・おぬし、その『炭ヶ島』とやらで、日本鬼子に何をさせようというのだ?」

 その問いは、単に任務であるということのみならず、閻ニャーに成り代わって尋ねた、ということも
あったのだろう。 じじつ、閻ニャーは先ほどよりいく分落ち着き、男の続く言葉を固唾を飲まずに待っていた―

 鬼崎もまた油断なく注視する中―

 男は―

「さっき『もらした』こととも関わる―と、いうより、『すべて』がひと連なりのことなのではあるが―……」


 そう、前置きをし、続けた。


「この日本国(ひのもとのくに)に、今、未曾有の『栄光の刻(とき)』が迫っている。
 同じ日本(ひのもと)の名を冠する彼女に頼みたいのは、その・・・いわば、『地固め』、のようなものだ。」


「「「????????」」」


 男のそのあまりにも・・・あまりにも、謎めいた答えに、閻ニャーも、ミキも、・・・のみならず、
鬼崎までもが、キツネにつままれた表情になる。

260 :プロローグ18:2014/01/31(金) 21:24:54.01 ID:0JOG2cHK
「・・・・・どういう、意味だ? それは?」


「詳しくは、言えない。」

 思わず、訊き返す鬼崎だったが、男はそれには、きっぱりと拒否した。

 謎は深まるばかりだ。

「・・・そもそもなぜ、アイツとは険悪な関係の俺にそんな大金を積んでまでして頼む?
 だいたい、俺の『本業』とも関係ないんじゃないか?」

「そうでもない。おそらく、『祭』の時、その『炭ヶ島』には『心の鬼』が入れ食い状態になると思うが、
それを君がどれだけ狩って売買しようと『我々』は一切、関知しない。
 ・・・『今まで』同様に、な?」

「何だと・・・!?」

 鬼崎は・・・なんというか・・・蜘蛛の糸に引っかかった獲物を連想してしまった。

(コイツは・・・俺の『これまで』も把握している・・・?)

 しかも、その獲物は、これまで、蜘蛛糸に絡まれていることにも気付かなかった、というのか・・・

「・・・・話が・・・うますぎるな・・・、いくら大金を積まれたとして、そんな怪しい仕事に俺が乗る、とでも・・・?」

「乗るさ。 君が君の『仕事』で日々発揮している度胸胆力は聞いてるし、関係が険悪なればこそ、『彼女』の危険を顧みる
ことも君には無いだろう?」

 そう言うと、男は、どういうわけか、少し申し訳なさそうに、閻ニャーのほうを見る。
 案の定、閻ニャーは睨み返しただけだったが。


 そのまま・・・

 そのせい、というわけでもないのだろうが、男はゆっくりと、三人に向けて歩を進め始めた。


 コツ、コツ、コツ、コツ、・・・・・・・・・・・


 三人に、緊張が走る。

261 :プロローグ19:2014/01/31(金) 21:51:26.54 ID:0JOG2cHK
 一歩男が近づくごとに、男の存在感が増す。

 それは― 奇妙なことだが、威圧感、といったたぐいのものではなく、一歩進んで来るごとに、こう・・・
自分たちの立っている足場が無くなり、まるで、無重力空間にでも投げ出されていくような……不可思議な
感覚だった。


「『君』を『選んだ』理由は、君がこうした大金の扱いに慣れていること、もあったわけだが・・・
一番の理由は、君が・・・
『彼女』・・・
・・の縁者であること、だ。」

「『彼女』―?」

「君がそこにそうして立っている理由を作った『彼女』さ―」


「!!??」


 男は、もう目前に迫っていた。 男が・・・『彼女』と呼んだモノ、に思い当たり驚愕する鬼崎
には構わず、当の男はスーツケースをその足元に置くと・・・・・・・

 ・・・さらに、歩を進めた。 三人の背後に広がる、闇に向かって。



「『陛下』も―『閣下』も―、今、国民の懐具合には相当に心を痛めておられる―・・・
 この金・・・、くれぐれもこんな『闇』の中に腐らせないことだ。」




 すれ違い際に、男はそんな・・・・・・太い太い太い、杭のような釘を刺すと・・・・
来た時同様に、靴音を響かせ、闇の中へと消えていった。


 コツ、コツ、コツ、コツ、………


 少しずつ遠ざかる靴音もやがて消え、取り残された者達には深い深い沈黙だけが
残された―

262 :品陀 ◆TOrxgAA4co :2014/01/31(金) 21:56:38.44 ID:0JOG2cHK
 まだ4レスですが、少し体調が悪く、明日仕事も控えているので、
今日はここまでで、続きはまた明日になります。

どうかご容赦をば・・・

263 :創る名無しに見る名無し:2014/02/01(土) 01:28:01.69 ID:u8Q/qSnr
お疲れさまですー
ホントに今までの設定やネタを飲み込まんばかりの勢いですね。
ハラハラドキドキが止まりませんw
気長に続きを楽しみにしていますー
どうぞご自愛下さいませ。

264 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2014/02/01(土) 14:16:15.50 ID:eRapoDgA
久しぶりのシリアスSS投下に手間取ってしまいました。
最初にはっきりと二部構成ですと断言しとけばよかったな〜と・・。

感想を頂きまして有難う御座います。

>「ひのもと」一族ってまだありそうね
はい。いくつか考えてますがSSにはなりませ〜ん!
>一本気で凛々しい
+泣き虫で大食いです!
>鬼衛門くんのその後がきになります
元気になって、閻ニャーの兄と鬼童丸と鬼衛門で、闇世三人旅が始まります。
しか〜し脳内設定です!

品陀さん、SS乙です。
作者さんごとのメイン・サブキャラ性格設定の違いって、とても魅力的で
もっともっと増えて欲しいです。
キャラが持つ性格などのキャパが無限に広がる様で、ドキドキしてしまいます。
一人で考えると小さく小さくまとまってしまうので。←私の場合
閻ニャー使ってくれて有難う御座います。
冷たさの中に見え隠れする温もりがいい感じ〜!
もう一つ、ザッキーって・・・超有りですね!!

265 :品陀 ◆TOrxgAA4co :2014/02/01(土) 21:18:18.84 ID:vlVwDvIF
>>263
 どうもありがとうございますー
 ちょっと今日はもう投下はむりぽなのですが、明日あさっては8レスいけそうです
ので、また。
 謎の男は去りましたが、各キャラの描写はまだまだこれからです。

>>264
つまり「3び鬼が斬る!」ですね!!

 そうですね、やはり他の方の創ってくださったキャラもちゃんと要所さえ捉えられたら、
口を勝手に利かせてくれるようになる瞬間があって、そこがほんとうに楽しいです。
 ザッキー・・・閻ニャーなら絶対そう呼ぶだろうと思ったんですけど、このまま定着させて
いいもんですかね^^;
 まあ、鬼崎の愛称に関しては明日以降、またひと悶着ありそうですが・・w

 それではまた明日!!

266 :プロローグ20:2014/02/02(日) 12:37:17.80 ID:BrJd0A+4
 誰も、口を開こうとする者はおらず、誰もが、自分以外の誰かが口を開き、この重苦しい静寂を
破るのを待っていた―


―…と―


 ゴソゴソゴソ……

「うーん・・・」

 突如として、三人ともに思いも寄らない声で、沈黙は破られる。
 その声は・・・閻ニャーの背負っていた、ナップザックの中から、響いてきた―


「!?・・・おじさん!?」

 声の主が、『誰』であるかに思い当たり、閻ニャーはいそいそと、ナップザックを肩から下ろし、
その口を開ける。

 そこには、先ほどと同じ様子のアキナイ兎が変わらず、うずくまっていたが、先ほどとは違い、
震えたりはしておらず、うっすらとその目も開きかけていた。


「『おっさん』?」


 鬼崎も―思わず、安堵してしまったのかもしれない―つい、昔の癖で、その兎のことを
そう呼び―

 すぐに、後悔した。 深く、深く。

 ピタリ・・・

 うずくまるアキナイ兎の動きが、完全に止まり、開きかけていた目も完全に閉ざされる。
 やはり、気遣ってしまったのは、命取りだった。 どうしようもなく。


「・・・・・・・・・その声・・・、『鬼(き)ー坊』か?」


 先刻の様子からは、考えられないような、はっきりとした声が、兎から発せられた。

267 :プロローグ21:2014/02/02(日) 12:55:07.57 ID:BrJd0A+4
 閉じた目も、明らかに、確固たる意思によって閉ざされているのが窺える。

「いや、俺は鬼ざ・・・」

「鬼ー坊か?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 ……もはや、有無を言わさない。
 鬼崎は、観念した。

「ああ・・・。 鬼ー坊だ・・・、おっさん・・・。」

「うむ!!! やっぱりか!!!」


 ピョイ!!


 威勢のいいかけ声とともに、ナップザックの中から兎が跳ね出す。
 先ほどまでの弱々しい様子は、もはや微塵もうかがえはしなかった。


「・・・って・・・、何やココは!!!? かーっ!! エラい辛気クサいトコやなー…、
おいコラ鬼ー坊!!! お前、相変わらずこんなけったいなトコで商いしくさっとるんか!!!
このバカたれ!!!!」

「…放っとけよ…、おっさん……。」

「放っとけるかい、ボケ!!! 商いは『関係』が全てやってあんだけ口酸っぱくして教えてやった
ろうが!!! たとえ、人身売買まがいのことをしくさっとっても、いっときでも面倒見てやった
ことがある以上、いつまでだってお前はワテの丁稚(でっち)やさかい!!!
 わかったか!! このアホンだら!!!!」

 あれほどまでに重苦しかった暗闇に威勢のいい啖呵がこだまし―

「へー、ザッキーってもう、キーぼう、って名前があったんだー。
 閻も呼んでもいいのかな?」

「やめろ!!!!!!」

 今度は、鬼崎の叫びが、こだました。

268 :プロローグ22:2014/02/02(日) 13:31:14.14 ID:BrJd0A+4
 そう― 『彼女』に命じられ、『心の鬼』の「売買人(ブローカー)」となった鬼崎には、その
駆け出しのころ、「売買したいもの」の内容は伏せてこのアキナイ兎の世話になったことがあり―

 この世には、鬼としての「強さ」とはまた違う次元の「強さ」があるのを思い知らされたのだった―

 とうぜん、このアキナイ兎の「戦闘力」などは、ここにいるその他の三鬼はおろか、普通の一般人にも
敵うかさえ怪しい。

 だが、こと「商才」および「商魂」の「強さ」に話が及ぶとなると、商売を学ぶ「理由」がバレて叩き
出され、それでも曲がりなりにも何とかブローカーとして自立した鬼崎の「強さ」程度などでは、お話にも
ならないのだ。
 この兎はいつも行商人然として、こまごまとした物を売り歩き、小金を稼いでるだけのようには見えるが、
鬼崎はその下について働いていた時、恐ろしく霊格の高い神仙や天人、鬼神とさえ彼が気さくに話していた
ところを見たことがある。

 それはやはり、彼の一徹した商人としての良心や信用の賜物なのだろう。
 仮にその身に「腕力」でなにか危害が加えられたとすれば、一体、何を敵に回すことになるのか……
…考えるだけで、恐ろしい。


―ええか、鬼ー坊。 商売人として、大きな銭さんを扱こうてごっつい大きい取り引きをしたい、て気持ちも
よ〜く分かる。
 せやけどな。
 でも、それなら、なおのこと、目の前の小金を決して粗末にしたらあかん。
 よ〜く、覚えとくんやで?


 こうして、呼ばれたくない愛称で呼ばれ、久々に説教を聞くはめになったのも、元を辿れば、
商いの師であるこの兎の、そんな言葉だったのだ。

「・・・・・で、お前の『お得意さん』はもう帰りはったんか?」

 面白くもなさそうに訊く、アキナイ兎のそんな言葉に、鬼崎は追憶から引き戻され―

「ん・・・・、ああ。 『初見さん』だったけどな。」

 つい、商売人の言葉で答えてしまう。

「ふん。 お前のことやからどーせけったクソ悪いモンを売りつけて銭コ貰たんやろうけどな。
どんなロクデナシでもお客さまはお客さまで神さまやし、銭さんは銭さんで命や。
『初見さん』ならそれはそれで末永く大事にすることや。」

「んなこたあ、判ってるよ・・・、おっさん・・・。」

 ため息をつきつつ答えながらも、鬼崎はアキナイ兎を観察していた。
 先ほどの昏睡は見る影もない。

269 :プロローグ23:2014/02/02(日) 14:06:16.90 ID:BrJd0A+4
 今の『初見さん』がその原因であったことは、まず間違いないのだが、『初見さん』が近づき
それに近づいたせいでああなった、というのなら、もうそれはろりあえず、少なくともその影響
を及ぼさない遠くに去った…ということでいいのか―

「判ってるんなら、ええ。」

 そんな疑念に構うことはなく、鬼崎の先ほどの答えに満足してか、アキナイ兎は話題を変えた。


「さて・・・こっからは、お前とワテ、商売人と商売人の話や。
今年の分の金・・・、利息も含めてちゃんとミミ揃えて返せるんやろうな?
 鬼ー坊?」

「・・・・・・・・・・・・。」

 鬼崎は、押し黙る。
 『今年の分の金』・・・というのは、当然、先ほど閻ニャーも少しもらしていた・・・・・・
その『心の鬼』ビジネスを興すに際し、まとまった金が必要だった鬼崎がアキナイ兎から借りた、借金、の
ことだ。
 とうぜん、その額は、目の飛び出るような額の大金、ではあったのだが・・・・・・

 実のところ、鬼崎が今、黙った理由はその金額によるものではない。

「なあ・・・・、おっさん・・・・・。」

 忸怩たる面持ちで、鬼崎はそれに応える。

「いい加減、『千年年賦(ねんぷ)』の『直接対面支払い』、なんて馬鹿な返済法はやめに
しないか?
 たしかにアンタに借りた額はデカいが、ちょっと無理すりゃ一括で返せない額でも無えんだ。
 毎年毎年いちいち説教食らいながらちまちま払って・・・それをまだ900年以上も続けなきゃ
ならん・・・ってのもさすがに・・・・・」

「ど阿呆(あほう)!!!!!
 金の貸し借りの『形』とその『約束』も商いの大事な『キモ』やって言うとったろうが!!!!
 ワテが提示して、それをお前が一度飲んだ以上、お前はその契約と条件は
死んでも守らんとあかん!!!!!
 ええか!! 死んでもや!!!

 それが、商人の意地ってもんや!!!!!」


 鬼崎は、再び、押し黙る。

 そう―

 結局のところ、このお節介な兎は、道を外れ、外道を歩む自分のような不出来な教え子ですらも、見捨ては
しないのだ。
 決して。

 借りた時には踏み倒す気満々だったが、おそらく、そんなことはハナからお見通しで貸したのだろう。
 それも、『千年分割で、一年に一回の直接対面返済』などという、とんでもなく回りくどい気の遠くなる
ような返済法で。

270 :プロローグ24:2014/02/02(日) 14:37:30.63 ID:BrJd0A+4
 実際、最初は鬼崎もありとあらゆる手を使って行方をくらまそうとしてのだが、アキナイ兎も
また、ありとあらゆる手を使って年に一回、必ず鬼崎の前に現れた。
 ……そして、毎回毎回、ちょうど今のように滔々と説教し、商人の心構えを垂れ、きっちり取る
ものは取って、立ち去っていくのだった。

 さっきのようなことを言ったのも、一度や二度ではない。
 が、そのたびに兎はそれをはねつけ、これまた今のように商人の訓示を垂れるだけなので、鬼崎
もまた、この商いの師との邂逅を年に一度の年中行事としていつしか受け入れてしまっていた―

 『死んでも返せ』というのは、『自分も死んでも取り立てる、会いに来る』ということだ。
 結局、あれこれ言っても師は自分に『まっとうな商売』をして欲しくて見守っているだけなのだ、
ということは、
 痛いほど解っていた・・・が・・・―


「金なら、ある。」


 そこで、『彼女』の顔が思い浮かびそうになり、鬼崎はそれを振り切るように、話を戻した。
 
「汚い金なら受け取らへんで。 いつも言うとるが。」

 兎は、その愛くるしい容姿とは、裏腹の剣呑さで、応じる。

 鬼崎は、黙って先ほどあの黒コートから渡されたスーツケースを見せ・・・開く・・・


 と―


「こ・・・ これは・・・・・・・!!??」


 スーツケースが開くと、アキナイ兎は驚愕の声を上げ、まるでまぶしい光から逃れるかのように、
その『中身』から目を、顔をそむけた。


「「「???」」」


 その様子には、鬼崎のみならず、それまで黙って二人のやり取りを眺めていたミキ、閻ニャーも
いぶかしむ。

「・・・・・・・・・・? どうしたよ? おっさん? このくらいの額の金なんて、アンタが目に
したことないはずもないだろうに?」

 小金を扱っている商人が大金を前にして取り乱すことはある。
・・・鬼崎は最初、それを思った―が、こんな札束よりもよほど高価な・・・たとえば、江戸時代の
千両箱をみ、扱ったこともあるというこの兎のこの反応が、あきらかにその「額」によるものではない
らしいことは、容易に知られた。

271 :プロローグ25:2014/02/02(日) 15:03:15.84 ID:BrJd0A+4
「・・・・・鬼ー坊・・・スマンが・・・、その蓋をちいと閉めてくれへんか?
 まぶしうて、たまらん・・・・・。」


「??」

 とりあえず、このままでは話が出来ないことは解ったので、鬼崎は言われるがままに従い、
スーツケースを閉じる。


「ふー・・・」

 アキナイ兎が、一息ついて、目をしばたかせる。

「大丈夫? おじさん?」

 閻ニャーがその目の前で指を振るが、その焦点が合うのには少しかかった。

「一体、何だってんだよ・・・・・・、一応、一億あるそうなんだが・・・
なんなら、銀行で違う札に換えてから払おうか・・・? おっさん・・・?」

 状況は飲み込めないものの、アキナイ兎の異変の原因がその札束にあることは漠然と感じ、鬼崎は、
彼にしては珍しくこの兎を案じ、気を利かせるようにそう言ったのだった・・・が―


「いや、それには及べへん。」

 兎は、きっぱりとそれを断り―


「今日、今年の返済も無かったことにしたる。」

 そんな、おそろしく意外なことをも言ってきた―


「は―?」

 鬼崎は一瞬、自分の耳を信じられなくなる。

 先ほど、この兎は『貸し借りの契約と条件は絶対』と言い、実質『死んでも取り立てる』と言い、
それを体現してもいるこの『商いの鬼』がそんな前言を撤回するなど―

「ただし―」

 鬼崎の衝撃には構わず、兎は続ける。

「どんな仕事して貰たかは知らへんし、詮索もせえへんが、鬼ー坊、お前がこの『べっぴんさん』を
責任持ってきっちりしっかり使い切ること―… それがその条件や。」

「あん―?」

 『べっぴんさん』というのは、さきほど、この兎の目をくらませる・・・どころか、灼いたスーツケース
の中の札束のことなのだろう。『銭は命』というのは、この兎にあっては、決して比喩などではない。
 それゆえの表現なのだ、ということは窺い知れた。

272 :プロローグ26:2014/02/02(日) 15:34:10.15 ID:BrJd0A+4
 ―が、解らないのはそれを『使い切ること』・・・という条件だったが―

「『金精(かねせい)』の話は覚えとるな? 鬼ー坊?」

 出し抜けに、アキナイ兎は、そんなことを言った。

「『金精』―? ・・・ああ、金に宿る心とか魂とか・・・
 そういうものだったっけか―?
 あいにく、俺にはあまり良くは見えないが・・・・。」

(そんなんやからお前はアカンのや!!!!)

―と…

 そんな師の叱責を予想し、身構えた鬼崎だったが・・・

 予想に反し、アキナイ兎はただじっと蓋の閉じられたスーツケースに見入るのみだった。

「ホンマ・・・ ワテも商いの道に就いてエラい長いことになるが・・・・」

 その『エラい長い』というのは、百年、二百年ではきかないだろう。 数百年―いや、千年を
越えるかもしれない・・・が―

「こんな綺麗で澄み切った金精―金(かね)さん銭さんおあしさんを見るんはどれくらいぶりやろうなあ―…
 ほんま、べっぴんすぎてマトモに見れへんのが残念やわ。 ワテもまだまだ商いの精進が足らんなあ―……」

 そう言うと、アキナイ兎はスーツケースに手を合わせ、拝む仕草までしてのけた。

「おいおい・・・・・・」

 鬼崎が何と言っていいやらわからず、それを眺める横で、閻ニャーは不思議そうな表情をしつつも、
それをまね、ミキもまた、所在無さげにしている。


「よっしゃ!!! エエもんも拝ませて貰たし― ほな、ワテはもう帰るで!!!!」

 ひとしきり『べっぴんさん』を拝んだ後、アキナイ兎は威勢よくそう言うと・・・丁度、あの『男』の
去ったほうへと歩きだした。

「!!? お・・・おい!!? ホントに返済はいいのかよ!!!!」

 意表をつかれ、鬼崎があたふたと訊くが・・・

「ええ、ゆうたらええ。」

 アキナイ兎はきっぱりと答えた。 そして、少し振り返ると・・・

「鬼ー坊。 前にも言うたと思うが・・・『金精(かねせい)』・・・銭さんの心は使うモンの心次第で
良うも悪うもなる。
 悪い心に染まった銭さんが使うモンを悪くすることもあれば、その逆に、良い銭さんが使うモンを幸せに
することだってある―
 そんなべっぴんな銭さんがお前みたいなんの所に来たのも何かの大きな大きな縁かもしれへん。
 ・・・仕事は、これからなんか?」

「・・・ああ。」

273 :プロローグ27:2014/02/02(日) 15:55:07.19 ID:BrJd0A+4
「ほうか。 せやったら多分、お前の一世一代の大仕事になる筈や。しっかり気ィ張って商いするんやで?」

「え・・・・・・?」

 鬼崎はぽかんとしてそれを聞いた。
 袂(たもと)を分かち、闇社会に身を落として以来、年に一度の取立てという唯一の繋がりにおいても
常に険悪だった、この師からそんな激励を受けるなど、とうてい信じられない。

 そのまま、兎は ・・・あの男同様、闇の向こうに歩み去るかに思えたが―

「?」

 その足を止め―

「ヒトさまの家の事情に首突っ込むんがアカンことなんは解ってるんやけどな・・・」

 ふと、思い出したようにアキナイ兎は訊いてきた。


「鬼ー坊。 お前、『おかん』とは相変わらずなんか―?」


 その声には、いく分、同情と憐憫が込もっており、先ほど叱り付けていた時とはうって変わって、
いまだ自分の「丁稚」と呼びつける鬼の青年の身の上を案じる世話焼き者の苦渋の思いすらも込もっていた―

だから―


「ああ―」


 鬼崎も、ただ短く、そう告げるしか、なかった。

「ほうか―」

 兎もまた、それ以上は何も言わず、再び背を向ける。


「鬼ー坊。 また来年な。 逃げるんやないで。
 それとその『べっぴんさん』・・・くれぐれもこんな暗いところで腐らせたらアカンで?」


 奇しくも、その別れの言葉は、先ほど立ち去ったあの男と同じものだった―


 再び、暗闇を静寂と沈黙が支配する―

 鬼崎は、男と、兎の去った暗がりにただただ目を凝らし、閻ニャーはその様子のただならさを察し、
声をかけられなかったため―

「・・・鬼崎どの。」

 ミキが、口を開いた。

274 :プロローグ28:2014/02/03(月) 15:36:52.67 ID:6fj57m52
「ん・・・・、ああ、悪りい。 なんかボーッとしちまってたな。」

 ミキの呼びかけに込められた気づかいに我に還った鬼崎は、それを打ち消すかのように、無理に
笑い、答える。
 ミキも、閻も、アキナイ兎が去り際に口にした『おかん』という言葉が気になってはいたが、それが
決して軽々しく聞いてはならないことだということは容易に察せられたため、鬼崎のぎこちない笑いにやはり
ぎこちなく笑って、応じる。

「で―、 どうすんだ?」

 そして、己のことを問われるその出鼻をくじくかのように、鬼崎は、閻ニャーに、問いかけた。

「どうするって―?」

 そんな強引な話題の転換には付いて来れず、訊き返してくるので―

「『日本鬼子』だよ。 あの野郎といい、さっきのおっさんの様子といい、これはどう考えても普通じゃ
ねえ。 多分、この『仕事』は俺にとっても・・・アイツにとっても・・・かなり厄介なことになること
だけは間違いない。

 ・・・・・・・・けど、俺は、やるぜ?

 お前はどうする?
 俺を止めるか? アイツのために?」


 そう言うと、鬼崎は、また少し、腕をまくる―
 この閻、という少女は海千山千の鬼崎にとっても容易な相手ではない。潰せるものなら、早々に潰して
おかねばならない。たとえ、それが命を奪う結果になるとしても―
 黒丑ミキがどう動くかは測りかねたが、彼女が情で動き、閻につくことも考えられる以上、殺る気で行か
ねば殺られるのがこちら側であることは明白だったのだ― が―


「止めないよ。」

 閻ニャーは、そう、あっさりと答えた。

「!?」

 拍子抜けして言葉の出ない鬼崎に、閻ニャーは、続けた。

「・・・・『炭ヶ島』というトコロが何なのか・・・、鬼子ちゃんがそこでどうなるのか・・・
閻には分からないけど・・・・たぶん、どんなに怖いことが待っていたとしても、それは、鬼子
ちゃんに必要なこと・・・鬼子ちゃんが乗り越えないといけないことなんだ・・・・

・・・閻はそう思うの。」


 その様子は、食べたいと思った時に好きなものを食べ、眠くなったら眠ってしまう・・・普段の
その娘からは考えられない思慮に満ちたものだった。

275 :プロローグ29:2014/02/03(月) 15:56:27.01 ID:6fj57m52
「けど、お前、さっきは・・・・」

 にわかには信じられず、鬼崎が訊き返すが・・・

「閻、『あの人』を知ってるような気がするんだ。」


「「!!?」」


 それにはミキも驚き・・・

「閻どの、それは一体・・・・・、 いつ、どこで、あのような者と出あった、と・・・?」

 その疑問は、先ほどの男の正体が天魔党の諜報でさえ掴めぬ存在であることを暗に示していたが・・・


「いつだったか・・・、 どこだったかは・・・、 分からないけど・・・閻はあの人を・・・知ってる・・・。
うん。 知ってるよ。」


 二度目の『知ってる』はいく分かの確信が込もっていた。
 ふと、思い当たり、鬼崎が訊く。

「ひょっとして・・・、それは、お前の『実家』とかでか?」

 閻の『実家』とは、輪廻する魂のおもむく、今いる人の世界とは異なる五つの異世界のひとつ―
獄座、とも呼ばれる―

 いわゆる『地獄』のことだ。

 嘘か真かは判らねど、その少女はその世界の主、『閻魔』の娘であることを普段から自称していたのだが―


「分からない。」

 ふるふると、閻ニャーは首を振り、しかし、それを否定も、肯定もしなかった―

「パパやママのいる所で― 会ったかもしれないし、『ここ』で会ったりしたかも
しれないけど・・・・たぶん、閻はその、会ったときに、『それ』が『あの人』だった、
ということが・・・解らなかったんだと・・・思う。」

「「??」」

 閻ニャーの言葉には、何かを偽る様子はまったくなく、正直な言葉をつむいでいることは知れた、が―

 謎はますます深まるばかりだった・・・・

276 :プロローグ30:2014/02/03(月) 16:16:25.25 ID:6fj57m52
 少女は続ける―

「閻はきっと・・・『あの人』の、『名前』を知らないんだと思うの―」

 ????

「・・・名前、なら、俺だって知らない。 そもそもあの野郎は名も告げずに帰っていきやがった
じゃねえか。」

 名を隠していたのはお互いさまだったが・・・

「違うの。」

 閻ニャーはまた首を振り否定し・・・


「閻の『閻』、とかミキの『ミキ』とかいう名前じゃなくて・・・・・えっと・・・・・

 あ、そうだ!!!

 鬼子ちゃんの『鬼』とか、匠(たくみ)の『人間』とかみたいな『名前』が判らないんだ!!
きっとそうだよ!!」


 ?????


 少女は確信を以ってそう言い放ったが、鬼崎とミキは逆に困惑を深めるばかりだった。

「あの野郎は・・・・・・・『人間』だろ? 奴自身でもそう言っていたが・・・・それが、嘘だった・・・と?」

 それならそれで、いろいろと納得もするが・・・

「『人間』だよ? でも、嘘はついてないと思う。」

 やはり、閻ニャーの答えは理解できない。

「じゃあ、『人間』であって他の何かでもある・・・・『鬼人』とかみたいなもんか・・・?」

 その『鬼人』のカテゴライズにうは厳密に言って、先ほど名の挙がった『日本鬼子』やここにいる
黒丑ミキ、さらには鬼崎自身も入るのだったが―

「違うと思う。」

 閻ニャーはそれもあっさり否定した。

「それならなんだってんだよ!!」

 心ならず、鬼崎は声を荒げてしまう。
 まったく要領を得ない。

「だって、閻は知ってても名前が判らないんだもん!!!」

 閻もまた、それに応じて声を上げてしまい―

「お・・・お二人とも落ち着かれよ・・・・」

 ミキが仲裁に入る。

277 :プロローグ31:2014/02/03(月) 16:37:12.43 ID:6fj57m52
「閻どの・・・それでは、その『名前』を知っていそうな者に教えて貰えばよいのではないかな?
・・・たとえばその・・・ 閻どののお父上、とか・・・?」

 宥めるように助言すると、それに閻は―

「パパなら― 知ってると思うな。」

 そうすんなり答えた。

 とりあえず、ほかの二人も安堵した。
 どうやら、解けない謎、というわけでもないらしい。

「しかしよ― 今すぐに、その親父さんのところにそれを聞きに行けるってわけでもないだろ?」

 そう― あの男の正体は気になるところではあるが、優先せねばならぬことは他にある。なにがなんでも
知らねばならない、ということでもない。


「『お前』は心当たりないのかよ―?
 化鬼猫大主。」

 だから―鬼崎は『あの男』が現れて以降、ずっと沈黙を守っていた・・・閻ニャーの『保護者』に
話を振ったのだが・・・


「すまないが、それについては控えさせてくれ。」

「「「???」」」

 フード付きパーカーの姿をした大化け猫の答えもまた、謎めいたものだった―


「そいつは― 『知っているけど、答えたくない』― と、そういうことか?」

「・・・そう取って貰っても構わない・・・・が、実のところ、俺も確信が持てないんだ。 ・・・いや・・
閻の知りたがってる『名前』に思い当たるところはある・・・・

・・・が・・・
 正直に言おう。

 それが、予想通りの『もの』であることが・・・
・・・・怖いんだ。」


「「「!!!??」」」

 それには、その場にいる三人が同時に息を飲んだ。
 この化鬼猫(ばきねこ)大主は、さきほどのアキナイ兎や・・・日本鬼子の傍に常に付き添い、閻ニャーも
姉貴分として慕う般ニャーという年古りた猫又同様か・・・それ以上の時を経てきた大妖だ。

 それが、その名を口にするのもはばかる存在とは・・・

278 :プロローグ32:2014/02/03(月) 16:52:32.44 ID:6fj57m52
「それは・・・ それだけの・・・『化け物』や、『妖怪悪鬼』ということでござるか・・・・?」

 知らず、声をひそめてミキが問う、が、

「いや、鬼や妖怪・魔性の類(たぐい)ではない。」

 化鬼猫大主は否定する。

「じゃあ・・・ 神とか・・・ 天人とかか?」

 あの『男』や、その置きみやげの『べっぴんさん』に感じた強烈な『光』に思い当たり、続いて
鬼崎が問うが。

「それも違う。」

「それじゃあ、何なのさ、バッキー!!?」

 閻ニャーまでもが苛立たしげに目を力いっぱい上に向けて訊くが・・・

「今は・・・答えられない。」

 黒い化け猫は、己を括る主の問いかけすらをも、頑なに、固辞した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 どうやら、それ以上の問いかけは徒労のようだった。
 またしても、沈黙が続くかに思われたが・・・


「バッキーの馬鹿!!! じゃあもうパパに聞く!!!」


 しかし、どうやら閻ニャーは本気になってしまったようだった。
 腹立たしげに・・・ 男やアキナイ兎の去ったのとは逆方向・・・つまり、もと来た方向へと
歩み去ろうとしていくが―


「日本鬼子はどうするつもりでござる?」


 ピタ・・・


 ミキに背後から冷や水を浴びせられ、はたと立ち止まり・・・

「・・・・・・・・。」

 あまり怒ったりすることの少ない彼女にしては珍しく、恨めしげな目でミキのほうを睨み上げる。

279 :プロローグ33:2014/02/03(月) 17:07:52.06 ID:6fj57m52
 いっぽう、ミキのほうはというと…

「ふっ・・・。」


 顔の下半分を覆う覆面の上からも解るような表情で閻ニャーを見返す。

 その表情とは―  なんというか―    勝ち誇った顔だ―

 あきらかに、ここに現れたときの、最初のやりとりのことを、根に持っている。

 わざとらしくポーズを取り、これまたわざとらしくため息をつくと・・・


「ちょっと頭に血が昇ったくらいで、忘れてしまうとは・・・・
 鬼子も友達甲斐のない友を持ったものでござるな・・・・」

「そんなことないよ!!! 鬼子ちゃんは閻の大事なトモダチだよ!!!!」

 閻ニャーは、あの猫のものにしては禍々しすぎるあの尾をふるふる震わせて喰ってかかる・・・が―

「ほほう。 では、日本鬼子の好きな食べ物を知っておるか?」

 ミキは、妙に落ち着いた声で問いかける。

「そのくらい知ってるよ!! おにぎりでしょ!!!」

 続けて問う。

「嫌いな物は?」

「いり豆!!!」

「好きな色は?」

「赤!!!」


 ・・・・・・・鬼崎には、 ・・・何となく・・・何となくだが、先の展開が読めた。


「・・・スリーサイズは?」

「スリーサ・・・ え・・・? 何それ?」

「身長は?」

「え? え? ええっと・・ ええっと・・・」

「体重は?」

「え? うーん、と・・・ その・・・」


 やはり・・・・・・・

 今までの疲労感がどっと押し寄せてきたような気がして重くなった頭を、鬼崎が支える。

280 :プロローグ34:2014/02/03(月) 17:31:52.25 ID:6fj57m52
 その間も―

「朝起きて顔を洗うとき、最初に使う手は右手!? 左手!?
 風呂では最初に頭を流す派!? それとも肩を流す派!?
 歯磨きのチューブははじっこからつぶしていくのか? それとも真ん中からつぶしていくのか?
 足の爪を切るとき、新聞紙を広げるのか?? それともティッシュで済ますのか?? ・・・」


(・・・・・・・・・・・・・・)


 いろいろと・・・ いろいろと、突っ込みたくなるような質問が次々と浴びせられ・・・

「え? え?? え?? え???」

 不意打ちだったせいか・・・、 質問の・・・そもそものしょーもなさには考えが及ぶことなく、
馬鹿正直に答えようとして答えられず、閻ニャーは狼狽していた。
 その目には、うっすら涙が浮かび・・・ 化鬼猫大主はというと・・・我関せず、を決め込み、
あさっての方向に目を向けていた。


「小日本(こにぽん)と一緒に風呂に入るのは週に何か・・・」
「ちょ・・・! ちょ・・・!! ちょっと待ってよ!!! ミキティー!!!」

 間断なく浴びせられる質問責めに、さすがに耐えかねたか、閻ニャーが静止の声を上げる。


(まあ、さすがにこんな馬鹿な質問に付き合ってはおれんはな・・・)

 鬼崎はそう思ったが・・・・


「ミキティーは鬼子ちゃんのそんなことをみんな知ってるって言うの!!??」


(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。)

 ・・・完全に、術中だった。


「ふ・・・・・・・。」

 閻ニャーの問い返しに、ミキは勝者の余裕の様子で一息つくと、自分の眼の下にくっきりと刻まれた
寝不足の証の隈を示し・・・・


「知っておるわ!!!! なにせ、不眠不休でちくいち、見ておるのだからな!!!!!!!!!!!」

 きっぱりはっきりと、言い放つ。

「いや・・・、 いろいろと駄目だろ。 それは・・・・・・」


「友のその程度の些事(さじ)も知らずして・・・・!!!」

 鬼崎の突っ込みは、しかし、閻ニャーにビシリ!と人差し指を突きつけたミキの、続いて発せられた
声にかき消される。

281 :プロローグ35:2014/02/03(月) 17:57:05.15 ID:6fj57m52
「己を『友』と称するなど片腹痛いわ!!!
 恥を知れ!!! 恥を!!!!!」

   「あのな・・・それをお前が言ったら駄目だろ・・・、 お前が言ったら・・・」


 鬼崎は、もしその体の肉付きが良ければ『痴女』と呼ばれてもおかしくないそのコスチュームを
見ながら再度、突っ込むが・・・


「う・・・ う・・・・ う・・・・・・。」


 すでに両目に大粒の涙を溜めた閻ニャーには、どうやら、もう聞こえてはいないようだった。

 そのまま―


「うわああああーーーーーーん!!!!!
 ミキティの馬鹿あああああーーーーーーーー!!!!!!!!!!」


 大泣きしながら、少女はもと来た暗がりへと走り去っていった―

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 少女の去った暗がりを、鬼崎は気まずく見つめていたが・・・


「ふ・・・ 意趣返し、果たせり・・・。」

 ミキのほうは、満足気に、呟く。

「お前な・・・・、 実質の12才児相手に『意趣返し』って・・・・」

 だが勝利の余韻に浸るくのいちにそんな抗議はまったく聞こえてはいないらしかった。


「・・・けど・・・まあ・・・・・」

「?」

 ただ、ふと気付くことがあり、鬼崎が話を換えようとしているのを感じ、ミキは振り返る。

「これであいつもまっすぐ鬼子のとこに行くだろうし・・・
 あいつや・・・鬼子にとっては・・・・ 得体の知れない奴の正体探しなんぞにかかずらうよりは
このほうが良かったのかもしれねえな。」


「・・・・気付いて、ござったか―」

 ミキの表情が・・・・ 忍びのそれに、戻る。

「どういうつもりだ? アイツらと対立する『天魔党』の忍びとしちゃ、わざわざそんなことをしてやる義理もねえ
だろうに?」

「命じられているのは、監視のみでござるし、その対象も日本鬼子のみでござる。 それ以外の裁量範囲で拙者の起こした
気まぐれをいちいち咎めるほど、我が主、ヌエ様は狭量な方でもござらぬ。」

「ふーん…、アイツが、な……。」

282 :創る名無しに見る名無し:2014/02/03(月) 22:56:18.19 ID:byxmwAuS
今日の投下も乙です〜
続きが待ち遠しいですな。
8レス制限がもどかしい。
てか、ミキティ大人気ないw

283 :創る名無しに見る名無し:2014/02/04(火) 16:13:34.09 ID:dGef1CMq
現在、スレ容量は422KB……ほぼ500KBになると書き込みできなくなり、
その状態で一日経過するとスレは落ちるのでご注意な。

284 :時丸 ◆4GrPAaJY52 :2014/02/04(火) 18:53:57.98 ID:64fo5OAk
>「うわああああーーーーーーん!!!!!
 ミキティの馬鹿あああああーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

ってこういう事ですね?
http://ux.getuploader.com/oniko4/download/753/ijimeru-01.JPG

285 :品陀 ◆TOrxgAA4co :2014/02/04(火) 21:42:20.42 ID:TiZ/Wuhl
>>283
あ、ありがとうございます。気を付けます。
もう3分の2以上は終わってるはずなのでなんとか収まるとは思うんですが・・・

>>284
どうもありがとうございますww
しかし、こwのwかwおwはwwwww
ミキティ、あまり調子ぶっこいてると後で・・・・・w、といかんいかんw。

>>282
どうもペースも安定しなくてすみません・・・
今日は仕事が遅くなりまして、2〜3レスくらいしか無理っぽいですが・・・
ちょっとでも進めときますね。
以下、続きです。

286 :プロローグ36:2014/02/04(火) 22:19:32.98 ID:TiZ/Wuhl
 ヌエ、という名の天魔党幹部にして、この黒丑ミキの上忍たる鬼人には何度か遠目に会ったことが
ある。冷酷そうな面構えなのはお互い様だが、それ以外の・・・なにか深い深いところでいけ好かない
ものを感じるところが、鬼崎にはあり、むこうもおそらくはそうだろうこともまた、思われたのだが、
その意外な一面をうかがわせるミキの言葉にもまた、嘘があるとも思えなかった。


「いや・・・・・・、最初に閻どのに言ったことではござるが・・・・・、ヌエさまは・・・・狭量で
ない、どころなどではござらぬ。
 ・・・本当に、本当に、優しいお方でござる・・・・。
 あの方がおらねば、拙者は・・・、拙者は・・・・」


 鬼崎は、ミキの様子の変化に気付いた。
 いつも何かに目を凝らし、目の下の隈をいっそう深くするその目力が緩み・・・その焦点も
合ってない。
 どこか、遠くを見る目をしている。

 そのただならぬ様子に・・・
 ふと・・・先ほどのあの男との会話と・・・なにより、己の境涯を重ね・・・・


「アイツに・・・ 拾われたのか・・・・? 『牛鬼』の身で・・・・?」


 気付けば・・・言ってはならない『禁句』を口にしてしまっていた。


 キッ!!!


 後悔するよりも早く、ミキが睨み上げており―
 鬼崎は怒鳴りつけられることも覚悟した・・・が・・・―

「ああ・・・・ そうでござる・・・・。」


 ミキは寂しく・・・寂しく笑い、小さくそう答えた―

 そして、まるで、一人そこにたたずみ、そこに鬼崎がいるのを忘れたかのように、つぶやく。


「あの・・・『あやめ沼』は・・・、 何だったのでござろう・・・・・。」

「『あやめ沼』・・・?」

 ふと・・・不可思議なことを言い出したミキの、その言葉を問うが・・・・

287 :プロローグ37:2014/02/04(火) 22:53:44.78 ID:TiZ/Wuhl
「拙者は・・・ そうだ・・・ 確かに・・・ あそこで、ただ遊んでいた・・・ ただ、遊んでいた
のだ・・・・、 気付けば、空が昏くなって・・・ それで・・・ それで・・・・」

 ミキには鬼崎の言葉は全く届いてはおらず・・・・
 ただ一人、ブツブツと虚空に向かってつぶやき続けるだけだった・・・・


「あの娘は・・・ 確かに、人の子だった・・・・ 拙者は・・・ ・・それを見ていた・・・
・・ずっと、見ていた・・・・ ただ、見ていた・・・・。 しかし、ただ見ていただけなのなら・・・
どうして『遊べた』というのだ・・・? 拙者が・・・あの娘と遊んだ・・・というのか・・・?
いや・・・拙者はたしかにあのとき、一人だった・・・。
 夜のとばりが降り・・・ 闇が晴れて・・・
 そして― 気付いたときには―
 ヌエさまがおられて・・・ なにか・・・ 哀しむように拙者を見ながら、拙者に手を差し伸べておられて・・・
そして・・・ 拙者は・・・、 拙者は気付けば、牛鬼で・・・!!!
 拙者は・・・!! 拙者は・・・・!!!!」


 ミキは、いつしか、頭を抱え・・・ なかば狂乱状態になりつつ、苦しげに言葉を
つむぎ出していた・・・

「おい!! 黒丑!! 黒丑ミキ!!! しっかりしろ!!!!」

 知らず、鬼崎も声を上げてこことは違うところに行ってしまった少女の心を呼び戻そうとし―
ついで、そんな自分に驚いた。

 彼女がそうなってしまった引き金が、先ほどあの『男』に突きつけられ、今、鬼崎が不用意に発して
しまった『牛鬼』という単語であることは間違いなかった。


牛鬼― その姿を自由自在に換え、人を喰らうという、海に住まう大悪鬼―


 あの男も言ったとおり、「それ」はこの黒丑ミキの属する天魔党の元になった、
戦国時代の国・・・・天里国(あまさとのくに)を滅ぼした存在だ―
 このようにナリは小振りといえど― そんな忌まわしい存在が、そこに在るということが、どういうこと
なのか―

 あの、ヌエ、という・・・どこか、同族嫌悪にも似たいけ好かなさをもよおさせる、青年の姿をした鬼人が思い浮かぶ。
 たしか、そのヌエ、は天魔党にあっては新参者で、
 にも関わらず、実力だけで、天魔党最高幹部、天魔党四天王の一角にまで昇りつめた成り上がり者でもあった筈だったが・・・

(・・・・・ヌエ、お前・・・・・)

 先ほど、ミキが『優しい方』と言ったことに、鬼崎は、合点がいった。

(かばっているのか・・・・・? コイツを・・・・。)


 それしか、考えられない。

288 :プロローグ38:2014/02/04(火) 23:13:07.85 ID:TiZ/Wuhl
 ひょっとしたら、「日本鬼子の監視」という名目で本部から遠ざけられていることもまた・・・
その少女を守るための措置なのかもしれない。

 この小さな少女は、おそらく、天魔党本部にあっては・・・ 想像もつかないような差別や迫害を陰に陽に周囲
から受け、彼女もまた、『牛鬼』である己が身の宿命と、それを受け入れているのだろう。

 鬼崎には、この少女が関係ないはずの閻ニャーの身を案じ、のみならず、他ならぬ、己自身までもが、その身を先ほど、
案じてしまった理由をぼんやり、理解した。


(お前も― はぐれ者、なのか―)


 自分のように―、 そして、あるいは、先ほど『鬼子の友じゃない。』という言葉に、珍しくムキに
なってしまった、閻ニャーのように―


 黒丑ミキは― 変わらず、虚空に、焦点の合わない視線を向けブツブツと一人、つぶやいていた―

 放っておけばいつまで彼女はそうしているのだろう―

 そもそもそれは、鬼崎には関係のないことだ。
 そのまま彼女をこの暗がりに置き去って、立ち去ることも出来たはずだった―


「・・・・・・・・・・。」


 しかし、鬼崎は、そこを動けなかった―

(ええか!! 商いはな『関係』が全てや!!!!)

 あのお節介な師の言葉が聞こえたような気がしたが、

 その次の瞬間、鬼崎の頭に思い浮かんだのは―・・・
 鬼崎も、まったく、思いもかけない、
意外な意外なモノ―・・・


 否―・・・



(乳〔ちち〕の話をしようじゃないか―?)





 ナマモノだった・・・・・―

289 :プロローグ39:2014/02/05(水) 21:26:27.97 ID:XN2OJbVF
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。)


 そう言い放った、ニワトリのような影が去ったかと思うと―

(ちっぱいは正義!!!)

 小鳥の影がぱたぱたと飛んで行き―

(否。 貧乳は罪。)

 重量感ある七面鳥がのしのし通りすぎ・・・

(パンツをよこ・・・)
(手の冷たい鬼の心は―・・・)


 生臭い足の生えた魚と―… 頭にチョンマゲを結わえたトノサマガエルが通りかかったところで―


 ゲシッ!!! ゲシッ!!!


 心の中で、踏みつけ、黙らせる。

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。)

 とりあえず、哀しい哀しい男の性(さが)を黙って噛みしめ、こらえる。
 どうやら、『日本鬼子』とのいさかいで、何度か関わるうちに、知らず知らず、自分も毒されて
いたらしい。
 もっとも、「心の鬼」である連中はというと、「心の鬼」を売買する自分などは、人間が人身売買者
に対しそうするように、蛇蝎のごとく嫌悪しているはずなのだが・・・


(ほかに・・・・ 手もなさそうだしなあ・・・・)


 完全に、違う世界に行ってしまい、ボンヤリと、ブツブツつぶやくだけのミキを、小突いたり、
つねったり、揺り動かしたり、目の前で手をふったりしながら、鬼崎は小さく嘆息する。


「・・・・・・・・・・・・・・・・。」


 そして、一息ついて、身構え、意を決し・・・・・・



「許せ・・・・!!!! 黒丑・・・・・・!!!!!」


 一気に、その胸を、もみしだく―!!!!!




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」


 変化は、まず、寝不足の隈がばっちり食い込んだ目に起きた。

290 :プロローグ40:2014/02/05(水) 21:53:32.48 ID:XN2OJbVF
「・・・・・・・・・・・???」

 少しずつ・・・ 少しずつ・・・ その焦点が合い・・・・

 ゆっくり・・・ ゆっくり・・・ 下に・・・・ すなわち、自分の前でしゃがみこんでいる
鬼崎の、その手のほうへと向き・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 やがて、ぴたり、とその手の先に照準が合わさり・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

 続いて、この世のものとは思えない・・・なんとも気まずい表情をした鬼崎と目が合う。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


 沈黙―

 そして、何が起こるか、はあまりにもあまりにも明白だったものの、両手はふさがっている為、鬼崎が心で
耳を塞ぎ、目をつぶると―


「きゃあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」



 案の定の絶叫が響き渡り―


「ごふっ!!!!!」

 続いて放たれたミキの強烈な蹴りが、みぞおちにみごとなまでにめり込み、鬼崎はもんどりうって倒れ
転がり、数秒ほど、呼吸もままならない地獄の苦しみを味わった―


「なななななななななななんというハレンチなことをするでござるか!!!!!???
鬼崎どのおおおおおおおお!!!!!!!!」


「おー・・・、 戻ってきた戻ってきたなー・・・。」

 鬼崎は、しばらく立つことすらもままならなかったのだが・・・妙に安堵した様子で顔を真っ赤にしたミキを
見上げた。


 あとは―


「・・・・・・・・許さぬ・・・。」

 完全に頭に血が昇り、こちらに殺気に満ちたまなざしを向けながら身構えるミキを慎重に
観察しつつ、鬼崎は身を起こす。


(もう一押し・・・かな?)

 ミキは、逆上のあまり、その武器に手をかけようとしている―

291 :プロローグ41:2014/02/05(水) 22:25:06.97 ID:XN2OJbVF
(さて― 生盗線鋼〔はえとりせんこう〕―とか使われたらシャレにならんからな―)


 『生盗線鋼』―とは、黒丑ミキがもっとも得意とする武器である。その形状は鞭で、打たれた者の命を
吸い取る力があり、何でもその操鞭術を仕込んだのは似たような・・・というより、完全に上位互換の
『干餓鬼(ほしがき)』という鎖鎌を使う彼女の上忍・ヌエだそうで、その師と組んでの連携殺法は天魔党
最強の戦士・黒金蟲すらも恐れるという。


 もっとも― 肝心の当人はその強さを、まったく自覚していない、というところにこの黒丑ミキという少女
のズッコケくのいち、と呼ばれるゆえんがあるわけであり―


「ほほう。」

 それを知る鬼崎は、つとめて冷静に、余裕を持ってミキに対峙する。

「『許さぬ』とは― 何を、だ?」

「たばかる気か!!! 今・・・、 拙者の・・・ 拙者の胸を、も…も…も…」

 そこで、顔を伏せる。
 どうやら、その先を言うのが恥ずかしすぎて、口に出せないらしい。

「『もんだ』・・・とかか?」

 そういう反応を楽しむプレイもあるのは知ってはいたのだが、そんなことが目的ではなかったので、
すぐさま助け舟を出す。

「そう!! そうでござる!!! よくも・・・!! よくも拙者の胸を・・・・!!!!」


 羞恥心で少し我に還りかけているのが見てとれはしたが、これはよろしくない。
 少しでも怒りの中に冷静さが残っていると、本人は自覚していない最強武器・生盗線鋼で暴れられ、
冗談抜きで、こちらの命も危うくなってくるので・・・

 この娘をいったん怒らせた以上は、とことん怒らせなければならない。

 だから、鬼崎は・・・


「ふ・・・」

 まず、虫けらでも見下すような目つきでわざとらしい嘆息をしてのけ―

「あのな、黒丑・・・」

 小馬鹿にする、とか、上から目線、とかどころではなく、常識を知らない子供に大人がそれを
教えてでもやるかのような口ぶりで―

292 :プロローグ42:2014/02/05(水) 22:42:03.94 ID:XN2OJbVF
「『胸をもんだ』ってお前な・・・」


 そこで腕組みし、心底呆れた、という様子でわざとらしく首を振って見せ、大きく
ため息までつき・・・・


「『無い』ものをもんだって、『もんだ』ことにはならないんだぞ?」


 トドメを、冷たく、言い放つ。
 さも、言いにくい真実を言ってやった、という具合に、とびきりに、思い切りに、恩着せ
がましく。


(さーて・・・、 押し切れたか・・・?)

 実のところ、鬼崎にしても心中穏やかではない。しつこいようだが、「冷静に怒った」黒丑ミキは普段のズッコケ
ぶりからは考えられないような、恐るべき手練れだ。
 ここで鞭を手にされたら、こちらも本気で命の心配をしなくてはならなくなる。

 が―


「許さぬ・・・ 許さぬぞ・・・・」


 阿修羅の形相をしたミキがそう言って手にした得物は、
 しかし、忍びの得意とする投擲武器・手裏剣の一種、苦無(くない)だった。
 ミキが忍者であることをかんがみれば、そうおかしくはない選択であり、刃物である
以上、鞭よりも殺傷力は高く、それもまた恐ろしい武器には違いないはずだったが―


(よし!!! やはり、マジギレしてたか!!!!)


 鬼崎は内心でもろ手を上げ、安堵した。

293 :プロローグ43:2014/02/05(水) 23:06:22.59 ID:XN2OJbVF
 ダッ!!!!!


 間髪入れず、ミキは地をはね・・・・


「死いいいいいいねええええええええええ!!!!!!!!!」


 やはり阿修羅の形相で・・・無数の、おそらくは、持っているありったけの苦無を鬼崎に
向かって・・・目にも止まらぬ手さばきで、投げつける!!

 無数の刃が閃き迫り・・・ はた目に見れば、明らかに絶体絶命、万事休すの状況だった・・・
が・・・・


 鬼崎は、その場を一歩も動かず、身じろぎひとつもしなかった。


 そして―

トトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトト!!!!!!!!!!


 まるで、夏の通り雨が地面を激しく叩くような音がし―


 タッ!!

 これは、ミキの着地の音だろう。
 その音を境に、本日、何度目かもわからない静寂が、荒れ果てた地下駐車場に満ちる―


 しかし―


「・・・・・なあ、 黒丑・・・」

 鬼崎の、静かな声が、こだまする―
 その体には、かすり傷ひとつもない。

 そして、鬼崎はゆっくりと、振り返り―地面を、見下ろす―

 そこには、地下駐車場の切れかかった裸電灯が投げかける光により、鬼崎の影がくっきりと
映し出されていたのだが・・・・


「・・・俺のさるツテで、ナイフ投げの名人を探してるサーカス団を知ってるんだけどな・・・」

 その声には、先ほどのような、誇張やまやかしは一切なく、それどころか、ミキに対して、本気の
賞賛をもって提案するニュアンスが込もっていた。

294 :プロローグ44:2014/02/05(水) 23:36:42.80 ID:XN2OJbVF
「マジな話、 そこでナイフ投げやってみる気は無えか?
 こんだけ『精密に的を外す』芸当のできる奴なんざ、世界中探したって、お前以外にゃまず
いないと思うぞ・・・?」


 鬼崎が視線を落とした先―つまり、鬼崎の影には、ちょうど、その輪郭を縫うようにして、先ほど
ミキが投げつけた苦無が、びっしりと刺さっていた。

 全てが、薄明かりに浮かび上がった鬼崎の影の際(きわ)に・・・それも、規則正しく一分の乱れ
も無い等間隔で突き刺さっている。

 それはつまり、投げつけたすべてが鬼崎の体を奇跡的な紙一重でそれていった、ということを意味
していた。

 集中すれば集中するほど、紙一重で的を外す・・・・

 黒丑ミキとは、そういうくのいちだったのだ。


「いや、角が生えてることなんざ気にしなくていい!! なんせサーカスだ。
 そういう衣装ってことでいくらでも誤魔化しは効くし、お前の容姿だ。 的(まと)役に
可愛い相棒とか用意すりゃ絶対に人気者になるから、客も大入りで大儲けは間違いない!!!
 まあ・・・天魔党の方は気にすんな!!! ヌエの奴には俺から話を通しとくから、ここは
ひとつだな・・・・」


 以前から知ってはいたものの、改めて驚異的な『神業』を目の当たりにさせられ、知らず知らず
のうちに鬼崎は師匠ゆずりの商魂に衝き動かされていた。
 気付けば『本業』も忘れ、いささかの興奮と共に本気で少女をスカウトしにかかってしまって
いたのだが・・・・


「う・・ うう・・・ ううう・・・・」


 ミキは、目に大きく涙を溜め、肩を震わせていた。

(・・・・しまった!!!)

 気付いた時には、もう遅い。
 先ほどの閻ニャーの去りようが、頭をよぎる。

 どうやら、身の安全が保たれた安堵に油断し、少女を不必要に傷つけてしまっていたようだった。
 それも、深く、深く。
 悪気も無かったのだから、なお、タチが悪い。


「うわああああーーーーーーーーーーん!!!!!
 鬼崎の馬鹿ああああああーーーーーーーー!!!!!
 阿呆おおおおおおおーーーーーーーーーー!!!!!!
 おたんこなすうううううーーーーーーーーー!!!!!!
 ヌエさまに言いつけてやるでござるううううーーーー!!!!!!!!」


 既視間を催させるが・・・さらにいく分のバージョンアップをした叫びを上げつつミキもまた
大泣きしながら走り去っていき―

 そして―

 鬼崎だけが、来たとき同様、暗闇に取り残された。

295 :創る名無しに見る名無し:2014/02/06(木) 01:02:07.44 ID:blTqKeeb
ミキティwwどんだけ美味しい(いじりがいのある)キャラになってるんだwww

品陀さんのSSを呼んでいると、お釈迦さまの手の中で転がされているような気がするなあ。
それもとびきり大きな海の中で、ざぶーんざぶーんと揺れては戻るような。
思いもよらないところまで行っては帰り、のリズムが心地良いです。

296 :品陀 ◆TOrxgAA4co :2014/02/06(木) 16:08:44.93 ID:gsLUeWYB
>>295
あ、ご感想どうもありがとうございます。


 しかし、いくらキャラが良かったとはいえ、ちょっと人様のキャラクターで遊びすぎた感
もあって、ちょっと時丸さんとオキノさんには申し訳ないのですが・・・^^;


 さて、鬼崎以外の主要キャラがみんな退場し、この物語もいよいよ大詰めです。
次の次には終われることと思います。

297 :プロローグ45:2014/02/06(木) 16:27:12.51 ID:gsLUeWYB
 さすがに、立て続けにいたいけな少女の泣き去るところを見せ付けられては、気まずすぎて
身動きひとつ出来はしない。

 とりあえず、ポケットをまさぐる―
 吸いかけて消し、溜め込んでいたシケモクが何本かあったので一本取り出し、よく伸ばして火
を灯ける―


「ふー・・・・。」


 その心の鬼の身体をも焼く呪炎を発する火には、鬼の昂揚を鎮める効果もあり、鬼崎は
一息つく。

 得体の知れない男との商談に始まり、師匠の乱入にかしましい娘たちとのやりとり―
と、本当に目まぐるしい時間だった。

 周囲の闇は最初と変わらず、ぽつん、と無雑作に置かれた、あの男の遺したスーツケースと、
手もとのクリアファイルがなければ、今までの一連の出来事がまるで夢ででもあったかのように
思えてくる。

「・・・・・・・・・。」

 鬼崎は、少し離れたところに置いてあるスーツケースに歩み寄ろうとして・・・


「!?」

 異変に気付く。

 足が、動かない。


「???」

 上半身は動くので、きょろきょろと周囲を見回し・・・


「!」

 さきほど、黒丑ミキに縫いつけられた、自分の影、にその変化を認めた。

 見ると・・・

 輪郭をびっしりと縫い付けた苦無の一本がその位置を変え、己の影の膝の部分―
 ちょうど、今、動かすことが出来なくなっている箇所に、刺さっていた―

『影縫い』―

 ミキやその上忍、ヌエのような忍者の鬼・妖怪はもとより、霊力のある古(いにしえ)の忍者も得意
とした、影を縫いつけてその本体も縛る術だ―

298 :プロローグ46:2014/02/06(木) 16:53:56.77 ID:gsLUeWYB
 ただ、その苦無の持ち主である黒丑ミキがその術を使うところは、鬼崎の知る限りでは、見たことが
ないし、そもそもその苦無はそんな所には刺さってはいなかったはずなのだが・・・


―その術を使え、そんなことをする者にひとつ、思い当たるところがあり、鬼崎は口を開いた。



「・・・・・何だ、来てたのかよ・・・・・・・・・

 ・・・・・母さん。」



 その― 鬼崎の呼びかけに応えるかのように、突如として、影から白い手が生え出し、「膝」に
刺さっていた苦無を、引き抜く。

 それで、鬼崎の足には自由が戻ったのだが、鬼崎はそのまま立ち尽くして『それ』が現れるのを待った。

 影から長い銀髪に覆われた頭が、肩が、胸が、腹が現れ出・・・
 ほどなく、そこには銀髪に着物姿の女性の全身が現れていた。

 その額の両脇からは、二本の角が伸び、その眉間には一筋の傷跡が走っている。


「……―奈霧(なぎり)。」


 鬼女は、鬼崎にそう呼びかけ、鬼崎は、顔を強張らせる。
 それが・・・ それこそが、鬼崎を拾ったその鬼女が鬼崎につけてくれた最初の名、そして、
本当の名だったのだが、鬼崎はそう呼ばれるのが嫌だった。

 名前が嫌い、というのではなく、そう呼ばれなければならない、この鬼女・・・ 母との時間
が嫌い、というほうが正確なのかもしれない。

「ん・・・、 ああ、見ろよ母さん。 手付け金だが、凄い金だぜ?
 これでとりあえず、仕事前の景気付けでも・・・」

「『指』を見せて。」

 なるべく明るく振る舞おうとした鬼崎― 奈霧の言葉を、しかし、鬼女は無残にさえぎる。

「・・・・・・・・・・・。」

 なかば、諦めがちの面持ちで、鬼崎はその鬼女の望む『モノ』を見せる。

 鬼女もまた、出された鬼崎の指を食い入るように見―

「・・・・・・・流陰鬼(るいんき)、ね。」

 ここに来たとき、鬼崎がその『腕』に飲み込んだ、あの心の鬼の名を口にした。

299 :プロローグ47:2014/02/06(木) 17:23:14.09 ID:gsLUeWYB
(グアアアア・・・・・)

 鬼崎が鬼女に見せた指はなかば透け・・・その中であの、飲み込まれた流陰鬼が、もがいていた―
 まるで、地獄に囚われた亡者のごとくに―

 鬼女は、しばらく、それを見つめていたが、

 唐突に―


「あ、ちょっと待っ・・・―」

 ブチッッッ!!!!


 その鬼の閉じ込められた鬼崎の指を、むしりちぎった―

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・。」

 鬼崎が指を押さえ、声にならない声を出すのを尻目に、鬼女はそのちぎった指を懐に入れ、そして、
着物の袖の中から・・・何かのつまった布袋を取り出し・・・


「『鬼土』よ。 補充なさい。」

 淡々と、鬼崎に手渡す。

「・・・・・・・・・・・・・・。」

 鬼崎はそれを黙って受け取り、その口を開け、ちぎられた指のあった付け根を入れ、
中につまった土に、付ける。
 しばらくして、鬼崎が指を引き抜くと、ちぎられた指は元に戻っており、袋の方は、
からになっていた。


「・・・そんな雑魚鬼に使い道なんてあるのかよ?
 売りさばいた方が、まだしもなんじゃねえの?」

 今のように、この『母』の前ではそうそう落ち着いていられるものではなく、それでも、
鬼崎はなるべく軽口になるよう、そう問うのだが・・・

「・・・それは、私が決める。」

 『母』の答えはにべもない。


「・・・・・・・・・・・・。」

 鬼崎はしばらく黙っていたが・・・・

「なあ、母さん。 一体いつから俺の影に潜んで見てたんだ?」

 とりあえずの、一番の疑問をぶつける。 すると・・・


「・・・最初から見てたわ。 『あの男』は、私にも気付いていた。」

 特段の感情も込めず、鬼女はそう答えた。

300 :プロローグ48:2014/02/06(木) 17:41:22.60 ID:gsLUeWYB
「!!?」

 鬼崎は息を飲む。
 あの男はこの目の前の己が母―


月本 夜叉子(つきもと やしゃこ)―


 ―を、 明らかに知っており、去り際に『彼女』と呼んで去っていったが―

 まさか、自分も今の今まで気付かなかった夜叉子の存在を看破した上でそう告げていたとは・・・


「・・・・なあ、母さん― アンタには、アイツが― アレが― 何なのか、判るんじゃないか―?」

 そう― 夜叉子は、口をつぐんだあの化鬼猫大主と比べても遜色のない齢を重ねる鬼女だ。
 それならば、知っていても―…

「人間なんか私の知ったことではないわ。
 たとえ、それが『抜け出たもの』だとしても―」



 ?

 鬼崎の心は、疑問符に捉われた。


 『抜け出たもの』 ―?


 夜叉子は― 明らかに、知っている。
 閻ニャーが、『名前が解らない』と言ったモノを― 化鬼猫大主が沈黙のうちに隠したものを―

 あの男が近づいた時の― 無重力空間に投げ出されたような感覚を思い出し―


「『抜け出たもの』って― ?」

 夜叉子に問いかけるが―

「お前には関係ない。」

 ミもフタもなく、疑問はさえぎられた。

 そして―

 気がつくと、夜叉子は、床に置かれたあのスーツケースの前に立っていた―

 じっ、 と冷たい目でアキナイ兎が『べっぴんさん』と呼んだ、『信じられないくらい澄んだ金精』のつまった
ケースを見下ろす。


「・・・何だよ、母さん・・・!!」

 その様子になにかただならぬものを感じ、鬼崎は声を発する。

301 :プロローグ49:2014/02/06(木) 18:01:13.85 ID:gsLUeWYB
「あ・・・アイツの話じゃ、この『炭ヶ島』ってとこには心の鬼がすごいわくってんだ・・・!!
 それに・・・ その二百倍の額も使うって大仕事なんだ・・・!!! 母さんが反対したって
・・・・!! 俺はやるぜ・・・・・・!!!!」


 ギンッ!!!


 しかし、夜叉子は、そんな鬼崎の声を一瞥で、黙らせる。

 鬼崎は、知らず、冷や汗をかいていた。
 夜叉子は普段から冷ややかな性格ではあったが、今の眼差しにはあきらかにそれ以上の・・・殺意めいた
ものが、こもっていた。

 鬼崎が黙っていると、夜叉子は再び、ケースにその・・・殺意のこもった眼差しを落とし―


「・・・また・・・・」

 つぶやく・・・

「『また』・・・?」

 鬼崎の訊き返しに応えるわけでもなく、夜叉子は・・・呪詛を吐くように、続ける―


「また・・・・ 私たちを・・・・ 私『たち』を、利用しようというの・・・・・!!!
・・・・人間ども・・・・!!!!!」


 そして、まるで、サッカーボールでも蹴ろうとするように、足を振り上げる―

「!!? ・・・ちょっと待てよ、母さん!!!!」

 鬼崎は、商人の本能に駆られ、とっさに地面へ身を滑り込ませ―


 ガッ!!!!!


 そのまま、スーツケースをかばった背中をしたたかに蹴り飛ばされ・・・

「がはっっっ!!!!」

 十数メートルは、吹き飛ばされる。

(くそ・・・・、 さっきのミキといい・・今日は女によく蹴られる日だぜ・・・)

 そんなことを思いながら、身を挺して守ったスーツケースの無事を確認する。
 鬼の脚力で蹴られたのだ、鬼崎が抱え込んで守らなければ、中身ごと木っ端微塵になっていただろう。

302 :プロローグ50:2014/02/06(木) 18:23:30.58 ID:gsLUeWYB
 商人としての、怒りがこみ上げ、よろよろと立ち上がると、夜叉子を・・・母を、睨みつける。

「どういうつもりだ―? 母さん?」

 夜叉子は、冷たく見返すだけで、答えない。


「俺は―… 『あのまま』だったら、ただ朽ち果ててくとこだったのを拾われ、名までも付けて
貰った母さんの息子― である前に、一人の『商人』でもある―…

 『金』を粗末にするなら、母さんだって、許さないぜ―?」


 夜叉子は答えない。

 と― いうより、 先ほど『息子』を蹴り飛ばしたことさえも、 まったく、気にも
留めていない様子だった―

 苛立ちが、余計につのり―


「答えろよ!!! 母さん!!!! 人間が・・・!!、 人間が、いったい、
どうしたってんだ!!!!!!」


 気付けば・・・ またもや『禁句』を口にしてしまっていた―


 ギロ・・・・


 一瞬、夜叉子が、比喩でなしに、夜叉の形相で睨み返したような気がしたが・・・・

「!!?」


 気付けば・・・ すぐ目の前で、感じたとおりの形相で、夜叉子が鬼崎を睨み上げていた―

 影を『渡った』のだ―


 ガシッッッ!!!


 そのまま、鬼崎の胸ぐらを掴み、片手で軽々と、吊り上げる。

「ぐ・・・ 母・・さん。」

 首を絞り上げられ、苦悶の声を上げるが、夜叉子は意に介さない。


「『人間がどうした?』ですって・・・? ・・・奈霧・・・?」

 言い返したい思いはあったが、完全に気圧され、鬼崎が答えられずにいると・・・

303 :プロローグ51:2014/02/06(木) 18:40:07.94 ID:gsLUeWYB
「私は・・・・・ 私は・・・・・・・」

 夜叉子は、その場にいる『息子』に、ではなく、天地に遍く万象に、
叩きつけるように・・・・


 叫んだ。



「私は・・・・・!!!! 人間に・・!!! 裏切られたのだ!!!!!!!!!」



 びりびりと空気がふるえ、コンクリートの風化して出来た砂が舞い、どこかで何かが崩れる
音がした。
 いや、建物が崩れたとしてもおかしくない振動だった。

「・・・・・・・・・・・・・・。」

 鬼崎は、言葉もなく、母を見下ろす―

 が― やがて―

 ドサッ!!!

 無雑作に、地に落とされる。

「・・・・・・・・・・・・。」

 それでもなお、何も言えずにいると―


「炭ヶ島―・・・」

 夜叉子が、そうつぶやく。 その手には、あの―男から手渡されたクリアファイルが握られていた。

「!!」

 いつのまにやら、奪われていたらしい。

「・・・・なんだよ、母さん、知ってるのかよ?」

「・・・・・・・・・・・・・。」

 やはり、答えはない・・・・と思われたが・・・


「・・・・『こくりむくりの風』・・の吹くところ・・か・・。
 また・・『神風(かみかぜ)』でも吹かさせようというの―? 『あの子』に―・・・?」

 やがて、夜叉子は謎めいたことをつぶやいた。

304 :プロローグ52:2014/02/07(金) 13:35:32.91 ID:m98/X0Gd
「『こくりむくりの風』・・・・?
 『神風(かみかぜ)』・・・?
 『あの子』って・・・ アイツの・・・ 日本鬼子のことか・・・?」

 疑問をぶつけるが、夜叉子はそれには答えず・・・


「!!」

 クリアファイルを投げて寄越し・・・

「勝手にしなさい―…」


 そう言うと、背を向け、立ち去ろうとする。

「お・・・ おい、待てよ母さん!!
 なにか知ってるなら、教えてくれても・・・ 」

 置いてけぼりを喰らったような気がして、鬼崎は母を引き留めようとしたが―


「必要ない。 私も行くから― 」

 返ってきた言葉は、意外なものだった―


「!!??」

 驚愕する鬼崎に―
 しかし、夜叉子はそれ以上、何も言うことはなく―・・・


「鬼子― いい機会かもしれない。 全てを解らせてあげるわ―…… 」


 そんな独り言だけを遺し、闇にかき消えた―

「・・・・・・・・・・・・・――――」

 そして―

 本当の本当に、鬼崎だけが、暗闇にぽつんと、取り残された。

 荒れ果てた地下駐車場に、あるべき静寂が戻り、何ひとつ音を立てるものはない。


 いや―

 ジリジリジリ・・・


 先ほど、鬼崎が火をつけ吹かし、いつのまにか取り落としてしまっていた… あのシケモクが、
一連の喧騒の余韻を告げるかのように、くすぶり、音を立てる。

305 :プロローグ53:2014/02/07(金) 13:55:09.15 ID:m98/X0Gd
―すみがしま―

―そこで、近々大きな『祭』がある―

―お前の一世一代の大仕事になるはずや。しっかり気ィ張って商いするんやで?―

―閻、『あの人』を知ってるような気がするんだ―

―あの・・・『あやめ沼』は・・・、 何だったのでござろう―


 知らず、火に見入ると、立ち去った者たちのそんな声がありありと聞こえてきそうではあったが―


―『人間がどうした?』ですって・・・? ・・・奈霧・・・?―

『己の名』を呼ぶ声が・・・・ 心を、えぐる。



―私は・・・・・!!!! 人間に・・!!! 裏切られたのだ!!!!!!!!! ―――



 ガッッッッ!!!


 その余韻をかき消すように、鬼崎はシケモクを荒っぽく踏みつけ、にじり消した―

 これで、完全に静寂が、訪れる。


「・・・・・・・・・・・。」


 もはや、ここに長居する意味はない。

 鬼崎は、今や、この暗闇にあって、一連の喧騒が夢や幻でないことの唯一の証拠であるスーツケースを
握ると・・・


「炭ヶ島―…… いったい、何があるってんだ? 」


 歩き出す。

306 :プロローグ 終:2014/02/07(金) 14:04:41.34 ID:m98/X0Gd
 コツ コツ コツ コツ … … …


 歩きながらも、 あの男と夜叉子の言ったことが気になり、 反芻し、 つぶやく。


「『祭』・・・ 『こくりむくりの風』・・・ それに、アイツが『神風』を吹かせる・・・って・・?」


 その問いに答えるものはいない。

 答えは、こうして歩き続けないことには見えはしない。
 程なく、鬼崎の靴音も遠ざかり、消え・・・・・・


 もはや誰にも顧みられることのない、荒れ果てた駐車場の暗闇に、元の静寂が
還ってきた―



    プロローグ  ―了―



   『日本鬼子と神風の島』  ―始―

307 :品陀 ◆TOrxgAA4co :2014/02/07(金) 14:26:52.63 ID:m98/X0Gd
 これで、大長編日本鬼子(仮)あらため、

「日本鬼子と神風の島」プロローグは終了となります。

 プロローグだけなのに、54レスもいってしまいましたが、お付き合い下さり、
どうもありがとうございます。

 とりあえず、これで鬼崎は幕間に下がり、次回はいよいよ鬼子さんが主人公の
大長編本編となりますが、まだまだ構想すること、本スレで相談したいことも
たくさんある上、実は神風関連で接点のあるニコニコの漫画、「日本鬼子縁起」
のほうも進めたいので、SSのほうは、これでまたしばしの準備期間とあいなります。

 日本という存在を存立せしめたという『神風』伝承とは? 
 謎の島『炭ヶ島』で鬼子たちを待ち受けるものとは?
 謎の男と夜叉子の因縁とは?


 謎が謎を呼ぶ大河展開に乞うご期待です!!

308 :創る名無しに見る名無し:2014/02/07(金) 21:09:26.96 ID:edYpvY3I
乙でしたぁ〜
これから色々とてんこ盛りでどうなるか気になりますなー
これだけの分量でまだプロローグとはw
これからの展開が楽しみです。

309 :柊鰯:2014/02/08(土) 00:49:36.44 ID:e7PIfdc4
夜叉子と鬼崎の関係をそうきましたか。これから二人はどう絡んで行くのか楽しみです。
どちらも推したいキャラだったので活躍しそうなのは嬉しいにゃぁ。

おみったんも中々おもしろい立ち位置。本当に今後の展開を期待してますョ。

310 :創る名無しに見る名無し:2014/02/08(土) 23:10:05.48 ID:xib7gKJZ
しかし、これでしばらくはまたスレが静かになるなぁ……
手元の完成させたら、投下できそうなのを書かなければ!

311 :創る名無しに見る名無し:2014/03/16(日) 17:02:11.18 ID:QxB9lRfO
              Mヘ,   Mヘ,
             |ri ハ.  |ri ハ
     _ _       |ム_ハ─トムハ、
    (j_)j_)     y',        Y
    7_,ハ      リl__l_;__|  |
   '心,ノハ      レ「i;j  i;j|||
   久くム人     ,八"r─ォソ り 个
   乃L」当さィー──汰.オサ炙ノ人‐ヘ
rヘ  んイ   |l   !トj♂  ト、ヽ_人__
レ'   ,ヘ   |l    ツ├─‐K ソ;\ヽ、 ̄
 く了 し,)   |l    | 大只‐ハ,ケ  ヽ、⌒ァ
   人.     |l ...:::人く,イ ト、〉メ、   ミ
   んイ    レ.:::;;rぅ  ハ |l" 人

312 :創る名無しに見る名無し:2014/03/17(月) 00:35:09.59 ID:Du3WnPbV
し、シロちゃん……かな?

313 :創る名無しに見る名無し:2014/03/23(日) 16:59:01.24 ID:i3Yx5qsw
      ト"'ヘ ト"'ヘ
      |ゝ メ‐イゝ V  萌
r‐くチ)  r'_j__,Y i |    え
トォイト、 り┃ ┃| | ミ    咲
ぞjヘ ^Y人__r─ぅ|_ん人     け
ヒ',ル,ハ,タ ̄トイ杯少 、ゝえ_,   |
,、ハ互| i r’,保仁ヨr匁、 ζ _,ノ
ぃイKフ i | √入ス Y ヾ~

314 :創る名無しに見る名無し:2014/03/25(火) 12:24:33.52 ID:uB8Qb+ip
こにぽんだった?!

315 :創る名無しに見る名無し:2014/05/28(水) 09:53:55.14 ID:SH2+t+x5
age

316 :雷球天使プラズマ☆ついな_第1話 参上!プラズマ天使!:2014/05/31(土) 21:58:32.06 ID:S9cJzyjL
  ◇ ◇ ◇
──人間界に危機が迫っていた──
 漆黒の空間、玉座の間に5メートルはあろうかという巨大な般若の面が周囲を睥睨していた。その眼前には血のような真っ赤な宝石で飾りたてられた玉座が据え付けられていて、その玉座に腰掛ける赤い影が一つ。

「はぁっはっは!よくやったオマエたち!これで人間界は私のものだ!」
上機嫌で笑っているのは艶やかな黒髪に白い肌の女性だ。ただし頭にはツノが二本生えている。鬼面を模したビキニアーマーを纏い、手足には凶悪な鎧をつけていた。
凛とした張りのある声で上機嫌に喋っているのは鬼子・キュートス。鬼たちを統べる般若党の主だ。
彼女は彼女にかしずく四人のシモベたちをねぎらっていた。

「は。もったいなきお言葉。方相界の『方相の衣』の破壊に成功。これで方相界の精霊どもは当分人間界にはやってこれぬでしょう」
そう応えたのは地蔵将軍。鬼子・キュートス四天王の一人である。彼は厳つい鎧に身を包んだ歴戦の勇士だ。
顔を縦横にはしる傷跡は彼が百戦錬磨の戦士であることを示していた。

「はん、何を自分の手柄のように……厚かましい。この作戦は我が開発せし『心の鬼』どもがいたからこそ成功したという事を忘れとらんじゃろうの?」
そう横槍を入れたのはドクター白狐。彼も四天王の一人である。白衣に身を包んだ白狐の妖怪だ。片眼鏡の向こうから小狡そうな細目が地蔵将軍をねめつける。
彼の心情を表すように白衣の後ろから出ている九つの尻尾がいらだたしげに揺れていた。

「ふん、自ら手を汚さぬ卑怯狐が手柄だけをかすめ取ろうとこざかしいわ」
地蔵将軍は不快感を隠そうともしないで言い放った。
「なんじゃと?!」
白衣の白狐はいきり立つ。だがその二人を諫めるように柔らかな声が割って入った。

「およしなさいなぁ。二人ともぉ。鬼女帝様のぉ御前であることを忘れてやしないかしらぁ?」
妙に色っぽい声である。二人の妖怪は諍いをやめ、声の主を見やった。そこには猫の耳と二股にわかれた尻尾を持つ、紫色の着物に白い上着を羽織った女が立っていた。
四天王が一角、ハンニャー軍師である。彼女は手に持った白い羽根団扇で口元を隠しながら猫の瞳を愉快そうに煌めかせていた。

「ハンニャー軍師。悪いがここは譲れぬ。今日こそこの分からず屋の似非医者めをこの拳で黙らせてやらぬことには気がすまぬ。止めてくれるな」
地蔵将軍がそう言って威嚇するように拳を握りしめた。頑強な鎧に覆われた腕がギシリと軋んだ。

「は。さすが脳味噌まで岩石がつまってると噂高いだけのことはあるわ。そうやって自分が言い負かされるとすぐ拳で台無しにする。そのような体たらくでよくもまあ将軍をやっていられたものよ」
ドクター白狐が細いまなじりをつり上げ、挑発した。

「なんだと!」
地蔵将軍が怒声をあげる。

「だからぁ、お止めなさいな。そもそもぉ、『方相の衣』を破壊できたのはぁ、このぉ、私のぉ緻密な作戦のおかげなんだからぁ。お二方はぁ、私のぉ、言う通りに動いていればいいのよぉ」
ハンニャー軍師が羽扇子で自分を扇ぎつつ、甘ったるい声でそんなことをのたまった。
「「なんだと!!」」
地蔵将軍とドクター白狐が再び同時にいきり立つ。険悪なムードが立ちこめる。

「ま、まあまあ、みなさん。そんなムキにならんと、ここはワシの顔に免じて矛を収めてちょーだいな。な?ななっ」
 そう言って黒い影が三人の間に割って入った。鬼子・キュートスが四天王の一人、烏天狗である。彼は修験者の格好をしたカラス。という姿をしていた。
カラスの頭が他の三人の顔を順番にのぞき込み、くきっと首をかしげた。彼も四天王の一人であり、他の四天王と同等の地位であるはずだ。にもかかわらず、低姿勢で他の三人の仲裁をしようと試みた。だが……

「えぇい!コソコソと覗き見しかできぬ臆病者がしゃしゃり出るでないわ!」
地蔵将軍は怒りを収めようとしなかった。
「そうじゃ!今回ろくに働かなかった無能の出番ではないわ!」
ドクター白狐も唱和する。
「あらぁ、彼の役割は重要よぉ。そんなに無下にするもんじゃないわぁ。あなた達よりよっぽどマシよぉ」
色っぽい声でハンニャー軍師が言い添えた。

「きさま……」
地蔵将軍とドクターが胡乱な眼差しを向けたその時──

317 :雷球天使プラズマ☆ついな_第1話 参上!プラズマ天使!:2014/05/31(土) 21:59:43.23 ID:S9cJzyjL
「えぇいっ!いいかげんにせぬか!!」
四人の頭上に雷のような怒号が降り注いだ。彼らの主、鬼子・キュートスが四人の喧嘩に業を煮やしたのだ。
四人のはるか頭上で彼女は怒りも露わに仁王立ちをし、怒鳴りつけていた。その怒声に、四人はあわてて膝をつく。

「「「「はっ、ははぁっ!」」」」

四人のその様子に溜飲を下げたのか大義そうに一息つくと、鬼子・キュートスは真っ赤なマントをひるがえし、再び真っ赤な玉座に向きなおると腰を下ろして足を組んた。

「……ふん、して次の作戦はどうなっておる?ハンニャー軍師!」
名を呼ばれ、ハンニャー軍師は立ち上がり前に出た。

「はぁい☆次の作戦はすでに立ててますわん☆」
そう言うと豊満な胸の間から作戦指南の巻物を引っ張り出した。

「ドクター白狐!心の鬼の開発はどうなっておる!」
ドクターは顔にかけた片眼鏡をキラめかせ、前に出ると一礼した。
「は。丁度、調整が済んだ所です。こたびの心の鬼は傑作ですぞ」

「地蔵将軍!」
「はっ!」
「作戦を遂行せよ!心の鬼を用い、ニンゲンどもからストレスファーガを集めるのだ!」
ストレスファーガとは人の心から抽出される負のエネルギーだ。人の心をストレスに晒したり堕落させたりすることで生み出され、鬼界のあらゆる動力として消費されるのだ。

「ははっ!必ずや御心にかなう成果をお見せいたしましょう!」
地蔵将軍は立ち上がると誇らしげに胸に手を当て、最敬礼をしながら応じた。それに倣うように、他の四天王も最敬礼し唱和した。

「「「「全ては鬼女帝、鬼子・キュートス様の為に!!」」」」
四天王の鬼子・キュートスを称える声はいつまでも玉座の間に木霊していた──

318 :雷球天使プラズマ☆ついな_第1話 参上!プラズマ天使!:2014/05/31(土) 22:00:44.22 ID:S9cJzyjL
  ◇ ◇ ◇
 如月家の朝はいつも騒がしい。
「ついな〜?もうそろそろ起きないと遅刻するわよ〜?」
そう二階に声をかけたのは如月 内匠(きさらぎ たくみ)おっとりしたついなの母親である。その風貌は若々しく、とても子供がいるようには見えないとご近所で評判の若奥様だ。
……やがて、二階からドタドタと騒がしく階段をかけ降りる足音が聞こえてきた。

 ドシーン!

大きな音と共に家全体が少し揺れた。
「やれやれ、またか。朝から元気だな」
手にした新聞を広げながらつぶやいたのは如月 与一郎(きさらぎ よいちろう)ついなの父である。精悍な顔つきで新聞を広げている様はまるで若武者のように凛々しい。
歳さえ聞かなければニ十代に間違われるほど若い。二人そろって若作りな夫婦である。
「もぉ、しょうのない子ねぇ。また階段の壁に激突したのかしら。あ。おとうさん、おとうさんは新聞読みながらごはん食べるのやめて下さい。子供達がまねをします」
「ん……スマン」
そこへ頭の両脇に大きなぐるぐるお下げを下げた女の子が鼻をおさえながら入ってきた。
「あたた……パパ、ママ、おはよう」
「うむ、おはよう」
「おはよう。ついなちゃん。お鼻はだいじょうぶ?」
内匠かあさんがあわてて食卓につこうとするついなにそう尋ねた。
「だいじょぶや。だんだん鼻をぶつけんようコツをつかんできたで」
そういってテーブルのトーストに手を伸ばす。
「アホか。そもそも階段にぶつからなきゃいいんじゃねーか」
と、横からついなにボソッと声がかけられた。
「なんやと!」
ついながキッと睨み返した先には、今まで無言で朝食を摂っていた制服姿の人物がいた。
高校生の従兄弟の兄、田中 巧(たなか たくむ)である。彼は事情があって、この家で長いことやっかいになっていた。その彼はモムモムと口の中のものを飲み込んだあと、口を開いた。
「だから、階段をかけ降りたりしなけりゃ、そもそもその低い鼻がもっと低くなることはないって言ってんの。あ、それとも何?鼻をぶつけてブタ鼻になるのが夢かなんか?ブタ鼻ついな〜〜」
「む、むぬぬぬぬ〜〜〜」
ついなの顔が真っ赤になってゆく、痛烈な罵倒がついなの口から怒号として飛び出そうとしたその時、如月家の玄関先でついなを呼ぶ声がした。

「つ、つーいなちゃ、ちゃぁ〜ん、が、ガッコいこ〜」
「あ、あかん!サキちゃん、来てもーた!」
ついなはあわててテーブルの上のトーストを口にくわえると、リュックサックをひっつかみ、「その侮辱、忘れへんで!覚えとき!」と、捨て台詞を残してダイニングを出ていった。
「こら、ついな、お行儀が悪い」
内匠かあさんがそうたしなめた頃には「いってくるで!」と言葉を残してついなの姿は玄関に消えていた。。

「やれやれ、慌ただしいヤツだなぁ」
そう言う巧に内匠かあさんが声をかける。
「そういう巧さんもそろそろ時間ではなくて?」
「いっけね。おばさん、ゴチソウサマ。いってきます」
そう言うと、カバンを肩にかけ、出ていった。
「はい、お粗末様。いってらっしゃい」
内匠かあさんはにこやかに巧を送り出した。

「……ふむ、しかしついなのヤツはまだ関西弁が抜けないのか?」
コーヒーを飲みながら、とうさんがそんな事を言う。
「丁度、物心がつく頃でしたからねぇ。それが今じゃお洒落に関心を持つようにまでなっちゃって……」
頬に手をあてて、かあさんはそう返した。ついなの一家はついなが幼い頃、大阪で暮らしていたのだ。それ以降、何故かついなだけ、大阪弁が抜けなくなっていた。
「そうか。……て、お洒落だと?!ついなのヤツ色気づいたのか!」
「あら、気づかなかったんですか?あの子、耳に小さな赤いイヤリングをつけていましたよ?」
「う、ううむ……しかしまだ早いのではないか」
そういいながら苛立たしげにコーヒーカップを口元に運ぶが、中はすでに無くなっていた。
「あの子だって、女の子ですよ。オシャレの一つもしたっていいじゃないですか。もぉ、何言っているんですか」
「だ、だが変な虫が付きでもしたら……」
「考えすぎですよ。ちょっと耳飾りをつけたくらいで」
そう言われると、渋々黙り込んだ。
「まぁ、元気に育ってくれればいいんですけどねぇ。あ、コーヒーのおかわりは?」
そう言ってコーヒーポットをあげてみせる。
「うむ、いただこう」

319 :雷球天使プラズマ☆ついな_第1話 参上!プラズマ天使!:2014/05/31(土) 22:01:52.40 ID:S9cJzyjL
  ◇ ◇ ◇
 ついなとその友人の二人の小学生は肩を並べて歩いていた。今日はいつもと違って足取りが軽い。背負っているのもランドセルではなく、リュックサックだ。

「……へ、へぇー、ついなちゃん所のおにいちゃん、相変わらずなんだ……」
そう相づちをうったのは綿貫 咲(わたぬき さき)ついなちゃんの親友でクラスメイトだ。ちょっと引っ込み思案で恐がりだけど、結構容赦ないツッコミをすることでついなちゃんと気が合うのだ。
彼岸花の髪飾りを大切にしていて、黒く綺麗な長髪を左右にまとめ、よく黒い服を好んで着ている。
「まったく、アカン、ほんまアカんで!あの兄やん、いつかホンキでとっ締めたらなアカンわ!」
怒りもあらわに手にしたトーストにかぶりつくついなちゃん。
如月ついな11歳。みずがめ座のO型。ちょっとおっちょこちょいで泣き虫な女の子だ。……だが、今はおこりんぼうついなちゃんだ。
最近、ちょっぴり人に言えない秘密ができたりもしちゃったが、日々を元気に過ごしている。

「へぇー……ついなちゃん、相変わらずおにいさんのこと、好きなんだねぇ」
「ぶぶぅっ?!」
サキのその一言でついなは歩きながら食べていたトーストを派手に吹き出した。
「ついなちゃん汚い」
少し身を引きながら咲が冷静にツッコミを入れた。
「ななな、なぬな?!あああ、アホなことゆーんやないで?!」
「えー?でも、ついなちゃん。いつもいとこのおにーさんのことばっかりお話しているんだもの。誰だってわかるよ。そんなの」
クスクスと笑って咲がからかう。
「ふ、ふん!それは、に、兄やんがいじわるばっかりするから……」
「またまた〜」
咲の口に手をあてて、にまにまと笑う様子についなは話を逸らすことに決めた。このままでは色々と不利だ。

「そそそ、そんなことより、やな。今日は楽しみやなぁ〜、社会ケンガクどこ行くんやったっけ?」
すると、咲はにっこり笑って話に乗ってきた。
「うん。あからさまに話を逸らされたけど、それでも楽しみ。ついなちゃんはどこが一番楽しみ?あたし最初にいく水族館」
 そう。今日はついな達の学年は『社会見学』にいくことになっていた。それが楽しみでついなはなかなか寝付けなかったくらいだ。……それで寝坊しそうになってしまった訳だが……

「はは……そ、そーやな。うちはお昼の『レストラン・いたりあ』のドリアングラタン定食セットやな〜」
「……あいかわらず色気より食い気だね。ついなちゃん……」
「ぅ…………」
呆れた咲の視線についなはバツが悪そうに黙り込んだ。

  ◇ ◇ ◇
 ──校庭にはすでに大きなバスが何台も到着していた。
「班長〜報告〜みんな揃ってるー?」
そういって点呼をとっているのはついなちゃんのクラスの担任だ。ついなちゃんたちのクラスを受け持つ担任の先生はとても母性あふれる女性で藤木 葛(ふじき かずら)先生といい、通称フジせんせいと呼び慕われている。
……もっとも、口の悪い子達は陰で婚期を逃した局さんとか言っている子もいるが。そこに触れなければとても優しい先生だ。常に笑っているような糸目ぎみの目で笑顔を浮かべ、みんなにいくつか注意喚起をしていた。

「さぁさ、みなさん。これから社会見学に出発します。注意事項は覚えていますね〜」
「「「は〜〜い」」」
「それでは、ゆっくり並んで、みんな走ったりしないで順番に乗り込みましょう〜」
「「「は〜〜い」」」
そして生徒達はゾロゾロとバスに乗り込んだ。
「楽しみだね〜ついなちゃん」
いつもは引っ込み思案なサキも心なしかいつもよりか明るい。
「うん!せやな!楽しみや!ドリアングラタン!」
「……ホントに食い気ばっかりだね……ついなちゃん」

320 :雷球天使プラズマ☆ついな_第1話 参上!プラズマ天使!:2014/05/31(土) 22:02:42.74 ID:S9cJzyjL
 ◇ ◇ ◇
──綾樫水族館前公園・駐車場──
 バスはゆっくりとただっ広い駐車場に乗り入れ、逸る生徒達の気持ちとは裏腹にゆっくりとガイドラインに沿って停車した。

「はい〜みなさん。最初の見学場所、綾樫水族館です〜。ここの公園内では四十分の自由時間がありますが〜みなさん、スタッフさんに迷惑をかけないようにしましょうねぇ〜」
「「「はーい」」」
簡単な注意事項を聞いた後、生徒達は喜々としてそれぞれに散っていった。

「ね、ついなちゃん。一緒にいこう。あたし水族館いきたい」
「うん!お魚さんを見るんやな!」
ついなとサキの二人は早速、水族館に向かって歩きだした。しかし……

「あれ?ね、ねぇ……ついなちゃん、キップ切る人がいないよ?」
二人は水族館の入り口に入ってすぐに異変に気がついた。

「ホンマや?あれ〜?どういうこっちゃ?」
館内はシーンと静まり返っている。
「すんませーん?おーい?誰かおれへんのんかー?」
ついなは切符売り場をのぞき込んだ。中に人影はある。しかし動く気配がなかった。目を凝らして見ると……中の人たちはずっと何かに没頭しているようだ。手元の何かにずっと視線を落としていた。
「あの!そこの人!切符!お願いしたいんやけどっ!なあっ」
ついなは窓口に一番近い窓口のオバさんに声をかけた。だが、そのオバさんは面倒くさそうについなをチラ見しただけで動こうとしなかった。口の中でモゴモゴと呟く。
「ちょいとお待ち。ここをこう、もうちょっとやってから……」
そう言うだけだった。それだけではない。そのオバさんの手元からはピコピコと携帯ゲームの音が漏れ聞こえていた。
「? なんやのん?これは……」
次の瞬間、ついなの耳元で特殊な音が鳴り響いた。

 キュピーン キュピーン キュピーン キュピーン……

 ついなの目に緊張が走った。
「あかん、サキちゃん、うちちょっと用事が……っておらへん?!」
辺りを見回すが、友達の姿は見あたらない。

 キュピーン キュピーン キュピーン……

音はだんだん大きくなっていく。
「〜〜〜〜〜っ!サキちゃん、スマン!緊急やさかい、堪忍や!」
そう呟くと、ついなは人通りがなさそうな建物の陰に隠れ耳のイヤリングにそっと触れた。途端、ついなの耳に騒がしい声が飛び込んできた。

『ついなちゃん、ついなちゃん!早ぉ、応答しぃや!これは『心の鬼』の仕業や!』
ついなのイヤリングは通信機のような機能があるのだ。イヤリングの向こうからは謎の人物の声が聞こえてきた。
「こちらついなや!ヤッパこれ、『心の鬼』の仕業なんか!?」
ついなは緊迫した様子でイヤリングに触れて声の主に応答する。

『せや!ここはプラズマ・ついなの出番やで!』
「わかったで!『プラズマぱわー・だうんろーど』やね!」
そういうと、辺りに人のいない事を確認し、ついなは折りたたみ式携帯を取り出した。すると、ポンと軽い音を立ててその携帯が小振りのステッキに変形した。
先が三つ叉に分かたれた矛に見えるがあくまでステッキである。その杖をついなは一振りして高く掲げ、高らかに叫んだ。

「プラズマぱわー・ダウンローーーード!!」

 すると、杖の裏にバリ3が表示され、遙かな方相界よりプラズマパワーが引き落とされ、ついなの身体に満ちてゆく。
ついなの身体の服が光の粒子として消え去り、金色の輝きがついなの身体を包み込んだ。そして方相氏の力が深紅の衣として顕現する。

 シャラララララ〜〜〜〜ン!

「雷球天使!プラズマ・ついな!!」
ここに方相氏の代行者にして正義の使者、プラズマ・ついなが爆・誕した!
 そう、彼女は方相界の正義を執行し人々の心に棲まう『心の鬼』を退治する。正義の味方なのだ!

321 :雷球天使プラズマ☆ついな_第1話 参上!プラズマ天使!:2014/05/31(土) 22:03:38.57 ID:S9cJzyjL
「ま、あくまで『見習い』なんやけどな〜」
「そないなこと言うなや!」
 いつの間にか、ついなの隣には赤いぬいぐるみの立体映像がふよふよと浮かんでいた。ついなの相棒、前鬼である。さっきのイヤリングの声の主はこのぬいぐるみだったのだ。
口の減らないぬいぐるみであるが、ついなをサポートする頼もしいパートナーである。
「……多分……」
「?なんやいいましたか?」
「あ、いやなんでもないで!」
あわててついなはよくわからない否定をする。
「……っかし、相変わらずハズかしー格好やなーこれ……」
 ついなは自分の身体を見下ろしてモジモジとする。真っ赤な衣装はヒラヒラがいっぱい付いていて、肩やら足やらがあちこち露出してとてもハズかしい事になっている。
「失敬な。この衣装は由緒ある衣ですがな!かの伝説の『方相の衣』程ではないけど、かなりの防御力を誇るんやで!」
「それはそうやけど……う〜〜〜……ま、ええわ。ほならちゃっちゃと済ませて終わらせるで!」
「よっしゃ!はりきって行きまひょか〜〜っ!」

──来た時は気がつかなかったが、辺りはひどい有様だった。

あっちでも……
「ねぇ、売店のおねーさん、ジュース売って頂戴ってばー」
「……ちょっとまって、ちょっとこのステージクリアしてから……」(ピコピコ)

こっちでも……
「あー……またコモンが出た……なかなかレアでないなークレープなんて売ってる場合じゃないや」(ピコピコ)

「よっし、十五連鎖出たっ!これから怒濤の反撃だ……掃除なんかしてられっか」(ぴこぴこ)

……広場のそこかしこで、大人たちが仕事をさぼって携帯ゲームに夢中になっているのだ。

「前鬼ちゃん、これって……」
「間違いないで!これは『うりぼう鮫亀』の仕業や!この心の鬼に憑かれてまうと、仕事をさぼってゲームばかりをしてまうようになってまうんや!このままやとついなっちが楽しみにしとった社会見学も台無しになるで!」

「なんやて!そんなんやったらレストランとかでもご飯食べられへんやないけ!うちのドリアングラタン定食がっ!!」
「ど、ドリ……?」
聞きなれない単語に前鬼が怪訝そうに繰り返す。
「前鬼ちゃん!ほならこれ、どないしたらええの?!」
今までにないほど積極的な炎を目に宿し、ついなは勢い込んで前鬼に詰め寄った(立体映像だけど)

「あ、あぁ、せやな。まずは心の鬼の影響を受けてる人から心の鬼の力を方相の力で追い出すんや!死なない程度に方相の力をぶつければ、心の鬼の力がでてくるハズやで!」
それを聞いて、ついなは狼狽える。

「え……でも、うちの使える技ってあれしかあれへんで……」
「それでも、なんとかするしかないでぇ!」
「いや、そやけど……」
「とにかく挑戦してみるんや!やる前から諦めたらアカン!」
「う、うん……」

 方相ステッキを握って、ついなは心もとなげにステッキを握ると、手近にいるゲームに夢中になっている兄ちゃんに向かっておずおずとステッキを振るった。

「い……いんぢストラーイク(ボソッ」
小声で呟いたにもかかわらず、ついなちゃんの握っている杖の先端にまばゆいばかりの極大の光球が出現し、またたく間に膨れ上がった。そして轟音をたてながら狙った兄ちゃんの背中をかすめて飛とんでいく。
さらに光球は破壊の衝撃波をまき散らしながらその近くの壁に炸裂した。周囲は爆圧によってすさまじい風が吹き荒れた。

 キュゴゴゴゴゴッ!!

 「ひぎゃぁぁぁあああああっ!!」
凶悪な破壊の嵐が巻き起こり、直撃こそしなかったものの狙われた兄ちゃんは悲鳴とともにもんどりうって弾き飛ばされた。

322 :創る名無しに見る名無し:2014/05/31(土) 22:06:05.06 ID:8PpCFnfk
紫煙

323 :雷球天使プラズマ☆ついな_第1話 参上!プラズマ天使!:2014/06/01(日) 16:06:35.46 ID:15QssW3c
「あ、あわわわわ……」
ついなは自分の生み出したプラズマ球の威力に改めて戦慄し、硬直していた。振ったステッキを握る手がガタガタと震えている。ただ周囲の人々はこれだけの事がおきながらも、全く関心を示さず、ゲームに没頭していた。

「さぁ!この調子やで!どんどん、みんなの心から心の鬼を追い出すんや!」
「無理!それ無理や!この技やとぎょーさん人死んでまうでっ!」
「そこを何とかっ!」
「ゼッタイ無理やーーーーーーーーっ!」

……そんな問答をする二人を高い所から見下ろす影が二つあった。

「おーーーっほっほっほっほ!相変わらずブザマね!雷球天使プラズマついな!」

「?!」
ついなと前鬼が振り返ると、二人の背後の建物、水族館の屋根に二つの影がたたずんでいた。

「こっ、この声は?!」
「もう一人のへたれ魔法少女の声や!」
「ちょっと……誰がへたれですの誰が!」
前鬼の呼び方が気にくわなかったのか、その人影はムッとした声で聞きとがめた。彼女は長い黒髪を後ろでまとめ、黒いドレスのようなコスチュームに身を包んでいる。どこかついなのコスチュームに似ているその衣装は白い肌によく似合っていた。
そして左手には盾を持っていたが、その盾には恐ろしげな顔をした四つ目の怪人の顔が彫り込まれていた。

「ちゃんとご主人の事は『雷盾天使(らいじゅんてんし)プリズム・プリンセス』とお呼びください」
彼女の横に浮いている小さな影はついなの相棒・前鬼によく似ていた。ただし、こちらは青色のぬいぐるみの姿をしており、言葉遣いや態度は落ち着いたものだった。
「そう!この後鬼の言うとおり。わたくしは華麗にして優美、有能にして超絶!方相氏の力と権能を顕現せし、究極の魔法少女!魅惑の雷盾天使プリズム・プリンセスとはわたくしの事ですわ!」
……若干、何かに陶酔しているような調子で彼女は声高らかに名乗りをあげた。

「へっへーん、いつもついなっちの邪魔ばっかで役に立たへんヘナチョコ魔法少女なぞ、へたれ魔法少女でじゅーぶんやー、べー!」
赤いぬいぐるみの前鬼(の立体映像)がついなの横でひらひらと軽薄な動きで相手をコケにした。
「ちょ、ちょぉ、前鬼、やめんかっちゅーんや」
ついなは小声でたしなめるが、前鬼は黙ろうとしない。
「へーん、毎回うちのついなっちに尻拭いさせとるくせにーやーい、プリプリおんなー」
当然、相手はカチンと来たようだ。
「あい変わらず下品な式神ですこと。それでよく方相界の使者などと言えたものです。ついなさんも大変です」
青いぬいぐるみの式神、後鬼がポツリと呟く。その後鬼の横で黒衣の魔法少女がプルプルと肩を振るわせていた。

「ふ、ふふ、ふ……やはり貴方のような品のないおちびちゃんには『方相の杖』はふさわしくありませんわ!わたくしにその杖!お渡しなさい!シャイニング・ビーンズ!!」
黒い魔法少女の彼女が左腕の盾をじゃき!と、構えると、その盾の怪人の四つ目がカッと開き、そこから豆つぶ状の光球がついなに向け、高速で射出された。

 ドパパパパパパパッ
    ビシッビシビシビシビシッ!
そこかしこで、小さな光球が炸裂する。
「わーっ!!うちが言うたんやなーいっ!!」
ついなは思わず、頭を抱え、物陰に隠れた。一瞬遅れてグルグルお下げも物陰に引っ込む。
「あっ、ついなっち、ついなっち!あれを見て!」
前鬼が、ついなの横の方を指し示した。
「なんやねん!今、忙し……あぁっ!」
ついなの言葉が途切れた。ついなの視線の先で、ずっと携帯ゲームをしていた人々が、彼女の撃った光球に打たれ、昏倒する所だったのだ。そればかりでない。気絶した彼らから何か黄色いモヤモヤのようなものが漂い出てきたのだ。
どうやらあれが人の心に巣くっていた心の鬼の一部のようだ。

324 :雷球天使プラズマ☆ついな_第1話 参上!プラズマ天使!:2014/06/01(日) 16:07:31.57 ID:15QssW3c
「これやで!あの女の攻撃を誘導すれば、ついなっちの殺人技を使わずとも対処は十分可能や!ついなっち!あのう○こ女をおびき出して、みんなの中から心の鬼を追い出すんや!」
「ちょ?!せやったら、そないな事せんでも、協力してくれるよう頼めばえぇやないk……」
「やーい、ぷりぷりう○こおんな〜攻撃も超ド下手〜ちぃ〜っとも、当たらへんで〜そないなへなちょこ攻撃、うちのついなに効く訳あらへんやろ〜♪」
「ちょーーーーっ、おまっ?!前鬼ぃ?!」
ついなの意見を聞く間もなく、前鬼はひらひらと軽薄な動きで相手の魔法少女を挑発した。前鬼の挑発で、相手のおでこにビキッと青筋が走る。

「キーーーーーーーーーッ!!方相の盾よ!その厳格なる眼差しで立ちふさがる全ての悪を討て!プリズム・ライトニング!!」
 彼女の持つ盾の目が再び輝き、今度は四条の光線がついなに向け迸った。

「ちょっとぉーーーーーーーっ!」
ついなは物陰から飛び出し、ゲームに没頭する人々の間を駆け抜ける。次々とついなの周囲の人々が光線に撃たれ、ひっくり返っていく。

「ぎゃっ?!」
「ごわぁっ?!」
「ひぎゃぁっ?!」

「止まりなさい!周りの人々を盾にするとはなんて卑怯な!おとなしく、このわたくしに成敗されるべきですわ!」
「そんな無茶苦茶なーーーーーーーっ」
そう叫びながら逃げるついなの頭上から、再び雨あられと光線が降り注いだ。その度に光線の流れ弾が周囲の人々にヒットし、バタバタと昏倒させてゆく。そして人々の頭から黄色いもやもやしたものが離れていった。
そしてそれが徐々に集まり、少しずつ大きな固まりとなっていく。

「あっあれ見ぃや!ついなっち!」
最初に気づいたのは前鬼だった。
「なんや?!」
ついなは前鬼の示した方向を向いてあっと声を上げた。
「マスター。あれを」
「なんですの?」
後鬼の示す先を見て黒衣の魔法少女も絶句した。

四つの視線の先、禍々しい……というにはちょっとユルい感じで、黄色いもやもやしたものは集まり、ぐるぐる周り、やがて巨大な形を形作る。

「な、なんやのこれは……」
ついなが呟く。
「な、なんですの、これは?」
 それは巨大な存在は自らを誇るようにその大きな顎を開き雄叫びをあげた。

 「ぷきゅぅ」

……気の抜けた鳴き声とともに十数メートルはあろうかという心の鬼がそこに出現した。
「かっ、かわいいっ」
ついなはつい、そう呟いてしまう。その心の鬼は巨大ではあるものの、赤くつぶらな瞳に可愛らしいブタ鼻を持ち、ウリ坊の身体に鮫のヒレと亀の甲羅をそなえていた。

「あかんで、ついなっち。いくら可愛くてもこいつは心の鬼や!見かけに騙されたらアカンでぇ!」
前鬼が注意する。
「せ、せやけどぉ〜〜〜」
そんな感じでついなと前鬼がそうこうしている間に、黒衣の魔法少女は水族館の屋根を蹴り、空中に舞い上がった。そして空から心の鬼に猛然と襲いかかった。

「いくら愛らしい容姿をしていようともわたくしはごまかされませんわ!くらいなさい!シャイニング・ビーンズ!!」
彼女の構えた方相の盾のまぶたが開き、雨あられと破魔の光が降り注ぐ。しかし……

「な、なんですって……」
「ぷきゅぅ……」
巨大な心の鬼はその短い前足で攻撃の当たった頭をしきりにこするものの、大して効いていないようだった。
「マスター効果がみられないようです」
後鬼の立体映像が言わずもがなな事をつぶやく。

「おだまりなさい!これで終わりですわ!プリズム・ライトニング!!」
彼女の盾から四つの光条が迸る。

325 :雷球天使プラズマ☆ついな_第1話 参上!プラズマ天使!:2014/06/01(日) 16:08:31.13 ID:15QssW3c
「ピギーッ」
今度は心の鬼が悶絶する。
「やりましたわ!」
黒衣の魔法少女はやったとばかりに叫んだ。だが……
「ぷもーーーーーーーっ!!」
これには心の鬼も怒ったようだ。目が怒りの形につり上がる。そして思い切り息を吸い込むと、黒衣の少女に向け鼻から息を吹き出した。

ゴォッ!!
「ひぁっ?!あ〜〜〜〜〜〜れぇ〜〜〜〜〜〜」
彼女は風に煽られ、瞬く間に遠くまで吹きとばされ消えてしまった。
「あぁっ?!プリプリちゃん〜〜〜〜?!」
「あぁ〜あ、よー飛びましたな〜〜」
彼女があっという間に見えなくなった後、怒りの表情のまま心の鬼はついなたちの方をむいた。
「ぷきゅぅっ!」
「ひっ!」
「ぷもーーーーーーっ!!」
似たような格好をしているついなを敵だと認識したのか。再び心の鬼は大きく息を吸うと激しい風を叩きつけてきた。
「ひゃーーーーーっ!!」
ついなは咄嗟に近くの木にしがみつき、吹き飛ばされるのを防ぐ。
「ついなっち気をつけて!この風に飛ばされたらどこまで吹き飛ばされるかわからないよ!」
「言われなくともわかっとるわ!」
必死で、木にしがみつきながら叫び返すついな。周囲の人や物が心の鬼の息吹で面白いようにコロコロと飛ばされてゆく。
と、不意に強烈な烈風が止まった。心の鬼の息が尽きたのだ。
「いっ今や!」
わずかな隙を見出し、ついなはしがみついてた木から飛び出した。地面を蹴り、空中に舞い上がる。再び、心の鬼がついなに向け、息を吹き出した時にはその場所についなはいなかった。
「へっへーん、こっちやこっち!」
ついなは心の鬼の後ろに回って挑発した。丁度、心の鬼の目の高さまで舞い上がっていた。
「ぷきゅうっ!」
挑発されたから。という訳でもないのだろうが心の鬼は再びついなに向け、息を吹きつけた。だが、ついなは華麗な動きで突風を避けて飛び回る。
「せやけど、こないなことしとっても埒が明かへんで?」
空を飛び回るついなの横に平行するように飛んでいる立体映像の前鬼がもっともな事を言う。
「だいじょうぶやて。もうちょっとコレを繰り返すで」
そして、心の鬼の吐き出す烈風を避けては飛び、避けては飛びまわった。
やがて……
「ぷ、ぷきゅぅぅう〜〜〜?」
心の鬼がめまいを起こしたようにフラフラと足元がフラつき始めた。
「つ、ついなちゃんこれは?」
「やっぱりやな!ぎょーさん呼吸のしすぎやで!あんま大きな呼吸を繰り返しとると、頭ン中、くらっくらになるんや!」
そう、ついなは過呼吸によるめまいを誘発したのだ。心の鬼は不覚にもめまいをおこして目を回している。
ついなはここぞと心の鬼の頭上に飛び上がり、杖を突き出した。
「ほなら、行くで〜〜〜〜っ!」
杖の先端に巨大な雷球が発生し、膨れ上がった。

「いんぢ・ストラーーーーーーイクっ!!!」
次の瞬間、膨大な熱量を誇る巨大な光球は、たったの一撃で巨大な心の鬼を無に帰した。

326 :雷球天使プラズマ☆ついな_第1話 参上!プラズマ天使!:2014/06/01(日) 16:09:28.46 ID:15QssW3c
  ◇ ◇ ◇
 ガシャーンッ
真っ赤な液体の入ったグラスは床に叩きつけられ、砕け散った。
正面には巨大な般若面の目から出る光によって映像が映し出されていた。その映像はたった今、魔法少女によって心の鬼、『うりぼう鮫亀』が打ち倒された映像だ。

「またあの小娘か!一体、どういうことだ!」
巨大な般若面の前でくつろいでいた鬼子・キュートスは飲んでいた酒を投げ捨て、怒りのあまり玉座から立ち上がった。
「お気を鎮めくだされ、鬼子さま」
「えぇい!これが落ち着いていられるか!」
厳つい顔の地蔵将軍がなだめるが、鬼子の怒りは収まらない。
「奴らは一体、何なのだ!『方相の衣』は破壊され方相界の聖霊どもは人間界にやってこれぬハズであろう!一体、どうなっておる!鴉天狗!!」
その声に応じて彼女の前に黒い影がにじみ出た。

「はっ、御前に」
「早う、彼奴らの事を調べ上げぬか!」
「ははぁっすぐにでも!」
そう一礼するとその場から消えた。
「おのれっ!我らが般若党に逆らうとは……後悔させてくれる……っ」
鬼子・キュートスは拳を握りしめ、いつまでも怒りに震えていた。

327 :雷球天使プラズマ☆ついな_第1話 参上!プラズマ天使!:2014/06/01(日) 16:10:30.25 ID:15QssW3c
  ◇ ◇ ◇
 夕方。社会見学を終えたついなとサキの二人は帰路についていた。
「ふーっ、ドリアングラタン定食ウマかったなーっ」
「うん……そうだね……」
「あの独特の風味はやっぱりドリアンならではやっ」
「うん……そうだね……」
「あ、あの?サキちゃん?」
「うん……そうだね……」
ついなが何を話しかけても綿貫咲ことサキはどよ〜んと落ち込んでいた。
「わ!」
ついなはサキの耳元で大声を出した。
「はひゃぁっ?!な、なな、何、ついなちゃん?」
「なぁ、サキちゃん、一体どないしたんや?今日の社会見学、つまらへんかった?」
ついなは心配げに顔をのぞき込む。社会見学は最初の水族館でちょっと騒ぎになったものの、順調に済んだ。ついなの目にはサキも楽しげに各所を回っていたように見えた。

「あ……、う、ううん。そんなことないよ。今日はとっても楽しかった」
長くて黒いお下げと彼岸花の髪飾りをよこに振り、咲はゆっくりとほほえんだ。
「ほなら、なして落ち込んでるんや?」
不思議な顔をして咲の顔をのぞき込む。

「うん……なんてゆーか……楽しみにしていた番組の録画が失敗していた……みたいな?」
「ふーん……?」

──少し前の会話──
「それで、後鬼……今度は私の活躍、ちゃんと撮れていた?」
咲は胸元の青いペンダントに触れ、ペンダント越しに心の繋がった相棒に語りかけた。
「……申し訳ありません、今回の録画も失敗してしまいました」
すぐに相手から返答はあったが、期待していた答えではなかった。
「え……そんな……また……なの?カッコイイ魔法少女になれるって引き受けたのに……」
「申し訳ありません。次こそは必ずや凛々しいマスターの御姿を撮影いたします」
「ねぇ……変身してた時のあたし……カッコよかった?」
「はい。とても凛々しかったです」
「今度こそしっかり撮ってね。あたしちゃんと観たい……」
「はい。必ずや」

──……。
「……んーーー、そーかーそら残念やったなぁ。ほなら、うちに来えへん?ひょっとしたら、うちのレコーダーに録画されとるかもしれへんで?録画しそこねた番組!」
ついなの言葉に咲はハッと我に返った。

「あ……う、うん。それじゃ、おじゃましようかな。ついなちゃんのご家族、会ってみたいし」
「よっしゃっ!ほなら善は急げや!早速いくで!」
そう言うとついなは咲の手を引き走り出した。

「あ……う、うん!」
二つの人影は夕日の中、ついなのお家に向け楽しげに駆け出した。

                                                     ──おわり──

328 :雷球天使プラズマ☆ついな_第1話 参上!プラズマ天使!:2014/06/01(日) 16:12:15.95 ID:15QssW3c
>>323-327
さて、とりあえずは、「もうひとつの世界」のついなちゃんのお話はとりあえずは、ここで終了です。
他にも色々と設定はしているものの、予定は未定。ということで……それでは。

329 :創る名無しに見る名無し:2014/06/01(日) 19:33:12.36 ID:D8MmQG01
乙です!!
ついなちゃんがしっかりものポジというのが、うん、意外なようで、健気でいいね!
あと、なんか、天魔党の人がほのぼの生活してるっていいね。局先生とか。
そして鬼子・キュートスのイラストがむっちゃ見たいw絶対かっこいいよやばいよ。

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